| 2009年08月17日(月) |
明日がありますように |
もう秋のような朝。ずいぶんと涼しさを感じた。 晴れた空にはうろこ雲。爽やかな風に吹かれる。
久しぶりの仕事だった。まるで学校に行きたくない子供のように。 胃がしくしくと痛み出す。たくさん休ませてもらったではないか。 叱咤したり宥めたり。我ながらどうしようもなく手がやけるのだ。
大好きな山里をおもう。稲刈りの後の懐かしいような藁の匂いや。 毎朝見上げていた欅の木。ひたすら前へと歩き続けるお遍路さん。
行っていればやはりそこは船の上。緑の海に浮かぶ難破船のよう。 ゆうらゆうらと漂っているといきなり大きな波がそれを揺さぶる。
見たくない渦がある。けれどもあと少しもう少しと時をついやす。 きっと些細な事なのだろう。さらりと水に流せることなのだろう。
お昼休み。携帯電話を横目で見ながらしばし迷ったことがあった。 昨夜夢に出てきた人のことがとても気掛かりに思う。中学の先輩。 ふたりクルマに乗っていて大洪水にあった。とても怖い夢だった。 その人は私を残し助けを呼びに行ったきり帰って来なかったのだ。
最後に会ったのはもう10年以上も前。変わりなく元気でいるのか。 なんだかとても不吉な夢のように思って胸が締め付けられるようだ。
けれども電話をしなかった。してはいけないような気も少しはあり。 もし何かあったのだとしても。それは仕方なくどうしようもない事。
私たちの年代というものは。突然にそれが来ても不思議ではなかった。 若き日を糧のようにしながら進むべき道をただただ老いていくばかり。
その人が男でなければ迷わず電話をした事だろう。それが現実だった。
ふっきってふっきって今日も夕暮れ。赤とんぼが飛び交う土手の道を。 沈みかけた夕陽を追い掛けるようにあんずと歩く。あれこれと思った。 そんな一日も暮れる時にはこんなにも平穏にある。ありがたいことだ。
あなたも同じ夕陽を仰いでいますように。ふたりに明日がありますように。
曇り日。昨日の暑さが嘘のように涼しくなる。
土手にはススキの穂がまだ若々しく風に揺れている。 今にも雨になりそうで早目にお散歩を済ませて来た。
空模様を気にしながら送り火を焚く。もう行ってしまうのか。 なんとあっけなくつかの間のことだろう。お見送りは寂しい。
夕食は独りぼっちだった。彼は従兄弟達と飲むのだと言い出掛ける。 サチコは隣町の納涼祭に行く。今夜は海辺で花火を楽しむ事だろう。 息子君はお盆休みというものがなく。結局帰って来れないままだった。
独りの夕食は寂しくもあるけれど。楽ちんでもありコンビニのお弁当。 一番風呂に入り心地よくビールを飲みながら独り言を言いつつ食べた。
長い夜になりそう。こうしてとりとめもなくつまらないことをまた綴る。
窓の外はすっかり暗くなり。どこからともなく秋の虫の鳴く声が聴こえる。
もう残暑と言うべきなのだろう。その厳しさがいちだんと増す。 けれどもじりじりと焦げるような暑さが心地よく思えるのだった。
夕方になり西陽が射す柿の木のあたりで。ツクツクボウシが鳴いた。 今年初めて聴くその声は。いく夏を惜しむようにせつなくてならない。
やはりどうしても急いでいる。さからうことの出来ないもどかしさと。 受け止めながら流されていくこころが背中を押されるように前へ進む。
秋になる。冬になる。また春がくる。そうして老いていくことだろう。
夕陽に染まる川辺の道を今日も行く。赤とんぼがたくさん飛んでいた。 夕風を心地よく浴びながら歩いていると。身も心も清々しく息をする。 真っ只中にいるということ。ぽつねんと生きていることを改めて思う。
百日紅の花がこんなところにとはっとする。桜と銀杏の木の間にあり。 川面を見下ろすように咲いているのだった。なんと愛らしい紅だろう。 お大師堂の浜木綿はいつしか重たげな実になりうなだれているというのに。
あんず。今日もおとなしく忠犬ハチ公の真似がずいぶんと上手くなった。 ちゃんとお座りをして待っていてくれるのが嬉しい。とてもほっとする。
携帯のカメラで写真を撮ろうとしたら不思議そうに首をかしげていた。
気持ちよく晴れて夏らしい陽射しがあふれるように降り注ぐ。 夏色の風が吹きぬける路地。蝉時雨。力強さを感じる入道雲。
昨夜の憂鬱はいったい何だったのだろうと思った。 確かにいつもとは違う一日の始まりだったけれど。 自分の身勝手さを思う。なんと不謹慎な事だろう。
お葬式を無事終え帰宅する。ほっと肩の荷を下ろす。 老いて逝ったひとを思う。避けられない儀式だった。
夕方になり迎え火を焚く。「おかえりなさい」と手を合わす。 父も弟の家に帰って来てくれただろうか。遠く離れていても。 ちょっとだけ旅をしてくれる気がする。仏壇に日本酒を祀る。
先に逝ってしまったたくさんのひとを思う。お盆というものは。 その魂がより身近に感じて懐かしさが込み上げてくるものだった。
心地よい夕風に吹かれながらいつもの道を今日も歩く。川の水が。 あの濁流がずいぶんと清くなった。落ちる夕陽を映し一際眩しい。
流されて流れて。歳月が一日がまるでひとつのようにそこに漂う。
うす雲におおわれながらも夏らしいいちにちになった。 こんな日を待ちわびていたかのように蝉がしきりに鳴く。
山里の職場はまだお盆休みではなかったけれど。私だけ。 一日早くそれをいただく。なんだかぷつんと切れたような。 気力というものがすっかりなくなってしまった感じになる。
ある意味ずるい。けれどもそのずるさが心地よくも思える。
ご近所で不幸があった。明日はお葬式のお手伝いに行く予定。 あたふたと落ち着かない気持ちが治まらないまま夜になった。 どこか肝心なところのネジが突然外れてしまったようでもある。 ご近所づきあいは大切な事。分っているけれど受け止められない。
朝になればしゃんと出来るだろうか。とにかく眠ってみなければ。
夕方の土手はとても涼しかった。夏草が揺れて水の匂う道を歩く。 深呼吸をいっぱいする。背筋を伸ばしてすくっと前を向いて行く。
ふっともう立秋を過ぎていることを思い出す。こんなふうに風が。 日に日にそれをおしえてくれるのかもしれない。急いでいるような。
それでもいかないわけにはいかない。もっともっとゆっくりといきたい。
一昨日の夜から降り始めていた大粒の雨がやっとやむ。 川の水が増水し濁流がうなるように轟きながら流れている。 そこに夕陽が射すのを見た。なんだかとても神秘的な光りだった。
月曜日。急遽仕事に行くのをとりやめる。 高潮のため彼は消防団の見回りに出かけ。 私は川船の管理を任されてしまったのだ。 とはいえ女手ではどうしようも出来ない。 ただ待機しているだけの留守番になった。
雨が小降りになりほっとする。彼も帰って来る。 午後はテレビで『よさこい祭り』の中継を見た。
弟から電話。昨日送ったお盆の御供え物などが。 もう着いたらしい。父の事を任せきりにしている。 今年も行けそうにない事を詫びながら電話を切る。
弟は母に似ているのかいつものほほんとしている。 あっけらかんとした言葉に救われるおもいだった。
夕方。5日ぶりの散歩。雨あがりの土手を歩いた。 濁流のうなる音が怖いのかあんずは尻込みをする。 土手の石段を下りられず仕方なく上に繋いでおく。
お大師堂の日捲りは8月6日のまま。あの朝の事。 見送ったお遍路さんのことを思い出す。酷い雨に。 その後の苦労を思うと心が痛むような気持ちになる。
お大師ノートに言葉を残してくれていたのを読んだ。 「会いたい人に会えました」とそこにはそんな一言。 きっと何度目かのお遍路なのだろう。出会った人に。 再び会うことが叶ったのだと思う。ほっとする思い。
一気に心が清々しくなった。夕陽がとてもまぶしい。
濁りながらうなりながら渦巻く流れに光りが射していた。
| 2009年08月08日(土) |
お盆には帰って来てね |
昨日が立秋だったらしく暦の上ではもう秋だと言うのだろうか。 なんだかとても信じたくない。不完全燃焼のような夏の中にいる。
お盆も近くなり帰省ラッシュの様子をテレビで観る。 今年こそは父の生まれ故郷に行きたいと思っていたけれど。 いまだ彼に相談できないまま。諦めの気持ちが募ってきた。
もう30年以上になる。祖父母や叔父のお墓参りにさえ行く事が出来ない。 そのうえ父の七回忌も近いというのに未だにお墓を作ってあげられない。
とても情けないけれど。思うようにいかないことがあり過ぎるのだった。
我が家では今日お墓参りに行った。彼の父親が眠っているお墓。 お寺の裏山にありふうふういいながら彼とふたり上って行った。 春のお彼岸からそのまま。ずいぶんと荒れているように思った。 竹箒で枯葉をかき集めてから草むしり。やぶ蚊がたくさんいる。 汗だくになり掃除を済ますと。彼の次に私がとお参りを済ます。
ちょうど雨が降り始め駆け足で山を下りた。大切な事を忘れる。 「お盆には帰って来てね」とそう伝えるのを忘れてしまったのだ。 でもだいじょうぶ。彼はちゃんと忘れずに手を合わしたということ。
嫁ぐということ。その家の家族になるということ。ご先祖様を敬い。 しっかりと努めなければいけないことがある。実家のない私にとって。 終の棲家があるということはとてもありがたいことだとつくづく思う。
不憫でならない実の父のことであっても二の次にしなければならず。 かといって心の中ではいつもいちばんだとどうしても思ってしまう。
「お父ちゃんお盆には帰って来てね。私のところにも会いに来てね」
降り始めた雨はやまず。今日のお散歩も仕方なく諦めてしまった。 雨の時のあんずは犬小屋に潜り込んで気だるそうな眼をしている。
傘をさしてひとりとぼとぼとお大師堂に行きたくなってしまった。 けれども結局そうしない。そんな矛盾を打ち消すように空を仰いだ。
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