いつもの峠道を登りつめると。そこは霧の山里だった。 粒子のかけらが一面に漂っている道を。貫くように走った。 見慣れた風景が神秘的な世界のように。見える犬も老婆も。 まるで天の生き物のように。ふわふわと歩いているのだった。
霧が晴れると真っ青な世界。光が燦々と降り注ぎ始める。 なぜか仕事が手に付かずに。庭に出てねむの木を仰いでいた。 手というか。手と私は呼びたいのだが。その枝が好きだった。 生きているのがすごくよくわかる木。空に向かってなにかを。 叫ぶのではなく。ただ空を信じて手を伸ばしているように思う。
わたしはいつも。この木から精気を授かっている。ありがたい木。 冬枯れの時が来ても。空に手を伸ばし続ける。健気で心強く在る。
あのひとに見せてあげたいと。いつも思う・・・木だった。
ひさかたの雨のにおい。ひたひたと忍び寄る水の気配を。 ぽつねんと佇みながら。ただ受け止めている雨の夜更け。
わたしのなかのまっすぐなものが。少しだけ揺らめいて。 ぽたぽたと雫になってこぼれそうになるのを感じながら。
きりりっとくちびるを噛み締めては。待ちなさいと言う。 その正体をわたしは知っているから。取り乱しはしない。
猫が。こんな雨の夜更けに。
赤子のように鳴くのが聞こえる。
ピラカンサスの実が。日に日に色づく。 橙色から真紅へとだ。それは秋の濃くなった真っ青な空に。 炎のように映っては。鮮やかな存在感を見せてくれる実だ。
あかいとりことり。なぜなぜあかい。あかい実をたべた。
自転車でいく路地で。ふと思い出しては口ずさむ歌がある。 ほのぼのと嬉しい気持ちで。風を切りながら走る心地良さ。
わたしの名前には。実という字があって。 子供の頃。どうして美ではなくて実にしたの?って。 両親に訊いたことがあったように思う。
あの時。母はなんて応えたのだろう。 父も何か言っていたのに。どうしても思い出せなかった。
さいきん。とくに今日。わたしは確信してみたのだが。 わたしは。美よりも。実が似合うひとなのではないかと思う。
木の実の実。真実の実。きっとそうなんだと思うことにした。
だから自信をもって。咲く時はきっと咲く。 そして。たとえ一粒でも。真実の実をつける木になりたいと思う。
ゆうがた。愛犬あんずに困り果ててしまった。 散歩中に。首輪の金具のところが外れてしまったのだ。
そして彼女は自由になったものだから。 怒れば逃げようとするし。好物のお菓子で誘っても。 すぐ近くまで来ては。すばやくお菓子を取ってまた逃げる。
そこへお向かいの彼氏。りゅう君っていう紀州犬なのだけど。 とりあえず好きなので。そばへ寄ってキスみたいなことして。 そのすきに捕まえようとしたけど。またすばやく逃げてしまった。
5メートルくらいのところで。じっと様子を窺っている。 その目がなんともいじらしい。いやだもんねの目をしている。 そしてどこか甘えている。ほらほらここだよ。こっちだよって。 悪戯っ子が。かまって欲しくてそうしているような感じなのだ。
もう陽が沈み始めて。仕方なく。彼女を川辺に残して帰る。 もう知らない。勝手にすればいい。何処へでも行けばいい。 と。彼女に聞こえるように言って。そっぽを向いて帰った。
すっかりあたりが暗くなった頃。そっと犬小屋のあたりを見てみる。 ふふふ。やっぱりね。ちゃんと帰って来ているではないか。 それも。ごめんなさいのポーズで。お座りをして待っている。
かちゃん。また鎖に繋がれてしまった。
自由って。身勝手をすることではないよと。
晩ご飯抜きにしたお母さんを。どうか許してね。あんず。
風が強く吹く。空が呼んでしまったのか濃い灰色の雲が。 あっちのおやまにぶつかったのか。ちょっと痛くなって。 泣いてしまうのが雨。時雨は秋の。もうすぐ冬が来る頃。
夕陽には会えずにいたが。虹に会えたのだ。 肩を落として家路についていたかもしれない誰かにも。 空を仰ぐ一瞬の時を。与えてあげたのかもしれなかった。
あたしは元気。土曜日の夜がいちばん元気。 解放されているのは。いこーる満たされていること。
あれこれを思っては。折りたたんでしまいこんでは。 気が向けば破り捨てようとさえ思うことが出来るのだから。
あたしは私を。まもっているよ。とことんまもっているよ。
はらはらと落ちはしない。私は時雨のあとの虹になったよ。
バックミラーに映る夕陽に。きゅんきゅんしてしまう夕暮。 太陽が燃え尽きてしまいそう。心が後を追ってしまいそう。
イナズマ戦隊の歌が流れると。声を張り上げて唄ってしまう。 きーみを忘れないよ。おーとなになっても。ずっとずっとだ。
だから。なんとなく。まだもっとおとなになれそうな気がする。 とても。アンバランスな部分で。私の青春が続いているらしい。
嫌わないこと。さげすまないこと。ありのままでいること。
そして。自分を信じてあげること。
もくひょうと。きぼうと。ゆめと。ゆうき。
それはきれい事じゃなくて。わたしの決心。
いま。茅がきれい。秋桜よりきれい。 朝の川辺では。すすきが。きらきらと眩しい。 こんなに光が似合う花が。他にあるだろうか。
雑草だと言われて。触れば指を切ってしまうかも。 しれなくて。それでも。こんなに優しい花になる。
風になびく。ゆらゆらとなびく。時には強く揺さぶられては。 野にあり続ける。たいせつな命。根をはり胸を張って生きる。
いま。茅がきれい。わたしはあなたがとても好き。
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