柔らかな陽射しが穏やかに降り注ぐ小春日和。
こころのどこか見えないところにどうしようもなく。 重いことがあったのだろうか。忘れたふりをしては。 確かめていたのかもしれない。霧かもしれないこと。 泡かもしれないこと。吹き溜まった風かもしれない。
こと。いまは微かに影法師。光をみつけたかげぼうし。
「ありがたいことやねお父ちゃん」父の遺影に手を合わす。
月明かりに助けられて夜道を独りぼっちで歩いた。 あんずはお散歩より晩御飯の方が良いのだと言って。 いやいやをする。尻込みをして梃子でも動かなくて。 犬小屋の前でふたりすったもんだをして愉快だった。
だいじょうぶ。母さんは独りで行ける。満月の夜だもの。
土手の石段をあがり堤防の道から夜空を仰ぐ。星がみっつ。 そうしてひとつきりの月のなんと綺麗で輝かしい事だろう。 しばし放心状態になり。夜気を心じゅうに感じ深く息をする。
お大師堂の灯りを目指して歩きながら。ずっと月を見ていた。 わたしが歩くと月も動く。同じ方向へちゃんと一緒にうごく。 ウサギさんもいる。今夜は美味しいお餅が搗きあがるだろうな。
子供のような心になって。おとなの今を一歩いっぽ足取り軽く歩く。 重かったこと。そうしてとことん自分を責め続けていた秋の日々が。
初冬の満月に照らされてもう救われていることを感じた。ありがとう。
もう思い残すことがないくらいの影法師が。まだ生きたがっていることを。
どうかゆるしてくださいね。わたしが星ではなくて月になれるその夜まで。
| 2008年11月12日(水) |
忘れないでいてくれるだろうか |
朝の窓辺から青空を仰ぐ。それはもう秋晴れとはすこしちがい。 存在感のある雲がぽこんぽこんと。そのかたちを確かめながら。
流れることもせず立ち尽くしているように見えた。そこで生まれて。 綿の花を咲かせた枝のない木のように。空にあることが誇りのように。
在りたいとわたしも思う。千切れることなど不安がらずに在りたいと。
家を出て大橋を渡り河口沿いの国道を南に向かう。川面の眩しさが。 たまらなく好きでならない。その光の粒子の一粒を胸に抱きしめて。 我が子のように育ててみたくなる。そうしてまた空に放ってあげたい。
忘れないでいてくれるだろうか。いつかふたたび水辺であえるだろうか。
山道に差し掛かると。ぐんぐんとそれが迫ってきては緑の木々のあいだに。 ぽつんと紅く色づいた木を見つける。山に抱かれた女のように美しい木だ。 やがて散る。はらはらと風に舞い落ちて朽ちるだろうその葉が愛しかった。
山里はゆっくりと冬枯れに近づいているけれど。空気はより澄みわたって。 息を深くするたびに心のなかで種が育ち始める。霜を待とう雪を待とうと。 その種は冬を越すのを楽しみに生きているようだ。陽射しの中で水をあげ。 まいにち声をかけてあげようと思う。めげないで負けないで春に咲こうね。
忘れないでいてくれるだろうか。ここにわたしがこうして存在していることを。
| 2008年11月11日(火) |
おやすみなさい。きょう。 |
ひんやりと曇り空。その灰色を透かすように時折りの陽。 足りないくらいがちょうど良いのかもしれない。だって。
たくさん降り注ぐと。ついついそれが当たり前に思えて。 ささやかな恵みに気づかず。ありがとうって空に言えない。
朝。いつもよりずいぶんと遅く家を出る。このところ少し。 時間の感覚が薄れてしまったようで。時計を見なくなって。 それはほんとうに無意識のつもりなのだけれど。ゆるゆる。 なにも急くことがなくなったような不思議な気持ちだった。
怠け癖がついてしまったのかな。いけないことなのかなと。 思えばきりがなくて。きりのないことは思わないことにする。
ずっといつまでもとはいかないのだろう。けれども今は許そう。 動きたくなったら動くのだ。走りたくなったら走ろうとおもう。
ゆるゆるが穏やかさに繋がればいうことはない。まあるくひろく。 あたえられた時の世界を。かたつむりみたいにのんびり進みたい。
夕方。もう陽が暮れかけていたけれどいつものお散歩に出掛けた。 あんずは例の『きゃんきゃん怖い症候群』からやっと立ちなおり。 昨日からまた一緒に歩いてくれるようになった。雨のおかげかも。 きゃんきゃんの匂いが路地から消えたのかもしれない。よかった。
やはりひとりよりふたりがいい。ふたりだけの秘密の話しをしよう。
夜はすぐに眠くなる。例のごとくで酒量が多過ぎるせいもあるけれど。 そのおかげなのか幸福な眠りを堪能し。ドラマティックな夢を観賞する。
一昨日の夢の男女には会えずじまいだけれど。昨夜も嬉しい夢を見られた。 それはもう救われたとしか言いようのない。とてもありがたい夢であった。
ぷつんと途切れてもいい。もうじゅうぶんだと思う。会えて本当によかった。
いまは何も望むことがない。ただ目覚めたら明日ならいいなあって思っている。
ありがとう。きょう。おやすみなさい。きょう。
| 2008年11月10日(月) |
夢に続きがありますように |
昨夜夢の中で出会った男女のことが忘れられず。 なんとかしてもう一度会うことが叶うまいかと。
夢の続きに想いを馳せている。とても楽しかった。 見ず知らずのふたりだったけれど。気さくな男性。 髪の毛は癖毛らしくもしゃもしゃとした長髪だった。 バンダナがよく似合っていて。目は細く少したれ目。 作務衣を着ていて足元は地下足袋を履いていたのだ。
女性は色白でふっくらとした顔だち。髪はふわりと。 少しお化粧が濃い目に見えたのは口紅の色のせいか。 とにかく良く笑うひとだったので。口元が印象的だった。
そんなふたりが木で船を造っていた。正確に言うと。 もう殆ど出来上がっている船に色を塗っていたのだ。 男性がそれを主にしていて。女性は船の舳先に座り。 もう祝杯なのか片手に生ビールのジョッキを提げて。
「色塗りは俺がするって決めてたんですよ」と彼が言う。 「そうよ。もう私の役目は終わったの」と彼女は笑って。
ぐいっぐいっと愉快そうに美味しそうにビールを飲んだ。
「も、もしかして○○さん達ではないですか?」私は訊ねる。
なんとなくそんな気がしたのだ。でも人違いかもしれない。
「この船で行くのよ。あなたも一緒に行かない?」彼女が問う。
行きたいなってすごく思った。どんな色の船になるのかも気になる。 けれども私がそう応えようとした瞬間に。ぷつんと夢が途絶えてしまう。
今夜会えたらそう懇願しよう。もしまだ船が完成してなかったら。 彼女と一緒に。面白可笑しくバカ話しをしながらビールを飲みたい。
「ねえ・・まだぁ?早くしてよ〜」とか彼にちょっかい出しながら。
昨日よりも静かにひっそりと雨が降り続く。 その霧のような雨を。窓辺で感じていると。 雀達の声が呼ぶように聴こえてきてそっと。
15センチほど窓を開けてその姿を見つける。 瓦屋根は艶やかに潤いまるで光る舞台のよう。 ちょちょんとなちゅちゅんがさ。歌えばほら。
こんなに朗らかになれるよ。心地よいリズム。 そうしてそれをからだにそのままつたえたら。 とても自然に踊ることが出来るのさ。ほうら。
肩のちから抜いて。足踏んばらなくていいよ。 すべって尻もちついてもいいからやっちゃえ。 雀らしくなくてもいい。そして人間でなくても。
そうそう。そんなかたちなんかどうだっていい。
いいからやっちゃえ。おもいきってやっちゃえ。
| 2008年11月08日(土) |
わたしは卵を産んだのだろうか |
絶え間なく雨が降り続きいちにちが暮れていった。 それはリズミカルであり。空の鼻歌のようであり。
同時にそれは子守唄のようでもあり。私は眠った。 うごくこともせずあるくこともせずにすやすやと。
そうしてもしかしたら産めるのかもしれない卵と。 その瞬間の息遣いのことなどを夢うつつに考えて。
ぼんやりとイメージしてみる。大丈夫痛くはないと。 やればできるだとかなんだかんたんじゃないかとか。
たくさん産んでゆで卵を作ろう。おでんが食べたい。 はんぺんみたいなふんわり枕もあれば嬉しいなとか。
とかなんとかが多すぎて。少しぐるぐる目がまわる。 けれども息をふっとすると。鍋にそれが浮かびだす。
空は歌いやまない。そろそろ疲れてしまっただろうに。
雨は枯野を想い。はるかかなたにつながる海を想って。 その歌を口ずさみながら。やすらぎの川へ身を投げる。
わたしは卵を産んだのだろうか。それはつるりと剥けて。
その殻の存在をもう忘れてしまった。おでん色の卵だった。
| 2008年11月06日(木) |
おふくろさんよ。おふくろさん。 |
お天気は午後から下り坂。ぽつぽつの雨がやがて本降りになってしまう。 帰り道の県道で。朝は出会えなかったお遍路さんに会うことが出来た。 雨が降れば雨の支度。そうしてひたすら歩く姿にはいつも胸が熱くなる。
今日こそはと思っていたけれど。雨のせいにしてお散歩は行かなかった。 あんずは雨が好きではないらしく。犬小屋にうずくまり顔も見せてくれず。 あのね母さん。私が行きたい時だけ行けば良いのだよ。わかった?って感じだ。
わがままなのか気儘なのか。そんなふうに生きるのも良いなあとふと思う。
家に入ると。お休みだったサチコが『おふくろさん』を歌いながら階段を。 しゃがれた声を無理やり出しながら下りて来て。久しぶりの漫才モードになる。
「空をみあげりゃ〜」のところから。母は即興で日本舞踊的ダンスを披露して。 ふたりで大笑いになる。一日の疲れがどっと薄れていくありがたき瞬間であった。
おまけに。平日だというのに息子君が晩御飯を食べに来るというメールもあり。 サチコとふたりでお炊事をする。もちろんいつも通りの質素なものだけれど。 秋刀魚だとか。カブの浅漬けだとか。昨夜の残りの大根の煮付けだとかを。 彼は。食べ溜めとかないとなって言いながら。喜んで平らげてくれるのだった。
そうしてまた風のように帰って行く。その寸前に少しだけ仕事の話しをしてくれて。 少しずつだけれど。今の仕事に慣れ始めているのを感じて胸を撫で下ろした母だった。
いまを乗り越えればきっと大丈夫と。いつだって願わずにはいられない。
巣立った子供が旅をしている。その道のりを光で照らしてはあげられないけれど。
そっと見守ることはできる。願いながら祈りながら待っていられる母でありたい。
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