野に咲くスミレが庭に咲く。 それはコンクリートのすきまから。 とてもちからづよく息をするように。
ある日は土手に咲いていたのだろう。 紫色の蝶々のようにひらひらと風に。 吹かれているうちにやがて種になった。
その種が育つ。ほんの2ミリほどのすきま。 ひび割れたコンクリートに土の香りを見つけて。
つよいねきみは。こんなにもつよかったんだね。
朝から雨。優しい雨でよかったけれど。
雨合羽を着て川仕事に行くのが少し憂鬱。 ついぐじぐじと文句ばっかり言ってしまう。
降るものは仕方ないだろうと彼に宥められ。 ようし!っとカタチばかりの気合を入れた。
先日の津波の影響だろうか海苔が弱っている。 まるで植物が枯れ始めたように茶色が目立つ。 このまま弱り続けると川の中で腐ってしまう。
不安がつのる。どうしようもなく心配でならない。
がんばって。生きようねと念じるように収穫をした。 ほんとうに自然まかせ。人のチカラなど敵いもせず。 おろおろとしながら見守る事しか出来ないのだった。
悪い事ばかり考えていてはいけないな。希望を持とう。
親戚のお葬式があり母とふたりで高知市へ出掛ける。 列車で2時間足らず。始発列車の窓から朝陽を見た。
母とふたり肩を寄せ合って列車の座席に座るなど。 もう何十年も昔の子供の頃からなかったように思う。
母はこんなにちいさかったのかしら。
背中をまるめてちょこんと座る姿は。
すっかり老婆のようでせつなくてならない。
列車をおりて改札口に向かっている時も。 すぐ横を歩いていると思っていたけれど。 気がつけばずっと後ろを歩いているのだった。
「荷物を持ってあげようか」と声をかけると。 「かまん、かまんよ」と荷物をぎゅっと握りしめる。
ずっと気丈な母だった。いつだって溌剌としていて。 それがいつのまにかこんなに老いてしまったなんて。
なんだか見てはいけないような気がしてならない。 胸の奥が疼く。痛々しくてかなしくてならなかった。
そんな私の気持ちをよそに母はとてもはしゃいでいる。 駅の喫茶店でモーニングサービスを美味しそうに食べる。 タクシーに乗り込んだ時もまるで観光客のようだった。
お葬式がおわる。母よりふたつ年下のひとが亡くなった。
やがて母もとわたしはおもう。こんなふうにとかんがえる。
とんぼがえりでまた駅に戻る。お腹空いたねと母が言う。 ふたりでオムライスを食べた。ケチャップたっぷりなのに。 母はその上にウスターソースをかけた。「あんたもかけなさい」 美味しいよと大きな声でしきりにすすめたりするのだった。
帰りの列車のなか。母はぽかんと口を開けたまま眠り込む。
その顔を見たら笑い転げそうになって私は海ばかり見ていた。
あわせた手のひらをそっとひらいたように 白木蓮の花がそれはみごとに咲いていた。
弥生三月。春はもうすぐちかくまできていて。 ここにいるよとささやいているのかもしれない。
昨日からの津波騒動。今朝もまだ潮に変動があり。 川仕事は中止になった。たいしたことはないだろうと。 甘く見ていたのかもしれない。従兄弟の川船は転覆し。 うちの船もロープが切れて危うく流されるところだった。 川の水が逆流しているのを目の当たりにして怖いと思う。 水はまるで大雨の後のように濁り渦を巻きながら流れた。
今回の津波を教訓におもい身を引き締めなければと思う。
のんびりとお休みのつもりでいたけれど母から電話がある。 一時間でも良いから手助けが欲しいという事で駆けつけた。 母ひとりではどうにもならないことがある。親孝行だとか。 それは別問題で。職場がある限り私にも責任があるのだった。
めまぐるしさをよそに。母はほっとしたように机に向かう。 私は例のごとくでコマネズミのようにすべき事をこなした。
山里ではもう田植えの準備が始まっていておどろく。 水を張られた田んぼ。それはとてものどかな風景だった。
知らず知らずのうちに季節が移ろい始めている。
うぐいすが。ほうほけきょ。けきょけきょと春の歌をうたった。
青空もつかのま午後から細かな雨が降り始める。 春雨というのにふさわしいやわらかな雨だった。
濡れて行こうといつもの散歩道を歩く。 例の早咲きの桜を愛でたくてならなくて。 先を急ごうとするあんずを制し立ち止まる。
しっとりと濡れた花びらはふとせつなくもあり。 なんだかなくしたものを恋しがるような想いで。 見上げた。うしなったものが私にもあるのだろうか。
この花も潔く散るだろう。はらはらと散ることだろう。
お大師堂にしばしこもり手を合わせた。 いちにちが無事に暮れようとしている。
それはなによりもありがたいことだとおもう。
ことしいちばんの陽気だという。 気温は21度を越え四月並の暖かさとなった。
何日ぶりだろう。夕方いつもの散歩道を歩く。 おどろいたのは早咲きの桜がもう咲いていたこと。 民家の庭先にそれはなんともうつくしく咲きほこり。 思わず足をとめて見上げずにはいられなかった。
ああたしかに。春の足音がこんなにちかくなった。
土手の土筆の坊や。もう10センチほどに伸びている。 寒い日もあったというのにすくすくと育ってくれたのか。
あんずが牛のように草を食む。むしゃむしゃと美味しそう。 よく見るとそれはカラスノエンドウの新芽だったりした。
風は沖からの南風。これを春風と呼ばずなんと呼ぼう。
きもちよくここちよく風に吹かれながら歩く散歩道だった。
お大師堂に置いてあるノートにはお遍路さんのメッセージが。 20日の夜に大橋のたもとまでやっとの思いで辿り着いたらしい。 疲れ果てて野宿の場所を探していてとても不安だったそうだ。 通りすがりの人がいてくれてお大師堂をおしえてくれたらしい。 畳の上でちゃんと眠ることが出来てほんとうに良かったと思う。
会いたかったな。でも会えなかったひとの旅の無事を祈っている。
寒気が少しゆるみ暖かさにほっとひと息。
まだまだ寒の戻りがあるだろうけれど。
あと少しもう少しと春爛漫を待ちわびている。
川仕事の疲れがそろそろたまってきたらしく。 ざわざわと気分が落ち着かない日が多くなった。 あれもしなくてはこれもしなくてはと思っていても。 何から手をつけて良いのかわからず気ばかり急いている。
明日は午後から山里の職場に行く約束をしてしまった。 やらなければいけないことがたくさんあって気が重い。 時間が足らないかもしれないと思うと不安にもなって。
ふぁいと!と自分に気合を入れているのだけれど。 これを書き終えると少しは心に余裕が出来そうに思う。
だから書こう。とりとめもなくつれづれなるままに。
あんず今日はごめん。またお散歩に行けなかったね。 母さん炬燵で寝入ってしまってもう晩御飯の支度する時間で。 日が暮れてからおしっこだけしようねと土手まで走ったんだ。 そうしたらあんずそれがわかっていて自分から家に帰ってくれた。 すぐにUターンするのだもん。母おかしくなって笑ってしまったよ。
ありがとうね。わがままもいわずちゃんとりかいしてくれているの。 母さんほっとしてすごく嬉しかったよ。すごい助かったんだからね。
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