山里では時折り小雪が舞う寒い一日だった。
今朝出勤すると机の上に紙袋が置いてあり。 中にはなんと暖かそうなレッグウォーマー。
冷え性の私にと母が買って来てくれたらしい。 さっそく履いてみる。その暖かさといったら。 なんだか嬉しくて目頭が熱くなるほどだった。
おかげで寒さも苦にならず仕事に精を出せた。 母の優しさ。ずっとずっと忘れていたように思う。 子供の頃を一気に思い出す。母はいつも優しかった。
もう40年も昔の事。寒い冬の夜に母は家を出て行った。 目が覚めた時もう母はいなくて弟とふたり途方に暮れ。 近くに住む親戚の家まで霜の降りた道を歩いて行った。 単身赴任をしていた父が駆けつけて来たのは夜だったか。 その日学校へ行ったのかさえ記憶にない。ただ母が消えた。 子供心にどんなにか不安でどんなにか傷ついたことだろう。
その日は私の誕生日でもあった。毎年まいとしその日を思い出す。 それは大人になっても変わらず。忘れてはあげられない事だった。
けれどもその大きな試練のおかげで今の私があるのだと思う。 母に再会することがなければ今の暮らしさえもなかったのだから。
いや、もっと大切なことは。母がいなければ私は命さえもなかった。 生んでくれたのだ。それが何よりもありがたいことではないだろうか。
ながいながい確執。ながいながい葛藤。もうすっかりと消えたのか。 今はまだその答えを出せない。けれども心から母に感謝する事は出来る。
やっとほんとうのおとなになれたのかもしれない。
やっとほんとうの母と娘になれたのかもしれない。
| 2010年01月04日(月) |
ゆっくりのんびりと歩いていこう |
霜が粉雪のように降りてとても寒い朝だった。
さあ仕事始め。行かなくちゃと思うと気が沈み込み。 それでいて山里が恋しいような複雑な気分で出掛ける。
暮にサチコが買ってくれた新しい靴を履いて行く。 初詣で買った干支のお守りを母にあげようと持って行く。
母は寅年だった。思いのほか喜んでくれてとてもほっとする。 おかげで笑顔のまま仕事を始められて。穏やかな一日となる。
苛立ったりぶつかりあったりしたくない。ずっと仲良しでいたい。 それは自分次第なのだとつくづく思った。心してそれを誓いたい。
ありがとう!お疲れさま。その言葉が身に沁みる一日となった。
帰宅して駆け足で散歩に出掛ける。ゆっくりのんびりとはいかなくて。 どことなく心の余裕も欠けてくる。暮れなずむ川面を眺めてみたりとか。 枯れ草のあいだに小さな緑があることさえも見失ってしまいそうになる。
立ち止まるのはあんず。いつだってそれを教えてくれるのは彼女だった。
これからどんどん寒さも厳しくなって散歩が億劫になるのかもしれない。 彼女がいてくれなかったら私は散歩のさの字も忘れてしまうことだろう。
春はまだ遠い。けれどもやがてはちいさな春がそっと訪れてくれて。
見つけてくれるのを待っている。だからゆっくりのんびりと歩いていこう。
| 2010年01月02日(土) |
穏やかな時をありがたく |
明けてふつか。大晦日からの寒波も峠を越し穏やかな晴天となる。
新しい年が始まったけれど。それほどの感慨もなく。 決まりごとのような元旦を過ぎると静かな時が愛しく思う。
どんな年になるのだろう。不安がればきりがなくって。 何事もなるようになるのだからとただ佇んでいるだけだった。
今日は例年通り隣町の延光寺さんへ初詣に行ってくる。 去年と同じく彼が留守番でいてくれたおかげで。 ひとりゆっくりとお参りをすることが出来た。
ただ少し気掛かりなことを抱えていたせいだろうか。 一心に祈ることが出来ず悔いが残った。邪念のようなもの。 それが年頭の戒めになったように思い深く反省している。
ひとつの事にこだわらないこと。その大切さを今日は学んだ。
そのことに気づくと心が洗われたように清々しくなった。 さらりさらりと流してしまえるここころを頂いたようだ。
ふっきってふっきってゆく。今年こそそんな自分でありたい。
今夜はとても穏やかな時を過ごしている。 大晦日。元旦と我が家はとても賑やかだった。 こども達が帰って来て。そうして去って行く。 楽しい時間の後にはかならず寂しさが訪れるけれど。 それもつかの間。静けさをたのしむ余裕が出来たようだ。
こんな日々が続く。それがあたりまえのように続くことだろう。
そうして夜に埋もれていく。ほろ酔ってほろ酔って母は眠るだけだ。
夕方から風が強くなる。かたこととうたう窓硝子を。 なだめるようにそっとあけて暮れたばかりの夜空を仰ぐ。
星がひとつ。たったひとつきりだけれどきらきらと輝いている。 一番星を見つけてはしゃいでいた子供の頃から幾度目の冬だろう。
過ぎ去った日々を懐かしく思い浮かべながらまた年を重ねようとしている。
木の実はもう枯れてしまったのかもしれない。 落ち葉に埋もれて静かに眠り始めた頃だろう。
やがて巡り来る春のことを愛しい人に重ねる。 あいたかった。けれどもあわなかったひとは。 いまごろどんなふうに風を感じているのだろうか。
かぼそい糸を手繰り寄せながらその縁を織っていく。 それはこの世にひとつきりしかないいちまいの布だ。
胸にあててごらん。こんなにもあたたかないちまいを。 抱きしめることだってできる。ぎゅっとぎゅっとあつく。
わたしの日々とあなたの日々がそうして重なっていった。
わたしは織る手を休めはしない。それが生きることだもの。
追記:今年最後の詩記となりました。 つまづきながらも書き続ける事が出来たのは。 読んでくださったみなさんのおかげだと思います。 このいちねんほんとうにありがとうございました。
| 2009年12月28日(月) |
ぽつねんと佇みながら |
早いもので今年も残すところあと三日となった。 少しずつ新年を迎える準備をしてはいるのだけれど。 なんだか心は留まったままぽつねんと佇んでいるふう。
うまく言葉に出来ないけれど。くるものは来るという漠然とした思い。 このあやふやさも大晦日になればきちんとおさまるのかもしれない。
仕事は少し忙しい。それも明日で仕事納めとなりそうだ。 資金繰りが苦しく厳しい年末になってしまったけれど。 それなりに年を越せるだろう。なるようになるのだろうと思う。
このいちねんの葛藤も一緒に納めよう。同僚や母をいたわり。 「よいお年をね」と笑顔で手を振って帰って来たいものだ。
親孝行が出来たのだろうかと自分に問う。正直言ってよくわからない。 わからないからもどかしい。ただ精一杯だった。それしか言えない。
明日はお駄賃も何もいらない。ただ母が笑顔で「ありがとう」って。 言ってくれたら。ほろほろと涙が出るほど嬉しいことだろうと思う。
もしそれがなくっても母に「ありがとう」と言える自分でありたいものだ。
曇り日。少し肌寒かったけれど穏やかに時が流れた。
クリスマスイブ。小さなケーキを二個買って帰る。 それからローストチキン。どちらも私の大好物だ。
子供たちが幼かった頃を思い出す。ふたりのはしゃぎ声。 同時に自分が子供だった頃を思い出す。弟のあどけなさや。 朝目を覚ますと枕元にプレゼントが。サンタさんは必ず来てくれたっけ。
この先どんなに老いても。いつまでも忘れることはないだろうと思う。
夕方いつもの散歩。今日もひとりのお遍路さんと出会った。 お大師堂に人の気配がすると。踵を返す日とそうでない日がある。 何かの直感だろうか。自分でもよくわからなくて不思議でならない。
今日のお遍路さんはもう8年間も旅を続けているひとだった。 無縁仏の供養をしているそうで。どんな小さな祠にも必ず手を合わす。 年末が近くなるとお餅を祀るのだそうだ。お大師堂にもそれがあった。 とても重そうな荷物。今夜は泊まらずに次の札所を目指すのだと言う。 気遣う私に「どこででも眠りますから」と笑顔で応えてくれたのだった。
そうしてあんずを見るなり「この犬の前世は人間ですよ」と言う。 それがあまりにも確信に満ちていて。私も信じずにはいられなかった。
なんだかキツネにつままれたような気持ち。ふわふわとした足取りで帰る。 また縁に恵まれたのだろう。出会うべき人に巡り会ったのかもしれない。
あんずのことが無性に愛しく。また不憫でならなかった。 人間の5分の1ほどの寿命を鎖に繋がれたまま一生を送る。 もちろん言葉もしゃべれない。伝えたい事だってあるだろうに。
なんの因果で犬に生まれ変わったのだろうとつくづくと思った。
そうして祈った。こんどはどうか彼女を人間にしてあげてくださいと。
日中は暖かくなり久しぶりの小春日和となる。 寒いのはやはり苦手だった。日向ぼっこが似合う日。
ちらりっと畑に行き大根を収穫してくる。 植えっぱなしで世話をしないせいかまだまだ小さい。 里芋と煮てみようと思い葉っぱつきで持って帰った。
大掃除の真似事。お風呂場の天井などを掃除する。 しようと思えばいくらでも出来るのだろうけれど。 せっぱつまらないとどうにもやる気が起きないものだ。 もうや〜めたと。あとは茶の間でごろごろと過ごした。
また眠ってしまっていたらしい。夢ばかりみていた。 どこかに急いでいるような現実にも似た慌しさだった。 そんなに急いでどこにいく。もっとのんびりでいよう。
寝起きの気だるさを引きずったままいつもの散歩に行く。 お大師堂には西日が射しほこほこの陽だまりにほっとする。 手を合わせながら。このいちねんの縁をひとりひとりの顔を。 思い浮かべていると。なんとも不思議でありがたい気持ちになる。
年頭に出会ったTさん。そうしてKさん。みんなお遍路さんだった。 Tさんとはすっかりお友達になりメールのやりとりをしている。 Kさんは訳あって今は北海道に住んでいる。どんなにか寒いことか。
この一年ほんとうにたくさんの縁をさずかった。感きわまる思いだ。
散歩から帰るなり息子君が「めし食わせて」とやって来る。 とにかく白いご飯が食べたいらしい。おかずは何でもいい。 里芋と大根を煮て。白菜のお漬物。決してご馳走ではないけれど。 うまい、うまいと言いつつ。大きな茶碗でご飯をおかわりしていた。
このひと月ずっと二人きりの夕食が続いていたので母も嬉しかった。 大晦日にはアンコウの鍋をしようぜと。また風のように彼は去って行く。
流し台で食器を洗いながら。このほこほことしたきもちがありがたくて。 なんだか涙が出そうになった。あたたかいとほっこりと目頭が熱くなるものだ。
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