雨が時々激しく降って。かと思えば薄っすらと陽が差す。 気まぐれな空。まるで誰かさんのようだねと私に言った。
そうそうその誰かさんは泣いたカラスがすぐ笑うみたいなひと。 あんまり泣くから泣き黒子があってすぐに笑うから笑いシワがある。
少女の頃から喜怒哀楽が激しくて情緒も少し不安定であった。 けれどもおとなになってからの誰かさんは『怒』を忘れていた。 だから眉間にシワを寄せることもないのでそこだけは若く見える。
かなしいことつらいこと。
それとおなじくらいうれしいことたのしいことがある。
だからじんせいまんざらではないなとおもう。
そう言う誰かさんのことが私はとても好きだった。
ねえどうしたらいい?このままでいいのかしら?
そう訊くといつだって「だいじょうぶよ」と微笑む。
わたしは元気になる。わたしはまたすくっと前を向く。
朝の肌寒さもつかの間のこと。 日中は気温が上がり初夏のような陽気となる。
お昼休み。職場の庭に腰を下ろしおにぎりを食べる。 空を見上げつつひとくち。風に吹かれながらひとくち。
それはとても美味しくて幸せな気持ちになった。
そうして自分がなにも考えていないことに気づく。 空っぽというのではなくてすっきりとした空白だ。
ずっと不安定だったのかもしれない。 ざわざわと落ち着かない気持ちでいたような。 平穏である事を心苦しく思う時がいっぱいあった。
これでいいのかもしれないと今日は思う。
こんな日々を与えられている事に感謝しなければ。
散歩道を歩いていると野あざみの花を見つける。 もう咲いてくれたのねと声をかけては。 またてくてくとすすむと今度は野バラに会った。
野の花はほんとうにさりげなく咲く。 控えめで素朴なそんな花たちが好きだ。
どちらも触れられないほどの棘を持つ。 そうして身を守っているのかもしれなかった。
だいじょうぶよ。そう語りかける。
だいじょうぶよ。どうかそのままでいて。
わたしはわたしの棘にそっとふれてみる。
そうして傷つけたかもしれないひとをおもう。
だからといってほかにどんなほうほうがあったのだろうか。
だいじょうぶよ。そう語りかける。
だいじょうぶよ。どうかそのままでいて。
桜の季節が終われば藤の花が咲き始める。
いつのまにこんなにとおどろくほどそれは咲いて。
芳香を放ちながらしだれ咲いているのだった。
手を差し伸べてそっとうけとめてみたくなる。
その花がそれを望んでいるのかはわからないけれど。
そんな衝動に駆られるときがひとにはある。
いいことだとかいけないことだとかいったい。
誰がそんなことを決められると言うのだろうか。
ただ受けとめるしかない現実にあふれているいま。
それが花であればどんなにいいだろうかとおもう。
静か過ぎる雨。しんみりとその気配を感じる。
私にはもうじゅうぶんだと思えることがたくさんある。 これ以上恵まれることも。これ以上の幸せもいらない。
ただ生きたい。それが唯一の欲なのかもしれない。
元キャンディーズの田中好子の死。とてもショックだった・・。
失いたくないとつよくつよく思うようになったこの頃。
なにもかもが当たり前のことなんかじゃなくて。
すべてがかけがえのないことのように思えてならない。
愛しさが日に日につのる。どうかこのままでいて。
どうかずっと変わらずにいてと祈るようになった。
今日の平穏をかみしめながら夜が更けていく。
心苦しさがうすれていくことを罪のように思いながら。
生きるしかない。かけがえのないものたちのために。
在り続けたいと思う。ちっぽけなひとりになって。
生かされている。それはとてもありがたいことだ。
日々たんたんと目前の事をこなしていく毎日。 いつも通りのこと。普通の暮らしを心がける。
今期の川仕事も一段落してほっと息をつく。 やれるだけのことをやったのだと思う。 大変な事もあったけれどなんとかなったのだ。
足るを知るということばが身に沁みる。 もうじゅうぶん恵まれたのだと思えるようになった。
お昼。夜勤明けの息子が帰って来て三人で昼食。 相変わらず質素なものだけれど文句ひとつ言わず。 昨夜から何も食べていないのだと言いご飯を頬張る。
仕事の話しはいっさいしない。 あれほど辛がっていたのに愚痴ひとつ言わなかった。
被災地の避難所にいる人達のことを話し始めた。 小さな避難所では一日一食のところもあるんだぞ。 おにぎり一個とかパン一個しか食べられない人もいるんだからな。
仕事頑張ってねとは父も母も言わない。 明日は休みだという息子に「ゆっくり休みなさいよ」と言う。
うん、また来るわ。メシ食わせてくれよな。
またまた嵐のように息子が去って行く。
嵐の後の静けさに母はつぶやく。
あのこもうだいじょうぶかもしれないね。
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