ことしいちばんの陽気だという。 気温は21度を越え四月並の暖かさとなった。
何日ぶりだろう。夕方いつもの散歩道を歩く。 おどろいたのは早咲きの桜がもう咲いていたこと。 民家の庭先にそれはなんともうつくしく咲きほこり。 思わず足をとめて見上げずにはいられなかった。
ああたしかに。春の足音がこんなにちかくなった。
土手の土筆の坊や。もう10センチほどに伸びている。 寒い日もあったというのにすくすくと育ってくれたのか。
あんずが牛のように草を食む。むしゃむしゃと美味しそう。 よく見るとそれはカラスノエンドウの新芽だったりした。
風は沖からの南風。これを春風と呼ばずなんと呼ぼう。
きもちよくここちよく風に吹かれながら歩く散歩道だった。
お大師堂に置いてあるノートにはお遍路さんのメッセージが。 20日の夜に大橋のたもとまでやっとの思いで辿り着いたらしい。 疲れ果てて野宿の場所を探していてとても不安だったそうだ。 通りすがりの人がいてくれてお大師堂をおしえてくれたらしい。 畳の上でちゃんと眠ることが出来てほんとうに良かったと思う。
会いたかったな。でも会えなかったひとの旅の無事を祈っている。
寒気が少しゆるみ暖かさにほっとひと息。
まだまだ寒の戻りがあるだろうけれど。
あと少しもう少しと春爛漫を待ちわびている。
川仕事の疲れがそろそろたまってきたらしく。 ざわざわと気分が落ち着かない日が多くなった。 あれもしなくてはこれもしなくてはと思っていても。 何から手をつけて良いのかわからず気ばかり急いている。
明日は午後から山里の職場に行く約束をしてしまった。 やらなければいけないことがたくさんあって気が重い。 時間が足らないかもしれないと思うと不安にもなって。
ふぁいと!と自分に気合を入れているのだけれど。 これを書き終えると少しは心に余裕が出来そうに思う。
だから書こう。とりとめもなくつれづれなるままに。
あんず今日はごめん。またお散歩に行けなかったね。 母さん炬燵で寝入ってしまってもう晩御飯の支度する時間で。 日が暮れてからおしっこだけしようねと土手まで走ったんだ。 そうしたらあんずそれがわかっていて自分から家に帰ってくれた。 すぐにUターンするのだもん。母おかしくなって笑ってしまったよ。
ありがとうね。わがままもいわずちゃんとりかいしてくれているの。 母さんほっとしてすごく嬉しかったよ。すごい助かったんだからね。
とつぜん息子くんが帰って来る。 もう夕食後の後片付けをしていた頃で。 炊飯ジャーのなかは空っぽだった。
「めし!」「風呂!」と言うのを。 先にお風呂に入らせておいてから。 急いでコンビニに買物に行って来る。
辛味噌のせチャーハンを温めてもらい。 とにかく野菜を食べさせなくてはと。 ほうれん草のゴマ和えを大急ぎで作った。
ラーメンも食べたいというのでそれも。 大急ぎで作って生卵入れてさあどうぞ。
うはうはずるずるしながら美味いと言う。 母はほっとして向かいの席に腰を下ろす。
仕事がとても忙しかったのだそうだ。 いつもより遅くなり自炊も面倒だったらしい。 そうして何よりもたっぷりのお湯に浸かりたい。 今日はとても寒かったからうんうんと母は頷く。
それもつかの間。食べ終えるとすぐに帰ると言う。
ほんとうに嵐のような子。あらあらという間に。
うちの中がしんと静まりかえる。ちょっとさびしい。
晴れたり曇ったりそうして時雨れたり。 このところのすっきりとしないお天気は。 冬と春が空で闘っているのだと彼が言う。
北風さんが手裏剣をしゅぱしゅぱと放つ。 春風さんは身をかわしながら回し蹴りか。
さあてどちらが勝つのかな。それも楽しみ。
今日は叔母の一周忌で朝から出掛けていた。 もう一年なのか。月日の経つのがほんとうに早い。
けれどもそんな月日のおかげで寂しさも薄れてくれる。 残された従姉妹はちいさな犬を飼いはじめていた。 名を「さくら」と言う。まるで我が子のように可愛がっている。
そんな微笑ましさもあり一周忌の法要も無事に終わった。
嫁がずにいる従姉妹も私達と同じスピードで老いていく事だろう。 思い遣りながら助け合いながらこれからもともに生きていきたい。
高台にあるお墓に行く途中。いちめんの菜の花畑が見えた。
ここは春だ。冬と喧嘩なんかしなくてもいい。しっかりと春だ。
細かな雨が降ったりやんだり。 このところふつかと晴天が続かなくて。 これも春に向かう儀式のようなものかと。 鉛色の空を受け止めるように仰いでいた。
留守中に友人が訪ねて来てくれたらしい。 ポストに入っていたのは彼女が書いた随筆。 それはとても知的で文学的な文章であった。
彼女らしいなと微笑まずにいられないのは。 素直で真っ直ぐなところ。これが私だから。 そう言って押し付けるのでは決してなくて。 照れくさそうにそっと差し出す仕草だった。
読み終えてすぐに彼女と話したいなと思った。 そうしたらそれが通じたように電話のベルが。
「わたし書くよ。今年こそ書くから」弾んだ声。 こころで思ったことをそのままにしておけない。 ちゃんと文章にしてそれを書き残しておきたい。
「だから読んでね。これからも読んでね」
それは私もおなじだった。書かずにはいられない。 些細なこともありふれた日常も平凡な暮らしだって。 それを書き残すことがたとえ無意味な事であっても。
わたしいるよ。ここにいるよ。ちゃんと生きているよ。
わたしたちはそうして老いる。けれどもそうして存在する。
気温も平年並みにもどりまた冬らしい一日となる。 久しぶりの青空だった。冷たい風も心地よく思う。
午前中に川仕事を終え午後から買物に出掛けたのだけれど。 歩道を歩くお遍路さんの姿に見覚えがありはっとする。 笠を被っていて顔がよく見えなかったけれど似ている。 もしそうだとすると必ずお大師堂に泊まるはずだった。
帰宅後すこし早目に散歩に出掛けた。気が急いてならない。 ああやはり靴が脱ぎ揃えてある。確信を持って扉を開いた。
思った通りだった。先月の始めに再会を果たしたばかりで。 これで四度目の再会となる修行僧のお遍路さんがそこに居た。
なんと言葉にすればよいのか。不思議な巡り合わせだと思う。 まさに会える人には会える。縁なくしては叶わないことだった。
小一時間ほど差し向かってありがたい法話を聴かせていただく。 まだまだ修行中だと謙遜されていたけれど心が救われるようだった。
私には辛いことも苦しみもない。そんな今にとても感謝している。 ただ不安はある。それはどうしても拭いきれない澱のようなもの。
けれども無事に終えられた一日に「ありがとうございました」と。 これからもずっと手を合わせ続けていきたいとこころから思った。
午後から雨になる。時折りはげしくて。 春雷と呼ぶには早すぎるだろうけれど。 その音が空を転がるように鳴り響いていた。
手紙を書いた。語りかけるように書いた。 目の前にいてうんうんと頷くような顔が。 ちょっと照れくさくてでもとても嬉しくて。
それがいったい何になるのだろうと思う。 そんな不安を打ち消すように微笑みながら。
手紙を書いた。どうかきみに届きますように。
そうしてきみもたくさん微笑んでくれますように。
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