まだ五分咲きほどの桜並木は染井吉野。 その桜並木にあってひと際純白に咲く桜の木がある。 艶やかな緑の葉と合わさりなんともいえず可憐な花が。 こぼれ落ちそうに咲いているのを見つけた。
名はなんと呼べばいいのだろう。知りたくてたまらなくなる。 だけども桜はさくら。ほんのつかの間のひと時を惜しむように。
さくらに逢った。
ひとが慌しく去っていく。退職です。転勤ですと言って去っていく。 また会える日も来るでしょうと。なるべくの笑顔でお別れを告げつつ。
若いその人は。もう今の仕事ではやっていけないと嘆き遠い町へ行くのだと言う。 不景気の嵐のさなか。30歳の節目を機に決めた再出発であるらしかったけれど。
前途を祝福する気持ちは大いにありながら。やたら淋しさが我が身を襲ってくる。 少しばかり親しくしてもらっていたものだから。ひどく情というものが私にあった。
これが今生の別れ。すっかりそう決め付けているようにも思う。
彼の10年と私の10年は。とんでもなくかけ離れてはこの先過ぎて行くだろう。 私は決して追いつけないところにいる。そしてどんどん老いて先を行くのだろう。
一期一会をおもえば。ほんとうにありがたい縁だとつくづくそう思う。
どうか元気で。そんなありふれた言葉しか言えない。
この先。どんなに老いても。生きて再会できればどんなに嬉しいことだろう。
| 2007年03月29日(木) |
こころがいっぱい笑ったら |
つばめが古巣を修繕している。二羽が交互にせっせと頑張っている。
今朝。玄関の扉をあけるなり目が合って。見ると藁みたいなのを咥えていた。 私が急に出て行ったのでびっくりさせてしまったのかな。ありゃりゃって顔。
そのうえ私が話し掛けたりするものだから。ちょっと気が散るんですよの顔。 この家主、去年よりも鬱陶しくなったな。なんて思ったかもしれない。ごめん。
そっとしておいてあげるのがきっといちばんなんだろうなあって思う。 だけどついつい。世話も出来ないくせにあれこれ世話を焼きたがる私だった。
「誰と話してるんだぁ?」って不思議そうに彼も出てくる。
「つばめちゃん」って。ちょっと甘ったれた声で応えると。
「おまえ、アホか!」と。すごい呆れかえった顔で笑いとばされてしまった。
うん。アホかもしれん。でもなんかこういうアホな自分が好きだ。
そしてずっとそのまんま。今日はいちにちアホをつらぬいて見せた。
ひょうきんにおどけるのは。ほんまに愉しい。
こころがいっぱい笑ったら。なんか幸せだなって思う。
そぼ降る春のしずく雨が。ぽろんぽろんと音色を奏でていた。
なんだかわたしはどこか。また一本の弦を張り詰めすぎていたらしく。
今日。それがとうとう切れてしまった。それはとても心地良よく切れた。
もう求めはしないだろう。残されたひとつきりの弦で精一杯に爪弾いてみたい。
狂おしくあればそれなりに。哀しければなお更。喜びはひとしお素直にありたい。

まだ桜も愛でずにいる頃に。ツバメが少しかん高く鳴いては帰宅を報せてくれた。 「お帰りなさい」と声をかければ。嬉しそうに狭き庭を旋回している姿を見せる。
歳のせいか涙もろくなってしまって。感極まってはほろほろと目頭が熱くなった。 我が家を目指して飛んで帰ってくれたのか。忘れずに憶えていてくれたのかと思うと。
ほんにほんに我が子のように感じずにはいられない。愛しくてならない小さな命。 なんとしても守りたいと思う。無事にまたここから巣立つ子供達をと願うばかり。
ほこっとわたしも卵を抱いた。
この世にはどんなに願っても叶わないことがあるけれど。
抱くことをしないでいて。どうしてそこから生まれようか。
やはり桜は咲いていた。立ち止まり仰ぎ見る事も出来ずにいたけれど。 咲いているのが嬉しい。ただただ静かに桜だけを想ってみたいと思う。
ふるきよき時代。桜尽くしの宴のことを絵巻物のように心に描いてみる。 高貴なひとびとあまた集うその庭には。いちめんの桜の花びらが敷かれ。 それはこの日のために他所から拾い集めてきたのだと言うのだけれど。
踏みしめるにはせつなすぎて。かといって立ち竦むには心浮き立つばかり。 花影に想いびとなど見つければ。この花びらを纏ってでも逢いたいものよと。 おんなは蝶のように舞ってみせる。はらはらとこのうえなく儚い恋のゆくてに。
落ちるのはひとひら。落ちるのはふたひら。涙まじりの花吹雪だった・・・。
この世に桜ほど儚い花はない。これほど潔く散ってしまえる花もない。
咲くならば桜だとずっと願っていたけれど。
ことしもどうやら野道の端に咲いてしまったように思う。
散れなくて枯れるのにも。ずいぶんと慣れてしまった。
桜がぽつりぽつりと咲き始めたそうだ。まだ確かめてはいない。 今日桜並木のある道を通ったのだけど。どしゃぶりの雨が降るばかりだった。
この雨があがればきっとに違いない。なんだか心がくすぐったくしている。 いつもの期待というのとはちょっと違う。どこか異質のむず痒さがあるのだ。
思い通りになるのに逆らってみたいのかな。なんとなくそう思ったりしている。
ある意味。それは。素直ではない。
一昨日。使い古した携帯をやっと新しくした。 大切なボイスデーターをなんとか移せないかと無理な相談をしながら。 「亡くなった友人の声なんです」と涙声で嘘までついてしまった。 店員さんがPCに繋いで頑張ってくれたけれど、やはり駄目だった。 「潔く諦めてしまえ」ともうひとりの自分が苛立つように言うけれど。 「いやだ・・いやだ・・」とほんとうの自分が泣きながら駄々をこねた。
古い携帯はもう電池パックの替えがなく。それでも少しでも充電が出来れば。 データーは残るのだそうだ。諦めずに時々充電してみて下さいと励ましてもらう。
その時。ほんとうにちょうどその時、大切な声の主からメールが届く。 その着信音が夢ではないかと思った。こんな偶然があるものだろうか。
音信不通がもはや当然だとずっと諦めていた。 もう『おんな』ではいたくないとさえ思っていたのに・・・。
懐かしい声がこだまするように聴こえてくる。
行かなくちゃ。もっと遠くに行かなくちゃって思う。
だけどこの空はひとつ。この空に。もう嘘はつけない。
| 2007年03月21日(水) |
空にぽっかり浮かぶ顔 |
彼岸の中日。お墓参りも行かずにいてとうとう日が暮れてしまった。 そんな後ろめたさもあってか。今日はやたらと故人を懐かしく思い出す。
川仕事のかたわら。同業の従兄弟達とほのぼのと語らう。 おじいちゃんのこと。おばあちゃんのこと。おじさんやいとこのこと。 そうして夫の父の事。従兄弟達はみな「むーおんちゃん」って呼んで。 「むーおんちゃんも、あっちで川漁師しよるろうなあ」とか言ったり。 「いやいや、もう桜が咲いて花見しよるかもしれんぞ」って笑ったり。
懐かしい顔が空にぽっかり浮かぶ。きっとみんなの声が聞えているだろうと思う。
あの『千の風になって』の歌のように。いつだってそばにいてくれるのだと思う。
私も自分の父のことを想った。愛子ばあちゃんの事もいっぱい想った。 不孝ばかりだった自分のことを悔やみつつ。愛しさばかりが込みあげてくる。
尽くしきれなかったことを。もう遅いとどんなに嘆いても時はかえらない。
空に手をあわす。風に手をあわす。鳴く鳥を愛しく思い。道端の名もない花を愛でては。
こころ安らかなる日々を。こうして自分にさずけてくれる万物を尊ぶ。
おとうちゃんありがとう。
おばあちゃんありがとう。
わたしはこんなに満たされてここに生きています。
| 2007年03月19日(月) |
おなじひとつの空の下に |
川仕事の帰り道。いつもの堤防沿いの小道を通り抜けて行くと。 老夫婦と見えるふたりが土手を這うようにして。手には束ねるほどの土筆。 おたがいが見せ合うようにしながら微笑みあっているのを見た。
なんだか子供みたいな笑顔だった。あたりいちめん和やかな風に吹かれて。 「佃煮にするのかな」って私が言うと。「漬物だろうきっと」と彼が言う。
土筆の漬物とは初耳であったから。私はあくまでも佃煮を主張したのだけど。 ずっとそのことが気になってしまって。夜になりネットで検索などしてみた。
そしたら確かに土筆の漬物がありました。どんな食感なのだろう。 なんだかとても食べたくなって。ふっとウサギが前歯を可愛らしく。 ちょこんと突き出しては。つくしの坊やを食べてしまった童話のような。
そんな絵が頭に浮かんで来たのだった。「ごめんね ごめんね」って言いつつ。 とうとう野原中の土筆を食べ尽くしてしまったウサギは。満腹だったけれども。
なぜか涙があとからあとから流れてくるのでした。そこは淋しい野原でした。 なんてことをしたのだろうとウサギは悔みます。つくしの坊やは友達でした。
友達を食べてしまったからには。きっと神様に叱られてしまうにちがいない。 許して下さい。ぼくの口を目も耳もちょん切って下さい。もう足も要りません。
そうしてウサギはずっと泣き続け。とうとう真っ赤な目だけの光る玉になりました。
光る玉は。ほんのかすかな風にさえ驚くように野原を転がっていきます。 木の根にぶつかっても岩にぶつかっても。ちっとも痛さを感じませんでした。
夏が来て秋が来てとうとう雪の降る夜も。不思議と寒さを感じることもなく。 やがて懐かしいくらい暖かな風に会ったのです。おやおやいったいどうしたの? それはお母さんの声に似ている。そっと抱き上げてくれる風の精の声でした。
いつまでも泣いているとおっきくなれませんよ。ほらほらちゃんと目をあけて。
そこは確かにいつかの野原。むらさきスミレやタンポポや。そうして誰よりも。 いちばん先に寄り添ってくれたのが。友達のつくしの坊やではありませんか。
「僕らはちっとも悲しくなんかなかったよ」「だってほらウサ君のおかげだよ」
あそこにも。ほらむこうにも。もっとあっちにも僕らがいっぱいいるんだ。
光る玉はキラキラっと震えました。そうすることで嬉しさを伝えたかったのです。
「いちぴた〜」「にぴた〜」「よっし、さんぴただ〜」つくし達が声をあげて。 まるでそれは磁石みたいないきおいで。ウサギの身体に抱きついて来ました。
ほうらね。ぴぴんと耳が出来た。口はねちょっと柔らかくしとこうね。 足はボクの頭だよ。どんなに跳ねても大丈夫だから。元気に走ろうね。
ウサギはやっぱり赤い目だったけれど。その目に青い空をいっぱいに映しながら。
おなじひとつの空の下に。こうして友達がいてくれて幸せだなあって思いました。
※※※※
はて。土筆の漬物からなにゆえこのような童話が出来るのでありましょうか。
書いた本人も不思議でなりませぬ。どうかさらりと読み流しのほどよろしく。
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