朝晩の肌寒さはこの頃のことだけれども。日中はまだ半袖で過ごしていられる。 紅葉にもまだ早い頃で。朝の道の銀杏の葉は緑濃くまぶしいほどに光っている。
つわぶきの花はといえば。あちらこちらでちいさな向日葵みたいに咲いていて。 岩のあいだからでもすくっと伸びるように咲く姿は。健気で可愛らしいものだった。
ラジオからは。沢田知可子の『会いたい』が流れていた。
約束したじゃない。あなた 約束したじゃない。会いたい・・・。 と一緒に歌えば。わたしのようなものでも。やはり胸に込みあげてくるものが。 あるというのだろうか。目頭が熱くなりほろほろっと涙がこぼれてくるのだった。
せつなさはいつだって海で。波のように押し寄せてはきては。のみ込まれるのを。 砂浜にいて冷たい水に足を浸しては。待つ。どうしようもなく待つ姿に似ている。
だけど吹っ切る。その踵を返す仕草が。わたしには私への裏切りでもあった。 もう浸らせはしない。戻させはしない。だからなのだ。私は行かなければならなかった。
時は薬であることのありがたさ。だけど良薬は口に苦しであるかのように。 無理に飲み下そうとすれば咳き込み苦しさに喘ぐ時もあるのだった・・・。
処方箋に忠実に。規則正しくきちきちと。そんなことを決め付けてはいけない。
もっともっと気ままでいて。
もっともっと。ありのままでいようと思っている。
朝の峠の道が。やはりたまらなく好きで。何度だって好きだと言うのだけれど。 いが栗がころりんと転がっているのを。おっとっとと踏まないように進んでは。
いちばん最初に見える民家などは。夜には梟の声が聞こえそうな山の真ん中で。 干されたばかりの洗濯物が暖簾のようにぶら下っているのが。なんかほっとする。 つい最近。その民家にちいさな子供がいるのを見つけたのでちょっと嬉しく思う。
赤いリュックのお遍路さんに会った。その軽やかな足取りほどありがたいものはなく。 おいちにっおいちにっと。今朝も元気をさずけてもらったのだった。どうもありがとう。
まあるい日。ふしぎにまあるくて。こんな日はつるつるしているのかもしれない。 棘とか針とかはいくら向かって来ても。無駄というか立つ瀬がないというのかも。 受止めるこころさえもなくて。悪戯っ子みたいに囃し立てることもするつもりなく。
何事も。つるつるっと滑り落ちていくのは。ちょっと客観的でちょっと愉快だった。 ちまちまとひとつひとつに。目くじら立てては些細なことに歯向かってみたり。 思うようにいかないのをひとのせいにしてみたり。我を通し続けようとしたり。
愚かな事は数えればきりがないほどあるのだった。反省はいくらでもしなさい。
おいちにっさんし。ごうろくななはち。
三角ならば。とにかく四角になるべきだ。
四角になったら。すこうしずつ角を捨てよう。
雨が近いのだろうかすこし曇り空。ぼんやりとして澄み切れない空気を。 雲間から優しい陽射しがこぼれてきてはつつみこむ。しろい白い午後だった。
職場のある山村に観光バスが来る。何事だろうと思っていたら。白装束の人達。 お遍路姿ではあるがなんとなく違和感がある。わいわいがやがやと声が聞こえる。
足摺岬のほうから来たようだった。どうやら次の札所まで歩いて行くらしくて。 15キロくらいだろうか。下り坂なのでそれほどは苦にならないのかなと思う。 ちょうど職場の前の食料品店の広い庭先で。その賑やかさについつい見とれていた。
「さあ!そろそろ行きましょう!」とひとりだけ黒い装束のひとが声をあげる。 そしたら今までおしゃべりに夢中だったお遍路さん達が。急に静かになっては。 なんだか真剣になって。きりっとした表情でみんな一斉に前を向いたのだった。
私はどきっとしてはっとした。もしかしたら心の中ではたかが観光遍路さんと。 見下すような思いがあったのかもしれない。だとしたらすぐに謝らなくてはと思う。
目指すという気持ち。達成しようという気持ちは。どんな状況であろうとも同じ。 ただひとり歩くのも。大勢で歩くのも。その道に何の変りがあろうと思ったのだった。
ただひとつきりの道。
仕事を終えて。私もその道を下って家路についた。
途中の牧場では。黒い子牛達がふたつ並んでお尻を向けては草を食んでいる。 その揺れている尻尾が可愛らしくて。ついつい顔がほころんでしまった。
私もゆっくり歩いて行けたらなと思う。
せいたかあわだち草がどんどん伸びて。その鮮やかな黄の群れには。 圧巻とするほどの植物の命を感じたりする。嫌う人は鼻をむずがり。 くしゃみをしては目を背けてしまうだろうが。私は決して嫌いではなかった。
小高い丘などに。ススキとそれと秋桜などが整列するように並んでいたりして。 思わず足を止めては仰ぎ見る。向こう側の空と重なりそれはまるで絵のようであった。
たんたんと仕事をこなす。昨日休んだせいだろうか今日は少し忙しかった。 あとからあとからすることがあるというのが。基本的には好きだと思える。 退屈で手持ち無沙汰なのがいちばん苦痛で。かといってトラブルが続くと。 またそれも苦痛なものだから身勝手なものである。思うようにいく日ばかり。 そうはいかない日があるから。日々というものは面白いものなのかもしれない。
いつものスーパーで冷凍食品が半額だった。から急いで行ったけれどもう品薄で。 大好きな唐揚げチキンがなかった。フライドポテトも枝豆もなくてちょっと残念。
それから。そうそう。さっきちょっとここのアクセス解析みたいなの見てたら。 『明星鉄板焼きそば』で検索して来たひとがいたので。なぬ?って愉快に思った。 書いた本人にはまるで心当たりがないのに。一気に4年前の日記に飛んで行った。
確かにそこに私がいた。楽しそうに書いていたんだなあって我ながら感心したのだ。
はははっ・・ってちょっと笑った。さっき。
窓辺の椅子に腰掛けて。ぼんやりとおもてを見ていた。夕暮間近のこと。 西の空は茜色には染まらずにいて。子供の頃に好きだったカルピスの。 たしかオレンジカルピスというのがあった。そんなふうな乳色の空に会う。
お隣りのおじさんが自転車で横切って行く。堤防の道の一直線上を絵のように。 まだ夏の日のままの姿で。半ズボンに白い靴下。野球帽を被り携帯ラジオを提げ。 散歩中の誰にともなく声をかけているのが。とても微笑ましく耳に届いて来るのだ。
秋のこの頃とはとても思えないような。やわらかな風が吹く。心地良い風が。 そうして何を急ぐのか陽がどんどんと暮れては。追い駆けられないこころに。 また夜が巡って来るのだった。約束のようなこと。あたりまえのようなこと。
昨日の後片付けが残っていて。今日は仕事を休ませてもらった。 なんとか午前中に終えることが出来た。大量の食器など納戸にしまう。
午後から少しお昼寝をする。ぐっすりとはいかずなんだか夢なのか現実なのか。 わからないような夢をみた。部屋がすごく揺れていたので地震かと思ったのが夢で。
目覚めて。ほっとしては熱いコーヒーを飲みつつ。いつもの日常を確かめるように。 洗濯物を取り入れたり。お隣りの庭の秋桜が散り始めているのにはっと切なかったり 犬小屋の前では。あんずが早くお散歩に行きたくて待ちかねているのに声をかけたり。
平穏であることがなによりだと思わずにいられなかった。
今夜はまた。例のごとくで。サチコの帰りを待っている母であった。
なんだか夏が。忘れ物でもあったのかしらと思うくらいに汗ばむ陽気。
早朝からてんてこまいしていた。家族総出で。いとこ達も手伝いに来てくれる。 「おねえさん」と呼ばれたり。「おかあさん」と呼ばれたり「みかさん」とも呼ばれ。 段取りよく手際よくとはなかなかに思うようにはいかず。みんなに頼るばかり。
11時にはもう住職さんが来てくれて。仏間には座りきれないほどの親戚の人。 廊下や台所までひとで溢れる。慌ててエプロンをはずし一番最後に焼香をした。
お昼前から始まった宴会は。えんえんと続き。最後のお客さんが腰をあげたのは。 もう夕方近くになっていた。赤ら顔の上機嫌でみんな満足そうに帰ってくれたのが。 なによりも嬉しく思う。そしてもっと嬉しかったのが仏さんではなかったろうか。
25年の歳月は。ながいようでありながら。すこしも遠い昔には思えなかった。 あの日まだ三歳になったばかりの息子は。出棺の時に大声で泣き叫んだことを。 うっすらながら憶えていて。ひとの死というものを。もう抱いてくれないことを。
子供心に知ったのだった。
よちよちと歩き始めたばかりだったサチコは。お祖父ちゃんの記憶さえないけれど。 ずっと仏壇に手をあわせてはおっきくなった。「もったい」って小さな手をあわす。
そうして授かることのなんと貴重なことかと思う。優しさや思いやりや何よりも。 命の尊さを。お祖父ちゃんはしっかりと天から。子供達を見守ってくれたのだと。
感謝のきもちがいっぱいに溢れてきた今日という日だった。
おじいちゃん。ほんとにほんとにありがとう!
夜になり。思いがけず雨が降り始めた。ひさしぶりに聞く雨の音だ。 なんだか心地良く沁みこんでくるのは。もしかしたら乾いていたのかも。 しれない。水を欲しがっていた草のような。枯れる寸前だったかもしれなくて。
慌しく。いつもとはかけ離れたような一日が。ふうはあと過ぎていったのだが。 ちょっと苦手だった。でもここをふんばろうと思っていて。憂鬱ではないけれど。
明日は我が家で法事。彼の父親が亡くなってからもう25年が経った事になる。 親戚がとても多いので。50人くらいの『お客』になりそうだ。もう慣れている。 どんとこいの気持ちなのだけれど。気ばかり急いてしまうのはどうしようもない。
いつもは寝室の日本間が仏間になった。花を活けお供えを添えお線香をたいた。 姑さんが般若心経を唱えるかたわらで。身内の家族は酒をくみかわす賑やかさ。 『宵法事』を今夜終える。とんとんとんとなるようになってほっと安堵している。
明日はもっと忙しい。早目に寝ろよと言われても。神経がすごく昂ぶっている。 とにかくいつものことが恋しく思う。つれづれに書いてほどほどに酔い潰れたい。
雨はさっきすごく激しくては。いまぴたりと静かになった。
濡れた夜風を招き入れては。うつろうつろのていであった。
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