カゼノトオリミチ
もくじ過去未来


2006年11月29日(水) なべとDNA




気がつくと

なべを磨いていた

どこまでも どこまでも

終わりがない時に 迷い込んだかのように


ふと 父を思い出す

なべはいつもきれいにしろ

怒ったようになべを磨く 父の背中が怖かった


母は ただ

そばで おろおろするだけだった


父にとり

磨くものは 何でも良かったのではないか

すべてを忘れて

なべに取り込まれていたかった

それだけだったのではないか


わぁきれい!

私には 無邪気に喜んでくれる笑顔がある

それだけで 救われる

父には 必要のない笑顔だったのか

その質問に答える人は

もう いないけれど










2006年11月27日(月) 明日のためにできること




明日のためにできることは

よる 寝るまえに

あす着る服をならべておくこと


あすの早朝 手順よくお弁当が作れるように

お弁当箱とはし箱を

キチンとならべておくこと

たまご焼きの

フライパンとボウルをならべておくこと


それから

きょうは誰かに

やさしくできたか

ベッドのなかで かんがえる


小スズメ達のように

おしゃべりばかり していたとしたら

ばらまいた言葉たちを 

静かにホウキで 掃き清め


あとは

目覚まし時計を ちゃんと5時にあわせること











2006年11月23日(木) 「ぼくは12歳」




新聞のひだりしたに

いじめに関するコラムが載っている


きのうも何気なく目を通していたら

閉じられていた 奥のほうの扉が

とつぜん 開いたらしくて

湿った木造校舎やら あの転校生のガラス玉のような

大きな瞳や 真っ白い頬 舌足らずなおしゃべりが

蘇ってきた


コラムを最後まで読んでわかった

コラムを書かれた方は「高 史明さん」

「ぼくは12歳」という詩集を出されたかた


「ぼくだけはぜったいにしなない」と

書かれた息子さんは 自分で命を断ちました


中学生だった私に この本を教えてくれたのは

私の持っていないものをすべて持っていた 転校生


聡明な彼女は いつも口の端で笑っていた


「ぜったいにしなない」と書いて

なぜ 命を絶ったのだろう?


その質問を 私は彼女にすることが出来ませんでした


それから ながい時を経て 

きのう

「高 史明さん」のコラムを読みました

その答えを

教えてもらった気がしました











2006年11月21日(火) チイサナしあわせ





とことこ おさんぽ いこうかな

うとうと おひるね しようかな


きょうはおやすみ


こはるび ぽかぽか

せんたく はらはら かぜにゆれ

みあげた そらに

ころころ うかぶ ひつじぐも


わんこ なでなで かんがえる

なににつかおう きょうのおやすみ


おひさま かたむく そのまえに

きゅうに さびしく なるまえに





2006年11月16日(木) 橋とイノシシ




その子はなぜか 夏休みになる前から

絶対にここを渡らせない と

橋の真ん中で 牙をむき出し仁王立ちしてた


私は毎日 学校帰りに橋のたもとで呼びかけた

どうして渡っちゃいけないの?


朝ごはんも給食も 美味しくない

5時間目の終わりの鐘がなると 胸が苦しくなる

理不尽だ


その秋のなかば すごい台風が来た

学校は休みになって 街には被害がでた


橋は

壊れて 流されていた


おばあちゃんと川を見に行った

増水して赤茶色に顔色を変えた川の向こう側に

木のきれっぱしが 頼りなげに浮き沈みしている


橋だ


なあんだ あんなに守っていた橋が

簡単に流されてしまったんだ

滑稽なくらい


あの子を思い出し 急に哀れになった


明日から 学校が再開する 

刃を失くしたイノシシは

何を私に突きつけるのだろう


かわいそうな  かわいそうなイノシシ







2006年11月13日(月) お願いだから




お願いだから 死なないで

ちっぽけな町のちっぽけなヒトが心でつぶやく

ただそれだけ

なんにもできないけれど


でも

あなたを必要としている人がいる

あなたの存在がこの世から消えたら

涙を流す人がいる いるんだよ


それだけでは

死なない理由には ならないですか?


傷ついた人は 確かにあなたなんだけど

あなたが死んだら あなたが人を悲しませるんだよ

それだけの理由でいいから


生きて


きっときっと この先

生きていて良かった って、思えるから

ほんとに


















2006年11月10日(金) 洗濯機 さん





だいすきよ 洗濯機 さん

あなたは

ぐるぐる ぐるぐる まわって


父さんのも 母さんのも

姉さんのも 兄さんのも わたしのも

おじいちゃんのも おばあちゃんのも

みんないっしょくたにしてくれる


ジャーと

新しい水がそそがれる音も大好き

そして

カチリ というつぶやきがまちどおしい


さあ

みんなしてベランダにならびましょう

さんさんと照る 暖かなお日様から

明日のエネルギーをもらえるの










2006年11月09日(木) 孔雀




熱がある

うとうと 眠りの波間をさ迷う

時おり、水面にぽかり 頭が出るので

辺りを見回す


薄紙を一枚ずつはがしてゆくように

場面は移ろい

どうにも居心地悪くて

何度目かの寝返りのとき ひらり横切った

青い孔雀の長い尻尾を掴んだ


空高く飛びあがり振り回されたあと

塀に止まる孔雀

必死の形相の私を見つけると

せせら笑うようにお尻を上下に振り

ふるい落とした


寝巻きのままゴロゴロと石とともに転げる


あぁ 薄紙がすべてはがれた時

私はまた孔雀の尻尾を掴んで

箱庭のような下界を

ゆがんだ顔で

みおろしているのだろうか










2006年11月08日(水) マグロ大水槽




ピチュピチュ 青い尾っぽを上下にふりふり

トタン屋根の上で尾長が4匹

まあるくなって 朝の会議中


行き場をなくした言葉たち

だから 早く外へ出て 

遠くから来た 朝の風を深呼吸しないと


下駄ばきの素足

カラコロとこちらへ振りむいて

ガラス越し

さっきまで居た 部屋の中をのぞいてごらん


あんな中にいたんだよ

いつかの水族館のマグロ大水槽のように

言葉たちがぐるぐると部屋中を巡っている






2006年11月06日(月) 昇華




こんな瞬間には きっと

カラダに張り付いていた薄く白い布が

思いも寄らず はらりと

はがれ 折からの風に 音もなく舞い上がり

灰色の空に消えたような


昇華というコトバがふさわしくないのなら

なんと言えばいいのか


長い道のりのあいだで

こんなキラメキの瞬間を手にした時

カラダの中に堆積していた思いが

ふうわりと 消えていたのではないか


生あればこそ きっといつか

その刹那のキラメキを こころに灯して

また続く道を歩いてゆけ

その果てを探して











2006年11月02日(木) グレイの空のすきまから




貧血の波は 大波 小波

横になって頭を低くするべきと

わかってても しばらくすると

ふらふら お勝手へあるく

今日に限って なんでこんななんだろ


さむい さむい

空にはグレイの雲が どこまでも低く街を覆い

手の先が凍るように冷たい


貧血の波は 大波 小波

あぁ 波のおさまったこのスキに

チンとなった紅茶を取りにレンジまで行こう


ふと

グレイの空のすきまから

うすい光が射しているのが見えて

なんだか空に励まされる

 
弱々しい日差しが床に伸びた気がした

それは

チンしたカップの暖かさだったのかも知れないけど


ありがと

少し元気が出たよ












natu