白のねがい

あなたが死ぬのを
見たくはないのです
あなたが泣くのは
なおさら見たくないのです
あなたが冷たいからだにすがり
どうしてどうして、と
大声でたずねるものだから
動けぬ者たちはいつも途方にくれる
きっとわたしも困るでしょうから
だから、あなたに住まうわたしを
連れ出してしまうのです
あなたのつむいだ年月を
すこしばかり、ほどくだけ
わたしを持たないあなたを知れば
いくらか安心できるでしょうから
そしていつか
あなたに出会うときには
ひとりで生まれて
ひとりで大きくなったのだと
無邪気な子供に打ち明けるように
あなたに語りかけるつもりです
2009年01月24日(土)

23時

冷めたコーヒーと
いつもの影を、ふたつ
ドアが鳴くたび
咎めるのは雨音
いくつかを飲み込む
迷いのテーブル
カップに沈む灯り
唇に、煙草の匂い
2009年01月19日(月)

潜る日

空は銀の色を映す
おととい、5年前、億年前、
誰の祈りも叶えずに
過去だけを映す


空はゆるく世界を分かつ
声はない
あぶくは耳をころがって
銀の幕へと吸い込まれていく


空の向こうに
気づいてはいけない
もしも指を鳴らすなら
あの子が死んでしまった、今


ここは孤独で冷たいところ
とても、美しいところ
もう一度息を止めれば
また、ひとりを映しはじめる
2009年01月16日(金)

アコーディオン

明日が今日になっただけ
鈴の音はいつも以上に気前がいい
カーテンの切れ端でこさえた
タータンチェックの楽譜からは
ひっきりなしに歌が聞こえる
やかんの湯気は遠く笛を鳴らす
ずっと前にお別れをした
彼と彼女の住処を目指している
朝方乾杯した憂鬱に少し酔ったら
せわしい楽器をまあるく抱いて
たとえば、ストーブの前
うっかり眠ってしまっても
手紙には音符をひとつ貼って
あとのことはポストに
任せておけばいいのだから
2009年01月03日(土)
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