雨のにおいがする。夕方すこしだけぽろぽろとこぼれた。 今年は梅雨っていうのがないのかもしれないと思っていたけれど。 やはりそれはちゃんとあったほうがいい。いつもと違うのは不安だもの。
今日は萩の花が咲いているのを見つけた。たぶん山萩というのだろう。 緑ばかりが濃い山肌から。紫でもなく紅でもなくその中間の萩色が見えた。
それはずっと秋の色だと信じていたから。ふとそれがあやまちのように思った。 だけど確かに咲いていた。きっと夏に咲き始め秋までずっと山を彩ることだろう。
昨日。微笑みの練習をした。上手く出来るかどうか自信はまるでなかったけれど。 やらなくちゃってかなり思いつめていたから。とにかくそうしようと決めたのだ。
本格的に仕事に復帰してみると。どうしても拒絶反応みたいなのが生じてくる。 だから私はすごく不機嫌だったらしい。自覚はないけれど影響を敏感に感じる。
微笑まないひとには。誰も微笑もうとしないのだ。 苛立ってばかりのひとには。もっとするどい矢のようなモノが当たる。 痛い痛いと嘆いていると。こんどは身体にまで打撃がおそってくる。 私の場合は胃痛だった。それは家に帰るとすぐに治まる不思議な胃痛だった。
だから彼が。ちょっと同情もしてくれる彼が。昨日は魔の月曜日やねって。 なだめてもくれたのだけど。その魔の姿もカタチも私にはよくわからなかった。
とにかく魔がそこにいる。もしくは在るのだけれど。逃げるのは卑怯だと思う。 私は魔法使いではない。すこしは小悪魔だけれども。決して魔女ではない。
だからそこが。ほんとうは怖くてならない場所なのだ。
微笑みの練習は。ちょっとぎこちない。目元も口元も傷口が乾き始めたような。 無理をしなければもう少しでその傷口も治るのだろうに。だけどもしかしたら。
もともと傷などなかったのかもしれないでしょ。
もっとよく見て。これはとてもたいせつなことよ。
わたしのまわりには。傷ついたひとたちがいた。
みんな。みんな悲しそうな顔ばかりしていた。
それは私が毎日。がむしゃらに矢を射っていたからだ。
今日は。微笑みの本番だった。もう練習する必要などこれっぽっちもない。
明日も。これからだって。私は心から微笑むことがきっとできる。
さわやかに。このうえないほどすっきりとよく晴れる。
昨夜とてつもなく不気味な夢を見て。うなされていたようだった。 声にならない声。私の呻き声のほうが、その夢よりも恐ろしくあるらしい。
朝になれば笑い話になっている。けれど。どんな夢だったか話したくてならない。
彼が薄暗い所にいて。鎌よりも大きなそれはとても丈夫そうな刃物を研いでいた。 話し掛けても何も応えてはくれない。とにかくみるみる間にその刃が鋭く光った。
殺されるって思ったんだ。どうしてだかわからないけれど私が死ななければいけない。 その理由がそこに満ちていた。タスケテって言えない。逃げる事もデキナイ夢。
彼はとても可笑しそうに笑った。朝ご飯のお味噌汁をすすりながら沢庵をかじり。 私もすこしだけ笑った。だけどちょっと緊張していたのでトマトを床に落としたり。
そうして。あまりにも青い空で雲ひとつない空だったから嬉しくなって。 今日こそは何処かに出掛けようと彼に言ったら。待っていたようにウンと言う。
あてもなく西に行く。いつだってそう。彼はあまり目標を定めないひとだから。 そのほうが楽しいのだと言う。どこかに着くだろう。そこに行けばいいのだと言う。
愛媛県に入ると。すぐに真っ青に光り輝く朝の海が見えた。思わず歓声をあげる。 シャシン写真と私は騒ぐ。ほれほれここがいいぞとクルマを停めてくれるのだった。
合歓の木の花が咲いていた。海風にゆれている。まるで孔雀の赤ちゃんのようだ。 はあはあ感動しながらその絵を写す。だけど気になる。背中に視線を感じるのが。 駄目なのだ。私はなんて身勝手なのだろう。彼のおかげでそこに立っているのに。
また走り出す。そしてとうとう大洲市まで行ってしまった。 以前にも一度来た事があった。あの時は山の公園にツツジがいっぱい咲いていたっけ。
今日は市街地へ行ってみた。確か昭和の時代の懐かしい横丁があるのを思い出したから。
そこで彼はとても喜んだ。メンコやらプラモデルやら鉄腕アトムの人形や。 ビールなんかタライに氷を入れて冷してある。飲みたいなあって彼は言った。
私は彼の写真を撮った。なんだかとても眩しくて。目を細めながら彼を撮った。
彼はちいさな子供のように目を輝かして。ここに来れてほんとうに嬉しそうだった。
私はお母さんみたいに。彼の後ろ姿を。ずっとずっと追いかけて行った。
| 2007年06月05日(火) |
すっぽんぽんはまんまるい |
すっかりあたりが暮れてしまったころ。飛行機が上空を横切っているらしい。 エンジン音がなんだかうなっている。きもちよく飛んでいるはずなのになあ。 はらはらしながら聴いている。そうしてそれがだんだん遠くなる。南のほうだ。
そしてこんどはすぐ真下の方から。例のかいじゅうの声がする。 日曜日に。お母さんがお迎えに来てくれなかったらしい。忙しいのかな。
きゃっきゃっっとはしゃいでいる声がする。なんだか枕投げをしているみたい。 ふしぎなことに。この前かいじゅうのことをあれこれ書きなぐったりしてから。 あまりその声が気にならなくなった。なんだか自然だ。そよそよっと吹く風のよう。
むしろ聴こえなくなったら淋しいかなって思う。かいじゅうって呼んだりして。 ほんとにごめんね。なんてなまえなのかな?こんどちゃんとおしえてもらおう。
たぶんいまはとても穏やかだ。まんまるい。ずっとこんなふうでありたいと思う。 もしかしたら自分を撫でる事を忘れていたのかもしれない。疎かにしてはいけない。
じぶんで自分をちゃんと見てないと。じぶんはきっととんでもなくいけなくなるだろう。 ありのままがもちろん最適ではあるけれど。そのありのままを抱きしめてあげないと。
抱かれないありのままは。なんというか・・それはとてもいびつでイジケテいるから。
綺麗な衣に身を包みたい気持ちもすごくよくわかる。似合うかどうか気になるのだって。
だけど。時にはすっぽんぽんもいい。そのほうがずっと抱きしめてあげたくなるから。
| 2007年06月04日(月) |
無題としかいいようがない |
コスモスが咲いていた。どうして?なんで?とびっくりするくらい咲いていた。 あっちにもこっちにも。紫陽花とコスモスが並んで咲いているすがたなんて。 ながいこと生きているけど。はんまに初めて見た。だからちょっと感動している。
それなの今日は。かなりグチグチしたけん。いかんかった。反省や・・。
わたしは誰かに頼られたらすごい張り切ってしまうのである。 なんとかしてやろうと思う。少しでも役に立ちたいと思うのである。
もしや自分だけを頼ってくれたのかもってすぐに信じてしまうけん。 そしたらそれがそうじゃなくて。あのひとにもこのひとにもの現実とか。 そういうのがなんかけっこうショックだったりする。ふにゃふにゃって萎れる。
けど。まっいいかって思う。みんなの力を合わせたほうがきっと解決するから。 わたしひとりの考えとか。わたしひとりのチカラなんてたかが知れているもん。
けど。今日はたぶん虫の居所が悪かったのかもしれん。 「わたしはおりるけん」と言ってしまった。「もう関わりたくないけん」って。
だって。もうちゃんと道が見つかっているんだよ。なのにどうして人に尋ねる? どうして歩こうとしないんだ!甘えるにもほどがある。めそめそするんじゃない!
それはこころでいっぱい思った。面と向かっては言ってはいけないと考えながら。
だからほんとうはすごく後味が悪い。誰かを突き放すということは辛いことでもある。
でもそうしないと歩き出せないひとだっているんだ・・・。
晩御飯の時に。その話をいっぱいした。ビールと焼酎でぐでぐでしながら。 「おまえは何でもかんでも首を突っ込みすぎる」と彼が言う。 「どうしておまえがそこまでせんといかんがぞ」と彼が言う。
それはほんとうにもっともなことだ。関わらなければどんなに楽だろうか。 見て見ぬふりをして。聞こえないふりをして。逃げてしまえばどんなにか。
それでもひとにめぐりあう。いつだってひとにあいたくてたまらないから。
| 2007年06月02日(土) |
優しい雨にあいたくて |
どんよりと空は梅雨の頃のようであり。けれども瀬戸際のところで耐えているらしい。
そんな朝。どこかに出掛けてみるかと彼が言う。 そうだあそこがいい。愛媛の庭園だ。なんだっけあの花は、きっと今が見頃だぞ。
うん、そうねと頷きながら私はしゃべり始める。 去年の今頃だよ。『海猿』観に行ったの。ねえ憶えてる?イオンの店内ぐるぐるして。 あの日ってなんか楽しかったよね。蒸し暑い日でザルそば定食ふたりで食べたよね。
うんうんと彼もうなずく。そしたらちょうどその時。もう耐え切れずに雨が落ちてきた。
ほっとする。どうしてだかそのしゅんかん。わたしはほっとしてしまったのだった。
晴耕雨読っていうよね。ああうんと彼がうなずく。そこでぷつんとふたりが切れていく。
ひとつはきちんと折りたたんで捨てられた五月のカレンダーのよう。 もうひとつはくしゃくしゃに丸められたくずかごの。たぶん五月に違いない紙。
それは見た目にはとてもお互いを尊重しあって。ひとつのカゴに収まっている。
彼はお気に入りの座椅子に深く埋れるようにしながら。特にあてもなくテレビを観る。
私は読みかけの本をめくりながら。『かいじゅう』としばし闘っていた。 週末になるといつも隣家にやってくる怪獣ではなくカイジュウでもなくかいじゅうだ。
それはとても目のくりくりとした愛くるしいかいじゅうなのだけれど。彼女も実は。 別のカイジュウと闘っているのではないかと察する。奇声、嬌声、雄叫びなどなど。
そのほか彼女が得意なのは。ねこふんじゃったの連続50回演奏でもあった。 それが飽きたら。おもちゃの兵隊さんが鍵盤の上を足踏み鳴らしてどこまでも。 どこまでも行進して行くのだ。彼女はお昼寝をしない。とにかく彼女は勇ましい。
私はどうやらもう参っている。神経質ですこしばかりヒステリックでもある。
だけど怒ってはいない。なんとかして彼女を。かいじゅうを愛そうと努力する。 いつだったか窓と窓から彼女に微笑みかけてもみた。けれど彼女は微笑まずに。 あっかんべぇをすると思いっきり窓を閉めてしまったのだ。あれは悲しかった。
だけど決して傷ついてなどいない。彼女の週末がより楽しくあれと願ってもいる。
でも。もうほんとうに私は降参だった。私はいつも負けることを選んでしまう。
炬燵はもう片付けてもいい頃よね。ああうんと彼が頷くけれど。炬燵に足を入れる。 その電源オフの暗い空間は。それが炬燵だった記憶を微かにして、むしろ冷たい。
それが実はゆっくりと人肌のぬくもりになることが。心地良く思えてくるのだった。
六大学野球の早慶戦を観ながらうとうとする。佑ちゃんになったら起こしてねって。 寝言みたいにつぶやきながら。どこかわけのわからない世界に足を踏み入れていく。
そこには。かいじゅうがいない。雨はやまない。雨はどこまでも優しい雨になる。
トッテカケタカ。とってかけたかと鳴く鳥の声が聴こえてきて。 その鳥の名を忘れてしまったものだから。ネットで検索などしてみたところ。
一年前の自分の日記を見つけた。ほととぎすの声だったんだ。ありがとう私。
そうしてそこで発見した自分らしいじぶん。なんだかすごく気ままなじぶん。 懐かしいような。恋しいような。書くということにちっとも拘っていなくて。
ふっと大切なことに気付いたように思った。私はもしかしてプライドみたいな。 なくてもいいものに執着していたのでないか。このいちねんでそれが育ってしまい。
生真面目に。綺麗に。なんとか文章を書き上げようと日々そればかりにあがいて。 脱線を恐れていたのに違いない。こんな駄文なんか。こんなもの私らしくないと。
それこそがちっぽけなプライドというものだ。今こそ思い知りなさいわたし!!
初心にかえろうと思う。いや、むしろかえりたくてたまらない。
酔っ払ってへろへろしたり。愚痴も言ったり。泣き言も言ったりしたいのだ。
ありのままのじぶん。いまいちばんあいたいのは。他の誰でもない『わたし』
あってくれますか?ねえ・・わたし。

夕方。サチコがぜえぜえ言いながら柏島から帰って来た。 いきなり船で沖に出たそうだ。そしてほんのつかの間の呼吸の練習のあと。 重いボンベを背負って。後ろ向きに海にドボンしたのだそうだ。
鼻で息をしてはいけないのを。ついしてしまって泡がぶくぶく出たらしい。 サチコは一瞬パニックになったと言う。まるで過呼吸の時みたいだったらしく。 こんな海中に紙袋はないしと思うと、ますますパニックになったそうだ。
こわいよ。あれはほんとにこわいよと。それは切実な眼で一部始終を語ってくれた。
でもね。ほんのつかの間だったけれど、綺麗なサンゴが見れたらしい。 ちっちゃなお魚もいっぱいいたよって。その時の目はキラキラと嬉しそう。
だけど。もう二度と挑戦はしないと言う。母さんもやめといたほうがいいよとか。
うん・・母もこわいからそれはいい。海は好きだけど海はとてつもなく深いから。 ちょこっと夢を見ているだけがいい。サンゴのことやお魚のことや目に浮かべて。
サチコがやってくれたから。なんだか母もドボンしたような気持ちなんだ。
もう死ぬかと思ったって。そういうとこやっぱ似ているなって思う。
ありがとねサチコ。えらかったねサチコ。
夕陽に向かってひたすらてくてくと歩いてみたいなと思うだけ思って。 ものぐさな猫のように窓辺に居場所を確保している。ここはとても静かだ。
窓から見えるのは暮れなずむ空と。少しばかり老いてしまったチガヤの綿色。 そしてかたわらに清楚なのは若き姫女苑の花。刻々と迫るものに動じもせず。 それらはゆっくりとその映像に幕を下ろし始めている。息をしてはいけないと。
誰もそうとは言わないけれど。思わず息を止めて静止画像にしてしまいたいほどだ。
そしてとうとう逆らえずに幕が下りきってしまう。その瞬間がとてもせつない。
おわったっていつもおもう。

このところサチコは。仕事がお休みのたびにアウトドアばかりに励んでいる。 地元のタウン誌の取材とかで。先日はサーフィン初体験。そしてカヌーも初体験。 今日は『木登り』だったらしい。いったいどんな木に登ったのだろう?キニナル。
そして明日は。これも初めてのダイビングだそうだ。大丈夫なのかほんまにそれは。 サチコもちょっと緊張している。母も実のところ心配でならないのだけれど。
サチコはやるだろう。いざとなれば好奇心と度胸で挑戦してくれるだろう。 さすが私の娘である。もしかしたら病みつきになってハマってしまうかもしれない。
『柏島』の海は。なんというか不思議とエメラルドグリーンなのがとてもいい。
海と。川と。山と。空と。風と。サチコ。私には好きなものがいっぱいある。
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