ひとしずくふたしずくほどの静かな雨。 もう終りかけた秋桜だけが。しょんぼりと哀しい。
数日前から。久しぶりに本を読み始めた。 ある詩人さんの。つれづれなる日々の日記で。 もうかれこれ14年間の日々を。ずっと読ませてもらっている。
のだが。今回はなぜか。読み進めることが出来なくて。 なぜだろう。どうしてかなと少し考え込んでしまった。
とても正直なのだ。あまりにもありのまま過ぎるのかもしれない。 それは決して悪いことではないはずなのに。なぜかすっきりとしない。
それはきっと。私が。心地良さばかり求めているせいかもしれない。 心が温かくなって。ほわんと優しい気持ちになりたくて。期待ばかり。 しているせいかもしれないと思う。
ぽろりと愚痴がこぼれていると。がくんと悲しい気分になった。 何かに対して批判的な文面を見ると。共感しながらも。失望もした。
だけど。それをあえて書くということ。実のところ。私は彼女を尊敬している。 と思う。彼女のようになれない自分が。逃げようとしているだけかもしれない。
こうこうこんなひとの。こういうところが嫌とか。そんな日記。 そういえば確かにそういう人がいるね。私もあまり好きではないよ。
だけどね。それは取るに足らないこと。私はあえて。そう断言してみる。
こうこうこんなひとの。こういうところが大好きって。
私は。いつだって。そうして自分の心を温めていたいひとだから。
それがありのままでなくて何だろうと思う。
夜明けを待って川仕事に出かける。 まだ朝陽が。すぐそこまで光ろうとしながら。 まだらな灰色のぷかぷかした雲達を紅に染めるのを見た。
一斉に。飛び立つ鴨の群れ。それは見事に放たれた光りのごとく。 きらきらと眩しくて。思わず歓喜の声をあげてしまった程だった。
私の。たぶんいちばん好きな季節なのだろう。 嫁いで26年。どうしてこんな仕事をしなくてはいけないのだろうと。 すごく恨めしく思った若き日々もあった。それがいつの間にか堂々と。 この仕事を誇らしく思えるようになったのだ。自然の恩恵を受けること。 それはとてもありがたいことだと思う。嘆くことも教えてくれる自然に。 振り回されてしまう日々もあったが。そんな日があったから喜びもある。
かくして。海苔養殖の準備が着々と進み始めた。 どうか順調に育って欲しいと願う。
暖冬と水害で全滅だった去年を思う。あの時、廃業を決めたのだった。 だけど。やめるな。やめたらいかんぞって。亡くなった夫の父親が。 言っているように思えてならない。だから。夫を失業させたのだと。
だって。あの時もそうだった。23年前のあの時。 夫は急に。ずっと勤めていた会社を辞めたいと言い出したのだ。 まだ幼い子供達を抱えて。私は不安でいっぱいになったけれど。
夫は父親の後を継ぐ事になった。お父さんはすごく喜んでいたっけ。
そして。その年の秋。あっけなくこの世を去った。
あの時。どうして仕事を辞めたかったのかよくわからないと彼は言う。
その理由を。いまになり。強く強く感じている私たちだった。
峠道の途中。ちいさな集落があるところの道端に。 銀杏の木があって。それが昨日よりも今日と誇らしげに。 朝陽を浴びてきらきらと光っているのが。とても好きなのだ。
もう何度。その一部始終をみせてもらったことか。 黄金色になって。その向こう側の空の青さに。胸がきゅんとして。 ある朝から少しずつ散り始めるせつなさを。私は知っているのだ。
めぐるめぐる。ともに生きる。あと何度会えるのか。私は知らない。
昨夜。どしゃぶりの雨の中。少しの憂鬱を連れて例のバドクラブヘ行った。 実は最近とても。雨と夜と対向車のヘッドライトが怖くてたまらない。 どうやら視界が狭くなってきたようなのだ。わずか15分なのにとても辛い。
無事に着いたとほっとしたのもつかの間。またひとりで準備にかかる。 なあにいつものことだからと思う。そのうち誰か来てくれるからと思う。 よかった。いつも二番目に来てくれる人がすぐに来てくれてほっとする。
だけど。携帯で話しながらだった。それがなかなか終りそうになかった。 いけない。いけないと思いながら。少しだけ苛々してしまう。 当てつけ。今思えばそうなのだが。無理して重いポールを二本提げて頑張る。 心の中は。いいもん。別にいいもん。手伝ってもらわなくてもいいもん。
ポールのネジを緩めて調整している時だった。ガチャンっと継目の所が。 落ちてきて。急いで手を退けたつもりが。うっかり親指を挟んでしまった。
かくかくしかじか。親指に小指がくっついたくらい腫れて紫になる。 しばし激痛。なんだか悔しかった。けれどそれがすぐに後悔に変る。
当てつけみたいなことしたから。バチが当たったんだと思う。
ラケットが握れなかった。みんなと一緒に何も出来なかった。
そして帰る時。そのひとだけが。「指、早く治して下さいね」と言って。 頭を下げて言ってくれたのだ。ほんとうに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ごめんね。ごめんねといっぱい謝る。
ワタシハモット。ハンセイシナケレバナラナイと思う。
さざんかさざんか咲いた道。もう今はそんな頃。 あのピンクのは。ふっくらと咲いていてとてもやわらか。 あの白いのは。なんだかきりりっとしていて清楚でいて。 それが。峠道の雑林の間から。おはようって言ってくれる。
ありがたい朝だった。心がぬくぬくっと温かくなる朝だった。
出勤前にメールが。携帯のメールっていうのは不思議なもの。 なんだか一直線。迷わず真っ直ぐに伝わってくるものだなと思う。 少し自信を失いかけていたことが。一気に救われたような言葉だった。 ささやかな確信を。ありがたく受け止めて。心はすっきりと青空の気持ち。
わたしはいてもいいのだとおもう。わたしだからできることがあると。
父の遺影と。豆地蔵さんに手を合わせて出掛けた。 ふたりは私の部屋の本棚の一角に居て。そこは私のありがとうの場所。 あのひとの手紙や。大阪豊中からのお遍路さんに頂いたお札や。 とても嬉しかったある女性の日記のプリントしたのも。 それから亡くなった友達に貰った。海の底で見つけた白い貝殻。 それからね。来年のJAのカレンダーに私の写真が使って貰える報せ。
今朝は。そのメールの相手の誕生日に贈った本を。ありがとうって置いた。
わたしね。こんなにありがたくて。ほんとうにいいのかなって。 ときどき。すごくふあんなくらい。おもうことがあるのだけど。
いいのかもしれないって。思うようにしたよ。
だって。みんなみんな大切な。私の宝物だもの。
雲ひとつなく。青くどこまでも蒼い空。
こんな光溢れる日には。ぽつんと立ってみるのがいい。
背筋を伸ばして真っ直ぐに。空を仰いでみるのがいい。
天からの気をさずかる。それは分け隔てなくみんなに。
降り注いでいるのだから。ひとも植物も石ころにだって。
気づいてほしい。知ってほしい。感じてほしいと願う。
あのひとが。いつもうつむいていたのが。悲しかった。
だから必死になって。おしえようとした。伝えようと。
今思えば。どんなにかあのひとを苦しめたことだろう。
でも青くて。こんなに蒼くて。空はあの日とおなじ秋。
あのひとは。きっと生きている。私はあのひとの命を。
信じている。
雨のち曇り。しっとりとあらゆるものが新鮮に見える不思議。 一雨ごとに。秋が深まり木々が色づき。やがて木枯らしの季節が来る。
朗報があり。ほっと安堵している。 みぃとを受け入れてくれた御一家のこと。 私と同年代のお母さんがいて。猫がすごく好きなのだそうだ。 今も2匹飼っているらしくて。みぃとは末っ子になれたみたい。 きっと可愛がってもらえると確信した。もう何も心配はいらない。 手離した淋しさよりも。こんなにほっと嬉しく思うことはない。
気分一新。今日はバドの今年最後の試合に臨む。 実は。ペアを頼める人がいなくて。少し投げ遣りな気持ちだった。 体力は落ちる一方で。誰が好き好んで組んでくれるものかと思っていた。 でも。諦めなくてほんとうに良かった。いちかばちかで頼んでみた人が。 すんなりおっけいしてくれたので。すごく嬉しかったのだ。
最高齢のひとだった。私よりも10歳年上のひとが。 まだやれそうだからと言ってくれたのだ。 その一言がとても励みになる。私だってまだまだやれると思う。
そしてふたりでやれるだけやった。長丁場で接戦になって倒れそう。 追い込まれて息が切れそうだったけど。必死で頑張ることが出来た。 予選落ちで良いのだ。こんな充実でもって自分に勝つことが出来れば。
また新たな闘志が湧いてくる。今度は来年のオープン戦で頑張ろう。 諦めちゃいけない。諦めたら。今度こそ最後になってしまうから。
いつだって。まだやれそうと。そう思える気持ちを大切にしたい。
晴れのち曇り。みぃととお別れする日だった。
昨夜は最後の夜を。しばらく一緒に過ごしたのだったが。 遊びつかれて眠くなったのか。またつま先からよじ登ってきて。 私の膝の上ですっかりおとなしくなった。かと思えば何かを探している。 ふにゃふにゃしながら。むずがるようにして。私の腋の下に顔を突っ込む。 そして。吸い始めたのだ。お母さんね。みぃとはお母さんのおっぱいを。 まだまだもっと吸いながら眠りたいのだ。胸が熱くなる。涙が溢れてくる。
ほんとうに。こんなに愛しい命がほかにあるだろうかと思った。 だけど。もっともっと冷静になろうとして。心を鬼にしてみる。
わたしはみぃとをねどこへつれていく。めをさましたみぃとがなきだす。 またみぃとをねどこへおしこむ。いやがってすぐでてくる。またおしこむ。
とうとう私はみぃとを無視する。
お別れの朝。少しだけぎゅっと抱きしめて。仕事に出掛けた。 後ろ髪を引かれるような思いを。押し殺したような朝だった。
そして。もしかしたら間に合うかもしれないと思い。早目に帰宅する。 ほんの今行ったところだよとサチコが。淋しそうな声で呟いた・・・。
息子の部屋をさがす。サチコの部屋も。昨夜は遊びまわっていた私の部屋も。 どこかへ隠れていそうだった。嘘みたいだった。もういないなんて。
おろおろと。しばらく泣いた。
あの子は天使だったね。そう言うと。うん・・とサチコが頷く。
さよなら天使。ほんとにほんとにありがとう。
|