雨がたくさん降る。それは少し肌寒い秋の雨。
そうして一雨ごとに秋が深くなっていくのだろう。
そんな雨も夕方には降り止みあたりがしんとする。
そうしたら思いがけないほどに空が茜色に染まった。
窓辺に居てしばし放心する。我が身も染めるような紅。
明日は晴れるのかもしれない。そう思うと嬉しくて。
空に向かって歓声をあげたいようなきもちになった。
夏がまた振り向いてくれたらいいなっておもう。
たとえ去るのだとしても最後まで微笑んでいてほしい。
また会おうねと笑顔で見送れるようなそんな別れがしたかった。
わたしはとても元気です。しんみりと思い詰めたりもしない。
せいいっぱいの笑顔でここにいます。だから。
わたしのことを忘れないでいてくださいね。
わたしのことをちょっとだけ好きでいてくださいね。
散歩道の土手に野菊の花を見つける。
薄紫のなんとも可憐な花だった。
かたわらには若きススキの穂が風に揺れている。
なんだか恋をしているようなその姿が微笑ましい。
風が吹くたびにふたりはふれあうことだろう。
そのたびにどきどきとして頬を染めることだろう。
お大師堂にはお遍路さんの靴がそろえてあった。 いつもならきびすを返してしまうのだけれど。 今日は声をかけたくなって歩を進めて行った。
そうしたら今まで何度か会った事のあるお遍路さんだった。 懐かしい顔。目がくりくりと丸くて笑顔がなんともいえない。
「ワンちゃん元気でしたか?」 あんずのことも憶えていてくれてとても嬉しかった。
夏遍路の厳しさ。野宿の辛さなど少し語らい。 屋根のあるところで眠れることほどありがたいことはないと言う。
こんなふうにお大師堂を気に入ってくれて。 巡るたびに泊まってくれるひとがいてくれるのが嬉しかった。
また会いましょうね!笑顔と笑顔で別れを告げる。
帰り道はとても清々しい気持ちだった。
しきりに夏草とたわむれるあんずにつきあいながら。
ゆったりと穏やかな気持ちになっていくのを感じる。
ひととふれあい。自然の草花にふれあう。
それはとても幸せなことなのだなとつくづくおもった。
とうとう夏が遠ざかってしまうのだろうか。
その背中にすがりつきたいようなきもちになる。
夕暮れて蝉が最期であるかのようにそれは必死に鳴き。
その声をとがめるように秋の虫たちが騒ぎはじめた。
まっただなかにわたしはいる。夏なのか秋なのか。
中途半端な別れ道にぽつねんとたたずんでいるようだ。
いつまでも立ち止まってはいられない。いかなくちゃ。
振り向きながらわたしはいく。もうここではないところへ。
今日も平穏に過ぎゆく。まったりと浮かんでいるような一日。 ある日突然ということをなるべく考えないようにして過ごす。
そうして折り畳むように一日を閉じればまた新しい時が広がる。 どんな色に染めるのか。どんなふうにそれを縫うのかわからない。
ただ無事に目覚めた朝のなんと清々しいことだろうか。
そのために眠っているのだと言っても過言ではないだろう。
ぐっすりと眠ろう。ひたすら眠ろう。あしたはあしたの風がふく。
お天気は下り坂。夕方になり雨が少し降る。 昼間の蒸し暑さがうそのように一気に涼しくなった。
七時にはもうあたりが薄暗くなってしまって。 川向の山を稲妻の光がライトのように照らす。
そうして遠雷が太鼓を小刻みに叩くように響いている。 どどどどどん。どどどどどん。なんだか祭囃子のよう。
わたしはいつものようにほろ酔って。 あれやこれやとどうしようもないことを考えている。
悩みなんて今はない。思い煩うようなこともなかった。
きっとあまりにも平穏過ぎるものだからこわいのだろう。 白い布をわざと汚すような行為に憧れているだけかもしれない。
そうして後悔をしたりそうして哀しんだりしたいのにちがいない。
おかしいね。ほんとおかしいよね。ばかみたい。
笑い飛ばせばあっけらかんといつものじぶんにもどっていく。
平穏。なんてありがたいことなのだろうとつくづくおもう。
だから空さん。そんなにおこらないでください。
遠くからかすかに消え入るような蝉の声。 曇り日の朝は夏の太陽をすっかり覆い隠し。 あたりの空気を涼やかな色に染めている。
こんなふうに秋は忍び寄ってくるのだろうか。
せつないのはいや。さびしいのはもっといや。
昨夜のこと。遠い地に住む友人たちと夕食。 美味しいものをたくさん食べてビールや焼酎や。 そうして語り合いとても楽しい夜を過ごさせてもらった。
我が町のことをこよなく愛してくれている友人。 春と夏にはかならず訪れてくれているのだった。
けれども会えない年もあった。 来ている事はわかっていても電話のひとつも出来ずにいて。 ああもう帰ってしまったのだなと後から寂しさを感じてしまったり。
それが今年はちゃんと連絡をしてくれてなんと嬉しかったことか。 顔を見せてくれるだけでじゅうぶんだと思っていたけれど。 一緒に夕食をと誘ってくれてほんとうに思いがけなかった。
おかげで忘れられない夏になった。素敵な夏をどうもありがとう。
これからもふたりはわたしのかけがえのない友人でいてくれるだろう。
わたしはここで老いていく。ずっとずっとここで待っている。
どんなに歳月が流れても変わらない笑顔でまたきっと会いましょう!
日が暮れるのを待ちかねていたかのように秋の虫達が鳴き始める。 コウロギだろうか鈴虫だろうかと耳を澄ましながらこれを記す。
なんだか背中を押されているような気持ちになってしまう。 わたしも夏の一部分だったのかもしれない。
後ろ髪をひかれるようにほんの少し前へとすすむ。
振り向いたってかまいやしない。だって夏が好きだったから。
昨日はサチコの誕生日だった。 一緒に暮らしている頃ならお祝いもしてあげられたけれど。 顔すら見ることも出来ずそっとメールを送った夜だった。
それが今日。仕事帰りのスーパーで偶然サチコと会えたのだった。 びっくりしたのと嬉しいのとで顔がしわくちゃになってしまう。 一日遅れたけれど何か買ってあげるねと言うとすごくはしゃいで。 ビールが良いよと言うのでそれを買ってあげると大喜びしていた。
じゃあね。またね。なんだか娘というより友達みたいにして別れた。
わたしのこころのなかには一輪のひまわり。
それが思い出のように咲いているのを感じる。
秋が来てやがて冬がめぐってきてもそのひまわりは決して枯れない。
生まれてきてくれてほんとにありがとう。
母ね。サチコのお母さんになれてすごく幸せなんだよ。
お盆休みも終わりまた日常がかえって来る。
山里ではあちらこちらで稲刈りの風景が見られた。 ほんのりと藁のにおい。それがとても懐かしく感じる。
子供の頃から慣れ親しんできたおじいちゃんちのにおいだ。
どんなに歳月が流れてしまっても忘れられない事がたくさんある。 思い出していると一瞬のうちにその頃にかえっていく自分がいた。
いちにちいちにちを大切に生きたい。 いつかそのすべてが思い出になる日が来るかもしれない。
仕事は少し多忙。どうしたわけか母のご機嫌が悪く。 気づけば自分も苛立ってしまっていたようだ。 それを母に指摘されはっと我にかえったけれど。 ついつい母の顔色を伺ってしまう癖が私にはあった。
みんなが穏やかに微笑んでいられたらどんなに良いだろう。 そのためには自分がいちばんにそうするべきだとつくづく思う。
夕暮れ時の散歩道。ほんの少し日が短くなったことを感じる。 昼間の熱を冷ますように土手を吹く風がとても爽やかだった。
ふっとそれが秋風のように思って胸がせつなくなる。
去るものは追えない。
夏の後姿はどうしてこんなにさびしいものなのだろう。
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