とうとう八月も今日で終わり。 残暑を楽しむような気持ちでいたけれど。 ふっと吹き抜ける風に秋の気配を感じた。
職場の庭先には鶏頭の花が咲き始める。 ちいさな炎があちらこちらで燃えているよう。
月末の仕事をたんたんと終え帰宅する。 ほっとひとやま越えたような安堵を感じる。
なるようになるからといつも母は言うけれど。 また無事になんとかなってくれたようだった。 危機感がそうして薄れていく。まだ大丈夫だ。 この先いくつの山を越えなければいけないのか。 そこに山がある限り登るしかないのだと思う。
夕暮れを待たずにいつもの散歩に出掛けた。 お大師堂には昨日のお遍路さんが逗留しているはず。 自炊をしていると聞いていたのでお米を少し持って行った。
けれどもその姿はどこにも見えず。 ゆっくり休みたいと言っていたのに今朝旅立ったようだった。
きっと自分に鞭を打つように出掛けた事だろう。 それが修行というものだろうか。なんとも気掛かりだった。
帰り道の土手で秋に似た風に吹かれながらもの想う。
ひとにはいろんな生き方があるものだ。
それぞれの道をいく。山もあれば谷もある道を。
行ってみなければ何もわからないから進むしかないのだ。
夕陽に向かって散歩をする。
とても急いでいるかのように落ちていく夕陽。
茜色の空を映して川面がまるで血のように染まった。
なんだかはらはらとせつなさが込み上げてくる。
どうしようもなく暮れていくしかもうないのだと思った。
真っ只中にいる自分。かたわらで夏草とたわむれるあんず。
生きているんだなとつくづく思う。命あってこそのひと時。
お大師堂でまた顔見知りのお遍路さんと再会した。 エンドレスというのだろうか。終わりというものがない旅。 ひたすら歩き続けてもう16回目の巡礼だと言うことだった。
今回はあまりの残暑に耐えかねて初めて列車に乗ってしまったそうだ。 なんとも情けないありさまですよと嘆いていたけれど。
どんな時があっても良いのではないですか。そう言って励ます。 無理をしてもお大師さんはほめてはくれないかもしれませんよ。
そうですね。私は間違った事をしたのではないですよね。
そう言って微笑んでくれてとてもほっとしたのだった。
いろんな事情を抱えてお遍路を続けているひともいる。 家はあっても帰ることの出来ない家であるひともいる。
そんな人と出会うのもまた大切な縁なのだと私は思う。
明日いちにちここで休んでもいいですか?
もちろんいいですよ。ゆっくり休んでからまた頑張りましょう!
夏の名残であふれているようないちにち。 日暮れてからも蝉が一生懸命に鳴いている。 そうして秋の虫達も負けないようにと歌い始める。
朝のうち。川仕事の出役があり出掛けていた。 ほんとうは彼が行く予定だったのだけれど。 昨日とつぜんにぎっくり腰になってしまった。
俺駄目やけんね。動けんもんねとすっかり弱っている。 そういうときこそ肝っ玉母さんの出番である。 私に任せておきなさいと颯爽と出かけるうつくしさであった。
そうして今年も川仕事の準備が始まる。 今年こそは順調であって欲しいとひたすら願っている。
体力にはあまり自信のない私だったけれど。 身体を動かしていると何事もやれば出来る気がしてくる。 そうして少しずつ自信もわいてくるのだった。
焦らずゆっくりでいい。自分のチカラを出し切ってみたい。 限界というものがあるものならそこまで行き着いてみたいのだ。
午後。お昼寝をしていたら従兄弟がビールを持って来てくれた。 川仕事仲間の従兄弟である。今日はお疲れさん。すごい助かったよって。 私にとそれを届けてくれたのだった。なんと思いがけないことか。
男手の半分にも満たなかったと思う。でも一生懸命頑張った。 それを認めてもらえたのかと素直に嬉しさが込み上げてきたのだった。
従兄弟には気を遣わせてしまったけれど。こんなにありがたいことはない。
わたし。やれば出来たよ。わたし頑張ったよ。
自分のあたまを撫でているような夜になった。
今日も残暑が厳しく空にはいくつもの入道雲。 夏はいくら背中を押されたってふんばっている。 どんなもんだい!となんだか胸を張っているようにも見える。 そういうところが好きだった。ついつい応援したくなる。
朝のうちに髪を切りに美容院へ行く。 2センチほどの憂鬱だったろうか。 それをさっぱりと切り落としてもらった。
髪が軽くなると気分もかるくなるものだ。 すっきりとした気持ち。とても明るい気分になれた。
今夜は我が町の花火大会だった。 あと30分ほどでそれが始まる。
なんだかそわそわと落ち着かない夜になった。
近くまではいけないけれど土手から花火を見ようと思う。 それをしないことには私の夏は終わることはないだろう。
鮮やかな花火よりも白い花火が見たいなと思う。
夏の雪のような花火。はらはらと舞い落ちる白い雪が見たい。
午前中は曇っていたけれど午後から夏が戻ってきた。 おもいっきり振り向いたような夏。陽射しが眩しい。
残暑は厳しいけれど少しも苦にはならなかった。 むしろ嬉しくてならない。夏よ頑張れと思った。
つくつくぼうしが声を限りに盛んに鳴く。 短い命を燃やすようにその声があたりに響く。
つくつくぼーし。つくつくぼーし。
ふっとつくづくほしいと聞こえる時がある。
なにをほしがっているのだろう。
なにがたらないというのだろう。
そう自分にも問う。
ひとはみな欲深い生きものなのかもしれなかった。
あるがままをうけとめてそれでじゅうぶんと思えるようになりたいものだ。
雨がたくさん降る。それは少し肌寒い秋の雨。
そうして一雨ごとに秋が深くなっていくのだろう。
そんな雨も夕方には降り止みあたりがしんとする。
そうしたら思いがけないほどに空が茜色に染まった。
窓辺に居てしばし放心する。我が身も染めるような紅。
明日は晴れるのかもしれない。そう思うと嬉しくて。
空に向かって歓声をあげたいようなきもちになった。
夏がまた振り向いてくれたらいいなっておもう。
たとえ去るのだとしても最後まで微笑んでいてほしい。
また会おうねと笑顔で見送れるようなそんな別れがしたかった。
わたしはとても元気です。しんみりと思い詰めたりもしない。
せいいっぱいの笑顔でここにいます。だから。
わたしのことを忘れないでいてくださいね。
わたしのことをちょっとだけ好きでいてくださいね。
散歩道の土手に野菊の花を見つける。
薄紫のなんとも可憐な花だった。
かたわらには若きススキの穂が風に揺れている。
なんだか恋をしているようなその姿が微笑ましい。
風が吹くたびにふたりはふれあうことだろう。
そのたびにどきどきとして頬を染めることだろう。
お大師堂にはお遍路さんの靴がそろえてあった。 いつもならきびすを返してしまうのだけれど。 今日は声をかけたくなって歩を進めて行った。
そうしたら今まで何度か会った事のあるお遍路さんだった。 懐かしい顔。目がくりくりと丸くて笑顔がなんともいえない。
「ワンちゃん元気でしたか?」 あんずのことも憶えていてくれてとても嬉しかった。
夏遍路の厳しさ。野宿の辛さなど少し語らい。 屋根のあるところで眠れることほどありがたいことはないと言う。
こんなふうにお大師堂を気に入ってくれて。 巡るたびに泊まってくれるひとがいてくれるのが嬉しかった。
また会いましょうね!笑顔と笑顔で別れを告げる。
帰り道はとても清々しい気持ちだった。
しきりに夏草とたわむれるあんずにつきあいながら。
ゆったりと穏やかな気持ちになっていくのを感じる。
ひととふれあい。自然の草花にふれあう。
それはとても幸せなことなのだなとつくづくおもった。
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