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2000年08月31日(木) 補足っつうか+α

当日の事……。もうだいぶん記憶があやふやだったり
はっきりしていたりする事あるんですが、書き忘れていた事も含めて
前の日の夜の話から。あたりさんの日記にもちょっとからめて。


ホテルで一休みしてから、尻にはえた根っこを引き剥がしてお外へご飯に。
ご飯は大変おいしかったのですが、そこで実にオタクなお話盛り沢山しました。
本当に、あたりさんと2人きりという状況がそれをそうさせたかもしれませんが
実にムサヒルのお話したなあ………。

あたりさんの日記の話とかもしたのですが
あ「××の絵のイメージなんだよね、耳のヒル魔のちょっと前って。わかる?」
や「わかるよ!わかるさ!あったりまえだろ、あたりさんちのあの日記絵だろ
  ちょっとセピア入ってて、笑えずに睨む事もできずに顔強ばってるヒル魔だろ
  肩に置かれた手が誰なのか気になったやつだろ。身なり綺麗なのに
  なんだかとってもすさんだ風な雰囲気のだろ!!」

やまだ、レンジャのムサヒルに関しては見事にマニアなオタクですからね。
忘れている部分も多いですけれど、気に入ったお話は忘れなくてよ!!!


そして、あたりさんの設定の素晴らしさにぎゃあぎゃあ言ったり
あたりさんの設定だったらやまだのあの設定が生きないわよう!って駄々こねたり
ご飯美味しいねってお話をしました。


でもいくらやまだでも自分が食べているきのこをチンコには例えないんだぜ。
(あたりさん日記版参照)



とにかくやまだはあたりさんのあの話大好きなんだぜ!って叫んで
あたりさんの設定でやまだはこんな妄想したんだよ!って叫んで
あたりさんを「うわ……」て言わせました。

鉛筆で描くのとペン入れしたらうんぬんとか
このサイトさんのムサヒルはここが素晴らしいのだ、とか
仕事どうだね、とかこのお菓子美味しいねとか
よくまあしゃべる事尽きないもんだなあ……て思うぐらいしゃべりました。

実は会う直前まで「お話するネタが尽きたらどうしよう」
「沈黙が続いたら気まずいよなあ……」と思っていました。まじです。
いろんな方と御会いする都度、こんな心配をしております。
もう2度と会いたく無い、とか
やまださんてノリ悪ーい、なんて思われたらどうしよう、
愛想つかされるのは1回で済むんだぜ!って
毎度どの方と御会いする時にも思います。

なんとか楽しくリラックス出来てよかった……。


だらだらと少しずつお酒を注文しつつ。
適度に満腹になったのでおあいそ。
お店は全席が個室タイプで素敵でしたよーー。


さて。
お店から出てちょっとほろ酔い、かなりイイ気持ちで外へ。
更にそばにあったコンビニでちょっとだけお買い物。

そして。
脇道に鳥居が見え、あたりさんと共にそちらへレッツゴー。
薄暗くて。人気が無くて。尚かつあの敷地の狭さ。
周りは見事に住宅街で、道は狭くて、車なんかも停められる場所が無くて、
なのにしっかり「異質」で「神聖」で「おごぞか」な場所が大好きなのです。

そこでおみくじひいて。何が出たかは覚えてませんが
何匹もお約束のように猫がいました。
あと、カップルさんもいらっしゃいました。
2人はラブラブ空気に浸るためにこの場所に来たのでしょうか。
確実に一般な方だと思いましたので
ひっそりするつもりだったのですが実行出来ていたかは疑問です。
そこにあった狛犬を見て、ひっそり阿と雲って本当にぴったりだなと
そんなお話をしてみたりしました。
口を閉じて耐える犬と。口を開いて思った全てを叫ぶ犬と。
本当にこの双児ちゃんたちは内に秘めたパッションが熱い。
言いたかったけど、口に出すのはちょと恥ずかしかった。



もちろん脳裏ではムサヒルに関する事がわんさかしていましたが
あたりさんとの素敵お散歩に夢中ですっぽり抜けてしまった気がします。
ちなみにここからホテルへ戻るまでの道順をやまだはリクエストしたんですが。

や「こっち!」
あ「そっち行っても何もないと思うよ……」
や「こっち回ってこう!」

そしてしばらく歩いてから。

あ「もういいかい」
や「え?」

どうも、やまだはホテルと正反対に向っていたようです。

あたりさんは優しいなあ……。
でもたまにはべしりっと叩いてやまだをしかりとばした方が手早いぞ。

ホテルに戻ってからは、前述した通りなんですが。
あたりさんがきびきび動くのにやまだはだんだんスローペースしていきまして。
最後、ばったりベットに倒れました。

その後、だらだら起きたり寝たりを繰り返したのはあたりさんの日記の通り。
やまだの寝言はアグレッシブです。寝ては起きて。起きては寝てを繰り返します。
周りにははなはだ迷惑な行為です。




2000年08月30日(水) あたりさん出張版3









2007年6月4日(月)




ダッシュ回想+総括 ..No.1857

前振り散々書き散らかして。
本筋を箇条書きにしてしまおうという寸法。

すみません。


【5月27日/イベント当日】

・起床・天パ全開

・整髪料を忘れモサモサ頭でコンビニへ行く

・ダーリンと朝食バイキング(微妙な味)を散々食べる

・フライングしてオープン前に会場に着く

・出直す

・ダーリンの新刊のホッチキス留め開始

・ホッチキス作業終わらない

・せっかく借りた椅子が後方で荷物置きと化し始める

・お隣のスペースに荷物がはみ出し始める

・ホッチキス留め終わらないままイベント開始

・とりあえず出来た分だけ並べる

・先に買い物に出てみる

・恥ずかしくて立ち読みできずすぐに戻る

・ダーリンの新刊売れゆき上々

・並べた部数が足りなくなる

・ダーリンいなくなる

・アタリさんホッチキス作業する

・「出来立てです」とか言ってみる

・「出来立てですね」と言われる

・ネット界の方々とお会いする

・緊張する

・けれどもスローガンは「明るく元気に」

・頑張る

・ちょっと無理がある

・反省を兼ねてしばしば喫煙所へ通う

・ほとんど本を買っていないことに気づく

・開き直ってお菓子を食べ始める

・スケッチブックを震える手で描かせていただく

・後悔する


・イベント終了


・ダーリンと浅草橋付近の喫茶店に入る

・おたくらしきグループたっぷり

・稲さんへのお手紙を書く

・目の前のダーリンにも手紙を書いてみる

・お互いのムサヒル・十ヒルについて話す

・・間取り図まで書いてみる

・自分が本を出すならどんなものかについて話す

・CD−Rを焼く、とか暴走し始める

・タイムリミット

・ダーリンに見送ってもらってお別れする

・東京駅で「東京ばな奈」を買う

・新幹線の時間を間違えていたことに気づく

・無理矢理乗った「こだま」の中で悶々とする

・悔し紛れに擬人化新幹線カップリングを考える

・反省する

・帰宅


そして。
先ほど文字を打っていて思い出しました。
ホテルのメモ(2枚目以降)に。
大量のムッサンを描いたまま放置してきてしまったことを。

泣きたい。

0:32


【総括】

華奢な方とボインがいっぱいでした。

ムサヒル・ヒル受けには。
そういう効能があるのですか。
みんなやたらと女の子らしかったですよ。

ねえ。

2:07











2000年08月29日(火) あたりさん出張版2









2007年6月3日(日)




  駆け足回想(前日/夕飯〜就寝)  ..No.1856

オンリー・イベントの。
ご報告レポートを何の気なしに打ったら。

久々にフォームに撥ねられました。

ということで。
お時間・心に余裕のある方は。
ひとつ下の日記からお読みいただければ幸い。

毎度申し訳ございません。


【5月26日/後半】

その後。
わあわあ話ながら「夕飯どうする」と。
あと15分したらと引き延ばしつつけ。
いい加減出かけなくてはまずいだろうという時間になって。
ちょっと歩いたところにある「網焼き屋」みたいな。
何か細い階段下ったところの店でご飯を食べました。

「北海道チーズとモッツァレラ」みたいな。

なんで北海道から来たダーリンと。
そういうものを食べているのだろうと思いつつ。
ほどほどに食べ、ほどほどに飲みました。


ダー:「きのこって大好き」

アタ:「私もー」

ダー:「きのこっていいよね!(興奮)」

アタ:「美味しいよねー」

ダー:「“お前っていい奴だな”って思うよね!(身振り)」

アタ:「ねー」


そんなマイルドな感じです。
あ、でもごめん。
私が間違えていたらごめん。

もしかしてダーリンが「ちんこ」のこと言ってたらごめん。

でもあれだよね。
箸で突っついてたのエノキみたいなのだものね。
ちっちぇエノキかヒラヒラマイタケだったものね。
違うよね違うよね。

でもダーリンがそういうちんこが好きだったらごめん。

人のちんこ好みはわからないからさ。
一応今さらだけど謝っておくよダーリン。
細心の心遣いだよダーリン。


食べて・飲んで・煙草を吸って、わあわあして。


帰りはコンビニに行って水を買って。
帰りにネコいっぱいの神社で。
おみくじをひいてみたり(ダーリンは吉・私末吉)。
まったりデートを楽しみました。
コマ犬の「阿吽」を見て金剛兄弟のお話をしたり。
そこの阿っくんコマ犬がなぜか子コマ犬を連れていたので。
子持ちだの子産みだの受けだのと。
かなり罰当たり会話をしたように思います。

満喫・満喫。

ホテルに帰って後は。
シールを切ったり新刊の表紙を折ったり。
今から無料配布チラシつくるか、なんて。
また大概わあわあしながら作業していましたが。


日付変更線を前にして、ダーリン落つ(半靴下)。


ダーリンはお鼻の調子がイマイチらしく。
寝息がプスプス聞こえました。
じっと見ていると鼻がピスピス動いていました。

…お疲れサマンサ(お前はもう起きないんだろ…?)。

それにしても。
ベットに向かって左半分にちらばった紙原稿。
右半分に細長い姿勢のダーリン。
よくまあ、くしゃくしゃにしないものだと感心しました。

…すごいね、ダーリン(起きているときとは別人だよ…)。

心の中で呟いて私は。
まあこのくらいやっとけばいいか、くらいの作業を消化し。
適当にシャワーに入って適当に身繕いして。
酒を飲んで無料配布チラシを描いてみて「だめだこりゃ」と。
諦めて目覚ましをかけて寝ようと、して。


ホテルの時計が1時間違うことに気づきました。


2人ともなんでこういうところ。
気づけないんだろうね、と。
少々切なくなっておりました。

その後、ダーリンは数度。
ドッキリカメラの「ドッキリドキドキ…」のように。
起きあがっては眠りを繰り返し。
その度。


「なんで穴がここにいないの!!」

「稲葉?!」


そんなはっきりした寝言を言ってみえました。
お前どんだけ好きなのよ、と突っ込みつつ。
翌日の朝食バイキングどんなもんだろう、と。
イベントの緊張さておき眠りについた、午前2時半。

浴衣は2人ともアッパッパーでした。


…思いの外長くなってしまいました。
本命の当日分さておきで申しわけございませんが。
とりあえず一区切り、で。

おつかれサマンサ。

21:15











2000年08月28日(月) あたりさん出張版1









2007年6月3日(日)




  駆け足回想(前日/出発〜夕食前)  ..No.1855

で、お前イベントレポートいつ書くのよ。

そんなことを言われても。
仕方ないなと思われる昨今。
お元気ですか皆さん。

アタリでございます。

さて。
記憶がもうあいまいになりつつありますが。
憶えていることだけでもとりあえず。
小声なりとも「有言実行」を掲げる自分を誤魔化しがてら。
ちゃちゃっと駆け足で1週間前を振り返って。
逃げ出してしまおうかなと。
いうことで。


【5月26日/前半】

前日の朝は。
私的・もろもろの所用でてんやわんやで。
ようやく新幹線に乗れたのは、夕方でした。
そのうえ駅のトイレから出て鏡を見たら。

両目とも白目がピンク色。

過去に数回同様の症状を経験して。
そのまま「目が開けられなくなる」状態だったため。
非常にドキドキして「まずいかもしれん」と思いつつ。
それでも「いざとなったら日帰りだ」と思い切り。
新幹線に乗り込みました。

私は想像過多のネガティビティーなので。
新幹線の中でうとうとしつつ考えていたのは。
目にタオルを乗せホテルから運び出される自分でした。

そしてホテルから発見される同人誌。

親のきょとんとした顔やら。
姉の「そこまでだったなんて…」の顔やら。
最悪の事態を考えつつ・眉間に皺を作りつつ。
新幹線は高速で走る走る。


しかしながら・現金にも、ちょっと寝たら直りました。


着いたらまた連絡するよと。
出発していた時からダーリンにメールをしていたので。
東京駅に降り立ってすぐ「着いたよ」報告しました。
八重洲口の北と南でテレコになったり。
もろもろの行き違いはありましたが。
そこは大人ですから何とでもなるもので。
東京着から10分ほどメールを重ね。
見事再会することができました。

途中。

新幹線のホームを北から南へ移動しながら。
普通の友達だったらここは「電話」だよなと。
でもそれが「メール」なのが僕らの関係なのだなと。
思えば今までの対面全部ギリギリまでメールだなと。
出会ってからの月日を私は。
走馬燈のように思い出していました。

「南口の改札真ん前でヘルシアを持って立っています」

ダーリンからそんなメールをもらったので。
頭の中で「ヘルシア…」と唱えながら改札を抜けました。


いたいた。


お久しぶり(3度目)のダーリンは毛が伸びていました。
キューティクル・サッラサッラで。
おまけに近くで見たらきちんと化粧していました。

「何でそんなに化粧してるの」

そんな風に聞いたように思います。
今になって考えてみれば妙齢の女性に向かって。
その質問はないだろうなと思いました。


それからはしゃべる・しゃべる。


今まで会った中で(といっても2回)。
一番わあわあ話したように思います。
移動中もあっちこっちフラフラしながら、わあわあ。
路線間違えそうになってまた、わあわあ。
秋葉原の看板見て血圧上げたダーリン、わあわあ。
おかげさまで私はホテル着いてフロントで。
テンションを上げてうっかり。


「やまだと同室の○○です」


違うよ違う。
ダーリンの「やまだ」ハンドル・ネームじゃないか。
フロントのおっさん怪訝じゃないか。
ただでさえおたく満載のホテルで微妙なんだ。
それ以上おいたするなよ。


でも「ダーリン」って言わなかっただけ、セーフだろう?


横からダーリンが「いえ、○○と同室です」と。
ちょっと普通の大人のフォローをしてくれたのが新鮮でした。
結構やればできるじゃないか、ダーリン。



ホテルの部屋は、紙がいっぱいでした。

出がけにダーリンが浴びたらしいシャワーの湿気と。
テーブルに乗ったスケッチブックや出力紙や。
あのこやあいつやホッチキス。

…本当に、着たんだなぁ…。

そう思いました。
ちょっぴり「着てしまったなぁ」と思いました。
今回の無料配布本の原稿を見てダーリンとまた。
わいわい話ながらふと「慣れて」いる自分に。
気づいてひやりといたしました。


前は、人前であのこの話ができなかった。

まさか、人前で同人誌読むなんてできなかった。


怖い怖い。
今さらピークを迎えてどうする。
これ以上社会的に虐げられる人生はどうだ。
と思いつつ。

…とても、楽しかったです(自分が残念)。

21:09












2000年08月27日(日) 古本屋さん


[3取り急ぎーー。]そんな大したもんでもないですがしばらく日記の上にあげときます。

武蔵の耳ってのはこちら 日記内でのつぶやきでした。下の方。

武蔵の目ってのはコチラ

そして田路さんにいただいた素敵物はてか暖冬様の「彩」の「その他」からどうぞ

ヤンヤンさんにいただきました萌え漫画はやんかちゅ工務店様にあるんだから!
見ないと損するんだから!!!!




[そういや目が見えない武蔵って言えば]

ちょうど1年前ぐらいにレンジャ4人で絵チャやったときに
そんな話で盛り上がりまして、せっかく4人いるというのに
しっかりやまだが暴走したんでした。またしても1人で暴れて
下の文字欄を埋め尽くし、他の3人を黙らせる暴挙に出てたんでした。

で、心優しい稲葉さんがそこに挿し絵を何十枚も描いて下さったというか
稲葉さんの絵にその場でお話くっつけてったというか。
(しかし今見たら参加者の名前が酷い……)
(アーバンポエマー/うたたね議員/よこしま大王/ばっつり講演会)
(………もう自分がどれなのかさえちっともわからねえ)
(誰が誰なのかさっぱりだ。ああさっぱりだ<ちょいギレ)

ほんとに大変に盛り上がったのですがやまだ、盛り上がり過ぎて
つまり下で語りに力入れすぎて半分以上の稲葉絵をとりのがす。

起きていて、アレ程稲葉さんの絵をとり逃したの最初で最後じゃないかな。
(寝オチして全てを見のがす事はわりとあります)
(今でも自分を呪いたいのはやまだと某絵描きさんと某絵描きさんと3人絵ちゃ)
(あああああああ……………やまだのあほぉーーーーーー!!!!)

まあ、トリノがしても大丈夫。
「このシーンもっかい描いて☆」ってお願いしたら
きっと稲葉さんは描いてくれるさあ、なんて思っていたらですね。
文字データさえとっておけば問題ないやね、と思っていたらですね。
やまだのMacが固まりやがって、この時の絵茶の文字ログが
一切がっさい吹っ飛ぶという恐ろしい事態が発生しまして。



文字のデータが残っておりません。



武蔵の目がうんぬんて話で和服で古本屋店主で眼鏡のおっさん。
ヒル魔がたしかヌードモデルの大正時代ぐらいの話だったんですが。
これまたちっとも覚えていない。
レンジャの誰か、やまだに当時のお話を教えてくれええええええ

いつ思い出しても頭の痛くなる思いでです。

そして眼鏡。この時の会話の思いでは
「リクエスト何かある」って言われて。
「眼鏡」って答えて「またかよ……」という会話だけ。

そうだ。どうせリク言われたら必死に考えても眼鏡しか出てこないんだよ!
やまだの頭はぽんこつなんだよう!!!
やまだのMacもぽんこつなんだよう!!!!

誰かかいてええぇぇ……。


AM1:18


2000年08月26日(土)

土曜日。

遅くまで入ってこなかった仕事を2時ぐらいまで頑張ってこなして
大体後は月曜に必死になればいいやって所で放り投げる。
だってヒル受けイベントなんですもの!!!

後は無料配布本作るだけで、半分まで書き上がっている話を書けばおしまいって所で。
ふとシールをまだプリントアウトしてなかった事に気づきます。(遅っ)

カタカタ会社で文字打ちながら会社のレーザープリンタ使えばいいや、と
軽く考えていたら凄い大音量の機械音と共にプリンターが停止。(大体2時半頃)
あーーー。薄い紙だから紙詰まりかな‥‥と中を開けたらすんごい奥で紙が詰まっている。

しかもインクちょっと溶けている。(レーザープリンタはインクを高熱処理でインクを定着させます)
溶けて固まって張り付いてる‥‥‥‥。やばい。


ここから。涙目でやまだのプリンタ調整が始まります。
何しろ明日は土曜日です。やまだはお休み取ったとはいえ、
他の人達は会社に出てきて仕事あるわけで、
当然プリンターが動かないと仕事にならないわけで
そんな事になったらやまだは明日出勤される前浜さんに
合わす顔がないというか東京行くなんてとんでもないお話な訳です。

紙を引っ張って、詰まってる部分を取るために手前から部品を外して
再起動させるに荒熱取って、ローラーを手動で動かして紙を滑らせて
ひたすらつまったインクを拭いていきます。

普段からこのプリンタは困ったちゃんなのでいつの間にか
サービス呼ぶ前に手動修理などを社内でやるようになっていまして
やまだはそれを見よう見まねで覚えていたんですね。
いつもは佐木さんや前浜さんがやってくれてました。(止まった直後のプリンタは)
(かなり高熱高温で危険です)

大体2時間ぐらい分解して修理してため息をついて、冷や汗びっしょりで奮闘して
なんとか大丈夫かなーって所で組み立てます。



部品はまんないよ




なんで?皆さんがやってるときはさくさく組み立ててたのに!
やまだだって取り外しは簡単だったのに!蓋がしまんない!部品入らない!

で、無理に押し込んでバキンって言わせたりゴキンて言わせたりして冷や汗MAX。
アロンアルファでくっつけたり変な跡つけちゃった部品を紙やすりで傷隠したりして
ひぃひぃ言いながら更に奮闘。


それでも蓋が閉まらない‥‥‥。(朝4時)


まずい。明日は土曜日なんです。
エプソンさんの修理サービスはやっていないんです。
ということは。このまま治らないとなると。
明日会社に出社して事情を話して、仕事ある人たちのサポートに走り回るのが筋ってもんです。
(その前に土下座しなくてはなりませんが)

イベント‥‥イベント‥‥(涙目)


まさかこんな所でとんだ伏兵にやられるとは。アリエナイ現実に
大変具合悪くなりました。

まあ、その後なんとか部品がうまくはまって蓋閉めても。今度は再起動がかかんない。
ご近所が飛び起きそうなとんでもねえ爆音を立てて途中で止まって
メニュー画面には「サービスに連絡して下さい」メッセージと赤ランプ点灯。

30回ぐらい、だましだまし熱を冷ましたりショックを与えてみたり
無駄にトナーを差し替えてみたり感光体を変えてみたり
色々頑張ってみたらがんばったせいなのかどうなのか突然治りました。
そんな簡単に拍子抜けするぐらいあっさり治られるとなんだか悔しい。



もう、朝5時。
飛行機は7時40分に飛び立ちますからタイムアップ。
無料本は諦めましょう。
大急ぎしつつ恐る恐るシールプリントして会社を出ます。

外、超大嵐。

なんだこの悪天候は‥‥‥‥。
雨より風が強くて自転車で前に進めません。
ともかく自宅にたどり着くまで大幅に時間ロスト。
移動は自転車使おうと思っていましたが諦めてタクシーを。
荷造りしてあった袋をつかんで車に飛び乗り、しばらく走った所で
財布を忘れて家に戻る

なんとかまあ札幌駅にたどり着いて千歳行き電車に乗ります。
この段階ですっぴん。フロ無し。両手に荷物。(紙が重たい)
よく考えると昨日金曜日は昼食べてない夜食べてない。当然土曜の朝も全然無理。
始発に近い時間だというのに電車満席。座れない。きつい。
まあ、40分だしと思って耐える決心をしてから約5分。
立ったままうとうとしていたら電車の揺れに耐えられず
通路中央部分を派手に転倒。

おばあさんに「席代わりますよ」言われました。
まあズボン破けてないから平気だと思うことにする。
窓の外を見ながら今のやまだは置物だと自分に言い聞かせる。

なんとか別の空席を確保して目を閉じる。目を開けると空港。
買い忘れたお土産とかを揃えて飛行機に飛び乗る。目を閉じて目を開けると東京。


暑い。


札幌を出た時気温は9度。で、東京は既に24度。
一応薄着の格好してみましたが温度差は体力の抜けた身体にずっしりと重く。
ついたよーなんてお気楽なメールなどを関係各位に送る余裕もなく
ともかく軽く食事して(スープとサンドイッチ)
本買って(文庫本のギャラリーフェイク)
食事して(カレー)電車でゴー。
1本で行けますよと言われたにもかかわらず
途中で電車を降りて試し試ししながらホテルへ。

つうか道順以前に駅名ぐらい覚えろってんだ。

ホテルについて購入したもの(おにぎり2個)を食べながら
シャワー浴びて製本してテレビ見てお昼から夕方までをだらだら過ごす。
この時間帯に寝ておけば‥‥‥とか
荷物の整理をしておけば‥‥と後で後悔。

あたりさんと合流するために東京駅へ。
しかし、時間が余ったので本を買って(ムーンライトマイル新刊?)
まったく水物を取っていなかったのでヘルシア飲みながら待つ。

あたりさんが手を振りながら改札を出て来てくれて心底ほっとする。
(ごめん‥‥わからなかったよ‥‥‥‥‥)

パーマあてたの?と聞くと「おいら天パなんだ」と言われて
ああ、じゃあ多分同じ会話を前回もしただろうにあたりさんは優しいなあと思いました。
その後、しゃべる。

しゃべるしゃべるしゃべるしゃべった!

テレビの話、稲葉の事、穴の事、漫画、アニメ、ご飯、仕事
あとなんかどうでもいいあれとかそれとか話が途中で途切れながら
近況報告に夢中でしゃべる。

やまだと一緒に歩いた事ある人はわかると思いますが
やまだはしゃべる事に夢中になりすぎて歩く方向を見失います。
目的地とか行かねばならぬ方向とか相手がどこへ行くのかとか
今自分がドコに向かっているのかとか一切忘れてしゃべります。
全く周りを見ておりません。

しゃべっている最中に「あ、道‥‥」とは思いますが
道順や正しい順路より大事なのがしゃべる事だ、とインプットされています。
まるで「正しい道はこっちよ!」と先導するかの如く
自信持ってよくわからないまま力強く歩きます。
しゃべる勢いに歩調が準ずるらしいです。


あたりさんが道順を知っていそうだったので
安心してしゃべり倒しました。わあいアタリさん!アタリさん大好き!!
(お前、ホテルからあたりさんを迎えに行ったのではないんか‥‥)

珍しくあたりさんと散々ムサヒルな話をしました。
多分あんなにムサヒル話したの初めてだったのではないでしょうか。
凄く楽しくて「浅草見学したいね」なんて会話とかをマルっと忘れました。
ホテル戻ってもしゃべり倒してこのまま外に出ずしゃべり倒すのかと思われるぐらいしゃべり
まあ晩ご飯のために外に出たのですが延々としゃべり、しゃべってご飯食べました。
腹5分目で止めて美味しかったです。
そう。人間食い過ぎは良くない。

そして水買ってホテルに戻る。
ここでやまだに睡魔が襲って来ました。
部屋に戻ってあたりさんとシール切ったり(つうかほとんど切って戴きました)
今回やまだが作った本を二人で指指して「この方が好きだ」
「この絵が好きだ」と延々語り語って語っていつの間にかやまだはベット上でごろん。

動けなくなる。

ね‥‥寝てはならないのです。
荷物まとめたり明日の準備したりフロ入ったり顔洗ったり化粧落としたり
あたりさんとおしゃべりしたりあたりさんとペーパー作ったり‥‥‥。
あたりさんの持って来て下さったお菓子食べたりするのです!あと水を飲む!

ぷすーーーー(やまだのいびき)

この時、既に時間がはっきりしていないのですが
かなり早い時間だったように覚えております。そして。始まる寝言タイム。
やまだは「人より先に寝る」という事に屈辱を感じるタイプでして
眠い、とかやることあるのに先に寝るのがイヤなんですね。まあ寝ますけれど。
眠いのが悔しいので口だけは「眠くないよ」を連発するのです。
もしくは「寝ないよ。これから起きて××するんだよ」とうるさいのです。

あ:もう寝なよ。今日寝てないんでしょ?
や:やだーー。フロ入る!
あ:明日にしなさい
や:せめて顔洗う‥‥。け、化粧落とす‥‥‥。
あ:そのまま寝ても起こさないからね
や:やだーー!起こして!!
あ:眠たいんでしょ。
や:眠くない!


という会話を。多分1時間ぐらいしていたと思います。(ごめん‥‥)
結局、寝たくない、しかしベットから起きあがれない
起きるの面倒くさい、でも寝たら起こして!10分寝たら目が覚めるから!と。
延々繰り返してあたりさんが「ほら!早くしなさい!」と尻を叩いて下さって。
顔を洗って美容汁を塗り込んで塗り込んでぶっ倒れました。

しかし会話はその後も切れ切れに続いていたようです‥‥。

1人にされたあたりさんはその後やまだの様子を携帯日記にあげてから
4コマを2本描いてお休みになったようです。



その後。朝4時頃に突然むっくりと起きあがるやまだ。
電気つけっぱなし。やまだのベット上は物が散乱し放題。
ちょっとトイレ行って。ちょっと考えて。
面倒くさくてまた物が散乱している中央でごろんとしました。

土曜日、おしまい。

目が覚めたら日曜日だ!イベントだ!!!



2000年08月25日(金) したがき。無料配付用

 武蔵が風呂から上がって来た。だから次はこっちの番。珍しく早い時間に2人がそろって、明日は休み。だから何となく今日はヤル日だと思っていた。既にベットの大部分を占領していた武蔵を蹴り、空いたスペースに潜り込む。そうして、何ごともなく迎えた朝。
 普段から年相応にがつがつしたこの男には珍しい。なんとなく出鼻をくじかれたようでもあり、予定を入れていなかったために一日をぼんやりと家の中で武蔵と過ごす。
 そして、夜。何ごとも無く過ぎる夜。熱い湯の好きな武蔵が先に風呂へ入り、温いお湯が好きなヒル魔が残り湯にのんびり浸かる。同じ繰り替えし。風呂の中でヒル魔が気付いたソレも昨日と同じだった。
「テメー、風呂で抜いてんのか」
「あー。わりい、臭ったか」
 悪びれもせずに肯定する武蔵。それがヒル魔にカチンと来た。口に出して怒る程ではない不愉快。そもそもこういう仲になり、こういう関係で暮らしていながら、風呂で済ますってのは何ごとなんだ。文句の1つでも言いたくなったが、さすがに口には出し辛い。ヒル魔の眉に皺がより、態度の端々が荒くなり、それで武蔵はようやく気がつく。
「別に深い意味はねえぞ」
「何の事だ」
 あってたまるか、この糞ジジイ。
 ヒル魔はとぼけた。機嫌が悪いのは確かだったが、それで口論するつもりはない。そんなみっともない真似は出来ない。
「お前だってたまにするだろ」
「何がだ」
「マスかき」
「んなばれるようにはやらねえよ」
「……そういや、やってっとこあんま見ねえな」
 健全な、いやむしろ旺盛な性欲を持ち、性的な関係のある同居人と暮らしている中、そうそう自慰にふける閑は無い。武蔵のぽかんとした切り返しに、てめえはそんなにヤリ足りねえのかと顔に出ない内部が揺れる。
「テメー程、飢えちゃいねえよ」
 武蔵と関係するようになってから飢えた事などほとんど無い。もともと我慢はしない方。やりたいと思った時には武蔵を使って解消して来た。時には武蔵をその気にさせて。時には無理に乗り上がって。強引さと誘いを使い分けてヒル魔は欲求を満足させてきた。
「やるか?」
「そんなんじゃねえ」
 やりたくなれば、自分から跨がる。やりたくなくとも途中でその気になれば盛り上がる。そういった方面で武蔵に遠慮するつもりは無く、スル事自体は好きだった。
 それが、何だ。
 相手もいて、時間もあって、なんで一人でマスかかなきゃならねえんだ。暗に相手をするのが面倒だと言われたような、ヤル相手として認識されていないような。嫌な考えばかりが巡る。
「怒ってんのか」
「何を、だよ」
 形にならない不機嫌さが溢れそうになってヒル魔は読みかけの雑誌を放った。こういう時の会話はたいていつまらない方へと流れる。寝る、と言い捨てて寝室に向ったヒル魔は武蔵に手首を引き戻された。
「何か用か」
「やっぱ怒ってんじゃねえかよ」

 その後も無駄に会話は続き、この糞馬鹿は俺を怒らせてぇのかと本気でヒル魔が苛つき始めた頃から会話が妙な方へと流れだした。
「お前だってたまにやりたくっても面倒な時ぐらいあんだろ」
「知るか」
「ほんとに最近、一人でやったりしねえのか」
「うるせえ!」
「やってみろよ」
「……は?」
 いつもはいかついだけの髭顔が、しまりなく口許を弛ませている。
「やってみせろよ」
「…………なんで、そうなる」
「お前がやってっとこ、最近見てねえ」
「そういやてめえ、昔からそういうの好きだったな」
「嫌か」
 ぬけぬけと聞く武蔵を睨み付けるが効果は無い。
「見るだけってのもなかなかイイぞ」
 臆面も無くさらりと言いのける武蔵に悪びれた色は全く無い。罵倒するだけ罵倒するつもりだったヒル魔の怒りも、気の抜けるような武蔵の態度の前には形を崩される。
「そんぐらい、いいだろ」
 性欲処理のために、同居人を使わず風呂場で片手で済ますようであっても。ヒル魔に対しての性欲はまだ多少は残しているらしい。そう思えると顔が笑った。武蔵がヒル魔をどう見ているのかをこちらが観察する事も出来る。武蔵がその気にならないのならば、こちらが誘い込めば良い。それが俺のやり方だったはずだ。考える余裕が出来て、ノリと弾みと意地の噛み合いでヒル魔は武蔵に足を開いた。
「てめえは、そこから動くんじゃねえぞ」


 リビングの明かりはつけたまま。椅子のせもたれに顎をのせ、両手を回す姿勢の武蔵が、少し離れてヒル魔を見ていた。ヒル魔はソファに座ったまま足を広げ、ジーンズの中から自身をゆっくりと引き出した。特に溜まっているというつもりではなかったが、そこはすぐに形をなす。
「やりたかったみてえだな」
「黙って……見てろ」
 ゆるく先端を指で撫で、にじみ出たぬるつきで根元まで指を滑らせる。片手で先端を覆うように撫で、片手で茎の部分を上下する。武蔵からは酷く見え難くなっているはずだ。わざとらしくならない程度に首をかしげ、息を荒げる。武蔵がどんな顔をしているか確認したくて視線を流して、赤面した。
 両手で隠すように覆いながらちらちらとそこを見せてやりゃあ、多少は食い付くだろうと思っていた。武蔵のにやけた顔を見て、溜飲を下げるつもりだったのに。武蔵が見ているのはヒル魔の表情。ほんの少し顔を上げただけで真正面から視線がぶつかる。
「何っ……、見て、やがっ………」
「お前の、自慰」
「くっ…………」
 頬杖をつき、顔の半分を手のひらで隠しながら武蔵が答える。顔を隠すなんて卑怯じゃねえのか。自分の見通しが甘かった事を認めずに、ヒル魔は武蔵を無言で罵った。人の顔を見ているだけの糞変態なんて無視するに限る。行為に没頭して、さっさと終わらちまうに限る。ヒル魔の意図に気付いたのかどうか。武蔵は時折ヒル魔に向って話し掛けて来た。
「何、考えてんだよ」
「知る、………かっ……」
「なんかねえのか」
「て……めぇ、……ぁ、ど…………」
「俺か?」
 武蔵が少し首を捻る。しばらく黙り込んでから照れるように頭をかいた。
「まあ、色々だな」
「…………っ……」
「何だよ」
「へん、っ……たぃ……」
「じゃあお前はどうなんだよ」
 武蔵の言葉にヒル魔は唇を嚼んで声を殺した。自慰の最中に、素面の武蔵と会話するのはいたためれない程恥ずかしかった。見せつけて、お前はコレが好きなんだろう、と挑発するつもりでいたのに。結果はこのザマ。武蔵に見られている事に興奮している。いつもより早く終わりそうだ。武蔵はそこに気がつくだろうか。こういうふざけた所にだけはこいつは妙に鋭い。
 主導権を握られているような、手の中で踊らされているような、妙な悔しさを撤回したくて、ヒル魔は武蔵を言葉で煽った。
「てめぇじゃ、ね……ぇ、よ……」
 武蔵の表情が変わった気がした。
「クラスの女か」
「さぁ……な…」
「へぇ……。意外だな」
「うぬぼれてたか」
「別にそんなこたぁねえけどよ」
 図星だったのか、武蔵がヒル魔から目を反らした。そんな武蔵の様子が楽しくて、ヒル魔はそのまま会話を続けた。
「誰、だと……おもっ……」
「知るかよ」
「お前も知って……る、や……つ……」
 武蔵の眉間に皺が寄った。ヒル魔の口端が笑いに釣り上がる。
「誰だよ」
「いん、けん、でっ……、へんっ、た……ぃ………」
 武蔵の不満そうな態度を引き出し、ヒル魔の胸の内に満足が広がる。
「趣味悪ぃな」
 イきそうになって、指を緩める。さっさと終わるのが惜しくなってきたからだ。拗ねたような武蔵の態度が、指の動き以上の刺激に感じる。普段は見せないような態度を、もっともっと引き出してやりたい。
 片手を足の間から離し、シャツの中へと潜り込ませる。胸の尖りにぬめりを擦り付け、爪で先端を自ら弾く。
「んっ……」
「相手は男かよ」
「だっ、たら……、ど……する?」
 せもたれにかけた両手に中に武蔵の顔が沈み込む。顔の半分は隠れて見えない。それでもヒル魔には武蔵の不機嫌が手にとるように把握出来た。
「そいつに、今弄られてんのかよ」
「あぃつ、は……」
 武蔵は胸を嘗めるのが好きだ。女と違って膨らみもなく、ただ平らなだけのその部分に髭を擦り付け、甘く嚼む。それを思い出していた。髭はあった方がイイ。あのざらりとした触り心地は、指でなぞるだけでは再現出来ない。
 もっと、ざらついていて。もっと強くて。もっともっと乱暴で。そんな武蔵の愛撫を思い出し、ヒル魔の指がそれを追い掛ける。ぽつりぽつりと架空の男の特徴を武蔵に伝えるがいつの間にかそれは武蔵の特徴とかぶり初めた。武蔵はそれに気付いているのか。
 くだらない会話を続けたくとも、両の指が同時に動けば声が震える。話は途切れる。ヒル魔が黙り込む事が多くなり、会話らしい会話は出来ない。いつのまにかまた武蔵の視線が強くなっていた。
「そいつと、どこでやってんだよ」
「あっ……、電、車っ…………」
「マニアだな」
「うるっ……せっ…………」
 会話をする程イメージに集中出来ない。今、ヒル魔を追い立てているのは武蔵の視線。部屋の明るさ。着衣のまま、前だけをはだけて乱れる姿を見せつけている自分。脳裏にあるのも武蔵との会話。現実のものよりそれは少し棘を含み、現実よりもヒル魔を強く制限していた。

『止めろ』
 イク,と思った所で武蔵の命令。荒い息に震えながらヒル魔は指を止めて武蔵を睨んだ。想像の中でもヒル魔は武蔵の前で自分を慰めていた。武蔵はそれをつまらなさそうに見下ろして笑う。あと少しだった。武蔵など無視して、さっさと終わらせる事は出来る。ヒル魔を縛ろうとしているのはただの言葉。口を開くだけの動き。
 無視は出来る。それでもヒル魔は言う事を聞いてしまう。
『‘そいつ’は、今何してたんだ?』
 





武蔵が拗ねたような態度を取る。指で自分を慰める以上にヒル魔に



2000年08月24日(木) ホスト後

 

その後。
ヒル魔が本当に店をやめたと聞いて荒れる阿含。
武蔵を殴って蹴って蹴って逆に武蔵も阿含を蹴って
間に入ったキッドさんは阿含に殴られますが後ろから鉄馬に羽交い締めされます。

機嫌の悪さを武蔵に全部注ぎ込む阿含。
今まで自分に対して良い感情を向けられているとは思っていなかったものの
ここまで阿含は俺が嫌いか、と今さら気がつく武蔵さん。
そんなに文句あるならヒル魔にぶつけろ。俺にぶつけるのは筋違いだって言うと。
羽交い締めされたまま阿含の足が武蔵の腹ヒット。



俺があのカスをどんだけ貶してもあいつが笑ってる理由がわかるか?



意味がわからない、と思ってる武蔵と
頭から湯気出そうな阿含の2人を
後ろからぽかりぽかりと殴るキッドさん。
二人とも今日は仕事にならないから帰ってと言われ
喧嘩するなら店から離れた所でやってと追い出されます。

阿含が武蔵に喧嘩を売り売り。
武蔵が無視して帰ろうとしてもその後ろを付いて歩いて文句言い言い。

「そんなに俺が気にくわねえのか」
「その自信たっぷりな態度が気に喰わねえんだよ」

結局。
ヒル魔にとって一番心を動かせる発言をできるのは武蔵だけ。
貶しても馬鹿にしてもそれがどれだけ大勢の前でも
ヒル魔がけろりと流していられるのは武蔵以外の言葉だから。
阿含はちょっと「性質が似ている」同士で軽口叩ける相手なだけ。
武蔵の代わりに隣には立てない。
武蔵のような存在になれない。

阿含は武蔵がとても憎い。
自分がどういうポジションにいて、どれ程ヒル魔を動かせるのか
自覚しないで無意識にやっているその1つ1つが何もかも憎い。
自覚しようとしない態度が本当に憎い。

今もそうだ。

ヒル魔がいないって事の意味がまるでわかっていない。
説明するのも腹がたつ。

一方で武蔵は。
ヒル魔に対して負い目がある。
学生の頃、一緒にいるのは楽しかった。
何をするにもばか騒ぎでそばにいるだけで満足だった。

あの頃の、あの、楽しいばかりのあのヒル魔の顔。
それを随分と見ていない。
阿含と話をしている時もキッドと話をしている時も
ヒル魔は武蔵に見せない顔をする。
気安そうで力が抜けて、武蔵といるより楽しそうだった。

俺の隣で、あんな顔はもう随分前から見ていなかった。
あいつが俺に笑ってみせたのは。どれだけ前の事だろう。



ヒル魔が楽しい場所をみつけられたんならそれで十分じゃねえか。
俺の隣にいる必要も無い。
俺が連れ戻す義務も無い。
ガオの隣で楽しそうだった。そんな顔も出来るのかと驚いてみた。
昔はそんな顔ばっかりだった事を思い出した。

だったら俺のそばに居ない方がいいんじゃねえか。




「あいつが自分で選んだ事に俺が口だしする必要ねっ………!!」

後ろから阿含が武蔵に思いきりラリアット。
道ばたにぶっ倒れる武蔵の胸元ごそごそ探って取り出す携帯。
ワンプッシュリダイヤル。


「よう、カス」
電話の相手に住所を告げて武蔵が怪我して倒れてるって言って返事も待たずにそのまま切る。
一体今日はなんだってんだ。
うつ伏せになった武蔵をつま先で転がして仰向けにすると眉をしかめたまま阿含が面白くなさそうに見下ろしている。
「てめえ、やっぱ頑丈だよなあ」
阿含の顔がようやく笑う。やっとスッキリした、と言いたげなその顔に反撃しようとして
数度脇腹をつま先で蹴られた。
痛みと反動で脇に転がり、吐き気にたまらず体を折った。
意識が薄れる直前に「だからてめえが嫌いなんだよ」と阿含の声が聞こえた気がした。


目が冷めた時、見下ろしているのはヒル魔だった。
上体を起すと顔の上から何かが落ちる。水を吸ったハンカチは見覚えのない柄。
「てめえ、阿含と何してたんだよ」
武蔵の血がにじんだそれをヒル魔が拾い、顔を拭う。
目の前にあるズボンは見覚えの無い質感。
店で見るスーツ姿と、家の中でのラフなジャージ。
そのどちらとも違う柔らかな布。

蹴られた場所がずきずきと痛む。何か言いたくても頬が腫れていておっくうだった。
口の中に血の味が広がっている。喧嘩には慣れていたはずなのに
とっさに歯をかみしめられなかったようだ。
腹や背中、体中が痛い。
ふらつきながら立ち上がり、壁に手をついて表通りへ向った。

「そんなんじゃ車止まらねえぞ」

片手を上げる武蔵の背後でヒル魔が呆れたような声を出す。
汚い路地裏を転がっっていた。自分では見えない部分が相当汚れているんだろう。
淀みなく流れる車の列からこちらに向う車は現れない。
上着の裾を後ろから強く引かれる。そのまま数歩後ろにさがった。

「上着ぐらい脱げ」

肩動かすと痛えんだよ。
道路に向い、武蔵の代わりに手を上げるヒル魔の背中に向ってそう思う。
骨に異常は無いらしいが、触るとあちこちが腫れている。
明日もこりゃあ仕事休みだな。
誰かの汚物らしいものがべっとりとついた上着を見下ろし武蔵は小さくため息をついた。
車が止まり、後部座席に座ろうとする武蔵の背中をヒル魔が蹴った。
前のめりに座席にしがみつく。一体今日はなんだというんだ。
背後でシートが沈む気配。静かに武蔵の住所を告げるヒル魔の声で車が動いた。

「俺の荷物、まだ残ってんだろ。取りに行くついでなんだよ」

窓を向いたままのヒル魔は、車が止まるまで口をそれきり開かなかった。
















鏡で顔を確認すると頬と目の上がかなり腫れている。
阿含は、手加減てもんを知らないらしい。
知っていた所であいつがそれを使うとは思えなかったが。

汚れた服を丸ごと脱ぎ捨ててベットに向う。
ヒル魔がかき集めたらしい手当ての道具が並べられていた。
ベットに腰掛け、それらを見下ろす。
どこにこんなもんがあったと目で問うとヒル魔の顔が赤くなって背けられた。
まあ、そういう事なんだろう。
今まで気にした事はなかった。

ヒル魔の足下に、中途なサイズの鞄が1つ。
それを持って行けば、ヒル魔がここに戻る事がなくなる。
何となく直感で感じた。こういう予感はたいてい当たる。

上着のポケットに両手を突っ込んだきり、ヒル魔は何もしゃべらない。
武蔵は黙って薬を身体に塗り付けた。
べた付く上にガーゼを張り付け、更にガーゼを当ててテープで止める。
寝ている間にはがれなければ良い。
ヒル魔はそばに突っ立ってるだけで何も言わない。
大体の部分に薬を塗って、手当てが終わってする事がなくてもヒル魔はそこから動かなかった。
口の中の腫れには慣れた。しゃべる事ぐらいは出来そうだった。

でも、何を。言えばいいんだ。

考えてみても何も浮かばない。
なのに言うべき事はあるような気がする。
ヒル魔の顔を見るのが嫌で、使い終わった包帯を手の中でぐるぐると転がした。
外でタクシーのクラクションが鳴った。
そういや、荷物持ってこいつはこれから出て行くんだった。

もう行くのかとヒル魔を見上げる。
苦虫を嚼んだようなヒル魔の顔が目を反らす。

「じゃあな」
「……………………」

荷物を取り上げる。
踵を返して寝室から出て行く。
一人では寝るのに十分すぎるセミダブルのベット。ヒル魔がどこからか買って来たんだった。
使わないままラックにかけられた2人分のスリッパ。いるかと思って買ったきり。
フローリングは2人の素足で汚れている。これからは汚すのも片付けるのも一人になる。
いつも視界のどこかにあったヒル魔の服がどこにも無い。

のろのろと動くヒル魔の後ろを、同じようにのろのろと歩く。
ヒル魔が玄関で靴をはく。薄汚れたスニーカーのかかとはいつも踏まれて潰れているのに今日は靴べらを使って丁寧に履こうとしていた。
上手くいかずにイライラしながらヒル魔は何度も挑戦する。
この家に靴べらなんてあったんだな。
武蔵は意味の無い事を考えた。

何か、言うべきなんだろうか。
言えば全部が終わる気がしたし、言わなければ終わらない気がした。

「…………お前、もう戻って来るなよ」

考えもしなかった言葉が溢れた。
ヒル魔の背中がびくりと揺れた。それは見事な程に大きく。

「あいつのとこ行ったら、楽になんだろ」

別れるってこんなもんなのかと考えて武蔵は小さく苦笑った。
俺達の仲は、付き合ってるなんてもんだったんだろうか。
楽になる、と言ってまた笑いが漏れた。
ヒル魔との生活が「楽じゃなかった」と 自分から認めたようなもんだ。
そう、楽じゃなかった。
何かに追いかけられているように喉の奥までいつも何かが出かかっていた。
小さな違和感がいくつか産まれて、その違和感の上にまた生活を積み重ねて来た。
触ればぐらぐらと頼り無く、不安定なだけの毎日。

息がつまった。気まずかった。
落ち着かなかった。いたたまれなかった。



どうしていいのかわからなかった。



なのにいつも一緒にいた。
それが当たり前だと思っていた。
いつまでもそばにいるはずだった。
そういうもんなんだと思っていた。

それが。
重くなった。 恐くなった。嫌になった。面倒だった。

楽になりたいと思っていた。
多分、武蔵自身が思う以上にヒル魔はそれを思っていたはずだ。
積み上がったそんな物を放置していた結果がこれだ。

「…………良かったじゃねえか」

ヒル魔がこちらを振り向いた。
ぼんやりとしたようなしまりのな表情が、ヒル魔らしくねえなと思った。
前はこんなんじゃなかったはずだ。
前はこんな顔をしていなかったはずだ。

ぼけた顔がしばらく伏せて、それからもう一度こちらを向いた。
同時に目の前に火花が飛んだ。
殴られたと分かるまでにしばらくかかる。
不意をつかれてまた口の中に苦い物が滲む。

今日は厄日だ。

「楽になれるってのはどういう事だ?」

怒りをたたえた静かな目。
久しぶりに見た、ヒル魔の顔だ。
知り合ったばっかりの頃、こいつはいつもこんな顔だった。

「俺は、やりたいことは好きなようになる。誰にも遠慮なんてしねえしつまらなかったら即効ゴミだ」

目の奥にあるヒル魔の強い意思。
その顔があまりに印象深かった。何年も前。
ヒル魔に対して武蔵が持った、それが最初の興味だった。

「義理や義務だけでつまらねえ場所にいると思うか」

言葉を返せば、今までの生活が悪く無かったという事になる。

「意味もなくぐずぐずここにいると思ったか?」

悔しそうに目元が歪み、すぐに臥せる。
まさか泣いてるんだろうか。まさか、と打ち消す武蔵の目の前でヒル魔はうつむいたまま顔を上げない。

「お前にとっちゃ、つまんなかったのかもしれねえけどよ」

静かな声。聞き逃しそうなくぐもった言葉。
しばらく無言で過ごした後、ヒル魔が靴を履き終えた。

「言葉そのまま返してやる。俺がいなくなって良かったじゃねえか」

泣いていない。
けれど力の消えてしまった目。
お前をそんな顔にしたのは、俺なんだろうか。俺のせいなんだろうか。

「つまらねえ同居人で悪かったな。これからは好きに誰でも何でも連れ込め」

ドアをあけるヒル魔の右手。行ってしまう、と思った時にはその手の上からノブをつかんでいた。
手の下で、ヒル魔の手がノブを握りしめている。
ドアを開くためのその手にぐいと力が入る。
とっさにその手を引き剥がした。

「………なんの……」

つもりだ、とヒル魔は言いたかったんだろう。
言いかけて止めた理由は行動の意味が1つしかないからだ。

止めるのか。

武蔵は自分にそう尋ねる。

止めたいのか。

それは、ただの意地ないのか。
出て行くから引き止める。その元になる感情はあるのか。

止めて、どうする。

ただ、駄々をこねる子供のように。
意味なんて無いのかもしれない。

ドアから引き離したヒル魔の片手はそのまま力を失った。
武蔵に強く握られたまま、振りほどこうとさえしない。
文句も言わない。離せとも言わない。
大人しく、されるがままで突っ立っている。

そうして、2人は黙ったまま動けなくなる。

このまま武蔵がヒル魔の手を引けば多分また同じ毎日が続くんだろう。
このままヒル魔がドアを開ければ、もう互いの道が交わる事な無い。

それは2人にとっての確信だった。




どうする、と聞きたかった。
目を見て、声に出して、お前が決めろとなすりつけたかった。

どうすりゃ、いい。

一緒に暮らす事は武蔵にとって息が詰まった。
ここから出て行けば多分お互いが楽になれる。

でも欲しかったのは「楽な事」だったんだろうか。
じゃあ、今迄の生活はずっと辛い事だったんだろうか。


数年の積み重ねが今全部終わるかと思って。
惜しくなっているだけかもしれない。
終わらせる事に臆病なだけで、明日からまた飽くのかもしれない。

今の生活を続ける事で、何か良い事があるとは思えない。
終わらせるべき理由はたくさん。続けるような理由は皆無。

なのに武蔵は手を払えない。
なのにヒル魔は手を解けない。

「あのー、どうかされましたか」

外から叩かれるドア。2人の身体がびり、と震えた。
情けない程過敏になっている。握った手の平は汗だらけだった。
外にいるのはタクシーの運転手。
ヒル魔がここから出て行くためにずっと待たせていた車。

武蔵の手の中でヒル魔は動かない。
握られた手を黙ってみている。
恐ろしい程に、静かなままで。


よれたスーツのポケットを探る。
剥き身の札が指先に触れた。
ドアをあけ、状況がわかっていない運転手の鼻先に皺のよったそれを突き出した。

「釣りはいらねえ」

返事を待たずにそのままドアを閉める。
お客さん?とドア越しにノックを繰り返す運転手。
玄関にいれば音は響く。カンに触って武蔵は内からドアを蹴った。

それきり、音は途絶えて遠ざかる。

「てめえは……………卑怯だ」
「お前だってそうだろ」

ようやく絞り出すような掠れた声。
長く黙って、嗄れた武蔵の声。

ここから出て行かない理由を武蔵に押し付けているヒル魔。
ヒル魔を引き止める理由もないままそれは嫌だと思う武蔵。


どっちも、どっちだ。

握った手は汗で不快。
そんなになるまで手をつないだ事なんて無い。
無言の空気は無責任の重さ。
こんなになるまで向かい合った事もない。

長く一緒に暮らしていて。
まだやっていない事はあるかもしれない。
もう何も無いかもしれない。

けれど。
重苦しい無言の空気。
どちらもそれを壊そうとしない。
それが、一番の答えだと2人はわかる。




2人が暮らした家のドアは。
その日はそれきり開かなかった。
























2006年10月23日書いて2007年4月17日にちょっと手直し。





>1つわかったこと
たった1人の客に誘われるだけでなびくなんて
このヒル魔まじでホストに向いて無いっていうか
ヒル魔の風上に置けないヒル魔だっていうか
やまだにはヒル魔がどう見えているのか一度テストする必要がある。

ヒル魔はそんなに使えないやつか、否か。

少なくともあれだけ才能がある方は客商売にしても
ホストより他の道を選ぶと思いました。
ホストでムサヒルはちょい失敗。



>満足したこと
阿含と武蔵の接点に飢えていたやまだとしては
二人の殴り合いを想像するだけでにやにやしました。

あと、ガオヒルがほんと好きみたいだ。



>書いていて一番多く言った言葉
あああああもう、こいつらイライラする!!!!


>注意書き
桜蘭ホスト部はこういう話ではございません。

>注意書き2
お前こんな下らない事してるんだったら風呂入れ


2000年08月23日(水) ホスト前

 
 
ムサヒルでホストしたらどうすりゃいっかなーーて考えてにやにやしました。
あのねあのね、本格ホスト店なの!NO1は阿含なの!
阿含は女を誉めて客つかむし貶しても客を掴むわけです。
ブスとか平気でお客に言っちゃう。そこがウける。

ヒル魔は阿含の補佐つうか専属サブ。ピンでは客と会話がもたない。
ホストとしては客を褒められないので駄目な部類なのですが
そこを上手に会話させてヒル魔の良い所引き出してる阿含。

何だかんだと口では阿含はヒル魔をけなしていますが
阿含はヒル魔を気に入ってます。
ホストとして役に立たない部分で有能なのですが
阿含がヒル魔を気に入ってるのとヒル魔も阿含が嫌いじゃないのとで
阿含とペアだったら接客します。コンビとして受けてます。



ヒル魔は武蔵と同棲してんの。阿含は武蔵が大嫌いで追い出したいの。
そう、武蔵もホストです。同じ店で働いてます。





武蔵は口下手であんまり愛想も良くなく、接客も下手。
お客さんにからかわれたりつまんないって言われたりします。
でも結構使命率高いのです。割りと人気が高いのです。




だってショーでは1番人気だからね!!!










ストリップショーだからねええええ!!!!!











だっていけると思うんだ、不愛想でマッチョな脱ぐダンサー。
いや、踊らなくてもいんだけど。筋肉美っていうか
肉体見せるだけでいんですけど。駄目ですか。
やまだはパンツに金挟みますよ。<おい、おばさん…………。

阿含も踊ります。阿含はかなり踊ります。
武蔵にからみます。つうか武蔵を押し退ける勢いです。

ヒル魔は面白くありません。
たまたまヒル魔が働いているお店で人が足りなくて
武蔵を引っ張って来たらヒル魔より人気者になっちゃったんです。
阿含からはホモ的モーションかけられてるし
武蔵はそれを見て機嫌悪くするけど
「ヒル魔は俺んだ」ってアピールしてそれを妨害したりはしません。
あまつさえ「阿含と一緒に暮らしたかったらそっち行けばいいだろ」とか言う。

ヒル魔は「武蔵は俺のだ!」ってさりげなく主張したいから
(店内で武蔵をねらってる人は多い。コタとか。ええとセナとか。)
(どういうホストクラブなんだ…………)
「俺もステージに出せ!」てオーナーのキッドさんに喰ってかかるし
「もう少し体鍛えたらね」って諭されると1日中ふくれている。
ホストハウス「ヘブン」は毎日大騒ぎ!
もうちょっと何かネーミングひねろよやまだ。

マルコはヒル魔の数少ない固定客でして
足げに通っては口説くでもなくヒル魔と時間をだらだら過ごします。
いいところのお坊っちゃんである彼はお金なんてそんなに惜しく無いし
その気があるのを見せればヒル魔が喜ぶ訳でもないと知っているから
(本命は武蔵で一見あまり上手く言って無いのを知っています)
(武蔵がいようといまいと構わないけど恋愛に全力注がないマルコさんです)
がつがつしないでいるわけなんですね。余裕なんだな!
さすがにイタリアなマフィアはちょっと違うよ!

で、マルコのお友達としてやってきた
同じく良い所のぼっちゃんであるガオがお店にやって来てから
話は色々と進展するんですよ。
ヒル魔の事気に入って、まあ上客になるわkです。

口説かない、悪酔いしない、でも金落としてくれる。

ヒル魔も悪くないかなあなんて思ってるんです。
ヒル魔の独特な接客、頭下げない、偉そうな物言い、
神経さかなでしたりオタクなトークだったり客の素性に突っ込んだ話したり
弱味握ってることちらつかせたりして
まあ、そこが可愛いってガオは思っていたりすんですね。

たまたまガオとマルの席に阿含とヒル魔がペアで呼ばれます。
「お前、女の趣味が悪いんだよ」とか言って
ヒル魔をけなして回りの客の笑い誘ったり持ち上げたりするのが2人の接客です。
阿含はヒル魔を貶して使うのです。ヒル魔は貶されても笑ってあんまり気にしないのです。
阿含のビッグマウスと、それをそれだけに終わらせない実力とか能力を見て
分析してアドバイスしてやるのがヒル魔の役目です。
そう、ヒル魔はなんだかんだで表に出て来る人じゃない。
裏方。参謀。どうすれば良いのか指示出来る人。
薄笑い浮かべて普段は少し黙っていつつ。
お客さんも阿含もぎょっとするような発言を
時々ぼそりと呟く人です。
(言われるだけではないと思わせる風格と時々見せる色気)
(阿含が何だかんだけなしてもお気に入りなんだっていう素振り)
(阿含の気を引きたい女はヒル魔をいじる、それをヒル魔はつっぱねる)
(それを見て阿含がいじる、そういう関係)

そこでいつものように阿含が「このカスがよ」って話してたら
(ガオの事はある程度阿含も認めている金持ち&男なので)
(ちょっと気安く、ちょっとタメ口。女の子相手とは違う態度)
「俺はヒル魔がただのカスだとは思わない」とか言う訳です。
言っちゃうのです。言いきる訳です!
手はヒル魔の膝。目はヒル魔に真直ぐ。



ちょっと二の句が接げない阿含。
あまりにストレートに褒められてあっけにとられるヒル魔。
もちろん口説くための計算なんだけどそう感じさせないガオの笑顔。



本気でヒル魔が可愛いと思っている、と店の中で堂々と発言するガオ。
「俺相手じゃいやか?」って聞きながら笑顔。もちろん眼鏡。
(もうやまだ眼鏡から離れろ)

そんな風に言われた事がほとんどなかったからうっかり赤くなるヒル魔。
体を売らない接客がモットーなヒル魔ですが
(体を求めてくるような客が今までいなかったというのもある)
ガオには凄く良くしてもらったし悪くないよなっていうか
武蔵はこういうのどう思うんだろう……てちらって見ると。

ぷいってあっち向かれてしまいます。

ガオならいいなって思うヒル魔。
ここまで素直に褒められるとさすがにちょっと照れる。
人前でそう言われるとやっぱり嬉しい。
ガオは嫌な事を1つもしないし
同伴もアフターも本当にたくさんお金使ってくれた。

凄く優しい。

俺だってお前の事、嫌いじゃねえよって言ったら
嬉しそうに笑ってくれる。
いんじゃね?
ガオ、いいやつだし。
仕事で体使うのって好きじゃねえけど。

ガオならいんじゃね?


で。
やっちゃって。
もっと後悔するかなとか嫌な気持ちになるかなって思ったのに
そんなどころかかなり気持ち良くて満足できて。
しつこく誘われたら気分も冷めるのにそんな所も上手なガオ。
嫌じゃない。

どうしよう、俺、こういうの嫌じゃねえ。

なんでだかガオの前では素直になれるヒル魔が思った事を正直に話すと
「お前、接客に向いてねえよな」と笑われて。
「うちのコンサルタントしてみねえか?」ってもちかけられて。

正直、ホストクラブの経営にも手をつけているし
ホストやめても構わない、むしろその方が特性を生かせる。

わかっていたのになんで今までホストなんてやってたのかって。



武蔵の仕事してるのが見るの好きだったの。
客の前で阿含とだべるのが嫌いじゃなかったの。
(阿含のちょっと特異なポジションにいられるのは楽しい)
(阿含が何だかんだで「カス」呼ばわりする自分に執着しているのはわかっている)
(けなしつつ、ヒル魔をそばに置いておきたい、子供じみた態度は嫌いじゃない)
キッドだって良いやつで、良い事ばかりじゃなかったけれどあの店はとても心地よかった。



武蔵と一緒にいる事のメリットとデメリット。

卒業する前からあった体の関係。
何が、とかどうして、とか理由も無いままそばにいるのが当たり前になっていた。
離れる理由が見つからなかった。
当たり前のように家を借りてそこで二人で生活する。
楽しい事が待っていると思った。終わる事なんて無いと思っていた。

武蔵との距離がじりじりと広がる。
一緒に暮らしているはずなのに、だんだんと間に溝が深くなる。
良かれと思った事が裏目に出る。
同じ場所で働いているのに店の中ではほとんど会話もない。
目も合わせない。そばにも寄らない。
家に帰る時間もまちまち。
帰って来ない事もあった。

武蔵がいない夜にも慣れた。
家にいても何をするでもなく互いの部屋にこもりがちになる。

もともとの嗜好は正反対でテレビの好みから服の種類、女の趣味から考え方まで
何もかもで衝突するようになった。一緒にいても空気が固い。
うめるように体を重ねて、ごまかすように抱き合った。
接点は体だけ。
その接点さえもとぎれがちになる。


何が悪かったわけじゃない。
どっちがどうだという訳でもない。


武蔵が嫌いになったのでもなくその逆も多分無い。
気持ちが変わったわけじゃあい。ただ、それがあまりに「当たり前」すぎて
別の物が欲しくなっている。ヒル魔も。武蔵も。

多分武蔵の方がそれは強い。

客に誘われても断らない。
無愛想な癖に女が切れない。

そんな事は気にしないつもりだった。
気になる訳が無いと思っていた。
嫉妬や執着。それを武蔵に感じるたびに自分の変わりように恐くなった。
もっと、さばさばとできるつもりだった。

家でも仕事先でも一緒。手に取るように分かる互いの行動。
今どこにいるのか。明日どこに行くのか。誰と会うのか。誰と寝るのか。
嫌になるほど目につくすべて。
なのにこちらに向かなくなった視線。
だからこちらに向かなくなった意識。

たかが、それだけ。ほんのそれだけの事が流せない。
胸にしこりとしていつまでも残る。
口に出して文句を言えば、いたたまれなくなるのはきっと自分だ。
こんな現実を予想したこともあった。
武蔵と一緒に暮らすうちに、空気が乾く予感があった。
その時は気にしない自信があった。
それでも一緒にいられるつもりだった。
ドライで渇いた間でも、何かが変わるとは思えなかった。

自分を見ない武蔵の事が気になるだなんて思わなかった。
女々しい程に変わったのはヒル魔。
失笑するほどに変わらない武蔵。




次第に互いが家から遠のく。
武蔵以外との時間が増えた。それを楽しいと感じるようになった。
それに慣れる。
武蔵がいない時間と場所。武蔵を待たずに過ごす夜。

それに、慣れた。



惰性だけで一緒に暮らして、最後に残ったのがこれだ。
武蔵が自分に向ける視線に興味や目新しさが無い。
嫌われたわけじゃない。単に興味が失せただけだ。

それでも、一緒にいたかった。
一緒にいれれば良いと思っていた。
それだけで良いと思っていた。

思うふりをして自分を騙していた。
思うつもりでごまかしていた。
蛾王との柔らかな時間。しばらく手にしていなかった安堵。
いやでも今の毎日とくらべてしまう。

いやでも気がつかされてしまう。




一緒にいることでの、メリットとデメリット。
この先も武蔵と暮らしていれば、待っているのは手酷い破局か。
破局にさえならないような感情の磨耗、風化した花が風に崩れるように
時間をかけて終わるだけか。
それとももう終わっているのか。


そんな事をいつも考えてる。認めるのが恐かっただけだ。
ガオを見ると余程自分が頼り無い顔をしていたんだろう、
笑いながら濡れた髪をくしゃくしゃと撫でてくれる。
困らせたいわけじゃないとか急がないとか好きにしろとか。


どうしよう。


キッドに相談しても「好きにしていいよ」と言われる。
阿含は面白くなさそうな顔をしたきり、てめえがいなくて困ると思うか?
後押ししてるのか本気なのかわからないようなコメントをくれた。
武蔵は。
期待もしていない。この男はそういう部分で気のきくことを何1つ言わない。





店をやめると決めるヒル魔。
すごく良い話だから誰も止めない。喜んでくれる。
武蔵は目を合わせない。ずっと前から会話は無い。
部屋にいるのが気まずくて掃除ついでに荷物を片付けていたら
いつ出て行くんだ、と静かに聞かれた。

喧嘩にもならない。とてもスムーズに言葉が溢れた。
来週の日曜と言うと武蔵はそうかと返事をしただけ。

ガオに言えば部屋をあてがってくれるだろう。
一緒に暮らそうと言うかもしれない。
問題はない。とても上手く話が流れる。




ただ、隣に武蔵がいなくなるだけだ。





何も哀しい事なんてないのに、まとめた荷物があまりに小さくて
ヒル魔は手の甲に落ちた雫を妙な気持ちで見下ろした。

武蔵がいなくなる生活なんて考えた事もなかった。
なのに現実はこんなに簡単だ。
こうなると別れるって言葉も怪しい。
おれたち、付き合ってもいなかったんじゃねえのか。





身の回り品を適当に集めて部屋を出た。
ヒル魔の部屋と武蔵の部屋。
外から見上げると片方の明かりは消えていた。


あの部屋の電気の配線、壊してやればよかったな。
二度とスイッチ入らないようにしてやりゃよかった。

自分以外の誰が入っても。
誰も使えなくしてやりたかった。






2000年08月22日(火) 稲葉さんの絵。

なんでこいつなんだと思う。
寝転んだままみあげる武蔵は、たまらなく嫌な顔でヒル魔を笑った。

「俺が?お前を?」

薄い上唇。
分厚い下唇。
その両端が、嫌な形にぐにゃりと歪む。

窪んだ目の回り。
綺麗に隆起した鼻筋。
下から見上げる武蔵の顏は、いつもよりタチが悪く見えてしまう。

いや。この男は、元から随分とタチが悪い。

壁によりかかり、いつまでも起き上がらないヒル魔を侮蔑するように見下ろして笑う。

「俺が、お前を、か?」
「そうは言ってねえ」

繰り返すのも、見下ろすのも、笑っているのも多分全部わざとなんだろう。
この、状態。この関係に意味なんて無いと言う武蔵。お前はそれでいいじゃねえか。
俺は違う。ただそれだけの事だ。

「でも、お前はソウなんだろ」
「そんな事も言ってねえよ」

中途に閉じた目蓋。
少しだけ持ち上がる眉尻。
くい、と顎の先が上がって馬鹿にするような空気が余計に強調されるようだ。

なんでこいつなんだろうと思う。
どうしてこいつだったんだろうと思う。

嫌なやつだ。
負の感情を隠しもしない。
考えている事、思っている事、悪意の感情。
それを全部むき出しにして叩き付けて来る。

なのに、どうしても。
だから、どうしようもなく。
この男が、この男である限り。

俺は。こいつを選ぶのだろう。



お前だって。
こういう関係が嫌いじゃないだろう?
世間の評価や、噂ばかりが独り歩きするこの俺が。
お前の前に組み付され。抵抗もせずに身体を開く。

楽しいだろう?
おかしいだろう?
面白くて、仕方ないだろう?





お前がどう思っているのかは関係ない。
お前の感情はどうでもいい。
むしろ、その方が都合がいい。


それでも、俺は。
だから、俺は。

俺はお前をこれからも選ぶ。
それがリスクと引き換えにでも。
何かが壊れて行くのだとしても。








20070408

稲茶にて。


2000年08月21日(月) コンビニ



「おい、ちょっとコンビニ寄るぞ」

ヒル魔が武蔵を先導する。

「何買うんだ」
「いろいろと用意するもんあんじゃねえか」

武蔵に籠を持つように言い、まずまっ先 に下着を突っ込む。
あの日以来、ヒル魔の部屋には武蔵の下着がストックされるようになった。
今は金曜日の夕方。長ければ2日半程武蔵とだらだら過ごす事になる。
週末の食料を適当にみつくろい、籠にぼんぼんと放り込んだ。
手当りしだいにも見える、豪快なセレクトと放り込み。

「そんなに食えるか」
「余りゃあ、糞デブも呼びゃいいだろ」

ということは、余らなければ栗田は来ないということか。
ヒル魔の言葉はいくつかの情報を含んでいる。
こういう会話にも、随分慣れたと武蔵は思う。

あまりに商品をつめこみすぎて、籠がだんだん持ちづらくなった。
スナック菓子やインスタント。かさ張る商品がかなり多いから、重さはそれほど苦にならない。
狭い店内をうろつくヒル魔の後ろにつきながら、武蔵も目についた品を籠に入れる。
勘定は割り勘。だからお互いに欲しい物を適当に選ぶ。

「多過ぎねえか」
「こんなもんだろ」

コーラのペットボトルを1本。飽和状態の品の上に2リットルのそれが乗り、武蔵は両手で籠を支えた。
もう無理だろ、と思う所に今度はコーヒー缶が差し込まれた。
武蔵がいつも好んで飲むもの。
ヒル魔は一通り気がすんだのか、武蔵を待たずにレジへと向う。
慌てて武蔵は後を追った。こいつを一人でレジに行かせれば、また手帳をちらつかせて勘定をチャラにする事がある。
そういった事はあまり好きじゃない。だから、そばで目を光らせる。
レジに籠を置き、ヒル魔にちらちらと目を走らせる。
わかってる、と言うかのようにヒル魔は無言で肩をすくめた。

それだけで、意図が伝わる。

武蔵はレジの前から数歩離れた。
普段は滅多に足を運ばない菓子置き場の前でうろうろし始める。

「おい、まだ買うつもりか」
「ちょっと、待て待て」

両手にごっそりと小物を握って武蔵が慌てて戻ってきた。
籠の中に放り込まれる、無糖ガム。同じ種類の物ばかり。
ヒル魔は何も言わずに財布を出した。








何が欲しいとか足りないとか。
いろいろお互い知っているんです。


2000年08月20日(日) しかたがない。


 

「おい、お前俺のパンツ知らねえか」

風呂上がりに、まともに身体を拭きもせずに
あたりをウロウロ歩いたあげくに、武蔵はヒル魔にそう尋ねた。

「てめえのパンツは歩き回る癖でもあんのか」
「新しいやつ買って置いといたはずなんだけどよ……」

背中にびっしりと水滴を貼り付かせ、武蔵は尚もあたりをうろつく。
タオルは腰。長く垂れ下がる前髪からはぽたりぽたりと雫が垂れる。

「いいからまず、頭拭け」
「ちゃんと拭いたぞ」
「まだ濡れてんだよ」
「それより、パンツねえと困るだろ」

濡れてる方がこまんだろうが!
声に出して怒鳴るより、ヒル魔は作業中のPCを武蔵から遠ざけた。
たった1滴。それだけの水でもショートすれば一貫の終わり。
手早くファイルを保存するヒル魔の心中を理解しないらしい武蔵がのっそりと近付いて来る。

「まず、拭けって言って……」
「お前、ちょっとパンツ見せろ」
「………は?」
「間違えて、俺のはいてねえか?」
「んなわけあるか!」
「わかんねえぞ。怒らねえから、ちょっと脱げ」
「………お前、俺に喧嘩売ってんのか?」
「さっき穿いてたヤツ、洗濯しちまってんだ」
「いいから先に身体拭けって」
「風呂から上がった時、ちゃんと拭いたぞ」

武蔵はしごく真面目な顔で、ヒル魔が脱ぐのを待っている。
拭いた拭いたと口では言うが、武蔵の歩いた後には水滴が残る。

自分で何をどこまでやったか。
何をどこに置いておいたか。覚えてないのか?この馬鹿は。

老けた顔だ、老けた態度だと思っていたが。
ついに中身までぼけたんだろうか。

「今さら照れる事もねえだろ。ほら、脱げ」
「………それで、俺がはいてなかったらどうするつもりだ」
「……………困ったなあ」
「お前はどうやって落とし前つけるつもりだ?」
「…………。怒ってんのか」
「お前は。俺が。てめえの汚ねえパンツはいてると思ってんだろ?」
「怒ってんのか」
「そんな阿呆に見えるのか?」
「汚くねえぞ。さっきコンビニで買ってきたやつだ」
「どこに置いたんだ」
「………そのへん」
「ねえんだろ」
「おかしいよな」
「笑えねえよ」

武蔵は少し頭を捻る。
ぱたり、ぱたりとまた水滴が垂れた。

「もし、お前が履いてなかったら……」
「なかったら?」
「謝る」
「それで済むか!」

武蔵の顏には照れや悪びれた様子さえない。
全部の台詞が、素で真面目なのだ。

ヒル魔の返事を待ちもせず、武蔵の片手がヒル魔のシャツをまくりあげた。
腹は腰が外気に触れ、冷えた空気にヒル魔が竦む。
武蔵は片手でタオルを押さえ、残る片手でヒル魔を脱がす。

「てっめえ!」
「パンツ見るだけだ」

ヒル魔の抵抗は無きに等しい。
ズボンが無理に引き下げられたがそこに武蔵のパンツは無かった。

「………おい」
「なんだ。履いてねえのか」
「謝らねえのか」
「なあ、俺のパンツ知らねえか」
「知るか!!」

これで諦めて離れるだろうと考えたヒル魔。
一向に目の前から動かない武蔵。
なんでそこからどかねえんだ。

「………おい」
「ん?」
「なんで、まだ脱がそうとしてんだ」
「いや……」
「…………おい」
「ついでに、な」

武蔵の両手が、ヒル魔の股間から布を引き降ろす。

「ついでかよ」
「いやじゃねえだろ?」

武蔵の足下にはタオルが一枚。
布が隠していたはずの部分が、武蔵の欲求を物語っている。

「………てめえは、ほんとに」
「こういうの、嫌か?」

至近距離からヒル魔の顔を覗き込み、笑いながら口を寄せて来る。
ヒル魔のため息は途中で塞がれ、後に続く文句は2人の間で飲み込まれる。

仕方ねえだろと弁解するように武蔵が呟く。
だってパンツねえんだからな。

計算して、ここに持って来ているのなら大したもんだ。
武蔵はいつも無意識に動き無意識にしゃべり無自覚に要求する。
悪びれもせず、考えもせず、思ったままに動き回る。

こんな阿呆に付き合わされて。
とんだ迷惑だとも思うが。
抱き締められて頬がゆるむ。
阿呆顔に覗き込まれて、意味もなく笑いがこぼれる。






何をどう言い繕っても、武蔵は思うままに行動する。
口で言う程怒っていない。
どんなに拒絶の言葉を並べても、機嫌が直れば元に戻る。
態度がどうでも、結局ヒル魔は武蔵に甘い。
武蔵はそれを疑わない。

そういうもんだと、思っているのかもしれない。

馬鹿にするなとか甘くみるなとか
文句は喉までいくらでも溢れているが。




仕方が無い。
それが嫌だと思えないのだ。
これに飽きる気がしないのだ。
どれもどこかが愛しいのだ。


仕方が無い。
何しろ、武蔵なのだから。

だからヒル魔にはなすすべがない。
ただ、振り回されるからしがみつく。
喧嘩になれば意地をはる。
気が休まるからゆっくりと休む。
そばにいれば蹴飛ばしたくなる。
遠くにいれば触りたくなる。
やられた時は、やり返す。
声を聞けば嬉しくなる。
優しくされると、少し戸惑う。

虚をつかれるから、泣きたくなる。

仕方がない。
何しろ、相手は武蔵なのだ。

ヒル魔がどうしても測りきれない、
無茶で無謀で頑固な馬鹿。




だから、全部仕方ない事。





























20000406
初心にかえろうとして。途方にくれる。
ここはどこだ。これは何だ?


2000年08月19日(土) ばくちゅームサヒル


泥門高校内にあるアメフト部室。
ここにネズミが2匹住み込んでいる事を知っている者はあまりいない。



「ヒル魔!すんげえもん見つけて来たぞ!!」

彼の名前はむさっチュ。大工になる事を夢見る若ネズミ。
人間の世界に高い興味を示すものの、悲しいかな彼は頭が悪かった。
毎日欠かさず人間観察を行いながら、「謎」と思う物を収集している。

これは一体何に使うものなんだろう。

わからないまま自宅に持ち帰り、頼もしい同居人に知恵を借りる。
毎日人間観察してりゃあ、大体分かるもんだろうが、と同居人のチューイチは思う。

「今度は何だ」

むさっチュが持ち込むものは、大抵ががらくただ。
ハシにも棒にも引っ掛からない物を御大層に抱える武蔵へ
デタラメを教えてからかうのがチューイチの最近の楽しみでもある。
背中に背負った荷物の中からむさっチュは丁寧にソレを引っ張り出した。

チューイチの目の前に引き出されたのは、べろりと伸びた帯状の袋。
薄いゴムで出来たそれはまだ表面にぬめりが残る。

「なあ、これ何だ?」

チューイチはしばらく自分に落ち着けと言い聞かせた。
この、馬鹿は。
よりにもよって何をどこから持って来たんだ。
冷静になりながら、目の前に広げられるそれを眺める。
使ったような跡は無い。
むさっチュの行動範囲は部室近辺。

おおかた、あのホモ2人だろう。

二匹が生活している部室には盛りのついたホモがいる。
人目もはばからない2人だ。ネズミの目線を気にする訳が無い。
昼でも、夜でも。場所も時間も選ばない。
人気が無けりゃいちゃいちゃベタベタ。
何考えてるんだと、説教してやりたいとも思ったが。
今ではすっかり2人に慣れた。
こちらに影響を与えない限り、いくらでも好きにすればいい。

放置しておいた結果が、今目の前に揺れている。

「……どこで拾って来た」
「ゴミ箱」
「…………いつ」
「さっき」

そんな所を漁るな、と思うが。
今迄にも散々むさっチュはその辺を漁ってきた。
今頃、なんでこんなもんがこいつの縄張りに落ちていたんだ?
表面のぬめりを考えると、時間はほとんどたっていない。
ついさっきまで、部室には誰かがいたようだったが。
人数は多かったような気がする。
いくら発情中の阿呆共でも、そんな時にヤるだろうか?
人間の考える事はわからない。
特に、盛りのついたホモの事など。

むさっチュが押し付けるそのゴムを、できるだけ触らないようにしながら観察する。
使った跡は見当たらない。ヤル直前で、落としたか捨てたかどうにかしたんだろう。

「こんなの、俺、初めて見たぜ!!」

むさっチュはとても興奮している。
うまくごまかさなければ、この馬鹿は今後もこの奇妙なモノを探すんだろう。

「よく聞け」

捜しまわるのは構わないが。これ以上こんなモンを見せつけられるのはご免だった。

「そいつは、宇宙人の抜け殻だ」

むさっチュの顔が驚きに強ばる。

「急いで、手ぇ洗って外に捨てて来い。そのぬるぬるした所触ると、ヤツラの病気がお前にうつるぞ」

おろおろとむさっチュの視線がさまよった。
できるだけ恐い顔を保ちながらチューイチはむさっチュに「恐怖」を伝える。

「夜とか、人がいない時にな。宇宙人は脱皮すんだ。そんとき残していったヤツだ。」
「お前、ついてたぞ?まだその辺にいるかも知れなかったんだからな。」
「あいつらは、脱皮した直後腹減らしてるからな。お前ぐらいのネズミなら一口だ」
「大きさなら一緒ぐらいだと思うなよ?ヤツらの先っちょから出る白いのは、肉を溶かすぞ」

いかつい顔したいいネズミの癖に、むさっチュはぼろぼろと泣き出した。

「俺、手ぇ洗ってくる!」

ついでに頭の中身も取り替えて来い。
チューイチは深々とソファにふんぞりかえってため息をついた。
あの馬鹿は。本当に毎日驚かせてくれる。
洗い場へと走っていったむさっチュがつい今まで立っていた場所には
今日拾って来た様々ながらくたが散らばっている。

使い道も、使用法法も、見た目も色もそれほど変わったものはない。
どれもが平凡な日用品。

けれど、むさっチュには魅力に満ちて見えるんだろう。
見るもの、聞くものがみんな驚きに溢れている。
馬鹿は馬鹿なりに人生が楽しそうだなとも思う。
それが少しうらやましくもある。

それにしても、とチューイチは床の上のゴムを見て喉の奥でくつくつと笑った。
ここ最近で一番のヒットだ。
予想や想像を超える逸品。ある意味、トラブルのセンスだと言っても良い。
しばらくはコレを思い出すだけで笑いのネタには困らないだろう。

他に拾って来たらしい物を眺め、残りの品々でむさっチュをどう騙してやろうかと
チューイチは機嫌良く考えを巡らせていた。
その内に、中々戻って来ないむさっチュの様子を伺いに行き。

「チューイチ!!!あそこに脱皮したてのほやほやがあんぞ!!しかも、すげえ!どうやって脱皮すんだ、縛ってあるぞ!!!」

むさっチュの興奮した叫び声にチューイチは本格的に頭を抱えた。
1匹では退屈でつまらない毎日が。2匹ではこんなに賑やかになる。














20070404


2000年08月18日(金) うそつき

中学生の春の休日。



天気の良い日昼。駅前の開けた小さなスペースで2人はぼんやりと栗田を待っていた。
遅くなるという電話から20分程。見慣れた巨体はまだ現れない。
春らしくもない暖かな日ざしに、武蔵は喉が渇いていた。
生憎近くにはコンビニが無い。
ファーストフードの店でとりあえずドリンクを買うが中身のほとんどは氷ばかり。
すぐに空になった紙コップ。閑である事も手伝って、中の氷を口に流しこむ。

大粒の氷を奥歯で砕く。
口の中が一気に冷えると、だいぶん心地が良くなった。

溶けた液体が喉を流れ、すぐにまた口寂しくなる。
無意識にコップを傾け、幾つ目かの氷を音高く噛み砕いた時。
ヒル魔が呆れたような声を出した。

「よく喰うな」
「あぁ?」
「氷」
「そうか?」
「今のそれで、7つ目だ」

よく、数えてんな。
冷えすぎた口内で舌が旨く回らなかった。
誰も気にしていないような事さえ、ヒル魔の注意は向けられている。
単位や量ではかれるものなど、無意識にカウントしているらしい。

「別に、数えていたわけじゃねえよ」

武蔵が目だけで感嘆を告げるとヒル魔が拗ねるようにそっぽを向く。

「音が、うるさかっただけだ」

小さな破片も飲み込むと口の中に熱が戻った。
コップの中に、もう氷は無い。完全に空になったそれを片手で握りつぶした。

「何でもそうやって数えてんのか?」
「なんとなく、だ」
「………ここに来てから、この公園の前、通ったヤツの数」
「……………」

しらねえよ、と一蹴されるかと思ったが武蔵の予想に反してヒル魔は
顎に手をあててしばらく黙った。

「ろくじゅう………ななか、はちってとこだな」
「おいおい、それ本気で言ってんのか」

手をあてたままヒル魔がこちらを伺うように見る。
ハッタリなのか、事実なのか。お前はどっちだと思う?
ヒル魔の口元が手で隠れたまま、目だけが武蔵にそう尋ねる。
笑っているのか、真面目なのか、目元だけで判断が出来ない。

「冗談だろ」

ヒル魔が顔から手を離す。笑っている口許に武蔵はやはり冗談だったと思った。
肯定も否定もせずにヒル魔は目だけで武蔵に合図する。

「てめえの、後ろにいた女。覚えてるか?」

少し前までいた、女性。胸がでかいことだけを覚えている。
詳細は告げずに武蔵は大人しくうなずいた。

「ピンクのワンピースに薄い緑のカーディガン。男が来て、あっちの大通りに向ってった」

言われてみればそんな服装だった気がする。
迎えに来たのは男だったか。そういう処は覚えていない。
ヒル魔はその後も、そばにいたらしい人物の詳細と
その後の行動をあげつらってみせた。

「ほんとに、ここにいたヤツら見てたのか」
「そう、思うか?」

ヒル魔の笑みは崩れない。ここで、ようやく冗談だったと確信する事が出来た。

「てめえが言うと、冗談に聞こえねえんだ」
「本気にしただろ?」
「………」
「ハッタリなんざ、態度次第だ」
「俺には到底真似できねえな」
「つまんねえヤツ」
「つまらなくねえよ」
「せかく老け顔のごつい仏頂面持ってんだ。鍛えりゃ、嘘がうまくなるぞ」
「ならなくていい」
「なんか、嘘ついてみろよ」
「………なんかって、なんだ」
「てめえの下手な嘘が聞いてえんだよ」

何でも良いから、言ってみろ、と。からかい半分で促すヒル魔。
栗田を待つ事に飽いてきたから、閑つぶしのつもりなんだろう。
しかし。
嘘って何言やいいんだ。

こういう時にさらりと何かが出て来るとヒル魔も思っていないだろう。
困る武蔵を楽しむつもりなのか。
憎らしい程余裕たっぷりなヒル魔を少し驚かせてやりたいが
何も頭には浮かんで来ない。

大体、こんな状態でぱっとつける嘘などあるか。
今日はこれから、雨が降るとか雪が降るとか。
そもそもの予報を知らないのだから言い様が無い。
虚言やハッタリをかますにしても土台になるような知識も無い。

何か。ないか。

こちらをにやにやと笑って眺めるヒル魔と目があい、ふと口が開いた。

「お前の」

驚いたようにヒル魔の目が少し見開く。

「お前の、背中に。」

するりと出た言葉。
ヒル魔の眉尻がきゅ、と上がった。

「ほくろがある」

言い切った武蔵はヒル魔の反応を待つ。
馬鹿にされるか。ため息をつかれるか。
呆れられるか、何を言われるか。
待つ時間は長く感じるというが、ヒル魔の反応は思ったよりも遅かった。

「………つまんね。何だそりゃ」
「急に言われても、何も出て来ねえだろ」

ヒル魔の反応が何か変だ。
何かをこらえているというか、何かを我慢しているというか。
すましたような表情が不自然に思えて武蔵はじっとヒル魔を見た。

「今日、栗田は来ねえぞ」
「何?」
「携帯ぐらい見とけ、爺」

慌ててポケットから携帯を引き抜くが、メールも着信も届いていない。

「嘘ってのはこうやってつくもんだ」

すました顔でヒル魔は言う。
いつも余裕のその顔を崩してやりたい。武蔵は反射的に口を開いた。

「そういうてめーが、俺は……」

俺は、嫌いだ。

そう言いかけて言葉が止まった。
この場合、そりゃ嘘になるから、俺はヒル魔が好きなんだろうか。

………なんだか、変だな。

じゃあ、好きだと言えば、意図は通じるか。
何となく、口に出して直接言うより陰湿で根性が悪い気になってくる。

なんだ。
何か、ひっかかる。
嫌いだとはあまり思わない。
好きかと言えばそうでもない。

そうでもない、はずだと思う。

考えていけば曖昧になる。
悪いやつじゃない。
良いヤツだともあまり思えない。

じゃあ、こいつはどっちなんだ。



ほんの短い間だろうが、ふっと武蔵は我に返った。
考えるうちに妙な間があいて、考えている内容に気恥ずかしくなる。
見事にタイミングを逃したな、と武蔵がヒル魔の様子を伺うと。
これまたおかしな顔をしていた。

「…………何、1人でニヤけてやがる」

睨んでいるような。そうでもないような。

「にやけてたか?」

様子を伺っているような、何かをためらっているような。

「………………何、言いかけた」
「忘れた」
「何か言いかけてただろ!」
「覚えてねえ」

嘘をついてみた。

「けっ、つまんえヤツ!」

何か言いたそうで。何か言おうとして。
ヒル魔は数度口を開いてそのまま武蔵に背を向けた。
追求して来るかと思った武蔵はほっと肩の力を抜いた。
栗田の姿が見えないかと、武蔵もまた改札口へと目線を向ける。

本当は覚えている。
口に出す程ハッキリはしていない。
声に出せる程強くもない。
ただ。多分。

この、憎たらしくて可愛げがなくて、
態度が悪くて嘘つきなヤツが。
俺は嫌いじゃないらしい。

嫌いだ、と。口にする事をためらう程度に。










それから間もなく栗田が現れた。
遅くなってごめんと謝る栗田に向い。
ヒル魔の罵声はいつもより少しだけ強かった。














070403


2000年08月17日(木) むさたん。

泥門高校の校門から校舎まで、一部に桜の並木がある。
今迄気にもしたことが無かった。

ヒル魔は窓枠にひじをつき、ぼんやりと教室から外を眺めていた。
入学した時。1年の教室は4階。桜ははるか視界の下。
教室から、壮大な計画を捻るヒル魔の目の中には入って来なかった。
そうして、すぐに。桜どころではなくなった。

去年の、春。
最後のチャンス。
季節を愛でる余裕は無かった。
2年の校舎は3階にうつり、窓枠の端にうつる薄い花びらが何故かとても気に触った。


そして、今年。
3年の春。教室は2階。
教室の外は見事な薄紅。
グラウンドなど見えもしない。

教室の中へと舞い込む風は、この季節特有の柔らかなぬくもりを持つ。
眠りに誘うような暖かな風がヒル魔の額を撫でて流れた。

「見事なもんだなあ」

背後から、武蔵ののんきな声が降る。
なすがままになっていたヒル魔の頭に積もった花びらを、声の主が拾おうとし。
不器用な指は一緒に数本の髪をつかんだ。

「痛え!」
「すまん、すまん」

悪びれもせずに指は尚もヒル魔の髪をつかんで引っ張る。
たかが薄い花びら一枚をつかむだけで、どれだけ時間がかかっているのか。
背後の男は離れもせずに、ヒル魔の髪を揺らしてかき分ける。

「うぜえ」

手の甲で、男を叩いた。
怯む事なく、作業は尚も続けられる。
足先で蹴るとひょいと避けられた。
避けるついでに余計に身体を寄せて来る図々しさ。
そんな事ができる男はただ1人だけ。

ヒル魔の頭を見下ろして、楽し気に髪をかき分ける武蔵との身長差は1センチ。
もちろん公式の記録の上でだ。

武蔵は1年の春、身体測定が始まる前に一度学校を去った。
戻って来たのは2年の秋。測定はとうに終わっている。
だから、公式の記録を出すには中学3年の数字が最新となる。
当然ヒル魔はその数字を使った。
こういう「誤差」は、むしろ積極的に利用する。

しかし、現実に武蔵はでかい。
数字の上では1センチ。実際には頭半分程の差が。
中学3年のあの頃は。ほとんど差なんてなかったはずだ。
髪を上からいじられるうちに、ヒル魔はだんだんと腹がたった。

目の前は、桜。
どれだけ目をこらしたとしてもグラウンド等見えはしない。
3年の校舎は2階。グラウンドは目の前なのに。

「触んな」
「つれねえな」
「いい気になんな」
「今日ぐらい、いいじゃねえか」

今日、ぐらい、だと?

武蔵が何気なく言った言葉が決定的にヒル魔の機嫌を逆なでした。
今日だけか?お前のそういう態度は、365日の中で、この1日だけか?
いつもいつもそばにいて、偉そうな態度。知ったような口調。
お前は俺の保護者のつもりか。
何かあれば手を出してくる。近寄って来て、触り出す。
時も場所も考えず、べたべたべたべたと暑苦しい。

今日、だけか?
お前が1年、毎日、俺に。どこで何をしやがっているか。
1から並べてやりゃ、わかるのか?

睨み付けて立ち上がっても、武蔵はヒル魔の変化に気が付かないらしい。
尚もヒル魔の頭に手を伸ばし、まだ残っているらしい花びらに夢中だ。

「離れろ!!」
「なんだよ、急に……」
「うぜえ!暑苦しい!」
「今日ぐらいは、我慢したっていいじゃねえかよ」
「………いつも、俺が、我慢してないとでも思ってんのか?」

腹の底から絞り出す声。口から怒りが溢れそうだ。
武蔵の反応を見るために、まっすぐ顔を睨み付けると武蔵は何か勘違いしたらしい。
しまりのない顔がさらに弛んで、腕を回して顔を寄せて来る。

「お前は、馬鹿か!!!」

残念な事に、阿呆顔を張り飛ばすための手ごろな物が何も無い。
近付く顎に両手をかけて、密着する直前でかろうじて押さえた。

「なんだ。どうした?」

きょとん、とした顔。ここに来てようやく何か気が付いたらしい。
武蔵の片手がヒル魔の肩を馴れ馴れしく抱く。
残った片手が、髪をかき混ぜた。

「イライラしてんな」
「誰のせいだ!!」

てめえのせいだろうが!と、ヒル魔は怒鳴ろうとした。
怒鳴らなかったのは、武蔵が突然目を逸らしたからだ。

教室の、外。
一面の桜。
武蔵の目線はそのさらに先。

桜の向こう。
見えないだけで、そこにあるフィールド。
もう、自分達が立つ事は無い。
願った事。目指したもの。焦がれた場所。執念にも似た、強い思い。
全部が全部、引き継がれた。

もう、そこに立つ事は無い。


「見えねえってのも、今は悪いもんじゃねえなあ」
「………そんなんじゃねえよ」

武蔵の身体から力が抜けた。なし崩し的にヒル魔の両手からも力が抜けていく。
頭半分程、上にある武蔵の顔。
中学の頃の面影のない髪型。
外は桜。
多くのものを費やした場所は、花びらにけむってよく見えない。

「練習、見てやるんだろ?」
「………」
「帰るか?」

武蔵の両手が、ヒル魔の髪をかきまぜた。
無理に立たせていた毛先が崩される。
不思議と、もう、腹は立たなかった。

「せっかくの、俺の誕生日だしな」

阿呆顔が、笑っている。
その髪の毛にも、数枚の桜。

1年の春。桜を見ている余裕はなかった。
2年の春。あの、出来事を。思いださせる季節が憎かった。

3年の春。
阿呆が頭に花びらを乗せて、目の前でにへら、と笑っている。

「阿呆か」

見出された髪に指を通し、手ぐしで軽く毛並みを整える。
馬鹿に、慰められたって事か。
本人に慰めたつもりは無いんだろう。
むしろ教室を出て行こうとするヒル魔に不服そうな目を向ける。

まあ、いいか。

武蔵に近付き、その首に腕を回す。
身長差をうめるように、伸び上がって顔を近付ける。
触れた唇が横に伸びて、武蔵が笑っているのが分った。
伸びて来る舌を舌で迎えて絡めあう。
ヒル魔の頬に伝わる、武蔵の顎髭。
額にかかる長い前髪。

夕暮れや、夜中の教室。人が来ないとわかっている場所なら
いつも繰り返してきた行為。
でも、今は。
人がいないのが不思議な時間帯。偶然訪れた、無人の教室。
いつ誰が入って来るのか。いつ、あののドアが開くのか。

わからないのが、たまらなくイイ。

自然、口付けは濃厚になった。
音を立てて武蔵に吸い付き、武蔵の頬に鼻を埋める。
武蔵の首にぶらさがるように長いそれを味わってから、ヒル魔はゆっくり身体を離した。
まあ、続きは夜にしとくかと伸びてくる武蔵の手を叩く。

「こんだけか?」
「サービスしただろ」

武蔵は不機嫌そうに顔を曇らす。

「文句、あんのか?」
「いつもと、変わんねえじゃねえかよ」

武蔵の呟きが。消えたはずのヒル魔の怒りにあっというまに火を付けた。

「いつ俺がこんな事した!」
「お前からのベロチューなんざ、日常だろ!」
「なっ……」

ヒル魔の頭から、武蔵への感謝の気持ちが消え失せた。
抱き合いながら移動していたおかげで今では銃が手に届く。


春の午後のとある1日。
穏やかな日ざしの中、響き渡る乱射音。
生徒達は眠そうな目をそちらに向け、ああ、またかと納得する。




365日の中の、ほんの1日。
日常の中の非日常。












20070402



2000年08月16日(水) みみとどろ

たくさんの回り道をした。
しなくていい思いを何度も味わった。
噛みしめれば苦い思い。
後悔と幼さが空回りばかりの濃く熱かった一時。

無闇に意地をはり続け、無駄に相手を傷つけて、
無意味に相手より優位を保ちたく、
無性に何もかもが苛ついた。


欲しいものを欲しいなどと。
思う事さえ出来なかったあの日の俺達。
何が欲しくて何がしたくて何が必要で
何が目の前にあったのか。

何を、手に入れられたのか。
わからないまま過ぎた一時。
何が最後に残ったのか。
失ったものは何だったのか。
叫ぶ事さえ出来なかった。

何もわからない子供だった。



今。
少しだけ賢くなった。
欲しいものがはっきりしてきた。
口に出す事は恥ではなく、むしろ強い心だと知った。
求める事は弱さではなく、それが当たり前だとわかった。

触れる体温。
かかる吐息。
ひそめた声。
汗を流す肌。

名前を呼ぶ口。
握りしめた腕。
肌に残った熱。

記憶に刻んだ夜。
忘れられない朝。

おはようの挨拶。
返事が照れくさかったのは春の終わり。
当たり前になったのが梅雨の始め。
返事の代わりにキスをした夏。

いつも隣りに先に誰かがいること。
手を離しても平気な事。
また手を繋げる事。
おかえりが言える。
ただいまと言う。

好きだ、と告げる。
知っていると答える。

欲しかったんだ。
こんなものが欲しかったんだ。
簡単だった。たやすかった。
欲しいと口にするだけでよかった。

笑える程に。
くすぐったいぐらい。
吹けば飛ぶ程、簡単だった。



武蔵。



名前を呼ぶ。
何度も呼ぶ。
何度も何度も何度も呼んだ。

声にならず、胸の中で。
何度も何度も繰り返した。
欲しいものは手に入る。
間違えたとしてもやり直せばいい。

素直になること。
恐れない事。
声に出す事。
信じる事。
諦めない事。
恥をかくこと。

お前が全部教えてくれた。
だから何度も名を繰り返す。


武蔵。


呼べば手に入ると。
叫べば近づけると。
呼べばお前はすぐに来ると。
お前が言ったんだ。
お前はいつも、そう言ったんだ。


武蔵。


嘘をつくのか。
あれは全部嘘だったのか。
欲しいものは手にはいるんだと。
お前が俺の欲しいものだと。
お前は教えてくれたじゃないのか。



武蔵。


痛いのは何だ。
痛いのはどこだ。
どうしてこんなにお前を呼んでも。
お前がここにいないのはどうして。

武蔵。

始めて会った時はあまりにお互い幼すぎた。
だからうまくいかなかった。
だから忘れられなかった。
だからもう一度会いたかった。
だからもう離せなかった。

武蔵。

どこにいる。





耳を伝って流れる雨粒。

武蔵。

お前は俺を削ってばかりで。
お前は俺を壊すばかりで。

壊れたままで置いて行った。



武蔵。







どうしてここにお前がいない。








どこに行った。


お前は、どこに行った。
好き勝手に人の中に。ずかずか土足で入って来て。
出て行けと言えば口答えた。
近寄るなと言えば逆ギレさえした。
好きなように振る舞って、勝手きままにココを荒らした。



そうして、お前はどこに行った。



そばにいるとうるさい癖に探すとなるとみつからない。
用があるわけじゃない。
見あたらないから意地になっているだけだ。

寝相が悪く。
態度も悪い。

頭が悪く
顔も悪い。

貧乏な偏屈。
バカの癖に自覚なし。
時々妙な所で神経質な面を見せた。
思った以上に器用な癖に思った以上に不器用だ。

何かを作らせると時間を忘れる。
打ち込み出すと周りが見えない。
だから今もどこかで何かに熱中しているんだろう。

迎えに行ってやらなけりゃならない。
あいつは呆れるぐらいにアホだから。
些細な事さえわからないから。

時々、突然核心に触れる。
時々、本当に聡くなる。

普段はあんなにバカなのに。


ばかっと口を開けたまま寝る。
寝ている時にそばによるといつの間にか巻き込まれる。
寝言をよく言う。
相手をしてやると面白い。

時々、思いもよらない事をする。
時々、手におえなくなる。



そんなとき。
不意に胸が苦しくなって、どうしていいのかわからなくなり。
そういう時はこうすりゃいいんだ、と。
胸にぎゅうぎゅうと押しつけられた。

あいつは。
バカで。
手に負えない程頭が悪くて。
何度教えても覚えなくて。
肝心な時は役に立たなくて。

でも、いつもそばにいた。



今はちょっと迷っているだけ。
ちょっと遠くでうろついているだけ。

探してやらなけりゃ。
あいつは本当にバカだったから。








首が痛いと思って目が覚めた。
頬にあたる冷たいもんが床なのか壁なのか区別がつかない。
なめらかな表面が、いつものカウンターだと気が付くまでにヒル魔は少し時間がかかる。

いつもの、席。

片腕がニスのはげかけた板に爪を立て。
片腕は重力に引かれて垂れ下がっている。
血が全て指先に集まり、鈍く、冷たく、重く揺れる。

落ち、そうだ。

ストールは小さく、バランスが悪い。
長く座っていればいずれ、椅子からずり落ちるだろう。
右にかしがる癖を持つこの椅子は、いつも座る人間を品定めする。
ヒル魔も最初は悪態をついた。
それでもこの席が定番になったのは。
隣りの椅子もぐらついていたからだ。

ヒル魔の椅子は右にかしがり、右の椅子は左にかしがる。

そこに、2人。
並んで座ればイヤでも肩が。体が触れた。距離が近かった。
飲み続けていれば体温を感じた。
時間が過ぎれば周りが遠くなる。

今。椅子から落ちそうなのはここにヒル魔が1人だから。

鈍い頭で体を支える。
なんであいつがここにいねえ。

体は重い。
頭も重い。
体勢を立て直すにも腕すら重い。肩が痺れる。
何もかもがおっくな程重い。
動かないというより動けない。
突っ伏したまま、ヒル魔の体は落下を待つ。
緩慢な程の体重の移動。

あいつがいねえのは、ここに座っているからじゃねえのか。
床に落ちて。
隣りの空のスツールを蹴れば。
いつものようにあいつが出て来て。
何やってんだとバカにするだろう。

床に落ちれば。椅子から落ちれば。
いくらなんでもそこまで飲めば。
遅刻ばかりのあいつもそろそろここにたどり着くだろう。
にごった頭でそこに気が付きグラスの残りを一気にあおる。

てめえは、いっつも遅いんだよ。



液体は苦い。
一瞬何かを思い出しかけ、意識はすぐに濁りに埋まった。
背後でちりん、とドアが鳴り、ヒル魔は体をそちらに向けた。

がた、と音を立てて床の上に引き寄せられた。
椅子と椅子の間に落ちて、酷く窮屈な隙間に埋まる。

おせえんだよ。

文句を言った。
顔を上げて、すまねえと頭をかく無精の顎に軽く拳を突きつけた。
いつものアホ顔。
悪びれもせずに何度も何度も遅刻するバカ。
何回くりかえしゃ気がすむんだ。
老けた顔がまた、笑う。

飲み過ぎてんぞ。

誰のせいだと思ってやがる。
ほんの少し待っていただけなのに、とても懐かしいその顔に。
ヒル魔はなぜだか涙を流した。


てめえは。
いっつも。

肝心な時に役にたたねえ。





椅子と椅子の狭い隙間。
そこでヒル魔はしばしまどろむ。










どこにいる。

一緒にいた事が勘違いだったのかと、時々妙な錯覚を覚える。
あんなに一緒に時間を過ごして。
腐る程に隣りを温めた。

少し離れた所からでもあいつは大きな声で名前を呼んだ。
でかい図体で片手を上げて、迷惑な程腕を回す。
呼ばなくてもわかるんだ、糞ばか。

人をなんだと思ってやがる。
悪態をついてそばに近寄る。
本当はあれがとても嬉しかった。



今。お前はどこにいる。
濁った頭はお前を捜せない。
重い体は前に進めない。
ここはどこだ。
ここはお前がいない場所だ。

早く来い。
またバカみたいな声で名を呼べ。
迷惑な程腕を回せ。

俺は、お前を見つけられない。
だからてめえが見つけるんだ。
俺はここにいる。
いつもここにいる。
もう動かない。
どこにも行かない。

迷子になった時、本当に賢いのははぐれた場所から動かない事だ。

俺はここにいる。
ずっとここにいる。

ニスの禿げたカウンター。
グラスの底が板を削る。
黒い跡は煙草の焦げ。
小さなへこみはライターの跡。
ガスが切れたジッポーを、お前はよくそこに打ち付けていた。
家に帰るのがおっくうになり、鍵でニスを削った跡。
明日何喰うと交わした会話。
いつもの話題はもう覚えていない。

たわいもない事ばかりを話した。
つまらないことばかりを繰り返した。
いつもいつもそばにいたから、いつもいつも気が付かなかった。

今日は寒い。
昨日も寒かった。
明日は晴れるか。
あさっては休みだ。

毎日毎日つまらなかった。
そんなふうにお互い年をとると思っていた。

いつもいつもそばにいたから何も一つも気づいていなかった。




てめえは、今、どこにいる。
どうして、今、隣りにお前がいない。

長く放置していたグラスの中は溶けてすっかり温んだ琥珀。
ガラスの水滴はとうに乾き、ニスの禿げた部分に水が吸われた。
湿り気を帯びたその黒ずみを何気なく爪でこする。

そういやてめえの癖だったな。

カウンターが痛むからやめろと言ってもすぐにそれは繰り替えされた。
落ち着き無い手癖。すり減る爪とけばだった表面。
あれはどこだろうと指を伸ばす。
目の前に迫る板は、のっぺりとしてなめらかだった。

グラスの向こうに手を伸ばそうとして失敗する。
がちゃ、と音を立てガラスが倒れる。
ゆっくりと広がる薄い水面がヒル魔を塗らす。

カウンターにつっぷした頬。額。目元。髪。
伸びている髭。顎と首。

指を伸ばしても毛羽立ちはどこにもない。
お前はいつもここに座っていた。
だからここにあるはずなんだ。

お前が、ここに座っていたんだ。
いつでもお前はそこにいたんだ。

今も、いる。
いなくちゃ、おかしい。


俺は1人じゃ飲みには来ない。
だからここにはあいつがいる。
いないのは多分一瞬。
トイレから戻って。
濡れた手をジーンズで拭い。
酒が足りないと文句を言って。
しまりのない赤ら顔で。

俺に向かってまた笑うんだ。



待っていりゃいい。
そうすりゃ、すぐだ。
グラスが空いた頃、お前は遅くなったと笑って帰ってくる。
戻ってくる。

必ず、だ。



俺は、ここから動かねえから。
てめえはさっさと、戻って来い。









2000年08月15日(火) あいつバトン あたりさん

【あいつバトン〜あたりさん編〜】
このバトンでは、
あなたにバトンを回してきた人の事を
「あいつ」とします。
あいつの印象etc…正直にお答えください。

●あいつの名前を教えてください。
あたりさん。未だにあたりさんをハニーと呼べない。
恥ずかしいから。だから時々私もあたりさんをダーリンと呼びます。

●ぶっちゃけあいつとどういう関係?
チャットで知り合ったのがきっかけ。
それだけでお互い数日後には日記はじめてコンタクト取ってたね。
ほんと世の中の御縁てのは不思議なものです。
あの時やまだが自分のお仕事の話しなかったら。
あの時あたりさんが同じ仕事だって言わなかったら。
多分付き合いは続かなかったと思います。

●あいつを色に例えると?
方眼紙。それ色じゃねえよ。
えと、いぶし銀。磨く前のマットぽい素の銀。黒光りしてるような。
しっかりさが内側から染み出ている感じ。

●あいつを四字熟語で例えると?
ええと、切磋琢磨。
三文字熟語だったら高品質。
質実剛健で深山幽谷。
生きる上での手本にしたい人。

●あいつの良いところをひとつ教えて。
いっこだけえええ?
しっかりしてるっていうかけじめを付けてそれを徹底させてるというか
やる事にそつがないと言うか
一定のレベルを絶対に下げないというか。
その潔さというか。自立しているというか。
弱い所は外に出さずに解決出来るところとか。凄い。

●あいつの嫌なところ、ひとつ教えて。
うんと……。最近仕事が忙しい所。

●あいつに唄わせたい歌は?
あたりさんはピートになれると思います。
(宇宙船サジタリウス)じゃあ稲葉はジラフか。
何げに似合うと思ってしまいました。
あ、じゃああたし何をやろう……。
最後に皆が目の色変えておいかけて、最後砕けてしまうダイヤモンドの役で。

歌って欲しいのなら。やはり共に中島みゆきを熱唱したいです。


●あいつと遊びに行くならどこ?
ほんとにねえ。たっぷり遊びたい。
北海道じゃなくてもいい。やまだは名古屋の街を見て回りたい。
サッポロの街なみは、もともと名古屋を元にしているらしいですよ。

段ボールあるっていう公園とか。
冬でも地面が露出している町並みとか。
ナナちゃんとか。名古屋弁とか。喫茶マウンテンとか。名古屋城。

ところであたりさんが見て回りたいという北海道の名所ですが。
正直、旭山動物園と登別と屈斜路湖と釧路回るんだったら。
1週間はかかりますよ。
サッポロから旭山動物園までとりあえす200キロちょい。車で大体3〜4時間ぐらい。
北海道のやたらな距離感を味わうためにも。
ほんとに北海道に移住しませんか。お待ちしてますよ。

●あいつと一日入れ替われたら、何をする?
まずあたりさんとして会社に行って辞表を叩き付け。
自宅で軽く荷造りをして市役所で住民票とか全部移動させて。
一路サッポロ。その日のうちにやまだの隣のあき部屋を押さえて。
履歴書買ってそろえる所で。終了。
新しい生活を強制的にスタートさせられて真っ青になるあたりさんの前で。
にこにこいらっしゃいダンスをしたい。

●この場を借りて、あいつに言ってやりたいことがあれば。
結婚していただけませんか。
やまだ、宝くじあたったらまずあたりさんを北海道に呼び寄せると思います。

●あなたについて答えさせたい次の回答者最大7人。
アンカー、アンカー。


一度チャットでも申し上げましたが。
やまだにとってあたりさんはルビーの谷の河原版です。
ここはグリーンウッドという漫画の中であったパラレルで。
様々な種類の大小の宝石が洞くつの中にぎっしり転がっているという場所がありました。

あたりさんは、その河原版。

暗い洞くつの中じゃなく。
さんさんと太陽輝く光のした。
時々枝が陰を作る河原。

そこに乱反射する宝石たくさん。
近くで見るとガラス玉とかただの石とか
古いタイプのアルミ缶なプルトップとかあめだま。
玉石混合。でも、この河原にあるだけで全部宝石に見える。

記念に1つだけ持って帰って家で見たら
あの河原で見た輝きがもう無い。

そういう感じがする場所なんです。あたりさんの場所。日記。
大好きです。


2000年08月14日(月) あいつバトン アラカンさま

【あいつバトン】カンナさん
このバトンでは、あなたにバトンを回してきた人の事を「あいつ」とします。あいつの印象etc…正直にお答えください。
■あいつの名前を教えてください。
カンナさんです

■ぶっちゃけあいつとどういう関係?
カンナさんがストーカーしていたサイト先さんを
やまだもダブルストーカーしておりまして、
わあいわあいとネットの片隅で盛り上がっていたのがなれそめだった気がします。

■あいつを色に例えると?
ピンクの薄いふわっとした薄布を数枚重ねた所の色。
ふんわり優しくしつつ、それでいてしっかりさんのイメージです。

■あいつを四字熟語で例えると?
精励恪勤
仕事に力を尽くし、怠らないこと。精力を傾注して励むようす。
お仕事のお話を伺うと神様じゃないかと思います。
サイトもそうなんですが、本当にものすごーーーくしっかりされている。
御会いしたら爪しゃぶらせもらいたい人。

■あいつの良いところをひとつ教えて。
しっかりされている。いや、本当にしっかりされています。
メールのお返事を非常に怠るやまだに対しても
いつも連絡事項など大変しっかりかっきり下さいますしマメです。
さてはA型さんだな!と思います。(でも今あたりさんの日記でABだと発覚しました)
礼義正しくてきっちりされていて
その上文字校正が出来るなんて。やまだと同じ人種だとは思えません。
何で出来てるんですか?(酒って言われそうw)

■あいつの嫌なところ、ひとつ教えて。
多分。夜とかに御会いした時。
やまだはカンナさんと同じようにお酒を飲めないと思うんですよね。
酒飲むと寝てしまうのです。たくさん味わいたいのに寝てしまうんです。
だから、酒量がたくさん目の前でかぱかぱ豪快に飲まれると。
うらやましいとか通り越して悔しい……。とか思うと思います。
キイ!あたしだってお酒飲みになりたいわい!て事です。

■あいつに唄わせたい歌は?
そりゃあ。ねえ。にこにこ。
あ、やまだまだqueenて聞いた事ないので聞きたいです!

■あいつと遊びに行くならどこ?
イベントだと本を買うのに必死になって気がつくと
やまだが迷子になっていそう。なので、どっかでだべりたいです。
かなり長時間語れる自信があるんですよね。
アイシに関しても。アイシ以外に関しても。(握りこぶし)

■あいつと一日入れ替われたら、何をする?
やまだ、凄くやりたい事あるんですよね。1日だけだったら間に合うかなあ。
まず。カンナさんになっていたらお洋服をあさります。
これがバンギャの服なのか!と一通りファッションショーして。
あと、これが真上から見る乳の谷間か………!というのを楽しんだ後。
押し入れとかベットの下とかに隠してある秘密の小箱を全部あけて
カンナさんが趣味を秘密にされている御家族の前で全部カミングアウト。

それによってどのような反応がかえってくるのか興味津々です。
興味ないですか!どうでしょう!(その場合家庭崩壊したらごめんなさい)

■この場を借りて、あいつに言ってやりたいことがあれば。
武蔵。最近の武蔵どうですか。ね。武蔵なんですよ。あと十文字。


■あなたについて答えさせたい次の回答者最大7人。
このバトンの恐ろしい所は送った後のリターン率が高い所です。
なのでアンカー。非常にアンカー。

5月には御会い出来るでしょうか。楽しみにしております。
新刊!そしてサークル!わあいわあい!楽しみでございます!!








【あいつバトン】 荒井さん
このバトンでは、あなたにバトンを回してきた人の事を「あいつ」とします。あいつの印象etc…正直にお答えください。

■あいつの名前を教えてください。
荒井さんです。お知り合いになってから3つ目の名前ですねw
最初の名前のあまりに豪快なネーミングぶりに感動しました。

■ぶっちゃけあいつとどういう関係?
カンナさんのお友達さんでした。
カンナさんを通して語られる素晴らしきムサヒルさに
心からすげえ!と感嘆させていただきました。
過去トークするごとに何か接点が増えている気がします。

■あいつを色に例えると?
黒にも似合うピンク。実際に御会いすると印象は
「ふんわり」って感じなのですがびしっとされる所はびしっとされててうらやましかったです。

■あいつを四字熟語で例えると?
思慮分別、かなあ……。
最近御引っ越しだなんだとお忙しそうですが
カンナさんともども、行動力がありますよね。
ちゃんと熟慮して計画して分刻みで行動出来そう。
しっかり具合を今度レクチャーして下さい。プリーズプリーズ。

■あいつの良いところをひとつ教えて。
やまだは本当に態度が悪くて。特にメールなんかの返事が
とってもとっても悪いのですが。(出すのが死ぬ程遅い人です)
返信していない事だってかなり多いのににこやかに
(仮に腹の底で煮えくりかえっていたとしても)穏やかにまたメールを下さる
とてもとても懐の深い方です。
底辺がしっかりしているのに熱い部分は熱いってのが
やまだにとっては理想の人柄なんですが。本当にそれを綺麗にやられてるなと思います。

■あいつの嫌なところ、ひとつ教えて。
荒井さんの御言葉をそっくりそのままリピート。
遠いですよね……。がっかり。
最近この年になって上京しようかと思う事があるんですが
怖じ気付くというか自分のように無能なヤツ、東京砂漠の
公園とか駅のホームで寝泊まりするのがお似合いだと思って
中々ふんぎりがつきません。さくっと行動/決断されている姿がかっこいいです。

■あいつに唄わせたい歌は?
やまだ、pierrot関係はビデオでしか見た事が無いのです。
ぜひ生が聞きたいですねえ……。ぜひとも。

■あいつと遊びに行くならどこ?
大笑いしながらお話出来る場所であるのなら。どこででも。
観覧車とか系の密室で語り明かしたいです。ネット付きだと尚素敵環境ですね。

■あいつと一日入れ替われたら、何をする?
とりあえずやりたい事がたくさんあります。
まあ、お洋服をあさるのは基本ですが。
その中で中々セクシーだなあと思われる服を着て
これが胸の谷間ってやつか……とにやにやしながらカンナさんちに行き。
そのまま噂のカンナさんちの御家族を誘惑。
何が起こるのか楽しみです。(やまだ別にカンナさんちを崩壊させようとは思わないのですよ!)

■この場を借りて、あいつに言ってやりたいことがあれば。
今度お互いの年表作って突き合わせませんか。
うっかりどこかですれ違っていそうですよw

■あなたについて答えさせたい次の回答者最大7人。
アンカー&アンカー!

5月のイベントで御会い出来るのが楽しみです。
素敵本が出されるそうですが。新しい環境での生活とか
自分のこれからの進路に凄く参考にさせていただきたいので
お話したいです。会った際には優しくして下さい!



2000年08月13日(日) サイコさんと苺。

 




久しぶりに休日を武蔵の家で過ごす。
武蔵が高校に復学してから、工務店の空気は大分やわらかなものになった。
あまり顔を出しはしなかったがどこか渇いてぴりぴりしていた。
自分が何もしなくとも、たどたどしくも順調に仕事が流れる様子を
武蔵は少し複雑な表情を浮かべて見ている。

学生の内は、学校を優先にしてほしい。

武蔵より年上の者達はそれを願っている。
泥門のチームにキッカーとして戻ってから、また武蔵の家に顔を出すと
彼らは喜んで迎えてくれる。手持ち無沙汰そうな武蔵の相手をしてやってくれと
部屋に2人で押し込められる。
今では家の手伝いもほどほどに押さえられているらしい。

「閑そうだな」
「……身体動かしてねえからな」

学生にしては筋肉のつきかたが良い。
工務店をきりもりするために散々動いて来た武蔵へ急に学生になれと行っても無理がある。
閑をみつけては校内をうろつき、家から拝借してきた木材で
あちこち手直ししているのを見かけた。

「あんま手伝わなくても良いって言われたしな」

自分がいなくとも支障の無い仕事の様子が不満そうでもあり、それをまた嬉しく思っているようでもある。
珍しく、本当に珍しく複雑な気持ちを持て余しているらしい。
ヒル魔の話にも上の空だ。
そんな空気を読んだのか、時折職人や母親が手みやげ片手に顔を出す。

今日、2人の間にあるのは苺。

元から甘い物を好まない2人には少し手に余る量だ。
幸いというか、旬には早いその果物は通常よりも酸味が強い。
口の中では固さを主張するその熟れていない具合が互いに丁度良かった。
切れがちな会話の中、時々皿に手がのびる。
しかし一向に減らない苺の山。

ヒル魔が帰る頃部屋を覗きに来た母親が、残りをヒル魔に土産だと持たせた。
小さなビニールをぶら下げて歩くヒル魔の少し後ろから武蔵が見送りだと付いて歩く。
がさり、と妙なお音と手ごたえにヒル魔が後ろを振り向くと苺を食べる武蔵と目が合った。

「どうせ1人じゃこんなに喰えねえだろ」

悪びれもせずに武蔵は答える。
口の中からヘタだけを取り、道の端に放り投げた。

「行儀悪ぃな」
「てめぇだって似たようなもんだろ」

続けてまたビニール袋に手を伸ばし、そのままわずかに動きが止まった。
少しにやけた、妙な顔で手の中の苺を眺めている。
不審そうなヒル魔と目が合い、あわてて手の中のそれを口に入れた。

「何考えてた」
「別に」
「………何、考えてた」

ふてぶてしい程の態度を持つ武蔵がこんな風に目を逸らせる時。
図々しいに毛が生えたような武蔵が「後ろめた」そうにしている時、
それは大抵ヒル魔の想像を超えた妙な事が告白される。
それが楽しくて、こういう時はとことん問いつめる。
ヒル魔が意思を込めて武蔵を見た時、武蔵は逃げきれた事が無い。
しぶしぶ、といった具合で武蔵が重そうな口を開く。

「こないだな。接待だってんでソープ行ってな」

ヒル魔より高い位置にある目が器用に上目遣いで機嫌を伺っている。
今さら、そんな程度で怒りはしない。

「そこで苺使ってたなあってよ」

ヒル魔1人では持て余しそうな苺の量。食べきれる自信がかなり無くなった。

「気持ち良かったぞ」
「ああ、そうかよ」

今日の話はつまんねえ。興味を失ってヒル魔は武蔵に背を向けた。
それをどう受け止めたのか武蔵は尚も話を続ける。

「苺口にくわえてな、こう、なぞってくれんだよ」
「どこを」
「顎とか、腹とか、まあ……。色々と」
「へえ」
「丁度こんなぐらい固くてよ」
「あ、そう」
「やってみるか?」
「はぁ?」
「苺で」
「何を」
「ナニ」

さっきの沈黙は、そういう事を考えての事か。
考える事が相変わらず阿呆な男だ。
にやける顔の鼻先でヒル魔がふふんと笑って返す。
袋からおひと粒を取り出し口に含んで武蔵に数歩近付いた。

「ここでかよ」
「楽しかったんだろ?」
「外だぞ」
「楽しかったら、家の中でもやってやるよ」

しゃべりながら、潰してしまった果実の汁がヒル魔の口から溢れて流れた。
残ったへたを口から吐き出す。

「どうするんだ?」

ヒル魔がまた顔を近付けて来る。
武蔵は小さく口を開いて、赤い果実を受け止めた。
2人の間で潰れて流れる果汁を舐めつつ唇を味わう。

そうだ。
あの時。
あの店で色々と楽しみつつ。
武蔵はヒル魔の事を考えていた。

赤い苺。
あちこちの色素が薄いヒル魔が、果実を口にくわえた顔は思ったとおり卑猥に映った。

店で何をされたのか、実はあまり覚えていない。
けれど、せっかくヒル魔が乗り気なのだから期待に添わねば勿体ない。

気持ち良かった事だけをはっきり覚えているのだから
結果的に気持ち良けりゃあ嘘じゃなくなる。


いつもとは違う口付けを味わいながら、武蔵はにやける頬を押さえて考えを巡らせた。

一体何をしてもらおう。

できれば普段は出来ないような事。
苺を使った、気持ち良い事。




さあ。頭の使い所だ。






070310


2000年08月12日(土) 素足にスニーカー

夏に向けてのお話です。梅雨明け直後ぐらい?
中学生。




昼休み。
思い思いの場所で皆が好きに昼食を取る。
いつもの定位置屋上は、この季節になると少し辛い。

初夏。まだ少し梅雨の名残りを残した空気。
日ざしだけが夏のもの。

心地よい木陰は争奪戦が始まる程人気が高い。
もっともこの学校内でヒル魔に対してそんな戦いを仕掛けるヤツはいない。
校舎の裏、一番大きな木陰に走ると既に栗田と武蔵がくつろいでいる。

普段からあまり人が通らないそこは、適度に雑草が茂っている。

「くつろぎ過ぎじゃねえか」

3人の中で食べるのが一番早い武蔵は空になった弁当箱を片付けていた。
2人は靴を脱ぎ、素足で草の上に転がっていた。
気持ち良さそうなその光景にヒル魔も真似をし、靴を脱ぐ。

特大の弁当を片付ける栗田の隣がヒル魔の指定席。
購買で買って来た菓子パンの袋をあけると武蔵が物ほしそうにそれを見る。
食べると寝る、という実に若者臭くない習性の武蔵はゴロリと土の上に寝そべった。
封のあいていないヒル魔の菓子パンを袋の上から指で押す。

「何してんだ」
「いやーー。なんとなく」
「……やめろよ」
「どうせ食ったら後は一緒だろ」
「やめろっつってんだろ」

ヒル魔の苦情を気にもせず、武蔵はそのまま指でパンを突つき続ける。
眠そうな武蔵は、ヒル魔の怒りに気がついていない。

「止めろって言ったよな」
「おうーー」

返事さえも軽々しい。
空腹を満たすための時間。苛ついた気分が一気に振り切れる。

「止めろって言ってるだろ!!!」

そばにあった武蔵の靴を鷲掴み、ヒル魔は思いきり良く投げ飛ばした。

「あーー!何すんだ!!」
「人の食事邪魔するからだ!」
「俺、裸足なんだぜーー」
「取って来い」
「……めんどくせ」
「取ってこい!!!!!」
「これでいーー」

寝そべったまま身体をひねり、武蔵はそばにあるスニーカーをつかむ。

「てめえ、それは俺んだろうが!」
「サイズ、一緒だろ?」

ヒル魔の抗議にも怯む事なく武蔵は素足のまま手にしたスニーカーに足を入れた。

「何やってんだ」
「持ってるだけだったらお前に取られそうだ」
「てめー、水虫なんて持ってねえんだろうな」
「……」
「何で黙るんだ!!!」
「大丈夫。お前の足は強い子だ」
「わけわかんねえ!」
「へえ、武蔵水虫だったんだ」

栗田の呟きがヒル魔を打ちのめす。

「やめろ……」
「だって俺の靴ねえんだ」
「取って来い」
「めんどくせーー」

蹴ろうが叩こうが、罵声を浴びせても眠た気な武蔵は動じない。

「糞!!」

ヒル魔は食べかけのパンを地面に放った。
日陰から一歩出ただけで気温が上がる。息が詰まる。

「てめえ、覚えてろよ!!!」
「お前が投げたんだろ」
「先にてめえがパン潰したんだろ!!」

叫びながらヒル魔は素足で土の上を駆けた。
普段は土になど触れない足裏がくすぐったい。
武蔵の靴を拾い上げて、どうしようか迷った末にその中に汚れた足を入れてみた。


同じサイズのはずなのに、少し大きい。
そのまま歩くとがぼがぼする。
少し中が湿っている。
汚いという気持ちは沸かなかった。

少し歩くと足に馴染んだ。

更に歩くと顔が弛んだ。

気がつくと2人がこっちを見ているのがわかって一気に顔に血が登る。

「こんな靴はけるか!」

靴から踵を浮かせたまま蹴ると、狙いとは違う方向に武蔵の靴が飛んで行った。

「ノーコーーン!」
「ヒル魔はキック下手だよねーー」

いつもと変わらない2人の叫び。
それでいい。
気がつかれてなるものか。

こんな何でもない時間でさえも、楽しくて仕方が無いなんて。
恥ずかしくて顔も向けられない。










070220


2000年08月11日(金) すぱなっち 妊娠

 
うなされている。
これは夢だ。

わかっていつつもディーンは目を覚ます事が出来なかった。



退治してきた悪霊達。
そのイメージが1つの意思の固まりとなって夢の中に現れる事がある。
単なる記憶の残滓なのか。
どこかで感じている罪悪感なのか。
滅びきれていない彼らの一部が寄り集まった攻撃なのか。



その夢はいつも同じ所からスタートする。
ねっとりとした暗闇は叫び声さえ吸収するほど密度が濃い。
身動きするだけで大気も動いた。息苦しくて、気持ちが悪い。
目をあけているのか閉じているのか。
立っているのか眠っているのか。
感覚が遮断された完全の闇。漆黒の虚無。
その真ん中で1人、悪意の固まりと対峙する。

初めはただディーンの回りをうろつくだけ。
近くにいるらしい気配を感じるだけ。

そうするうちに悪意の密度も大きさも増す。
実態を持たず、単なる意識の集合だったものが
重みを感じるのではないかと思わせる程の存在感を持ち始めるのだ。
気体が固体に。意思が意図に。意識が作為に転じて動く。

それはディーンに手を伸ばす。
顔を撫で、首筋に生暖かな息が届く。
舐められている。
息がかかるとはそういう事だ。

逃げようともがく程、四肢はやわらかくヤツに奪われる。
手足をやみくもに広げた分だけ触れられる箇所もどんどん広がる。
全方向から悪意が吹き付ける。
飲み込まれてしまったのか、とそんな錯覚に気が狂いそうになる。
吹き付けて来る、自分への敵意。
形も見えず声も聞こえず、それでも伝わる負のエネルギー。
重くのしかかるその意思の固まりは触れるだけでおぞけが走る。
息がかかれば寒気がする。長く触れていれば腐るのではないかと思う程
それは異質な何かの固まりだった。

探しているのは、「入り口」だ。

やつらは人の「内部」を好む。
狭い隙間をこじあけて、浸透するように潜り込む。
侵入しやすいように心を揺さぶるモノもいる。
ひたすらルールにのっとるヤツも多い。
何かを媒介にやって来る者。
人が近寄って来るのをただじっと待っているもの。

こいつらはとても、人を好む。

叫び声も上げられない。口を開けば潜り込まれる。
払い除けても意味が無い。そもそもコレには実態が無い。

夢から覚めるためディーンはひたすら意識を飛ばす。
起きろ、起きるんだ、目を覚ませ、目を開け。
ヤツの呪縛は意識を散らそうと肌の上を縦横に動く。
気色の悪さに涙がこぼれる。それでも覚醒には届かない。

ミツケタ。

深い、重い、はっきりとした言葉。
全身を撫でていたモノが一斉にソコを意識したのが分かる。

恐怖が過ぎると、身体は抵抗さえ出来なくなるようだ。
冷たい汗だけが背筋を流れた。
口を塞いでいたものが外れる。止めろと叫んでも耳に届かない。
剥ぎ取られる衣服。こわばる指先。体温が失われる手足。
肌に直に触れられる感覚。

形となる恐怖。








そして、唐突に目が覚める。



あれほど必死に動こうとしていたのに、
現実には目を見開いただけ。
ベッドのスプリングは音も立てない。

薄暗く狭いモーテルの一室。
閉まり切らないカーテンの隙間から室内に差し込む月の光。
空気は軽く、視界は闇に犯されてもいず
手足は動き、身体の上にはブランケットがただ1枚。

寝汗を吸った分だけ重くなったそれをはね除けて、冷たい外気に身体を曝す。
ジョグの後のような汗だくの身体はすぐに冷えるがそれがほっとする。



あれが夢で、これが現実。

強ばった手足をゆっくりと動かし、血が巡る暖かさに力が抜ける。
毎夜訪れる、悪夢と言う名の何かからの攻撃。
考えられるのは夢魔の一種か。
あいつらの手口は夢による体力の消耗。
抵抗する力が無くなった所を襲って来るのが常套手段。

今日もまだ、退ける事が出来た。
あと数日は持ちこたえられる。それまでに撃退の準備を終わらせればこちらの勝ち。
夢に屈すればこちらの負け。
朝が来るまでのわずかな時間、夢を見ない程度の浅い眠りで体力を回復させなくてはならない。

汗を流すのは夜明けでも間に合う。
ディーンは意識して手足から力を抜いた。
余計な事は考えず。リラックス。弛緩と安堵。
短い時間を無駄には出来ない。

無駄な事は考えるな。
まだどちらが優位とも言えない。
夢はたいていあそこで途切れる。
長く見てはいたくないから、無理矢理目を開けて闇から逃げる。
続きは嫌でも想像がついた。
のっとられるか、退治するか。

いつも同じ所で目が覚める。
いつも同じ所で目を覚ます事が出来る。

まだ、勝っている。
まだ負けちゃいない。

意思の闘いは気力が勝負だ。
そう、いつも最後の一線直前で目を覚ましている。
自分は勝っている。

いつも、いつも。


そして沸き上がるいつもの疑問。
もし、負けていたら。
もし、あのタイミングがヤツらの仕業なら。

もう、この身体はあいつらの侵入を許していたとしたら。



意識してはダメだ。
自分を強く持つ事が重要だ。
腹の上に手をのせる。
身体は無傷。侵入はされなかった。
意識の隅々までが自分のものだ。
まだ、侵入を押しとどめている。






でも、本当に?








内で囁く小さな声。
手を置いた奥でずくり、とうごめく小さな気配。
あの、悪意。
あの、意識の塊。
あの、敵意と憎悪が混ざった思念。



腹の内側。
肉の奥に。
薄く感じる自分ではないもの。

あれは夢だ。
そうだ、夢だった。
夢の中で自分は無事だった。
あまりにリアルな夢だったから、リアルに感覚がなぞっているだけだ。

手足が疲労を訴えているのも。
身体が汗を流しているのも。
夢魔のせいだ。
抵抗した証。

侵入は、許していない。








本当に?









内で囁く小さな笑い。
日ごとに大きくなる体内の違和感。
疲労がたまるばかりの夜明け。
腹に当てた手の平には何も伝わらない。

何も起きている訳が無い。
手首に浮き出ている痣も、叫び疲れたような喉も。


疑えば、ヤツらの思う壷だ。
目をつむり、何ごともなかったようにディーンは息を吐く。
動揺してはいけない。疑ってはならない。
腹の奥が熱いのは気のせい。
シーツがとても乱れているのはうなされたせい。

気のせいだ。
間違いだ。
錯覚だ。


あり得ない。







サミー。

どうしてお前がここにいない?




カーテンの向こうが白く光を放つ。
部屋はシングル。ベットは1つ。
誰かがいた形跡は無いはず。
ここには1人。

ずっと1人。

サミー。どうしてお前がいないんだ。







20070305 AM1:32


2000年08月10日(木) ヤンヤンさんへ。感動しました。




「声、出してもいいぞ」
武蔵が耳元でそう囁いた。声は低く、短く荒い。
余裕が無いのはどちらも一緒。
口に手を当て、声を止めているつもりでも、それがどれだけ効果があるのかヒル魔自身にはわからない。
半分脱げた武蔵のワイシャツに片手でしがみついたまま腰を揺らす。
安定しない体勢のまま、武蔵が無理矢理中を突く。
高く持ち上げられた片足の状態では、立っているのが精一杯。
支え切れずによりかかった古いロッカーは、武蔵が腰を揺らす都度ぎしぎしと軋んだ。
授業中の使われていない教室とはいえ。
不自然な物音がすればいつ誰が覗くかわからない。
気を付けなけりゃならないのだと、わかっていながら気が回らない。

奥まで突かれて、かき回されて、それを受け止めるだけで後はもう捨ててしまう。

膝が崩れる。
手が汗で滑る。
武蔵の髪先が首筋をくすぐる。
後ろから耳に届く荒い息遣い。
肉と肉のすれる音。
その匂い。
熱。

壊すつもりか、と言いたくなる程乱暴な武蔵の動きに目がくらむ。
バランスを取るために前に屈むと、目の前の床だけ色が違った。

ブレザー、だ。

服を脱ぐ時間も惜しかったから、抱き合いながら脱ぎ散らかした。
武蔵と、俺の。
そろいの色の緑の上着。

支えにしていた武蔵のシャツが突然ずるりと手ごたえをなくした。
ヒル魔の身体が大きくかしがり、反射的に身体を起こした。

「ぅ、ごくっ……、っ……」

武蔵が、背後で低くうなった。
予期していなかった姿勢の変化にヒル魔は声も出せなくなる。
覚悟していなかった場所への突然の摩擦。
一瞬で目の前が白く弾け、気付くと武蔵の腕が胸に回っていた。

落ち着くように武蔵が息を整えるのが聞こえる。
肩より少し高い所にあたる武蔵の額。
耳の後ろから首元にかけて流れるのは、汗か、それとも唾液なのだろうか。

武蔵の体臭が鼻に届く。
かぎ慣れた汗や髪や身体の匂い。
さかっている時のその匂いはヒル魔が気に入っている事の1つ。
深く息を吸い込んで、武蔵の腕に両手を重ねる。

「ちょっと待て」

武蔵が手を離し、すぐに足下に白い物が落ちた。
汗を吸った武蔵のワイシャツ。

「時間ないから、終わらせるぞ」
「ん……」

緩やかに再開する腰の揺れにヒル魔は鼻にかかった声で返答した。

「両手、そっちの壁につけ」

武蔵の指示はこれからの行為の激しさを意味する。
自分の口元が弛んだのがわかった。
激しくされる、と思うだけで腰からゆるやかに痺れが沸く。
両手を壁にゆっくりと伸ばす。
ヒル魔の仕種を、武蔵が待っているのがわかるから尚の事ゆっくり腕を伸ばす。

「………おい」
「わかってる」

時計を見れば時間はあまり残っていない。
急ぐ事が。焦る事が。余計に激しさを濃い物にする。
中で焦れる武蔵のモノが急かすようにヒル魔を揺する。

あぁ。

ヒル魔はため息のような息を漏らした。
指だけでなく、手のひらでしっかり壁をつかむ。
肘を曲げて動きに備える。
腰を落として武蔵に押し付け、軽く締め付ける。
武蔵が小さく息を漏らす。
笑うような、喘ぐような小さなもの。

それが合図。

そこからの数分。
そこが学校で。
誰かが入ってくるかもしれない教室で。
まだ昼にもなっていない事も。

何もかもが真っ白に飛んだ。
あたりを気づかう余裕もなく、恥じるような閑もない程、2人は荒い勢いで身体を揺らした。




事が終わって互いの足跡がついてしまったシャツを拾い上げる。
もっと早くに脱ぎゃよかったな。どこか気が抜けたように武蔵がつぶやく。
汗で濡れて気持ちが悪いんだろう。
それはヒル魔も同じだったが、不満を口に出す気も起きない。
けだるい余韻が身体の中でどろどろと渦を巻いている。
シャツに腕を通し、ネクタイを首にかけ、床に落ちたブレザーを拾う。
2人はただ惰性だけで着替えを終わらせた。

「ねみー……」
「昼飯喰ってからにしねえと喰いっぱぐれるぞ」

授業終了のチャイムと同時に廊下がすぐに騒がしくなる。
スリルというようり既に習慣に近くなっている、学校内での2人の行動。

リスクが高すぎるのはわかっているが、それと引き換えにする価値はあるとヒル魔は思う。
さっきまで武蔵が入っていた場所は、異物を失っても尚その熱と形を覚えている。
肉の記憶がヒル魔の中でいつまでも残る。

甘い痺れと適度な疲労。強い満足感と十分すぎる程満たされた欲求。
普通にどちらかの部屋でするより、何倍も密度の濃い時間。

一度覚えれば手放せない快感。


壁にもたれ、武蔵の視線が宙を泳いでいる。
惚けたような無防備な顔は口元がだらしない程弛んでいる。
イイ顔だ。


人の気配が濃い廊下に向って歩きながら、名残りを惜しむようにその口元に吸い付いた。
武蔵の顔が少し驚き、開けようとしたドアへの手を下ろす。
イイ心掛けじゃねえか。

首に手を回すのが面倒で、弛んだネクタイを手前に引いた。
汗の匂いが鼻につく。
乱れた髪。しっかりと折れていないワイシャツの襟。
情事の後の赤らんだ頬。
その顔をさせたのが自分だという優越感。
昼間の学校でコトにおよんだ背徳感。

腹の奥に吐き出された武蔵の熱。
どろりと残る疲れと混じり、それは妙に浮かれた感情を逆立てる。

たまんねえ。


これだから、やめられない。
てめぇとも。この場所で、とも。

鬚の生え際を味わってから、ヒル魔は引き戸に手をかけた。
ヒル魔の身体に熱を吐き出したばかりの武蔵の顔。
疲れたようなだるさと、にやけるような口元のゆるみ。
それをこれから多くの人間が目にする。

それが、どれだけ興奮する事なのか。
お前は知らないんだろうなぁ。





がりがりと頭をかきながら何喰わない顔で廊下を歩く武蔵の斜後ろから。
ヒル魔は深く、深く深く。
行為の余韻を噛み締めた。
















AM0:05


2000年08月09日(水) 後悔の準備をしてからどうぞ。

「シャワー、空いたよ」
サムがシャワーを浴びる前から携帯相手に笑いかけていたディーン。
目を離していたのは約30分程。その随分前からディーンの電話は続いている。
「ディーン、シャワー浴びないの?」
一向に終わりそうにない会話に苛つき声を尖らせたサムに対して
返されたのは静かにしろという片手のゼスチャー。
喉まででかかる文句を飲み込み、不機嫌な顔を隠すためにバスタオルを頭からかぶる。
何時間話してりゃ気が済むんだよ。
乱暴に髪を拭いたバスタオルを元の場所に放り投げる。

狭いモーテルの同じ室内。会話の中身は当然だだ漏れだ。
その辺のGSで知り合った女の子相手に下らない会話はただただ続く。
どんな客が来た。どんな事を言われて腹がたった。
果てしなく愚痴にしか聞こえない女の会話にディーンは楽しそうに相づちを打つ。
番号交換なんてする閑がよくあったものだ。
節操なく誰にでも声をかけるディーンの好みをサムは理解出来なかった。

派手なだけ。
見た目だけ。
中身の薄そうな露出女。

「ディーンって、女の趣味悪いよね」
聞こえるように言ってやったのにディーンは何も反応しない。
ドライヤーでも使ってやろうかとこれみよがしに持ち上げると、
ディーンが先回りしてコンセントを引っこ抜く。

睨んだ先でディーンは大きく馬鹿笑いをした。
僕と電話する時に、そんな顔なんてしない癖に。
段々押さえられなくなっている怒りを一体どこにぶつけよう。




自分ではない誰かとディーンが楽しく会話をしている。
それをただ見ているだけの状況で、大人しくしろなんて言う方がおかしいんじゃないか。

だらしなく下がった鼻の下。
何かあれば息抜きが必要だって繰り返してばかりの馬鹿顔。
僕との生活は、そんなに息が詰まるって言うつもりなの。
2人きりの行動は、そんなにストレスがたまるっていうの?




どこかで見知っただけ行きずりの相手。
次の目的地に移動する頃、名前も顔も忘れてしまうような存在。
それがディーンの限られた「友達」だった。
昔からそれは変わっていない。

ほんの少しだけの接触。ほんの少しだけの会話。
父と3人で流浪するような生活で、それはディーンのみつけた娯楽だった。
簡単に作れて、簡単に消える繋がり。
ほんの一時だけの会話と接触。それをディーンは昔から好んだ。

3人だけの異様な生活。そこから逃げ出したのは僕。
ディーンをそこに置いて出て言った本当の理由は何だったんだろう。

息がつまった。
一緒にいるのが辛かった。
理由なんて今でもわからない。
わかっていない、振りをしている。
なんて事だろう。
あんなに必死で逃げ出したってのに、状況は可笑しいぐらいに何も変わらない。
否、変えられなかった。





電話が楽しいのはわかっている。
知り合ったばかりの「誰か」との会話。
語る側にはつまらない、日常の些細な事がこの生活から見れば憧れに変わる。
欲しくてたまらない「安住」の匂いだ。

ディーンが電話を楽しむのは当然だ。
だって兄にはそれしかない。
友達も知り合いも、作る事さえ出来なかった。

でも、嫌だ。
僕以外の誰にだってあんな顔を見せるなと思う。
そんなむき出しにしたエゴの塊が胸の中にごろごろとたまる。
毎日、毎日。たくさんの事がひっかかり、口に出せない事が増える。




いつも何を考えているのか、わかっているような顔をして。
ほんのわずかな年齢差を盾にいつもいつも「兄貴顔」して。
本当にわかってる?
僕が何を考えているのか。
本当は何をどうしたがっているのか。
あの時、どうして逃げたのか。

ベットの上に乗せている両足をわしづかんで、閉じないように縛りあげたらどんな顔をするだろう。
脱がすようで脱ぎきれないような中途半端にジーンズを引き下げて、
泣くまでじわじわと苛めてやろうか。

いつもは驚いて見開くばかりの表情をよく映す目を、
羞恥にうつむかて震わせてやりたい。
それでも「続けて」と言えば、きっとディーンは涙目になりながら
電話の相手と会話をしてくれる。
際どい所をなぞる毎に声を震わせ、口を閉じかけ。
『どうしたの』と頭の悪い問いかけになんでもない、と震えて答える。
たまらなく色気を含んだその声を誰にも聞かせてやりたくはない。
けれど、あんまり必死に唇を閉じるからついいじわるもしたくなる。

どうすればいいだろう。
想像の中でディーンの姿は曖昧に滲む。
泣くだろうか。怒るだろうか。驚いて口も聞いてくれないだろうか。
最初は戸惑って、それは間違った感情だと説教をして、
それでもこちらが折れなかったら……?
旅が始まるずっと前から、こうしたがっていたと告白すれば……?

「サム?」

突然大人しくなった弟を、不安そうにディーンが呼び掛ける。
電話の相手と二言三言。あれだけ忌々しかった電話がいとも簡単に終わってしまった。

「変な顔して、何考えてる?」

口調はちゃかしたものであっても、覗き込んで来る表情は酷く真剣。
心から「弟」を心配している「兄」の顔だ。いい年をした大人になってまで。
ディーンはいつまでも「可愛い弟」を大切にしてくれる。

「何でもない。ちょっと……ちょっと疲れただけ」
「シャワー浴びたんだから、冷える前に寝ろよ」

ディーンの手の平が顎から首筋をするりと撫でた。
体温を測るため。そのためだけ。無防備に伸びて来る手は
とても暖かく、無邪気な分だけとても恐い。
反射的に逃げかけるサムの濡れた髪を、ディーンは何も言わずに更に撫でた。

「こんな濡れたままだったら風邪ひくぞ」

至近距離からのディーンの視線を受け止め切れずに顔をそらす。
自分を押さえる自信が無いからだ

ディーンが思っているよりも、僕は自分を信用しちゃいない。

昼でも夜でも、いつも気持ちは同じ事を繰り返す。
他の誰かに笑いかける、そのそぶりを見るだけで意識は簡単に兄を襲う。

柔らかな唇に血を滲ませて。
抵抗する手の力が抜けるまでゆっくり追い詰める。
だって切り札は僕が持っている。
ディーンがけして抵抗出来ない、卑怯で姑息で最低の言葉。

『嫌なの、兄さん』

誰よりも「家族」にこだわるディーン。
父がいない今、ディーンに残されているのは僕だけだ。
何があってもその「繋がり」をディーンは捨てられないだろう。
幼い頃から持ち続け、他に何も持てなかったディーン。
逃げるという事さえ出来なかったディーン。

手の中に残ったそれを大事に大事に暖めて、願望ばかりで固め上げた。
でもね、僕はその中に閉じこもっていられないんだよ。
でもね、僕はひび割れたそれを捨てられないディーンを知っているんだよ。

「俺がシャワー浴びる間に寝てろよ」
「今何時だと思っているのさ」
「シャワーから出て来てもベットに入っていなかったら……」

すぐに子供扱いをしてくれるディーンの顔めがけてタオルを投げ付ける。
笑いながらバスルームへ消える姿。
言われた通りにベットに潜り、サムは大人しく目を閉じる。
ドア越しに聞こえる水音に混じり、調子はずれの歌が流れて来た。

こっちの気も、知らないで。
うまく丸め込まれた事が腹立たしいような、ほっとしたような。
あれほど強かった腹立たしさが消えている事にサムはため息をつく。

ディーンが自分を見ていると確かめるだけで安堵する安易な感情。
愛情よりも愛しさよりも、欲望ばかりが先走る。
誰も見ないで。どこにも行かないで。
俺だけを見て。
俺だけに笑って。

ずっとこの生活を続けて。

他の事なんて知らなくていい。
他の事なんて出来なくていい。
誰かに頼るなら僕に縋って。
誰かを探すなら僕で我慢して。

ずっとこの生活を続けて。


ディーン。
僕をこんな目に合わせる憎くて愛しい血を分けた兄。

ディーン。
僕をこんなに醜くさせて、弱く、浅ましく堕とした兄。




はやく、気がついて。
はやく、そばに来て。


僕がそうであるように、
いつも僕で一杯になって。
僕だけを見て。
僕だけを考えて。

僕だけを感じて。
僕を身体で受け止めて。

僕がそうなったように。
僕に狂って。





僕の事で一杯になって。








20070214




後悔したかね?
バレンタインに何やってんだw
お好みのままに。ここが違います、とか言って下されば
もっともっと深く書きますよ。こういう世界は大好きです。


2000年08月08日(火) 日記297



父がサミーを叱りつけた。

理由があっての「叱り」だったがサミーにとっては悪意はない。
煙草に興味を持ったらしく、灰皿にあった火のついたそれに手を出しただけだったからだ。

危険の程度が分からないうちは身体に覚えさせるしかない。
言って聞かせるよりずっと早いが、突然の痛みと驚きに
サミーの両目はあっというまに涙が溢れた。
静かに長時間煙草をふかしている父と一緒に遊びたかっただけなんだろう。

最初は警告。軽く手先を叩かれただけ。
かまってもらえる、と勘違いしたサミーが更に灰皿に手を伸ばす。
そして、低い声での叱りつけ。


どうして怒られているのかわからないサミーに手を伸ばすと
小さな身体がしがみついて来た。

「甘やかすな」

父はサミーに少しきつくあたりがちだ。
母親を知らずに育ったサミ−が不憫で、ディーンは逆に甘やかしがちになる。
互いに接し方が極端だという自覚はある。


「こんな小さいのに、可哀想じゃないか」
「怪我をしてからじゃ遅いだろ」

言っている事も、やっている事も。まったく正しい。
でももう少しやり方ってもんがあると思う。
でも、怪我が無くて良かったとも思う。

涙と鼻水でぐしょぐしょになった丸い顔が、ばふんと胸に飛び込んで来る。
こんな所も愛しいと思う。
近所のガキにそんな事をされればきっと自分は怒るだろう。


弟だからだ。
サミーだからだ。

「びっくりしたよな」

黒くてしっとりとした撫で心地良い小さな頭を撫でてやる。

「あれは触っちゃいけないんだぞ」

しがみついたまま顔を上げないサミーの頭から背中を何度も撫でた。
面白くなさそうに父さんと目があって、それからすぐにふいと逸らされた。
気にしてはいるらしい。

お前にはあんな不器用な所が似ないと良い。

頭を撫でながら父とサミーをだぶらせて苦笑した。
2人が衝突する理由の1つは、多分2人が似たもの同志だからじゃないだろうか。


お前はどんな大人になるんだろう。
年の差はわずか。多分サミーはすぐに大きくなる。
両腕で抱き締めあうなんて、多分今ぐらいのもんだ。
妙な感傷が胸につかえて、なんだか少し苦しくなった。

ゆっくり、大きくなるんだぞ。

しゃくりあげる小さな頭に手をあてて、気持ちをこめる。
言葉に出来ないような感情。

大好きで。
愛しくて。
大切な。


愛しい、弟。



ゆっくりでいいからな。
腫れた目元を冷やしてやるためにサミーを抱き上げてバスへと向う。
サミーが一段落したら、今度は父さんの機嫌を取らなけりゃならない。
こちらの対応は少し面倒だ。
父は伊達に年をとっているわけじゃないから拗ね方も随分とひねくれて帰って来る。

1人であの父さんの相手するのも疲れるから、早く大きくなってもいいぞ。

声には出さない。
気持ちは全部手のひらに込める。









愛しい弟と、愛しい父。それが、僕の大切な家族。










070301 夜10:26


2000年08月07日(月) がおまるひる。



3人で生活するそのアパートは海外で暮らしがちな両親がマルコに買い与えた物だった。
高校生1人では持て余すその広い場所に転がり込んだのはまず蛾王。そして先日、1人増えた。
学校が違うその新顔はマルコにとっては十分有名な存在で、接してみれば楽しかった。
意気投合して話がまとまり、あくの強い3人での生活は思った以上に楽しかった。
ソーイッタ関係になったのが大きいだろうが、それだけじゃあない楽しさがある。

人並みはずれた体格とそこから生まれる力ゆえに、人付き合いが苦手らしい峨王。
幼い頃からヤツが苦労してきた姿を見ているから、誰かに懐かれているのを見るのは楽しい。
自分以外の誰かとうち解ける峨王を見るのはとても嬉しい。

だからって、ちょっと甘やかしすぎたちゅう話だ。

練習後に雑用を済ませ、帰宅したマルコが玄関を開けて見たものは
同居人2人の素っ裸。
慣れてしまった自分が痛い。

「何やってんの」
「ああ?ヒル魔がここで寝ちまってな」
「額は?」
「そのへんでぶつけた」

あぐらをかいた峨王の股間にうつぶせるようにヒル魔が寝ている。
そりゃあ寝てるっちゅうより、気を失ってるってやつなんじゃねえの?
異常とも言える怪力を持ちながらヒル魔をベットまで運ぼうと言う発想にはいたらなかったらしい。
自分のものとは性質の違うヒル魔の柔らかな髪の毛を無骨な指が何度も撫でている。
峨王の額は薄く割れて、そこから赤い物が流れている。
何度か拭ってもいるんだろう。
薄く伸びた血の跡は乾いている。何度か無造作にこすったんだろう。

冷暖房が完備されているとはいえ、この季節にそんな所で。
せめて服くらい着とけっての。

「ヒル魔は俺が見ててやるから、お前先に風呂入って来い」

ヒル魔の腹から太股に垂れるべっとりとした体液の跡。練習帰りに一緒になってその気になって家に着き、ベットまでお互い持たなかった。それがマルコの簡単な見立てだ。多分実際とそれ程離れちゃいないだろう。

共に暮らすようになってから、ほとんど毎日。どちらかの、下手をすれば2人の相手をしているヒル魔の疲労はかなりのはずだ。疲れたとか今日は無理だとか言えばこちらも考える。何より峨王も馬鹿じゃあない。行為に積極的なのはむしろヒル魔の方だった。
峨王の身長を考えて目線を走らせた壁の一部が見事にへこみ、赤が散っている。

ここか。

マルコは小さくため息をついた。脱ぎ散らかした二人の制服が壁の片隅で丸まっている。
ヤる事に夢中になって、峨王の額が壁にぶつかったのなら、ヒル魔の体勢はかなり窮屈な事だったろう。
大体、お前にだって責任はあるんだ。
目をさまさないヒル魔の鼻をマルコはかるく摘んで揺すった。


初めてヒル魔を抱いた時から、妙な癖を持ってるんだと思っていた。
やっている最中。ヒル魔の身体から力が抜けてしまう。それも突然。
自分の背筋も支えられない程。
何かドラッグでもやっているのかと思った程に、それは顕著な癖だった。

峨王はそれが面白いらしい。力の抜けたヒル魔の身体を楽しそうに何度も抱く。
気持ちはわからないでもない。
巨体、怪力であることから常に周りに恐れられている。
峨王の前では誰もが無力で、だからいつも緊張が緩まない。
顔が笑っていたとしても相手の筋肉は不自然に硬直している。
緩まない空気。うわべだけの浅いつきあい。

リラックスを突き抜ける程ゆるんだ体を預けられる事。
峨王はそれがどれだけ嬉しかっただろう。
新しい関係は急速に深まった。2人から感じる柔らかな空気を止める理由は無い。
それもエスカレートしなければの話。

バカが付くほど怪力を持つ峨王の握力とヒル魔の癖が2人のセックスを
通常の枠に留まらなくさせている。



目が覚めたヒル魔に「峨王が出た後で風呂に入れ」と言ってはみたが果たして言う事を聞いたかどうか。
どんなに疲れていても、ヒル魔は快楽を常に欲しがる。
峨王とのセックスが好きらしい。閑さえあればどこでも抱き合う。
体格という物に対してヒル魔がコンプレックスを持っているのは知っている。
抱き合う最中、背中に手さえも届かない程の巨体。
峨王に組み伏せられる毎に、ヒル魔は「それで終わりか」と目で挑発する。
少し負荷がかかる程の体勢を望み、負荷がかかる程笑みが深まる。

2人の相性はかなりイイ。
この状態が長く続けば良いと思う。
ヤバイ事にならない限りは、だ。

もちろんマルコもヒル魔を抱くのは嫌いではない。むしろ楽しい。
ただ、二人のように度を外した回数を楽しむ気分にはなれないだけだ。

「少し教えてやらなきゃ駄目かねえ」

ほうり出された服を拾い上げ、峨王がうちつけた壁を見上げる。
やってる最中に段々ヒル魔が立てなくなって、壁に手をついていたんだろうが、
それさえつらくて壁にはりつくか崩れ落ちるかしたんだろう。
とっさに蛾王が身体を倒して、その弾みで額をぶつけたに違い無い。
多少壁がへこむぐらいなら問題は無い。

気になっているのはヒル魔の身体だ。

被害が壁や椅子程度ならまだしも。峨王の怪力はどんな物でも壊しかねない。
ヤってる最中の脱臼や骨折。あり得ない話じゃあない。
ヒル魔は少しその辺の考え方が甘いと思う。

浴室からの水音が止み、なにやら妖しい声が聞こえる。
足場が安定しない所で盛るなと注意するために立ち上がりながらマルコは携帯を取り出した。
あの二人には、少し「教育」が必要だ。













ツユダクで続きます。
皮のベルトを使ってヒル魔をきゅってするためのお話です。
ぎょふーーーー


2000年08月06日(日) 鼻血

日が暮れてから眠りにつくまでの中途な時間。
ベットにねそべりポップコーン片手にテレビを見ていたディーンは
部屋に戻って来たサムへお帰りと、声をかけた。

デリバリーもないような片田舎の小さな町の夜。
ディナーの買い出しから戻って来たサムは紙袋を持っていない片手を顔から下ろさない。

「どうした?」
「………ちょっと、鼻血」

ベッドの上に紙袋を落とし、サムは鼻の頭を指で押さえた。

「何やってんだ」
「止血」
「……喧嘩でもしたのか?」
「いや、外寒かったから」

説明になっていないようなサムの一言をふうん、とディーンは聞き流した。
そばにあったティッシュボックスを片手にベットの上をそのそと近付いて来る。
渡されたそれで垂れる血をぬぐっているサムを見上げるディーンの顔が笑った。
あの顔は、何か勘違いしている顔だ。
兄の口から出た言葉はサムの直感を裏切らなかった。

「だから言ったろ?息抜きは必要だって」
「そんなんじゃないって」
「ちょっとその辺で遊んで来いよ」

だからどうしてこの馬鹿兄貴はすぐに息抜きと連呼するんだ。
そんなに僕との旅は息が詰まってやりずらいっていうの?

「僕が誰と遊んでも平気なの」
「その気になったか?もう少しお前は健康的になれ」
「こんな生活、してて?」

毎日変わるベッド。決まったアドレスのない移動の日々。
1日で一番多くの時間を過ごすのは車の中。
人との関わりも限定される。そりゃあ息が詰まる環境かもね。

でも、僕はそんな環境で息が詰まるなんて事ないんだけど。

「何買って来たんだ?」

心配する程の事でもないと判断したのか、ディーンの興味はディナーへと移った。
今日の部屋はツイン。2つのベッドが隔てている距離が短いのは部屋が狭いからだろう。
ベットで寝転んでいたディーンは、その距離を跨いでベットの上だけを移動して回る。
靴を履くのが面倒臭いらしい。

「で、なんでそんな恰好なの」

好みの品を両手に持ち、スプーンをくわえてまた自分のベットの上に戻るディーン。
足を大きく開いての移動姿から目を反らしつつサムは尋ねた。
何か口にしなければ盛大にため息が出そうだった。

「さっきシャワー浴びたから」

短い髪はまだしっとり濡れている。
部屋の中は暖かいから、薄着でもそれ程問題は無い。
洗濯のし過ぎで薄くなった古いTシャツ。
そして、下着。
シャツの裾からのびる生のままの足。

「もう寝るだけだろ?」

サムは小さくため息をついた。
この自覚の無い行儀の悪さ。少しは謹みってもんを持って欲しい。

そういう恰好の兄貴を見て、こういう反応をするのは
十分健康的なんじゃないかな。
すらりと伸びた形の良い足から目を反らしながら、今夜もサムの葛藤は続く。






0700204

稲葉さんへ。


2000年08月05日(土) 執着


これは誰だろう。

貧弱な身体。筋肉の薄い身体。周囲を思い通りに動かして楽しそうに笑う顔。
目的を見据える目。他人を意のままに操る両手。恐ろしい程に回転の速い頭。
いろいろな顔を持ち、たくさんの手段を使い分ける男。
そのいつもの姿と目の前の姿がつながらない。


いろいろな顔を持っている。
宥めすかし、時には脅し、時には笑う。冷えた目の奥が凍る時もある。
烈火のごとく怒りを見せれば冷気のような恐怖が届く。
飴と鞭を綺麗に使い分け、隠したいものを鷲掴み、逃げられないように人を囲う。
そのための表情はどれもがヒル魔だ。

そのどれとも違う。
たまんね、と小さくうめいてシーツの上でのたうつ細い手足。
高く鳴いたかと思えば荒く短く息を区切る。
息を吐き、吐いて吐いて、吐き出す息に掠れた音を乗せる。
肺が空になってから、今度はその分息を急いで吸い込む。
溺れた者がするように支えを欲して爪をたてる。
コントロールが効かない身体は、武蔵の動きに呼吸を止める事がある。
吐く事も出来ず、吸う事も出来ず、ぎりぎりと歯を噛み締めて耐えるのだ。

それは苦しそうに見える。
額には終始皺が寄り、痛いとか辛いとか無理だとか
そういったモノを混ぜた表情は、同時に愉悦に溶けてもいる。



慣らすまで、あれほど侵入を拒んだ場所は今ではすっかり熱にほどけた。
太いものを深く飲み込み、突き上げられても小刻みに揺らされてももう拒絶する事は無い。

悦んでいる。
味わっている。
貪欲な程に愉しんでいる。
もっとよこせと言うように武蔵を引き寄せ離さない。

絞られるように締め上げられて、いい加減に終われと思う武蔵の気持ちが顔に出たのか。
ヒル魔の両目がにぃ、と笑った。笑ったように武蔵には思えた。

目尻を濡らす直前。赤く染まった頬の歪み。
セックスの真っ最中にだけ見せる表情。
強い衝撃に歪む顔は武蔵だけに見せると思っていた。
笑うような、叫ぶような、極まった時に見せる顔。
それが色気をまき散らすように見えていたのはつい先日まで。

いくら日に灼けても染まらない白い肌のあちこちが赤く色付いている。
ダメだ、とかイイ、とかどこかのビデオで流れるような
安い嬌声を上げながらヒル魔が何度も武蔵の名前を叫ぶ。
出来過ぎたような光景だ。
涎を垂らす程弛んだ唇がまたわなないてむさし、と動いた。

そりゃ、嘘なんだろう?

ヒル魔を思う武蔵の感想はこの数日でがらりと変わった。
普段から態度を使い分けている、あのたくさんの奴隷と同じに
コレも「使い分け」の1つなんだろう?



こんな簡単に、お前が溺れるってのが可笑しいんだよな。



疲れた頭がやけに冷える。
気持ちが行為に没頭出来ず、萎える気持ちは今迄の風景を一変させた。
色気のあるこの表情も、今はみっともないとしか思えない。
ただ腰をふる武蔵に向けてイイ、と繰り返すヒル魔に笑う。
乗り気では無いこんな時にさえも普段通りの痴態をさらす。

見事に俺は騙されていた。
お前が嘘つきだって忘れていたんだ。




終わるためだけに腰を叩き付け、先に動きを止めていたヒル魔の体に熱を注ぎ込む。
気持ち悪いのか、呻きながらそれを受け止めてヒル魔が震える。
疲れと余韻に浸っている閉じた目蓋。荒い息を吐き出す唇。

お前は本当に嘘が上手だったな。

「ハッタリは、自分をだませりゃ上手く行くもんだ」

何がきっかけだったのか、以前に聞いたそんな言葉が何故か頭から離れなくなる。
あれは、こういう事だったのか。お前にとって、俺は騙しやすい馬鹿の1人か。

男との恋愛に溺れる振りは楽しかったか?
俺との関係は、面白かったか?
他の男とどう違っていた?

何を考えているのかわからなかったヒル魔の事が
急に最近はっきりと見えて来た。

お前は、『上手』にやりすぎたんだ。

細い首筋を汗が流れる。このまま眠りに落ちそうな程ヒル魔の動きが弱くなる。
呼吸が収まって火照りが引いて、頬の色が元に戻った。
どれだけ汗をかいたとしてもすぐに熱の引く薄い身体。





ヒル魔の喉を伝った汗の流れを指で追い掛けた。指に伝わる力強い脈。
片手の中に収まる細い首。武蔵の目の前に無防備に曝け出されているヒル魔の命。
少し力をこめさえすれば折る事は可能だろう。
何も考えずに両手を添えた。
頭から離れないあの光景。

たまたま覗いた路地裏から聞こえてきたのは聞き慣れた嬌声。
耳に馴染んだ覚えのある声。啜り泣く音。
相手の男の名前が呼ばれる。何度も、何度も。

うまく動かせない体をひきずり、離れた所で路地から出て来る人物を待つ。
よく知った男と、見た事もない男。言葉も交わさず目も合わせずに、
そこから離れる二人の様子は1度や2度の関係には見えなかった。




こんな事はナンデモナイ。
ヒル魔とは単なる体だけの関係で、仮に愛情があったとしても
それはごくごく薄いものだ。
だから、別にショックでもない。
ヒル魔が他の男とヤるのは考えてみればあり得る話でショックを受けるのも可笑しな話だ。
俺だけじゃない。俺以外でもいい。

むしろヒル魔を考えてみればそれはとても自然な事だ。

騙されていたとショックを受ける程自分は純情じゃあない。
大した事じゃない。こんな事で動揺もしねえ。



そんなにヒル魔が大事でもねえ。





だから。
別にこんな事も平気なはずだ。

細い首に指を添えていた。
何も頭に浮かばないまま、添えた指に力が入った。

こんな事は大した事じゃねぇ。
俺がショックを受ける理由はねぇ。s
他の男とヒル魔がやっていても怒りはしない。
俺はそれ程執着もしてねえ。

だから、今考えているような事を、俺がヒル魔にするわけが無い。
これはただの冗談だ。

ヒル魔の首に沈む指。
その指を掻きむしるヒル魔の細い指。
鋭利な爪が作る赤い線。
組み伏せた下でやたらとヒル魔が暴れ始めた。

本気でヤってると思っているのか?
これはただの冗談で、それがわからないお前じゃないだろ。

俺はお前に惚れてもいないしお前に執着してもいねえ。
だから嫉妬とかそんなモノがある訳がねぇ。
それが元でヒル魔を責める訳もない。
俺はとても冷静で、意識も現実もとてもクリアだ。

どうしてなのか、一層指に力が入った気がした。
ヒル魔の頬がとても白くて、どうしてなんだろうとのんびり考えた。
多分、ヒル魔が自分に見せた顔は全部が演技で本当はそんなにヨくもなくて
だから体温が冷えるのも早かったんだろう、と。
思う事で納得が出来た。
だから今も体が冷えて、それで頬が白いんだろう。
冷静になればよく分かる事だ。全部説明がつく事じゃねえか。

騙される所だった。
でも騙されたってどうでもよかった。
だって俺はヒル魔が好きじゃあないからだ。

のろのろと流れる意識とは逆に肩が疲労を訴えはじめた。
指の先まで力を入れすぎているからだろう。
今、自分が何をしているのかあまり深く考えたくない。

ただ。
こいつは本当に嘘が上手くて。
俺は綺麗に騙されていて。
別にそれはどうでもよくて。
これはほんの冗談であって。

ただ。
騙されたままだったら良かったな、と。
ヒル魔の鋭い蹴り上げが腹に沈む瞬間にそう思った。

ただのセフレ。
気晴らしにヤりあう仲。
口に出して説明していた訳でも無い。
だけど、お互いにそうだと思っていたはずだ。
お前は俺が何をしても文句を言わない。
上手に関係を楽しんでいた。

俺に惚れた振りをして。
俺とのセックスが好きなふりをして。
泣いてよがって散々に喘いで
その辺の女でも言わないようなつまらねぇ事をわめいていたな。
イク,とか。
スゲエ、とか。
きもちイーとか。

お前も良かったぜ。
何より、本当に嘘がうまかった。



ヒル魔から離した指はこわばって旨く動かない。
何でこんなに力入っていたんだろう。
まるでヒル魔を殺すような勢いじゃねえか。
うしろで咳き込むヒル魔の声は掠れて酷い音を出している。

よく、わかんねえや。



よく、わかんねえ。
考えるのも面倒で、床に転がるヒル魔を見ていた。
なんとなく、1つの考えが浮いて来た。

多分俺は。
お前に騙されていたかったんだ。


浮かんだそれを潰して沈めるには指先がうまく動かない。
不愉快なばかりのその思いを、武蔵は他人事のように観察した。



俺は、お前に騙されていりゃよかったんだな。



考えを整理しよう。
俺はヒル魔がどうでもよくて、それはお互い承知の筈だ。
こんな事をしたのもそういうセックスの一部だと思えば射いい。

ヒル魔がこっちを見上げている顔が、
怒っているのか泣いているのか。
そんな簡単な事でさえ。

もう、俺にはわかんねえや。












20061215>手直し070129


2000年08月04日(金) すぱなち

「シャワー、空いたよ」
サムがシャワーを浴びる前から携帯相手に笑いかけていたディーン。
その間、約30分程。その前からディーンの電話は続いている。
「ディーン、シャワー浴びないの?」
一向に終わりそうにない会話に苛つき声を尖らせたサムに対して
返されたのは静かにしろと片手のゼスチャー。
喉まででかかる文句を飲み込み、不機嫌な顔を隠すためにバスタオルを頭からかぶる。
何時間話してりゃ気が済むんだよ。
髪を乱暴に拭いてもまだ尚怒りは収まらない。

狭いモーテルの同じ室内。会話の中身は当然だだ漏れ。
その辺のGSで知り合った女の子らしい。番号交換なんてする閑がよくあったものだ。
節操なく誰にでも声をかけるディーンの好みをサムは理解出来なかった。
派手なだけ。
見た目だけ。
中身の薄そうな露出女。
「ディーンって、女の趣味悪いよね」
聞こえるように言ってやったのにディーンの反応はまるで無い。
ドライヤーでも使ってやろうかとこれみよがしに持ち上げると、
ディーンが先回りしてコンセントを引っこ抜く。

睨んだ先でディーンは大きく馬鹿笑いをする。
僕と話をする時には、そんな顔なんてしない癖に。
段々押さえられなくなっている怒りを一体どこにぶつけよう。

自分以外とディーンが楽しく会話をしている。
それをただ見ているだけの状況で、大人しくしろなんて言う方がおかしいんじゃないか。

だらしなく下がった鼻の下。
何かあれば息抜きが必要だって繰り返してばかりの馬鹿顔。
僕といるのが、そんなに息がつまるとでも言うんだろうか。
いつも何を考えているのか、わかっているような顔をして。
ねえ、本当にわかってる?
僕が何を考えているのか。
本当は何をどうしたがっているのか。

ベットの上に乗せている両足をわしづかんで、閉じないように縛りあげたらどんな顔をするだろう。
脱がすようで脱ぎきれないような中途半端にジーンズを引き下げて、
泣くまでじわじわと苛めてやろうか。

いつもは驚いて見開くばかりの表情をよく映す目を、
羞恥にうつむかて震わせてやりたい。
それでも「続けて」と言えば、きっとディーンは涙目になりながら
電話の相手と会話をしてくれる。
際どい所をなぞる毎に声を震わせ、口を閉じてしまう。
たまらなく色気を含んだその声を誰にも聞かせてやりたくはない。
けれど、あんまり必死に唇を閉じるからついいじわるもしたくなる。

どうすればいいだろう。
想像の中でディーンの姿は曖昧に滲む。
泣くだろうか。怒るだろうか。驚いて口も聞いてくれないだろうか。
最初は戸惑って、それは間違った感情だと説教をして、
それでもこちらが折れなかったら……?
旅が始まるずっと前から、こうしたがっていたと告白すれば……?

「サム?」

突然大人しくなった弟を、不安そうにディーンが呼び掛ける。
電話の相手と二言三言。あれだけ忌々しかった電話がいとも簡単に終わってしまった。

「変な顔して、何考えてる?」

口調はちゃかしたものであっても、覗き込んで来る表情は酷く真剣。
心から「弟」を心配している「兄」の顔だ。いい年をした大人になってまで。
ディーンはいつまでも「可愛い弟」を大切にしてくれる。

「何でもないよ。ちょっと……ちょっと疲れただけ」
「シャワー浴びたんだから、冷える前に寝ろよ」

ディーンの手の平が顎から首筋をするりと撫でた。
体温を測るため。そのためだけ。無防備に伸びて来る手は
とても暖かく、無邪気な分だけとても恐い。
反射的に逃げかけるサムの濡れた髪を、ディーンは何も言わずに更に撫でた。

「こんな濡れたままだったら風邪ひくぞ」

至近距離からのディーンの視線を受け止め切れずに顔をそらす。
自分を押さえる自信が無いからだ

ディーンが思っているよりも、僕は自分を信用しちゃいない。

昼でも夜でも、いつも気持ちは同じ事を繰り返す。
他の誰かに笑いかけるだけで意識は簡単に兄を襲う。
それが電話ごしであっても。
それが通りすがりの誰かであっても。

「俺がシャワー浴びる間に寝てろよ」
「今何時だと思っているのさ」
「シャワーから出て来てもベットに入っていなかったら……」

すぐに子供扱いをしてくれるディーンの顔めがけてタオルを投げ付ける。
笑いながらバスルームへ消える姿。
言われた通りにベットに潜り、サムは大人しく目を閉じる。
ドア越しに聞こえる水音に混じり、調子はずれの歌が流れて来た。

こっちの気も、知らないで。
うまく丸め込まれた事が腹立たしいような、ほっとしたような。
あれほど強かった腹立たしさがすっかり消えた事にサムはため息をつく。

馬鹿みたいに強い独占欲が溢れて止められなくなるのはディーンが悪い。
内側から溢れるそれのきっかけを作るのはいつもディーン。
そして、それをせき止めてくれるのもディーンの存在。

細い橋の欄干を目隠しで歩かされているような気がする。
命綱の代わりに握りしめているのはディーンの手。
突き落とすのも、導いてくれるのも、全部ディーンが握っている。

多分それを知らないディーンはこの世の誰よりもサムに対して残酷で優しい。
手放せない程愛しい存在なのに、無邪気なふるまいが刺さるように痛い。

実の弟。
世間には認められない非現実な世界での生活。
常に不安定な毎日の中、味方は少数。命を狙ってくる者ばかりが増えていく。

僕にはもう、ディーンしかいないのに。
何だかんだと人生を楽しみ、深く考えずに愛想を振りまく寂しがりの無邪気な兄。
この気持ちを打ち明けないかぎり、一生続く甘い苦しみ。















2000年08月03日(木) なんだか最近うまくいかない。

 
サンタがいるとかいないとか、子供の頃はそれが一大事件だった。
当時それを信じていたかと聞かれればヒル魔は少し首を捻る。
普段は留守がちな両親がそろって家にいる日でもあったし楽しみにしていたのは確かだったが。
サンタの存在を信じていた覚えは無い。
それでも、いないと疑った覚えも無い。

クリスマスは楽しみだった。楽しむ事が上手いやり方だとわかっていた。
子供らしくない考えかもしれないが、楽しむために信じていた。
世間の流れに乗るようにしていた。
多分そんな所だったんだろう。




そろそろ終電が終わりそうな時間。
武蔵から携帯に電話がかかる。今日は帰れないという内容。
仕事が遅いのも不規則なのも慣れているしよくわかっている。
けれど最近は子供の頃を思い出す。

クリスマスだけじゃなく、普段も家にいてほしいと強く思っていた子供の頃。
サンタなんてどうでも良かった。ただ、それを騒ぐ世間に合わせて
その時だけ「らしく」ふるまう両親が嬉しかった。
それをもっと楽しくするため、サンタもツリーも好きになった。

今日、武蔵は帰って来ない。
それが仕事かどうなのか、疑いはじめればキリがない。
本当かどうか、確かめるのも不粋な話だ。


ただ。
一緒にいて欲しいと思う時に限って思い出す。
楽しい事を続けるために何が欲しかったのかを言えなかったあの頃。
年に数回しかない家族の団らん。ぶち壊さないために気持ちを押さえ続けたあの頃。


1人で過ごすのが少し辛い、やけに冷え込む冬の夜。



2000年08月02日(水) あいつバトン

 
waste basketのチャコさんからいただきました。
日記のトップにやまだが戴いた絵があります。えへへ。
ありがとございまーーーす!

あいつバトン〜チャコさん編〜

このバトンでは、あなたにバトンを回してきた人の事を「あいつ」とします。あいつの印象etc…正直にお答えください。

☆あいつの名前を教えてください。
ちゃこさんです。

☆ぶっちゃけあいつとどういう関係?
プロフィールの基礎部分が似てしまった方。
年は離れてるよなあと思ったんですが干支が一緒とか面白い所で足並みが揃っております。

☆あいつを色に例えると?
柔らかいブルー。大人の落ち着きと柔らかさが私を窒息させるのです。
その懐の深さで溺れてみたいです。

☆あいつを四字熟語で例えると?
札幌市民。それ四字熟語じゃないよ。
ええと、忍之一字


☆あいつの良いところをひとつ教えて。
やまだの一番足りない部分を芳醇&完璧に備えていらっしゃいます。
若さとか。落ち着きとか。理性とか。マナーとか。
丁寧語と謙譲語の使い方とか礼義作法とか。くれ。嘘です。ください。
この人と一緒でこの人の真似をしていればとりあえず
変な悪目立ちはしないよな、とか変に馬鹿な事する前に止めてもらえるな、とか
理性的な判断をすべてお願いしてしまってすみません。

☆あいつの嫌なところ、ひとつ教えて。
トイレを我慢出来る所。そんなに我慢が長もちするなんて。
畜生、あんた人間の皮をかぶったロボットだね!
つうかやまだが行き過ぎるという話でもあるんですが
「今忙しいから」「お客さまが優先だから」の理性の元で
尿意を押さえるだなんて。
人間、出したいものは出してもいいんだよ!
ちなみにやまだはちゃこさんが1回トイレ行く間に
5回ぐら走ります。多いっちゅうの。

☆あいつに唄わせたい歌は?
テレサテン。哀愁が出せるような気がします。

☆あいつと遊びに行くならどこ?
4泊5日ぐらいで夏コミ3日間&まんだらけ&アニメイト制覇。眼鏡必須で。

☆あいつと一日入れ替われたら、何をする?
やまだの姿でこんなにもマナーと理性と賢さに溢れた行動が出来ますよと
知り合いに見せて喜んでもらいたい。迷惑かけた人たちとかやまだの事がダメな人たちに
実はやまだこんな素敵な事が出来ます、だから見捨てないでとアピールもしたい。

☆この場を借りて、あいつに言ってやりたいことがあれば。
次のアニメイト訪問は裏口からゴー!しましょう。
あと、もうガム忘れないです。すみません。

☆あなたについて答えさせたい次の回答者最大7人。
うーーーーーーーーん………。
これって直に御会いした人に聞いた方が面白いと思うのですが
どんな答えが返って来るのか、ちょっと大層とっても恐い部分がありますね。
稲葉、あたりさん、穴、カンナさん、荒井さん。
誉めてね。(…………。)


2000年08月01日(火) どろんこ 後




普段は静かなたんぼの周りが今日は朝から賑わっている。
カメラをたずさえた観光客と、この日のために準備をくり返して来た
村人達でごった返す。
午前中に神事は終わり、正午丁度から始まった「田植え」の合間に
祭り装束に身を包んだ娘達が集まりはじめた。
どの娘も綺麗な化粧と衣装に身を包み恥ずかしそうに笑いあっている。
手の中の容器に泥を汲み、指で掬い取って周りの男性達の頬になすりつける。
この日ばかりは、男達はそれを笑って受け止める。
泥を顔に塗られた男達は、その年を無病息災で過ごせると言う。
観光客や、取材に訪れるカメラマン達もその祝福からは逃げられない。
ふいをつかれた彼等の笑い声や驚きの声が辺りを満たすたんぼの縁に、
武蔵がひょいと表れた。

「ヒル魔はどうした?」と大人達からかけられる声に適当な生返事を返す武蔵。
その都度、武蔵の後ろで揺れる小さな少年の影。
汚れて着古した色合いのジャージに身を包んだ小柄な子供は大きめの帽子で表情を隠す。
後ろ手に泥の入った入れ物を隠し持ちながら。

「な、大して誰も気にしねえだろ?」

よくみれば身体に合っていない袖が子供の指先までを隠している。

「こういう時は、そういうもんなんだって」

目深にかぶった帽子のつばが持ち上がり、その下から楽しそうな目が覗いて隠れた。
帽子もジャージも、全部武蔵の持ち物から選んだ。
鬼の子と陰口をたたかれる理由の髪と耳が隠れると、それだけでまるで別人に見える。
すぐにうつむいてしまうヒル魔び表情は見てとれなかったが、この変装をとても楽しんでいる様で。
武蔵は普段見なれないヒル魔をまじまじと観察した。

いつも肌にぴったりと貼り付くような服を好むから、こんな光景はとても珍しい。
ただの小柄な少年になったヒル魔は楽しそうに祭りの会場を走り回った。
おてんばだ、女らしくない、子供らしくもないと普段うるさい大人達の目を気にしなくていい。
もっと早くこうすれば良かったとヒル魔は大きく息を吸った。

祭りの中では男女の役割がはっきり別れる。
女は男の顔に指で泥を塗りたくるが、男はそれを拒絶出来ない。
中にはたんぼに落とされる者、落ちる者もいるがそれもまた祭りの一部。
目くじらをたてるような事ではない。
ヒル魔は手にした入れ物の泥に指を浸し、男とすれ違いざまに顔に泥を塗り付ける。
塗られた者は一瞬驚き、泥を塗っている子供が男だとわかりさらに驚く。
そうして、それがヒル魔だとわかり3度繰り返しびっくりする。
武蔵の周りをちょこちょこと動きながら、ヒル魔は祭りを楽しんだ。
もっと早く、この方法に気がつきゃ良かった。
武蔵の顔にも泥を塗る。他の女に塗られた泥の上には念入りに塗りたくる。
泥が乾いて、はがれた頃にまた別の泥を塗る。
祭りが楽しい。
ヒル魔の軽い身のこなしで被害者は増え続けたが、
こんな悪戯も今日ばかりは多めに見られる。
武蔵もヒル魔もそう思っていた。



「お前、ヒル魔じゃねえかよ!」
「女の癖に何やってんだ?」
「そんなんで男になれたつもりか?」

クラスメートの数人の男子に変装を見破られたヒル魔は、周りをぐるりと囲まれた。
大人達から見れば子供同士の集まりに見えるだろう。けれど彼らとヒル魔の仲は悪い。
祭りもピークを迎えている。混雑の中で武蔵はヒル魔とは少し離れてしまっていた。
ヒル魔はきり、と唇を嚼んだ。

「今日は男か?」
「お前、女より男の恰好の方が似合うんじゃねえか!」

日頃から何かと大暴れするヒル魔を良く思っていない集団だ。
数の圧力と普段とは違う高揚感が彼らの気持ちを後押しする。
いつもとは違う強気の態度。ヒル魔は静かに退路を捜した。

「男だったら、お前も顔に泥塗らなきゃなあ!」

ヒル魔の手から入れ物が奪われた。
泥を塗ろうと狙って来る数本の手を避け続けるにも限界がある。
人込みを避け、広い場所に逃げようとしてみつけた空きスペースに身を滑らせるのと。
子供達がヒル魔を突き飛ばすのは同時だった。




派手な水音。
高く跳ね上がる泥の飛沫。
体が小さな事もあり、帽子の上まで泥だらけの子供。



また新しい犠牲者だ、と周りは笑い声で一気に沸いた。
かしゃかしゃとカメラがシャッター音を立て、子供が一斉に注目される。
突き落とした子供達はやったやった、と歓声を上げた。
泥からなんとか体を起こし、畦を登ろうとする子供の手を、
誰かがひっぱってまた突き落とした。

再度転がり落ちる子供。
祭り特有の熱気と活気に、大人達はそれを笑って眺めていた。
助けの手を差し伸べられないまま子供が泥にまみれて立ちすくむ。
数回それが繰り返された時、指をさして笑っていた少年が後ろから田んぼに蹴り落とされた。

「ヒル魔!来い!!」

どぼん、どぼんと大きな音を立ててヒル魔のそばに泥しぶきが上がる。
代わりにヒル魔の目の前に伸びた片手。
一気に押し寄せた野次馬に揉まれながら伸ばされたただ1つの救いの手。
ヒル魔はその手にすがりついた。

綺麗だった武蔵の手が、ヒル魔の泥でべっとりと汚れる。
全身が泥にまみれたヒル魔を周りの大人達は一斉に避ける。
人込みの中に不自然にあいた細いトンネル。
その中を武蔵はヒル魔の手を離さず走りぬけた。







祭りに人が集まるという事は、他の場所には人が少なくなるという事。
誰もいない小さな公園で武蔵はようやく足を止めた。
そばにある水道の蛇口を捻り、静かなヒル魔を振り返った。
泥にまみれた顔の中で縦に白い筋が2本。

「こっち、見るな!」

はがれかけた顔の泥をヒル魔はあわてて手で擦る。
武蔵はすぐに顔をそらして気がつかなかったふりをした。
水道の水でヒル魔はまず手を洗い、綺麗になった側の手で急いで帽子をつかみあげた。
武蔵が一番気に入っている、大事にしていた帽子だった。

NFLで一番大好きなチームのもの。滅多に手に入らない貴重なグッズだっただから、普段は机の上に飾ってある。
ヒル魔も大好きな帽子だった。少し渋る武蔵から強引に借りて持ってきたのだ。
鮮やかにロゴの刺繍が入った上から無惨に泥が貼り付いている。

「帽子…………」

それだけを言い、ヒル魔は武蔵に突き出した。
勢いのままそれを受けとると、ヒル魔はくるりと水道に向き直り水をまき散らしながら顔を派手に洗い始める。
綺麗な金の髪の中にも、べっとりと泥が絡んでいる。
帽子が汚れた事よりもそれがずっと痛々しかった。

泥の中に落ちたとき。ヒル魔が畦の上のこちらを見上げていたあの顔を
武蔵は忘れられないと思った。

「鬼の子」とか「悪魔の子」などという陰口を笑って聞き流してはいるが、
ヒル魔は単に強がっているだけだ。
蛇口に頭をつっこんで、髪を洗うヒル魔の体が体勢を保てずふらふらと揺れている。
自分の体をきちんと支えられない程、ヒル魔はまだ幼くてとても小さな存在だ。

「ヒル魔……」

水から顔を上げたヒル魔は少し気持ちが落ち着いたようで今度は手足を洗い始めた。
けれど服にべっとりと付着した泥が流れて来るため、中々うまく洗い流せない。
周りに人がいない事を確かめてから武蔵は手早くジャージを脱いだ。

「ヒル魔、お前これに着替えろ」

驚いて振り返ったヒル魔はジャージを中々受け取らない。

「洗わなかったら家まで帰れないだろ」
「……………いい」
「着替えろ」
「俺がちゃんと洗って帰る!」
「言う事聞かないと俺が無理矢理その服、脱がすぞ!」

珍しく強い口調の武蔵の態度にヒル魔は思わず黙り込んだ。

「……いや、そんな事しねえけど……。取りあえず、汚れてるの脱げ」

自分の言った事に少し照れながら武蔵はジャージを押し付けた。
迷いながらそれを受け取り、ヒル魔はそれでもうつむいている。
そのままじりじりと返事を待つ武蔵をヒル魔が上目遣いで睨み付ける。

「……いつまで、こっち見てるつもりだ」

はっとした武蔵の手元からヒル魔がジャージを手荒に引っぱる。

「とっととそっち向け、すけべ!」

慌てて回れ右をする。
怒っているというよりも、照れ隠しのようなヒル魔の顔が可愛かった。
ばれたらまた殴られるような事を思いつつ武蔵はヒル魔に背を向けた。
泥にまみれた格好を長くさせておきたくはない。

もう、いいよな。
しばらく静かに待ったのだからとそっと後ろを振り返り、
武蔵は慌てて捻った首を元に戻した。
ジャージの下のTシャツまでヒル魔は脱いでしまったらしい。
泥に汚れた服の中から現れて、日の光を反射させる白い背中。
外で裸になる事が不安らしく、しきりにあたりを見回していた。

風呂に入るのもいつのまにか一緒じゃあなくなった。
こんな所でそんな姿を見る事になるとは思いもしなかった。
まだまだチビでガキなあいつに、なんでこんなにドキドキするんだ。
落ち着きなく武蔵は足下の砂を蹴り続けた。

「……もう、いいぞ」

許しを得てからゆっくり振り向く。
サイズの合わない大きすぎるジャージの袖をヒル魔は必死に折りあげていた。
男の恰好をするためにヒル魔が選んだのは武蔵の少し古い服。
今の武蔵が着ていたジャージは大き過ぎて、裾がヒル魔の太股まで届く。
どういうわけだかズボンをヒル魔は脱いでしまっていた。
細くて長い両足が裾からすらりと伸びている。

「し、下はどうした」
「なんか、すげえごわごわすんだ」
「洗ってちゃんと絞ったらそれ履けよ」
「えーー」
「いいから、履け!」

縫いだジャージを武蔵は水飲み場の低い方の水道で洗った。
Tシャツはヒル魔が上の蛇口で洗う。
少し背伸びしないと届かないらしく、その都度ちらつくヒル魔の足が気になって仕方が無い。

「お前ちょっとベンチで頭乾かして来い」
「俺だってちゃんと洗えんだぞ」

ヒル魔は武蔵の言う事を聞かない。ごしごしとTシャツを洗うのに必死で
武蔵が何を気にしているのかさっぱりわからないらしい。
諦めて武蔵はジャージに神経を集中した。





もともとは水と泥。
洗い流せばおおまかな汚れは取る事が出来た。
人が誰も来ないような小さい駐車場のコンクリート上に
しぼったジャージを広げて干した。
天気が良いから、生乾きになるのはすぐだろう。
そうしたら、家に帰ってそっと洗濯機に放り込めばいい。

駐車場の中で唯一影が出来る塀の下に2人は並んで腰掛けていた。
地面に腰を下ろすとさすがに腿の周りが気になるらしく
ヒル魔は頬を赤らめて膝を内側にすり寄せている。
ぐっしょり濡れた髪の毛と、上だけのジャージ。生足の素足。
ぴったりと寄り添って来るのはさすがに少し寒いからだろうか。

慌ただしく、大騒ぎする一日だったからだろう。
ヒル魔が眠そうに首を前に倒す。

「まだ時間あるからちょっと寝てろ」

武蔵の声に素直にうなづき、心地よい重みがもたれて来る。
しんなりした毛先から水滴が垂れて武蔵の肌上を流れていく。
なんだかとても暑かったから、そんな刺激が気持ち良かった。

去年も大騒ぎだった祭り。
今年も大騒ぎになった。
多分来年もこんなもんなんだろうなと思う。

ヒル魔が一緒にいるだけで、どれもきっと楽しいと思う。



来年こそは、ヒル魔のあの姿が見たい。
隣で無邪気に寝息をたてるヒル魔に反して
想像するヒル魔の姿は少し色っぽく成長している。

今は一緒の学校に通う。それも来年の3月まで。
武蔵は中学。ヒル魔はあと何年か小学校から離れられない。
いつまでも一緒にはいられない。それが悔しくて武蔵もヒル魔に体重をかけた。
軽い体はそれだけで反対側へ倒れそうになる。
慌ててあいている片手を伸ばすとヒル魔を抱き締める形になった。

柔らかい体。
まだまだ子供臭い顔。

自分より小さな、大事な妹。
胸に沸き上がる気持ちが何なのか、わからないまま武蔵は両手に力をこめた。



ずっと、ずっと。
ずっとこうしていたい気がした。

どきどきする胸も、熱くなる頬も、目のやり場に困るのも、手を離せない訳も。
わからないまま武蔵は思った。


ずっと、こうしていられりゃいいのに。














070120


やまだ