川辺には白い野ばらの花がたくさん咲いている。 天使のような花だなと思う。棘のあることなど忘れて。 それはきっと身を守るためのものだろう。 近寄りがたいと思う人もいるかもしれないけれど。
花はふっくら。蝶々もふれていく。みつばちも遊んでいく。
そんな野ばらのことがわたしはとても好きだなと思う。
出産祝いにいただいた産着を洗った。 干す時のなんと嬉しかったことだろう。 お人形さんの服みたい。ちっちゃくて可愛い。 道行く人がみんな見てくれたら良いなって思った。 「生まれたんですよ」って声をあげたいような気持ち。
あたらしい命は「綾菜」と名付けられた。 「あやちゃん、あやちゃん」と連呼するおばあちゃんであった。
母乳をほんの少しだけれど飲めるようになった。 哺乳瓶よりもずっとチカラが要るのだろう。 はあはあと小さない息をしながら一生懸命に吸っている。 「がんばれ、あやちゃん」娘と二人で声を掛け続けていた。
ちいさな命が必死で生きようとしているのが伝わってくる。 母親の乳房はあったかくてやわらかい。そして何よりも優しい。
授乳している娘の顔は愛をそそぐように微笑んでいた。
おばあちゃんは涙が出そうなくらい胸がいっぱいになる。
| 2012年05月07日(月) |
おばあちゃんでしゅよ |
空は少しうす雲におおわれていたけれどすっかり初夏の陽気。 あたりの緑が目に沁みる。見るものすべてがきらきらと眩しい。
午前中に川仕事を終え、お昼は夜勤明けの息子と三人でざるそば。 つるつると喉ごしの良いものが美味しい季節になった。
息子はまだ姪っ子に会えずにいる。会いたくてたまらないのだけれど。 勤めている老人ホームで悪い風邪が流行っているのだそうだ。 会いに行かないほうが良いだろうと我慢をしているようだった。
早く抱っこさせてあげたいなと思う。息子はどんな顔をするのだろう。
「ほうら、おばあちゃんが来てくれたよ」と娘の声。
孫は今日もすやすやとよく眠っている。 オムツを替える時ちょっとだけ目を開けてくれて嬉しかった。
娘が赤ちゃんだった時の顔にちょっと似ている。 でもお婿さんにも似ているような気がしてよくわからない。 どちらに似ていても健やかに元気に育ってくれたらと願うばかり。
昼間はほとんど泣かないけれど、昨夜は真夜中に泣いて困ったそうだ。 母乳を吸わせてみたら少しだけ吸ってくれたそうで泣き止んだとの事。 娘も初めての育児に奮闘している。がんばれ、がんばれとひたすら応援する。
早いもので明後日はもう退院。我が家に迎える準備も整った。 少しでも娘を助けてあげたい気持ちでいっぱいのおばあちゃんである。
五月晴れのお天気が続いている。爽やかな風はもう初夏の風。 散歩用の麦藁帽子を買った。若草色の帽子はちょっと照れくさい。
てくてくしてる。こころもどこかに歩き出してしまいそうだ。 まだ見ぬみらい。わたしはどんなおばあちゃんになっているのかしら。
今日も孫に会いに行く。少しだけ目をあけてくれて嬉しかった。 オムツを替える。抱っこしてミルクを飲ます。 「わ〜い楽ちんだ」と娘は喜んでくれた。
母乳はまだうまく飲ませられない。 ミルクの前に何度か挑戦してみるけれど吸ってくれないのだ。 練習あるのみ。とにかく毎回試してみるしかないだろうと思う。
私の時はどうだったかしら。バーバの記憶はあまりにも遠くて。 気がついた時には母乳で育てていたように思うのだけれど。
夜中の授乳はほんとうに大変。母乳だとずいぶんと助かると思う。 だいじょうぶ。きっと吸ってくれるようになるから頑張ろうね。
今日は満月のせいか、ちいさな産院にも産声が響いていた。 「よかった、無事に生まれたね」とても他人事には思えず娘と喜びあった。
あたらしい命はそうして生まれてくる。
辛い痛みに耐える母。生まれたくてたまらない命がそこにある。
つかの間の春はとうとういってしまったのだろうか。 「立夏」にふさわしく真夏日となり眩しいほどの陽射しだった。
朝のうちに川仕事を済ませ午後には産院に駆けつける日々。 休む暇もないけれど、それがむしろ嬉しくてたまらないバーバであった。
娘は初めての育児に奮闘している。まだ抱き方さえもぎこちなくて。 母乳もうまく飲ませられない。誰だって最初はそうなのよと励ます。
肝心なのは決して焦らないこと。ゆっくりのんびりで良いのだと思う。
赤ちゃんはすやすやとよく眠っている。目を覚ましてくれないかしら。 ずっと寝顔を覗き込んでいるばかり。いつまでたっても見飽きる事のない寝顔。
「今日もお大師さまにお参りしてきてね」娘の言葉にうなずき帰宅する。 お大師堂にはふたりのお遍路さんが来ていてくれた。 一人は先日の長髪青年だった。無理強いしたことを詫びると思いがけない笑顔。 良い経験が出来たと喜んでくれてほんとにほっとした。 そのことを報告したくてわざわざ打ち戻って来てくれたのだそうだ。
もう一人のお遍路さんも交えて雑談をしていると、新たなお遍路さんが到着。 その人も顔なじみのお遍路さんですっかりにぎやかになった。
今夜は三人で「旅もみちづれね」って笑いあって別れたのだけれど。 その後あんずを連れて散歩をしているとお大師堂を探しているお遍路さんに会った。
道案内がてら一緒に行く。なんと四人になる。こんなことは初めてではないか。 小さなお堂で四人は窮屈そうに思えたけれど、お遍路さん達は大丈夫と言ってくれた。
こんな日もあるのだな。帰り道はなんだか胸がいっぱいになった。
土手を吹き抜ける夕風が心地よい。ああ今日も暮れていくんだな。
いい日だったなってすごく思った。明日もきっといい日に違いない。
五月晴れ。陽射しはすっかり初夏のようだけれど。 風はとても爽やかに木々の緑を揺らしている。
昨日午前一時。寝静まっている頃、娘より電話。 突然破水をしてしまったとのことで大急ぎで駆けつける。
幸いと言って良いのかまだ陣痛は始まっていなかった。 娘はそのまま入院することになり、私達は自宅待機となる。 少し仮眠をと思ってもとても眠る気にはならなかった。 はらはらどきどきはもちろんのこと、そわそわと落ち着かないまま朝を迎える。
朝になっても娘の陣痛は始まらず、仕方なく薬で陣痛を促す事になった。 間もなく陣痛が始まったけれどまだ序の口。ながいながい一日になりそう。
お昼前になってやっと強い痛みが始まる。こんなに痛いものなのか。 汗を流しながら耐えている娘。痛みが襲って来る度に腰をさすり続ける。 その頃には夜勤明けのお婿さんも駆けつけてくれてとても心強かった。
驚いたのは娘がずっと座り続けていたこと。ベットに横たわろうとしない。 お願い早く出てきて!時々は声をあげながら必死になって耐えていた。
午後4時。やっとお産が近づき、分娩室に入った。 お婿さんは付き添い。母親は駄目だろうと諦めていたところ。 お母さんも入って良いですよとなんとも思いがけないことだった。
頭が見えてきましたよ。もう少し、頑張れ!頑張れ!の声が響く。 私は泣いていた。感動で胸がいっぱいになっていたのだと思う。 新しい命が生まれようとしている。一生懸命に頑張っている母と子を見た。
「ふぎゃあふぎゃあ」元気な産声が聞こえた時はどっと安堵した。 娘も泣いている。ほんとうにえらかったね。頑張ったねサチコ。
午後4時45分。2530グラムの女の子だった。
無事に生まれてきてくれてほんとにありがとう。
| 2012年05月02日(水) |
よかった雨がやんでいる |
絶え間なく降り続く雨。ばかみたいに降るねってふたりで呟いた。 川仕事は休めない。雨合羽を着ていても雨が滲みこんで来るよう。
涼しくていいさと彼は笑う。そうね暑いのよりずっといいねと私も笑った。
午後はまたぐったり。雨音を聴きながらうたた寝をする。 そんなまったりとした時間が最近とても愛しくてならなかった。
やがて散歩の時間。よかった雨がやんでいる。 おいちにっおいちにっと手を振りながらお大師堂に向った。
きっとどちらかのお遍路さんが滞在しているはずだって思った。 そういう時はなんだかピピッとする。私の予感は当たる時が多い。
思った通り、手押し車のお遍路さんがのんびりとくつろいでいた。 昨夜気掛かりだったこと、それとなく訊いてみると。 長髪青年遍路さんは今朝の雨の中を元気に旅立ったそうだ。 逃げ出さずに辛抱したのだろう。えらかったなってすごくほっとした。
手押し車のお遍路さんはとても誠実そうで決して悪い人ではなかった。 ただすごく真面目過ぎて、あっけらかんとしている青年には苦手だったのだろう。
お説教をしてしまった。無理強いをしてしまった事を反省しつつほっとする。 彼にとっては良い経験だったのかもしれないと自分を宥めるように思った。
日々いろんなことがある。毎日が修行なのだとそれは自分にも言えること。
出会いは学びにもつながる。縁なくしては人は出会えないものだとつくづく思うこの頃であった。
| 2012年05月01日(火) |
お遍路さん(その12) |
今日も雨。五月雨というべきか菜種梅雨というべきか。 川向の山々が雨にけむりなんともいえない風情があった。
傘をさして今日もお大師堂にお参りに行く。 途中で大きな荷物を手押し車に乗せて歩くお遍路さんと一緒になった。 挨拶をするとにっこりと笑顔。声を掛けて良かったなって思った。
道案内がてらしばし一緒に歩いていたのだけれど。 あと20メートルほどで着くという時いきなりアクシデントがあった。 なんと手押し車のタイヤが一輪外れてしまって前へ進めなくなってしまったのだ。
どうやらタイヤのネジが外れてしまったよう。 ふたりで必死になって捜したけれど見つからなくて途方に暮れる。 とにかく荷物を先に運ぼうと言うことになり手を貸したけれどとても重い。
ふとお大師堂の方を見ると人影が見えて、先客のお遍路さんが居るみたい。 走って呼びに行ったら顔なじみの長髪青年遍路さんだった。
何度も会っているのに名前を知らない。「ボク!早く手伝って」と叫んだ。 三人がかりでなんとか荷物を運び終える。それにしてもなんて大きな荷物だことか。
ほっとしたのもつかの間。モンダイは手押し車の修理だった。 ふと思い出したのは山里の職場のこと。どんなネジでもたいてい置いてある。
幸いなことに近くに自動車修理工場があるのでそこに行くことをすすめた。 お遍路さんは休む間もなく手押し車を持って行くことになった。
長髪青年遍路さんと、ここで良かったねと語り合った。 道中の何もないところでアクシデントがあったらほんとに困ったことだろう。
すると長髪遍路さんの様子が少し変。「俺、ここ出て行きます」と突然言い出す。 理由を聞くと昨夜もそのお遍路さんと同じ場所で泊まっていたのだそうだ。
なんかすごく苦手。もう一緒に寝たくないのだと言う。
どうして?それでは逃げ出すのと同じではないの? また会ったということはそれだけ縁が深いということじゃないの?
頭をたれてしゅんとしながら私のお説教を聞いてくれた長髪青年遍路さん。
どうしても苦手だったら狸寝入りをしていれば良いのよ。 何も話さなくていいし、無視したって誰も咎めたりしないのよ。
お大師さまがついていてくれるでしょ。もう一晩の辛抱だと思いましょう。
そんなやりとりのあとやっとうなずいてくれた長髪青年遍路さんであった。
さて今頃ふたりはどうしていることやら。 なんだか気になってしょうがない夜になってしまった。
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