しきりに鳴くのはほととぎす。 テッぺンカケタカ テッペンカケタカ
声は聴こえど姿はみえぬ。
そこにあるのはただただ深い緑だった。
今日こそはとこころを決めて山里へ行く。 気が重ければ軽くすれば良いのだと思う。 深刻ぶることなどなにもないのだもの。 笑顔でいれば穏やかに時が流れるだろう。
先週から風邪をこじらせていた母は。 なんとか元気になったようでほっとする。 よほど話し相手が欲しかったのだろうか。 あれこれとうるさいくらいによくしゃべる。
庭のかたすみには雪ノ下の可憐な花が。 ちいさな天使のように咲き始めていた。 母も私も大好きな花だ。とても心が和む。
咲いたねって言うと咲いたよとほほえむ。 そんな母は見るたびに老いていくようで。 まるまった背中。白い髪がせつなかった。
テッペンカケタカ。テッペンカケタカ。
またほととぎすの鳴く声がこだまする。
山の緑が目に沁みるようにまぶしかった。
散歩道の土手には姫女苑の花が咲き始めた。 その白くて可愛らしい花がゆうらゆうらと。 風になびいている姿にこころがうばわれる。
折れてしまいそうなほどか細い茎。 緑の葉は手をひろげたこどものようだ。
そのかたわらにはチガヤの白い穂が。 いっせいに頭をたれて綿の海になる。
ふと潮の香がしたような気がして風に。 そのありかをたずねるように空を仰いだ。
雨上がりの清々しい空がそこにひろがる。
こんな風にあいたかった。こんな空にあいたかった。
月曜日だというのに動き出す事も出来ず。 朝からずっと自室にひきこもっていた。 悪く考えればきりがない。自分がなさけなくて。
けれどもあえて良いほうにかんがえてみると。 それがとてもひつような時間のように思える。
なにも思い煩うこともなくゆったりとかまえて。 たっぷりとある時間に身をまかせているような。
これでいいのだこれでいいのだとうなずきながら。
ゆうらゆうらとわたしもゆれる。
ゆうらゆうらときょうをいきた。
あたまのなかがぐるぐるしている。
あれもこれもとかんがえてしまうから。
あっけらかんはかんたんなことじゃない。
すべてをうけとめてさらりさらりとながれたいな。
曇り日。夕方になり小粒の雨がぽつりぽつり。 ちょうど散歩に出たところだったからすこし。 しっとりと濡れたけれど。それが心地よくて。
ご近所の紫陽花もうっすらと色づきはじめた。 そのなんともいえない淡い色が好きだなと思う。
こんなふうにひともこころを映してしまえたら。 どんな色になるのだろうとわくわくとしながら。 生きることがたのしくて生きることが嬉しくて。
あたまのなかがぐるぐるしている。
いろんないろがまざりあったような。
すきないろはどんないろ?
たったひとつのいろになれたらいいな。
うすく陽が射しているかと思えばにわかに雨。 やはり梅雨入りが近いのだろうとおもわれる。
出しっぱなしだった茶の間の炬燵をかたづける。 そのあとには彼のお気に入りのシートを据えて。 ああこれこれとすっかりご機嫌の様子の彼だった。
午後には私もソファーに寝転んで本を読んだり。 いつもは自室に閉じ篭っていることが多いけれど。 茶の間もたまには良いものだなとつくづく思った。
世間のひとは皆働いているだろう平日に。 このところの我が家は毎日が休日だった。
焦る気持ちはどうしても消えないけれど。 今はこうするしかないのだと心を決める。
動く日にはうごく。進むことだって出来る。
明日は一週間ぶりに山里の職場へ行こうと思う。 とてもとても気が重いけれど見捨てるわけにもいかず。 母の体調はその後どうだろうと気掛かりでもあった。
また逃げるように帰宅するはめになるかもしれない。 けれどもそれが今の自分に出来る精一杯の親孝行だ。
しかしこの言葉に出来ないようなプレッシャーは。 いったいどうしたことだろう。もっと気楽にと思う けれど。イカナケレバイカナケレバと思ってしまう。
夕方には雨も降り止みあんずといつもの散歩道を行く。 しっとりと雨に潤った緑。その匂いがとても心地よい。
お大師堂で祈った。どうかどうかたすけてください。 いつもはお願いなどしないように心がけているけれど。 手を合わすと自然にそんな言葉が出てくるようになる。
お大師様もびっくりしたことだろう。そうかそうかと。 今度ばかりは願いごとをきいてくれそうな気がしてきた。
叶わないこともそうすることで救われていくように思う。
お大師さま。平穏ないちにちをありがとうございました。
いちにち雨がふったりやんだり。 蒸し暑く梅雨を思わすような雨だった。
昨日は少し遠出をして大学病院へ行っていた。 やはり彼の白内障は悪化しているらしくて。 来月早々に手術をしなければいけなくなった。 手術自体は簡単なものらしのだけれど。 数日の入院を要するとの事で少し気が重い。 それに病院が遠すぎるのも不便なのだけれど。
とうの彼はとてもあっけらかんとしている。 私もくよくよ考えていてはいけないなと思う。
そんなことが突然に決まったりしたものだから。 私の職探しも来月まで少し様子をみることになった。 先日の面接先からも連絡がなかったから不採用だし。 これもなるようになっているのだと思えば気も楽だ。
あれこれと思い煩う悪いくせ。ここらでひとやすみ。 とにかく目の前の事からひとつひとつかたづけようと。 彼が言う通りだと思う。いいこと言うなあって思った。
なんとなくふんだりけったりだけれど。
おもったほどはいたくないのがふしぎ。
ただちょっとみがまえてしまうのは。
つぎはなにがくるのだろうとおもうから。
わるいこととはかぎらない。いいことだって。
きっとくる。やまないあめがないのとおなじ。
気温がぐんぐんと高くなりすっかり初夏の陽気。
うちに閉じこもっているのも落ち着かず。 かといって山里の職場に行くのも気が重く。 とにかく動こうと今日もハローワークへ行く。
先日の面接の結果がはっきりとしないままだけれど。 聞くところによるとかなりの人が面接に行ったらしい。 若い人ばかりではないですよと言ってもらい少しほっとする。
けれども待つということ。それはとてもつらいことに思える。 ゆったりとしたきもち。そういうこころの余裕がないのかも。
今日のしゅうかくはゼロ。焦ってはいけないと自分に言い聞かす。
帰宅するとポストに大きな封筒が入っていた。 字を見ただけでわかる。それはひろたくんからだった。
スケッチブックに書いたたくさんの絵を送ってくれたのだ。 かなしみと希望と。そしてなんともいえないぬくもりと。 ひとつひとつの絵を見つめながら胸がいっぱいになった。
ほろりほろりと涙があふれる。なんてありがたい絵だろう。
たとえこのよにかなしみがあふれていても。
ひとはきぼうというなのはなをさかせる。
そうしてそのはなをそだてることができる。
さかないかなしみ。かれてしまうかなしみ。
みずをください。あいをくださいとひとはねがう。
だいじょうぶ。いきているよ。こんなにつよくいきているよ。
ゆうじんのおたんじょうび。
どうしていきているのかふとわからなくなると。 かといってしぬゆうきもないのだとゆうじんはいう。
それはねいきるゆうきがあるということだよというと。 ははっとわらった。おたんじょうびおめでとうひろたくん。
わたしたちはともだちなんだ。ずっといっしょにいきるんだ。
昨日のこと。山里の職場に行けば母は風邪をひいていて。 少し熱があるというのに休みもせずに仕事をしていた。 私はとても心苦しかった。とても言葉に出来ないくらい。
職探しをしていることも話し出せずに一日が過ぎていく。 それを話せば母はどんなにか気落ちすることだろうと思う。
なるようになるとわたしはいつも言っているけれど。 いったいどんなふうになってしまうのだろうと思う。
わからないから。それはちっともわからないことだから。
手さぐりで日々を歩んでいくよりほかないのだろう。
宝くじを買った。ジャンボとミリオンと二種類買った。 どうかどうか当たってくれますようにと祈っているのだけれど。
わからないから。それはちっともわからないことだから。
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