桜は散り急ぎずいぶんと葉桜が目立つようになった。 けれどもその緑がなんとも鮮やかに空に映えている。
辛い苦しいと嘆いていたら少しも前に進めないから。 とにかく笑顔で立ち向かっていくしかないんですよ。 大震災からひと月が経った今日の被災地からの言葉だった。
負けないで負けないでとエールをおくる。 そうしてその時間。手を合わせながら黙祷をした。
夕方。また大きな余震のニュースが流れる。 先日もあったばかりだというのに何と言うことだろう。 いったいいつまで苦しめれば気が済むというのだろう。 また天を恨みたくなった。心に杭が刺さったように痛む。
夕食時。だからと言って食べないわけにはいかないだろうと彼が言う。 普通にしているのがいちばんだとわかってはいるけれど。 その普通がなんと心苦しいことだろうか・・・。
嘆いていてもなにもかいけつしない。 笑顔で立ち向かっていくのだと言ったひとの言葉を思い出す。
負けないで負けないで。そう心でつぶやきながら。
晩ご飯を食べた。甘エビのお刺身が美味いじゃないかと彼が微笑む。
気温がぐんぐんと高くなりまるで初夏のような陽気となる。 風に桜の花びらが舞う。散っているのではなく舞っている。
儚さやさびしさを忘れさすかのようにそれはとても美しかった。
ふつうにしていましょうよと友が言う。 ふつうに仕事をしてふつうにご飯を食べて。 お風呂に入ってビールも飲んだらいいよと。
なんだか胸の中にあったかたまりがふわっとやわらかくなった。 気が楽になる。だってそのふつうがとても心苦しかったから。 あたりまえのことがずっとあたりまえではないように思っていたから。
ふつう。なんてありがたいことなのだろうとつくづく思う。
川仕事をがんばる。お昼は作業場でおにぎりを食べる。 少しだけお昼寝をしてからいつもの散歩道を歩いた。 晩ご飯はトンカツにする。キャベツは畑でとれたもの。 お風呂に入りまったりとする。そうしてビールを飲む。
ふつう。こうして生きているのがわたしの日常。
ふつうにしていました。これがありのままのわたしですもの。
なにごともなかったように雨はふる
桜はうつむくこともせずそんな空をあおぐ
しかたのないことなのだよと誰かが言った
どうしようもできないのだものとまた誰かが
わたしはかなしくてたまらなくなって空にきく
どうしてどうしてとおなじことばを繰り返す
かみさまはきっといるのだと信じているから
かみさまのことをきらいになんてなりはしない
もしかしたらかみさまが泣いているのかもしれない
桜はそんな涙をせいいっぱいにうけとめているのか
被災地に追い討ちをかけるような大きな余震。 必死に耐えている人達になんて酷い仕打ちをと。 天を恨みたくなった。こんな酷いことがあってよいのか・・。 亡くなった方もいると聞き遣り切れない思いでいっぱいになる。
何もチカラにはなれない無力感にまた苛まれているけれど。 ひたすら祈り続ける。どうかどうか・・そればかり繰り返している。
明日は雨になると言う
雨に打たれる桜をおもう
痛くはないか辛くはないか
いいえ生きていますから
いいえ生きていますから
いのちのことをこれほどまでに
ふかくふかくかんじた春はなかった
生きているだけでじゅうぶんだと
微笑むひとたちがそこにいる
どんなにかつらいことだろう
どんなにか悲しいことだろう
いいえ生きていますから
いいえ生きていますから
春よどうか抱きしめてあげてください
春よかけがえのないいのちを守ってあげてください
心を痛めつつも日々の暮らしを精一杯に。 そうでなければいけないように思って。 今日も暮れていく。なんと平穏なことだろう。
心苦しさを覆い隠すようにありがたさをかみしめている。
今日は海苔の出荷日だった。 津波の被害はあったもののわずかに残ってくれた海苔。 その海苔が順調に生育してくれたおかげで収穫が出来た。
自然まかせのこと。一時は嘆くことはあっても。 こうして救われる事もある。恵まれる事もある。
被災地を思えば申し訳ない気持ちにもなるけれど。 とても複雑な気持ちになりながらも素直に感謝している。
なんとか暮しのめどが立つ。それはとても幸せなことだった。
けれども明日は我が身。そのことを決して忘れてはいけない。
満開の桜を今日も仰ぐ。
やがて儚くそれは散っていくだろう。
せつないけれど潔く散る花。
そんなふうに生きていたいとしみじみとおもった。
霜注意報があった朝。 冬のそれほどではないけれど肌寒さを感じる。
桜の季節にはかならずある花冷え。 ほぼ満開となった桜が寒さを恋しがるのだろうか。
寒さあってこそ咲いた花。 なんども言うけれど今年ほど胸に沁みることはない。
胸の痛みを癒すように桜は咲いてくれる。
なにがあってもどんな時でもその季節がめぐってくる。
山里に向かえば、もう田植えの準備が始まっていた。 そんな頃なのかと思うと日々がとてつもなくはやく。 流れているように感じた。前へ前へとそれがすすむ。
いかなくちゃとわたしもおもう。
いってみないとわからないところ。
いかなくちゃ。いかなくちゃ。
その犬の名はバンちゃん。 先日気仙沼沖で奇跡的に救助された犬だった。
飼い主と再会する事が出来てほんとうに良かった。 尻尾を千切れんばかりに振りながら嬉しそうな姿。
抱きしめる飼い主さん。愛しくてたまらないいのち。
感動で胸がいっぱいになる。涙があふれるニュースだった。
いいか、もし大きな地震が来たらすぐに高台に逃げろ。 俺は浜の地区へ行く。一人でも多くの人を避難させないといけない。 逃げる時に犬を放せ。絶対に一緒に連れて行こうとするな。
何度も何度も彼は言う。それは真剣な目をして私に言い聞かす。
それはいったいいつのことなのか。 今夜かもしれない明日かもしれないといつも不安に思う。
そうしながら平穏に一日が暮れていくありがたさをかみしめている。
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