むかしむかし『弥生つめたい風』という歌があったけれど。 その歌のように今日も冷たい風が吹くいちにちだった。
春の陣痛が続いている。もうひとふんばりだ。がんばれ春。
母の手術日。今回は眼の手術だったので短時間で無事に済んだとの事。 付き添ってくれた弟嫁より連絡がありほっと胸を撫で下ろす。 母は例のごとくであっけらかんとしている様子。 「ぴんぴんしているよ」と弟嫁も笑いながら知らせてくれた。
あとは退院を待つばかり。しばらく会っていない母が少し恋しい。
心配事はそうしてひとつずつ解決していくのだけれど。 あとからあとからと押し寄せるように舞い込んできたりするもの。
昨日は息子のことでいろいろとあって。 近いうちに家族会議のようなものが必要になった。
親離れ子離れがすっかり済んだものと思っていたけれど。 子を想う気持ちは変わることはなく。 なんとしても救ってあげたいのが親というものだろう。
だいじょうぶなんとかなるよと息子に言ったら。
ありがとう!ってほっとしたように言ってくれた。
冬の名残の北風が吹き荒れたいちにち。
今朝の新聞を見ていたら『寒の戻り』 それは春を生むための陣痛のようなものだとあった。 なるほどとうなずく。陣痛があるからこそ春が生まれるのだ。
そんな痛みのような寒さ。それもまた感慨深くおもう。
今日は海苔の初出荷の日だった。 それは娘を嫁に出すような気持ちに似ている。 殆どは佃煮屋さんに引き取られていくのだけれど。 緑のままの海苔を娘のように愛しく思ったりもする。
たくさんのひとに食べて欲しいそう願いつつ送り出す。
いつもの散歩。今日も路地で桜の木を仰いだ。 真っ青な青空にその花が宝石のように輝いて見えた。 どんなに北風が吹き荒れようとそこはもう春だった。
お大師堂で手をあわす。 今日は母が大学病院に入院した日でもある。 母からは何も連絡が来なかったけれど。 明後日が手術の予定らしかった。 付き添ってあげたいけれどそれも出来ず。 なんだかひどく親不孝をしているような気がした。
散歩から帰宅するなり義父より電話がある。 来週早々になんとか一日だけ助けて欲しいとの事。 もちろん承諾する。なんとしても助けてあげなくてはと思う。
ずっとあれこれと思い悩んでいたけれど。
なんとかなるときがきっと今なのだとやっと思えるようになった。
午前中は雨。霧のようにやわらかな雨だった。 春雨に濡れる。しっとりと潤うのが心地よく思う。
午後。散歩に出掛けた道の途中の民家の庭に。 早咲きの桜がもう咲いているのを見つける。
寒桜というのだろうかその名は知らないけれど。 桜にはちがいなくなんとも可憐で美しい光景だった。
その香りがほんのりと路地に漂う。 しばし立ち止まり深呼吸をするように香りを浴びた。
こころのなかでなにかがほぐされていく。
もつれそうになっていたそのなにかが。
ゆるやかな線になりなびいているよう。
ゆらりゆらり。いつまでもそうでありたい。
細かな雨が静かに降り続くなか。 どこからかウグイスの鳴き声が聴こえてきた。
ほうほけきょ。けきょけきょと。 その初音にこころがとても和む。
川仕事の気忙しさも忘れてしばし聴き入る。 もっともっとゆったりで良いのではないかと。 がむしゃらに動かす手を少し休めたくなった。
明日からはもう弥生。 あっという間に日々が流れてしまった。
ちゃんといるのかなわたし。
たしかめるすべもなくたちすくんでいる。
早朝から川仕事。川面に朝陽がきらきらと眩しい。 なんとも清々しい気持ちで今日も頑張ろうと思う。
ほどよい疲れ。午後は少しだけうたた寝が出来た。 ふつか散歩に行けなくて今日はあんずがきゅんきゅんとなく。 おりこうさんで我慢したんだよって言っているようだった。
いつもの道ではなかったけれど土手の道を散歩する。 そうしたら土筆が。もういっぱい伸びていてびっくり。 いっせいに並んで頭をにょきっとしている姿が可愛い。 坊やたちと私は呼ぶ。まるで土筆の学校のような風景。
ちいさな春を見つけた時はほんとうに嬉しくなる。
寒い寒い冬を乗り越えたんだなってささやかな勇気をもらう。
朝のうち霧のような雨が少しだけ降る。 いかにも春雨という感じでやわらかな雨だった。
そんな空に反して海はとても荒れているらしく。 波の影響で海苔の漁場に少なからず被害が出た。 その様子が今朝の新聞記事に出ていたものだから。 母が心配してメールをしてきてくれたのだった。
自然には勝てません。焦って怪我などしないように。
そのメールがなんと嬉しかったことだろう。 昨年の津波といい自然のチカラは容赦ない。 どんな時があってもくじけてはいけないと思う。
人間のチカラなど限られているけれど。 出来る限りのことをして精を出したいものだ。
収穫の後。被害の出た漁場の修復作業に追われる。 ふたりくたくたになって帰って来た。
おかげでいつもの散歩にも行けず。 そのことをあんずに話してもワンとも言わないのだけれど。 おしっこだけして来ようかねと言うとまた理解してくれた。 ゆっくりと歩いて土手まで行くと気持ち良さそうにそれをする。 そうしてすぐにきびすを返し家に帰って来てくれたのだった。
彼女にはわかるのだ。とても不思議だけれどちゃんと伝わる。 私が元気な時も疲れている時も雰囲気で感じるのだろうか。
そのてん私は彼女のことを理解していないのかもしれない。
そう思うとなんだか申し訳なくて彼女をぎゅっと抱きしめたくなった。
寝ているあいだに雨が降っていたらしい。 目覚めるとあたりがしっとりと潤っていた。
朝の寒さもずいぶんと和らぎ楽になる。 身体がむくむくっとする。それがとても心地よい。
今日は午後からサチコが来るというので。 そわそわと落ち着かずひたすら待っていた。 川仕事を終え作業場で手を動かしている時も。 サチコがたこ焼きを買って来てくれるかもしれない。 期待で胸をふくらませながらずっと待っていた。
来ないな・・どうしたのだろう。 待ちくたびれてちょっと寂しくなった。
帰宅して午後四時。やっとサチコが来る。 おみやげは資源ごみ。空き缶やら雑紙やら。 いっぱいになると家に持って来るのだった。 けれどもその時にはサチコに会えるのだから。 ゴミも嬉しい。空き缶ばんざいの気持ちになる。
つかの間だったけれどサチコがいるとほんわかとなる。
なんだかお花畑にいるような気分になる。
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