恋の語源は。『魂を乞う』ことであるらしいが・・・ わたくしはどなたの魂も乞うてはおりませぬゆえ。
だけれども。ふと何かを乞うことがあるような気がする。 その状態はいと哀しく。せつなきものにてござりまする。 気付けば苦しく。それを消し去ることは痛く辛いものにて。
男女の情けも、ひとへに逢ひ見るをばいふものかは。(よしだけんこう)
かの人の居ぬまに脱線を試みるが。
酒のちからとはオソロシキものよのう・・・。
その窓から公園が見えて。子供達がサッカーをしていた。 銀杏はまだ黄緑。風がするりと横切って。誰も座らないベンチのところで。 一瞬止まったように見えた。風が座った。と、その時思う。
彼の足はどこかで見た足。じっと動かなくて。だから思い出した。 縁起でもないけれど。似ていたから。あの時の父さんの足だった。
そういえばもっと似ているところがたくさんある。 厳しさを態度で示すところ。面と向かっては何も言わないところ。 ほんとうは知っているくせに。見て見ぬふりをするところ。
それから名前。けんじとけんじろう。 そうか・・そうだったんだ。ふたりはよく似ていたんだね。
銀杏が色づくまでは。そこに居られないそうだ。 なんだぁ・・ほんとにたいしたことないじゃん。
明日はもう歩けるそうだ。「おはよう」を言いに行くね。
完全燃焼したカラダがかったるくも喜んでいて。 帰宅するなり冷たいビールをぐいっと飲んだ夕暮れ
買い物もちゃんとして来た。昨日の忘れ物と出来てるコロッケとか。 好きな事をやらせてもらっているという負い目のようなものが。 最近まるでなくて。家族に文句を言われても少しも気にならなくなった。 「しょうがないな・・」と言ってもらえたら。それですごく満足。
無理をし続けたのは20年くらい。やらなくちゃいけないといつも思っていた。 好きな事に費やす時間を。我儘な時間なんだろうとずっと気にしていたっけ。 特に夫君。いつも厳しかった。顔色を窺いながら・・逃げるようにしながら。
だから優しくなれなかったのかもしれない。 気遣うことより。嘘をつくことを覚えたりしたから・・・。 だから認めてもらえなかったのだと。今はそう思う。
歳を重ねるごとに。まるくなってきた彼を想う。 ご機嫌とりでもなんでもない。思いやることが自然に出来るようになった。
そうして思いがけずそれが返ってくることがある。 ふとした時に。なんてやわらかな眼差しだろうとはっとする時があるのだ。
日中は汗ばむほど。遍路道を行くひとも木陰でひと休み。 あちらこちらに咲くつわ蕗の花は。まるで小さな向日葵のようだ。
私はといえば。少し気の急くことがありなんだか落ち着かなく過ごす。 ちょっとした日常の変化にたぶん弱いのだろう。どんと構えていたいものだ。
夫君が。月曜日から急遽入院することになって。 なあにたいしたことではないけれど、やはりそれはなんというか・・・。
午後から仕事を休ませてもらって。必要な物など買い物をしておく。 ようしこれでおっけいと思いきや。案の定買い忘れた物があった。
明日はバドの大会があるので。気分はそっちへ向けておきたいところ。 だからよけいに気を遣う。そのせいで手抜かりがあってはいけないとか・・ 終り次第ちゃんと買い物に行くから。大丈夫、まかしといてね。
はぁ・・こうしている間も。なんだかすごく後ろめたくていけない。 自分だけの時間とか。いいのだろうか・・これでと思ったりしている。
だからと言って。気を遣いすぎたら厚かましいと笑い飛ばされるだろう。 そういうひとなのだ。うん・・ずっとそういうひとだったから。
いいのだろう。きっとこれで。
おととい買った。ちょっと冬っぽい綿シャツを着てみた。 サーモンピンクと黒のチェックのやつで。迷わず買ったやつ。
洗面所で髭を剃っている息子くんに見せに行く。 「おっ!ええじゃん」と言ってくれて嬉しくなる。
でもながい。袖がながくて。「かーさん腕が短いんだよね」と。 言ったら。「足もだろーが!」と言われて。だよねーと笑い合う。
ジーパン買っても切る部分が多すぎる。その部分で手提げ袋が出来る。 だからまあ。それもええのじゃないのかなあと思うのだった。
「免許証持った?気をつけてね」毎朝同じことを言って。 これってたぶんお嫁さんもらうまでずっと言うからね。
夫君は彼よりも先に出掛けた。すごくしょんぼりと肩を落として。 なんだかとても不安そうで。「行ってらっしゃい」も言わなくて。
ごめんね・・。
じゃあ・・私も行くね。「行ってきます」
寒いね。だけどきりりっとするよ。
きみは?少しは眠れたのかな?
ため息がきこえる。見えないけど感じる。
肩にそっと手をおいてあげたくなる。
そうして心から微笑めば。きみも。
にこっと微笑むかもしれないから。
きっとじゃなく。どうしてもじゃなく。
ささやかなむくもりを届けたい。
きみに。精一杯の勇気をあげたい。
か細くも光る朝を。きみにあげたい。
雲ひとつなかった空に。ほわんほわんといつのまにか。 雲が生まれる。それは午後のやわらかな風のなかにいて。
穏やか過ぎることが。ふと怖くなるくらい。 何事もなく。それがあたりまえみたいに時が過ぎて。
夕暮れの川辺の道を行けば。ボートが二隻。 ゆったりと。どこまでやら。理由なんてあるはずもなく。
そんな無題が心地よい。流されているのではなく。 漕いでいるのだ。水を切るのではなく水とともに。
私も。私だって無題かもしれない。 いつまで生きていつ終るのかそんなこと知らない。 その時は「ああ・・今ね」って言ってみせるから。
生まれた雲が重なって。茜の雲の行く末を。
誰も誰も知らない。夜がゆっくり更けていく。
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