カゼノトオリミチ
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2008年08月28日(木) サカナ




ひたひた

胸に ちいさな さざなみ

目をとじれば

ワタシは 白いかたまりに なる



湿った風が ひんやり 肌にはりつく

霧のたちこめた 湖のほとり

足許で 静かに つぶやく 波



まるい頭の なめらかなサカナ

にごった 湖水の底のほうへ

尾びれを 振り振り 消えてゆく



サカナに とっては

雨も 霧も 波も 涙も みんな一緒

ふしぎ

からだは 軽くなり

耳の中で こぽこぽ 眠たい 泡の音がする


2008年08月27日(水) ココロのコップ




いいよ それでいいんだよ

できること だけ それだけで

じゃなきゃ

ココロのコップ こぼれちゃう



でも もうちょっと だけ

ひょうめんちょうりょく っていうものが

あるらしいよ

だから ね



もうちょっと もうちょっと

もう ちょっと だけ…



ほら

こぼれた

涙になったよ


2008年08月26日(火) ユメ見る午後に




それは 思い描くから そこに在るのか

そこに在るから 思い描くのか

老犬は くるりくるりと しっぽを追う



太陽は ややチカラなく

さやさやと 夏の終わりの 葉が揺れて

そう もう このまま

風に身を任せ 口も 目も 閉じてしまおう



誰もいない 表通りを

ユメの街へと 歩き出そう

影がうしろを ついてくる

ずっとずっと 内側へと 歩きだそう



2008年08月22日(金) 逝く夏に




いいんだよね これで いいんだよね と

誰に 問うのか

チカラつき アスファルトに散る

百日紅の桃色は



歩いている 秋の気配を ワンも

感じている

時々 立ち止まり 振り向き

私の顔を 見上げては また

歩き出す



みんみんみん と

名残のセミが

百日紅の幹に 止まっているのか

私と ワンの 背中に

呼びかけている


2008年08月14日(木) この街で




夕飯は 二合炊こうか 三合にしようか

そんなことが 悩みなのかと

笑うでしょう



夕暮れの空 アンテナの上で

思い切り さえずってみたい

そこから軽々と 羽ばたいてみたいと

そんなことが 望みなのかと

笑うでしょうけれど



チイサナ街の チイサナ空間で

静かに息を している者です

湿った風が 夕暮れを 知らせて吹くと

いちにち ひとつ やっつけたと

なんだか ほぉっと するのです



とはいえ

安らかな 夜が来て

そして 日めくりが

一枚だけ めくれて また 明日が

来るのですけれど


2008年08月02日(土) お勝手にて




西日の輝き 見つめている

まるい背中

誰かの重さを ずっと受け止め そこにある

廊下の奥の 古い木の椅子

ぼろぼろの チェックのカバー



お勝手には 底なしの 寂しさがある

話しても 話しても 誰にも 伝わらない

砂のような 寂しさが 

油とともに 染み込んだ 壁 



腰を下ろす 炊事場の主(あるじ)の 

あまりの 軽さに 古い椅子は 小さく きしむ

カップには お茶でなく

いつの間にか ため息で いっぱい



6時の時報が

静かに 今日も 鳴り始めると

冷蔵庫の隅に 隠れていた 夕闇が

部屋に広がる

もう いいのよ 安心して と

優しく背中から 包み込む


natu