伸ばし伸ばしにしていた川仕事を始める。 養殖場に杭を打つ作業から始まり 来月になれば網を張れるようになるだろう。
弱音をはいている場合ではなかった。 気をひきしめて精一杯にやるしかない。 生活がかかっているのだもの頑張らなければ。
彼も腰痛を我慢しながら耐えている。 私が助けてあげなければ誰が助けるのだと思う。
幸い朝のうちはずいぶんと涼しく仕事もはかどる。 ふたりくたくたになってとても疲れてしまったけれど その疲れが心地よく思えた。やれば出来るんだと私も 少し自信が出て来た。ひと山もふた山も越えられそうだ。
さすがに午後はぐったりとお昼寝をする。 夕飯は野菜たっぷりのチャンポン。 うっすらと汗を流しながら食べた。 そろそろ温かいものが美味しい季節になる。 おでんもいいな。むしょうに食べたくなった。
そうして夕暮れの散歩。茜色の空を仰ぎつつ 土手の道を踏みしめるように歩いて行くのだ。
お大師堂にはいま白い萩の花が満開だった。 その枝垂れ咲く花のなんと可憐なことだろう。
薄暗くなったお堂で蝋燭を灯しお参りをした。
ずっと願いごとはしないならいだったけれど。
最近はついついお願いをしてしまうのだった。
たすけて。たすけて。たすけて。
そうつぶやいているじぶんをゆるしてあげたいとおもう。
朝晩の涼しさにくわえて日中の暑さも少しやわらいでくる。 ずいぶんとしのぎやすくなってからだもほっとしているようだ。
職場の庭にはコスモスの花が咲き始めた。 背高のっぽのその枝は猛暑と雨不足のせいだろうか みな少しうなだれて葉も枯れかけているものが多い。 けれども花が咲くとそれが息をふきかえしたように 活き活きと空に手を伸ばしているのが感動的だった。
大好きな花だ。がんばれがんばれと応援するような気持ちでいる。
やがてはたくさんの花がほこらしげに咲いてくれることだろう。 ありがとうって伝えたい。咲いてくれてありがとうって伝えたい。
ふと。うなだれているわたしにも花が咲くかもしれないと思う。
頭のうえにぽっかりとある日突然に花が咲くかもしれないな。
ふたりのこどもたちの声がむしょうにききたくなって電話する。
真は「なんぞ?」と言うので、今夜のホタルノヒカリ最終回の録画を頼む。
サチコは仕事が休みだったそうだ。アイタカッタな・・。
でも母は仕事だったからアエナカッタな・・。
最近また調子悪くてねって言うと『命の母』を飲めと言う。
母にとってはそんな薬より『サチコの花』がよく効くのであった。
ふたりにあいたい。あいたくてたまらない・・・・・。
昨夜から一気に涼しくなり今朝は肌寒いほどだった。 けれども日中はまだまだ真夏の光があふれている。
今日も赤とんぼの群れ。雲ひとつない空は高くひろく。 吸い込まれてしまいそうな青にこころがうばわれるよう。
職場のすぐ近くの畑にはニラの花がたくさん咲いている。 純白のなんとも愛らしい花だ。か細くてもすくっと立って。 そよ吹く風になびくように揺れている姿がなんともいえない。
そのニラの花を少しだけいただき子供のように嬉しかった。 さっそく事務所の花瓶に活けてみたら心がほっと和んでくる。
たかが野菜とあなどってはいけない。ニラだってニンニクだって。 じゃが芋の花もトマトや茄子やかぼちゃの花も私は好きだなと思う。
それが実になり種になる。すばらしいことではないかと思うのだ。
ひとは思うように花にはなれなくて咲けないままの人生もあるけれど。 あたたかいきもちや優しいきもちになった時目には見えない花が咲く。
それがやがて実になり種になるのではないかとわたしは信じている。
さげすまないでじぶんをきらいにならないでそんな花になりたいものだ。
夕暮れ近く。庭先で聞きなれない鳥の声がした。 あれはモズだ。秋になったんだなあと彼が言う。
昼間の暑さを思うとその何気ない一言が嬉しかった。 秋はさびしいけれど秋はせつないけれど。 心のどこかでちいさな秋を待ちわびているのかもしれない。
茜色の空を見上げながらいつもの散歩に出掛ける。 刷毛で描いたような茜雲も秋を知らせてくれている。
かと思えばツクツクボウシが声を限りに鳴いている。 あふれんばかりの夏に秋がそそぎこんでいるようだった。
てくてくと歩きながらじぶんのことをかんがえる。 体調は少しずつ楽になっているようでほっとしている。 まだ歩けるんだ。ずっと歩けるんだと自信がわいてくる。
ようは気の持ちようなのだ。勇気を出して歩み続けることだ。
秋がくれば冬がくる。冬になれば春を待ちわびることだろう。
そうして歳を重ねていくことに誇りを持てる生き方をしたい。
厳しい残暑。9月とは思えないほどの猛暑日となる。
そろそろ川仕事の準備を始めなければいけないのだけれど、 先日の彼のこともありもうしばらく様子を見ることにした。 来週末頃になれば少しは暑さもやわらぐことだろう。
おかげでいただいた安息日。ふたりごろごろと怠惰に過ごす。 時間がゆっくりと過ぎていく。それは無意味な時なのかもしれない。 けれどもまったりと寛いでいる身体が喜んでいるようにも思える。
ありあわせの夕食を食べながら、10年後20年後を語り合う。 それはまさしく老後のことだった。ふたりとも元気でいるかしら。 私の更年期障害。彼の腰痛。いったいどんなふたりになっているのだろう。
先のことだよと彼は言う。先のことなんてなにもわからないのだ。 それよりも今を大切に日々を精一杯に乗り越えていかなければいけない。
夕風を待ちかねていつもの散歩に出掛ける。 今はこんなに元気なあんずもやがては弱ってしまう事だろう。 せつなさが込み上げてくる。そのせつなさが風に吹かれているのだった。
茜色の夕焼けは秋の気配がする。落ちていく夕陽がとても急いでいる。 か細い三日月が見え始め一番星がきらりと光り始めた空だった。
きょうがおわる。きょうも生きた。それ以外に何を思うことがあろうか。
昼間。仕事の手を休めて裏庭に出てみると。 それはそれはたくさんの赤とんぼが飛んでいた。
陽射しはまだ夏のままだけれど風が少しだけ爽やかになる。 赤とんぼはそんな風のなかを泳ぐように飛び交っていた。
ふとじぶんも空をとんでみたくなる。 それはじゆうにそれはきままに。 なにひとつ思いなやみもせずに。
風のいちぶになったように風になってみたかった。
仕事を終えて帰宅する。「ただいま」「おかえり」 茶の間から彼の声が聞こえるととてもほっとする。 昨日はそれがなくてどんなにか不安だったことか。
ひとりで川仕事に行っていて軽い熱中症になっていたのだ。 気分が悪く昼食も食べられないまま横になっていたと言う。 もう大丈夫だと病院にも行きたがらずそのまま夜になった。 大好きなビールも欲しがらず心配でならなかったけれど。 今朝は食欲も戻りほっとして私も仕事に出掛けられたのだ。
職場に向かいながら思った。自分の体調なんてどうでもいい。 彼が元気でいてくれるのが何よりも嬉しいことなのだと。
そう思っただけで不調が少しだけやわらいだように思う。
弱気になってはいけない。じぶんは元気なのだと信じよう。
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