雪柳を見つけた日。白くてちっちゃな花が枝を流れるように咲く。 しなやかに風に揺れる様などは。その雪のような花が零れ落ちて。 すぐにでも散ってしまうのではないかと思うほど。せつなくて哀しい。
雨のにおいを感じた。空はどんよりと重くて。こらえきれない何かが。 いまにも音をたてて。静けさを掻き乱すのではないかと。空を仰いだ。
ぽつねんと。またわたしはそこにいる。そこがどこなのかよくわからない。 ときどきこんなふうにいってしまうのだ。かえろうとおもうがかえれない。
とぼとぼ歩く。雨に濡れてしまいたい。いっそ雨になりたいと思った。
春霞。ただただのどかに時はすぎゆく。
苛立つ事もあるけれど。空のとばりにくるまって。 棘の痛さを感じぬように。そっとそっと心を放す。
岩つつじの花を。帰宅途中に見つけた。山肌からこぼれるように。 鮮やかなピンク。ちょいと小ぶりで可愛らしくて好きだなと思う。 毎日通る道なのに昨日はまったく気がつかなかった。川の方ばかり。 見ていたのかもしれない。もしくはすごくぼんやりしていたのかも。
こうして見つける春は。いつも。はっとはっと。その瞬間が嬉しいものだ。
帰宅すると。彼が熱の出始めなのか寒くてたまらないと震えていた。 急いで布団を敷いて湯たんぽも入れてあげる。子供みたいにか弱かくて。 しばらく様子をみていたらぐんぐん熱が出て来た様子。熱ピタをおでこに。 もう限界だと泣きそうに言うまで我慢させておいて。やっと解熱剤を飲ます。
一時間も経たないうちに汗びっしょりになった。よしよしその調子というわけで。 二度着替えをしてから。今度は空腹を訴えるようになり。おうどんを作ってあげた。
もうだいじょうぶ。彼の熱は度々で。いつもこんなふうに突然で。すぐに治る。
ずっと家業を任せきりで。彼なりに一生懸命頑張っているのがすごくわかる。 無理しないようにいつも言っているけど。無理を重ねて疲れが溜まっているようだ。
今夜ほど彼を助けたいと思うことはなかった。 職場に辞表を出せば済むことだったが。 会社を母を見捨てるわけにはいかない・・・。
ずるずるずる。このずるずるかげんが。私はすごく嫌なのだ。
静止している時などあるはずがなく。動いて流れて。流されて。 いったいどこまでいけばいいのだろうと。ふと不安にもなるのだが。
すべてのことが人生の順調だと仮にそう思うことにしてみれば。
いまはすごく大切な道を。わたしは歩んでいるのだろうと思う。
流されるな。水の中を歩け。
水に映る自分を。見つけろ。
啓蟄。冬ごもりをしていた虫たちが穴から出て来る頃とか。 そんな今日は。少し冷たさを感じる雨のいちにちとなった。
気がつけば。梅の花も散りゆき。花びらの行方さえも知らず。 寒桜はわずかに。雨のしずくが涙みたいに頬を濡らしている。
白木蓮は満開になった。純白がほのかに黄をおびて少し哀しい。 落ちるのだ。ある日からそれは。ほんとうにどうしようもなく落ちる。
鮮やかな色のレインコートを羽織ったお遍路さんがふたり行く。 肩を並べるのではなく。なんだか競い合うように先を急いでいた。 あなたの歩調。わたしの歩調。行き着くところで会いましょうや。 そんなふたりに見えた。頑張れふたり。声をかけたいような二人。
職場。お給料日だったけれど。どうしても資金繰りが間に合わず。 いつもは強気のオババがすごくしょんぼりとしていて可哀相だった。 「ない袖は振れない」といつも。それが当然みたいに笑っている人。
私が帰る時。動き出したクルマからオババの姿が見えた。 窓際に立って。もしかしたら私を見送ってくれたのかもしれなかった。 手をあげようとしたけど。どうしてだか手をあげられなくて。ごめん。
ちっちゃくてか弱くて。さびしくてかなしかった。
わたしのお母さん・・・・。
| 2006年03月05日(日) |
いまここにいるんだな |
立春を過ぎてからの寒さを『春寒』というそうな。 はるさむ。もしくはしゅんかん。そのしゅんかんというのが。 なんか好きだなって思った。はっとする寒さのようではっと。 冬のことを思い出すのだけど。実は春なんだなあって感じで。
日中はぐんぐん気温が上昇した。風もなく穏やかな陽気となる。 ひとり。今日はひとりで家業を頑張ることになった。 彼は消防団の仕事があり。無理するなよとか言ってくれてさんきゅ。
堤防の道から見る河口が。ついこの前までの白波が嘘だったかのように。 陽の光をいっぱいに映して。それはそれはきらきらと眩しい流れだった。 潮が引き始めていて。海と川がごっつんこしているのだけど。水とみず。 そのあわさりぐあいというか。とても言葉に出来ない。ああおおと思うばかり。
ひとり。もくもくと海苔を摘む。かんがえているいろんなことを。 とりとめもなく。あのひとだったり。いつかの春のことだったり。 あの時どうしてあんなことを言ってしまったんだろうと思いながら。 せっせせっせと手を動かしている。ちゃぽんちゃぽん川舟が通ると。 ちいさな波がやって来て。はっと我に返る。いまここにいるんだな。
帰り道。河川敷の牧草の緑のなかに。ぽつんぽつんと菜の花が咲いていた。 夏の嵐の日に上流から流されてきたのかな。ここで咲けてほんとうによかったね。
ああなんだか犬になりたいとふと思う。鎖から解き放されて走りまわりたい。 あの菜の花のまわりをぐるぐる駆け回ってみたい。吹っ切ってふっきれて。
いまここにいることを。もっともっと感じたいと思った。
このところ寒のもどりらしく。弥生の風の冷たさ。 だけど太陽はとても春らしくて。ほっと空を仰ぐ。
少しばかり多忙な日々が続いていて。なんだか駆け足。 ここからあそこまで走ろう。そしてちょっとだけ休む。 そんな感じで。自分なりに。まあまあの元気を保っている。
お陽様のにおいが心地良く洗濯物を取り入れていると。 庭のすみにほったらかしにしていた鉢植えのマーガレットが。 ふたつみっつと白く愛らしい花を咲かせているのに気づく。
強さを知っていた。雪の日もすっぽり埋もれていたことも。 この子は大丈夫って信じていたから。ちゃんと春を知らせてくれて。 ああ今年も頑張ったんだね。ほんとにえらかったねとほめてあげる。
たくさんのつぼみをつけて。なんてほこらしげに微笑んでいることか。 茎は小枝のように固く。そこから緑の手を伸ばして花は宝物のように。
その宝物を今年もこうして見せてくれるありがたさ。
わたしのこころには。いつもこんなふうに。さりげなく咲く花がある。
| 2006年03月01日(水) |
春だからだいじょうぶ |
少し冷たい雨になる。でも春だからだいじょうぶ。
今日は急遽仕事を休ませてもらって。例の家業を頑張ることにした。 ずっと海が荒れていて高波がすごく。彼一人ではちょっと限界気味。 おっし、おっかさんに任せておきなさいというわけであった。 男の弱音には非常に弱い。ついついよしよしとしたくなるものである。
こっちをたてればあっちがたたず。いっそ会社がなくなればいいとか。 ふと思ったりしてしまうのだが。見捨てる訳にはいかない複雑な心境。
明日も菜の花の道をいく。白木蓮に会える道を。何事もなかったように。 職場へと向かうことだろう。お遍路さんに会釈して。ほっと微笑みながら。
そうそう今日ね。彼と川沿いの道を通りながら。 冬みたいな雨だけど春だよねって話していたら。 堤防の土手を指差して彼が嬉しそうに言ったよ。
つくしんぼうもにょきにょきしてきたぞって。 枯草ばっかだったのにずいぶん緑になったな。
漁場には小鴨の群れがいっぱいいて。波にゆらゆら。 鴨たちはそうして育った海苔をついばんだりするのだけど。 いいさ美味いなら食えばいいさとか言ったりした彼。
なんて優しい目をしているんだろうって嬉しかった。 とても穏やかな表情。こんなふうにごく自然に。
ひとというものは。変ることができるものなんだなって思った。
今朝はね。白木蓮の花を見つけたよ。 真綿のようにふわふわっとしていて。 そっとこの手でふれてみたいなあって思う。
神様が両手をほっこりとあわせているようなつぼみ。 その手のひらを。ほうらみてごらんさいって広げたように咲く。
どきどきするんだよ。きのうより今日だよっておしえてくれる。 神様の手のひらにはなにが包み込まれているのだろうって思う。
高くたかく。背伸びをしても届かないほど高いところで。 夢のようにほのかに香って。純白の想いのように咲き誇る。
空は。空は知っているのかな。鳥は。鳥も気づいているのかな。
|