帰り道。信号待ちをしながら眺める国道沿いの姫女苑の花。
冷房を切って。窓を全開にして走りぬける川沿いの道は。 いちにちの疲れや。憤りに似たやりきれない思いなどを。 みんな嘘だったんだよって知らせてくれているように思う。
日が長くなり。まだ夕陽に染まらぬ川は。今日も青く澄んで。 ほとばしる命の流れのように。とくとくと満ちて溢れている。
だからなのか。私も満ちる。爪先から髪の先まで流れるもの。 それをなんと名づけたらいいのか。ただ感じるのみの流れに。 逆らおうとはしないのだ。ああいってしまう。ふと漏れる声。
恍惚は糧になる。ふとそのようにそれをしるし。幕を下ろす。 あとは日常に在って。妻だとか母だとかいうものに順応する。
大橋を渡る時の風ほど心地よいものはなかった。大河を渡る。 なびくのではなく突っ切るのだ。右岸から左岸へと真っ直ぐ。 見慣れた家並み。手をあげて微笑む人。そして路地を曲がれば。 愛犬が飛び出して来て迎えてくれる。水を待っている庭の草花。
わたしの帰るべき場所がいつもそこにあった。
できないことはできないとちゃんと言って。 できることはせいいっぱいしてあげてねって。 昨夜。久しぶりに話したRにそう告げたのだった。
Rに告げることは。すべて自分にあてはまることだと思う。 だからなのか。すごく真っ直ぐに向き合うことが出来る。
いちねんに一度くらいだろうか。私を頼ってくれるRというひと。 きっと友達なのだろう。決してべたべたしない関係だからながく続く。
便りのないのが元気な証拠。ずっと便りがなければそれでおっけい。 どうしても必要な時には。ちゃんと信号を送って来てくれるから。 赤信号の点滅で。一時停止した私は。はっとしてRの名を呼ぶのだ。
できないことをできないと告げることは。すごく難しいことだった。 相手を傷つけるのではないかと。すごく気が咎めたりするから。 そこで心を鬼にしようとしても。鬼は涙をいっぱいためていたりして。 どうすればいいのか。どうしてあげたらいちばんいいのか。わからない。
いいひとだって思われて慕われているのかもしれないのだ。 ならば。そうすれば裏切ることになる。落胆させてしまうのが。 怖いのだ。いいかえれば。嫌われたくないから迷い戸惑うのだろう。
ずっと前のこと。ネット間でトラブルに巻き込まれた時に。Rは言った。 「どこの馬の骨かわからない者のために、どうして辛い思いをするんだ!」
そんなふうに。私を叱咤するRだって。 私は一度も会ったことがなかった。だけど・・決して馬の骨なんかじゃない。 Rはちゃんと存在している。生身のひとだった。
声はいつも懐かしくて暖かい。そして似ている・・誰よりもわたしに。
ほんじつもうすぐもり。きょうは動いてみようと思い立つ。
家のすぐ近くの河川敷で。大掛かりな水防演習があった。 県知事さんも。それから自衛隊や赤十字の人達も来ていた。 サイレンが鳴り響いたり、上空をヘリが飛んだりすると。 見物のつもりではあったが。少し緊迫した気分になる。 頑丈な堤防のおかげで。これまで難を逃れられたんだなと思う。 大きな地震が起これば津波が必ず来るという。 とにかく高台に逃げなくてはいけない。考えただけで不安になる。 堤防の草の原に腰掛けて。柔かな風に吹かれて空を仰いでいると。 そんなことがあってたまるものかと思う。信じたくないと思う。
午後は。最近ちょっとお気に入りの商店街へ行ってみた。 アーケードで毎週『日曜市』をやっているのだ。 新芽の榊を買う。神棚に先日買った宝くじと、とても相性が良さそう。 それからおっきなキャベツが百円だった。スーパーよりずっと安い。 すごく所帯地味た姿で。宝石店のピアスを眺めたりするのが。 アンバランスな女の美なのだと。胸を張って歩くのが爽快なのだ。
うごいた日は。心身ともに活き活きとする。 生きたいから。こうしてずっと生き生きしていようと思う。
うす曇の朝もいいもんだなあと。窓の外を眺めていた。 目の前を横切って飛ぶツバメ達。動いているのはただ。 それだけのように思える。そして自分の息と心臓の音。
土曜日にお休みをもらうのは。ほんとうに久しぶりだった。 縁側から庭におりて草花を眺めたりしていると。なんだか。 ご隠居さんみたいな気分になる。いいないいな。まったり。
そしてお昼前から。伯母の四十九日の法事があり出掛ける。 お経をじっくり聞いていると。ああそうなのかそうなんだ。 と、冥土を旅する魂の様子がよくわかる。とても厳しそう。 途中で身包み剥がれたりもするらしい。でも身内が持たせて くれた内掛けが助けてくれるのだそうだ。ほっと安堵する。
ワタシハ。クリスマスニアノヒトガオクッテクレタコート。 オカンノナカニイレテネッテ。サチコニオネガイシテオコウ。
そしてうす曇のまま。今日も平穏無事に暮れていった。
我が家の庭の『初雪かずら』
昨夜みたゆめは『お葬式に行けない』ゆめだった。 何度も時計ばかり見ていて。落ち着かない時間で。 喪服を出したりしているのだけど。どうしてだか。 黒いストッキングと黒い靴が見当たらないのだった。
すごく焦ってしまって。急いで買いに行かなくちゃって。 でも時計を見たら。もう告別式の時間ぎりぎりだった。 もう間に合わないよ。どうしよう。どうしてこんなことに。 もがくような思いでいっぱいになって。ひどく憔悴してしまう。
そしたら亡くなった同級生の顔がいっぱい見えてきて。 ごめんよ。ごめんよ。行けないよって泣きそうになった。
でもそれはゆめ。どうしてそんなゆめを見たのだろうと思う。
今日。ちゃんとお見送りに行った。 子供の頃仲良しだった友達とふたり寄り添って手を合わす。 彼女はずっと泣いていた。私はくちびるをぎゅっと噛み締めていた。
不安でならないのだと言う。私もそう。死ぬことはとても怖い。 病気しなくて元気にしてても。明日死ぬかもしれないって思う。 たとえばずごく嬉しいことがあった時。ああ明日死ぬかもなんて。 思うよ。私もいつも不安なんだよ。生きたいよね。もっともっと。
そう言うと。彼女は肩をふるわせて泣きじゃくりながら。 「時々は声をかけてね」と言った。こんな場所じゃないところで。 また会おうよねと言ってくれたのだ。うんうん、そうしようねきっと。
すごく仲良しだったのに。どうしてこんなにも会わずにいたのだろう。 亡くなった同級生が病気だったことさえ。私は知らないでいた・・・。
残された私たちには。あとどれくらいの時間が残されているのか。 なにもわからない。わからないからこそ。
もっと。もっと。惜しみなく生きなければいけない。
たまにこんな夜もあるものだ。
まったりとしたいのに。できなくて。 なにがげんいんなのか。わからない。
気分が散らかっているように思うから。 ほらほらこっちだよって呼んでみても。 しらんかおして勝手なことばかりする。
しまいには時計が壊れているのではと。 うたぐってみたり。いやだなこんなの。
はやく眠くなるといいな。眠りたいなあ。
ちくたくちくたく。秒針ばかりが動いている。
夕方。いつもの川沿いの道を帰ってくると。 今日は堤防の草刈作業があったらしくて。 なんだかとてもさっぱりとしすぎていた。
あの夕風に揺れる真綿のような草の花も。 あのけなげに思えた野あざみの綿帽子も。 咲き始めていた姫女苑の白く可愛いのも。 みんなみんな。あとかたもなく刈られて。
あんまりだよって。息がつまるくらいに。 寂しい気持ちでいっぱいになったのだが。
きれいさっぱりっていうのは。きっとこんな。 ありさまを言うのだろうと。すぐに思い直す。
そのままにしておけないこととかあるのだし。 そのままじゃいけないこととかあるのだろう。
まっ・・こんなもんだろう。
これがいいのだろうと思った。
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