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風が吹いて、ざわりと森が揺れても長い事視界を埋めていた
大きなポプラのてっぺんは、今は無い。
数年前から、今までムサシが枝を伸ばしていた場所には
空に向かってぽっかりと穴があいたまま。
おい爺、と声をかける。
風が吹けば、以前は手の先が触れあった。
数年前の台風から。だんだんとムサシは無口になった。
おおい、と怒鳴ると。
寝ぼけたようになんだと声が上がる。
その感覚もだんだんと遠くなって。
その都度、怖くなる。
返事を待つ間の、怖い程の沈黙。
小さくなる返事を、聞き漏らしたく無くて耳をすます。
風のざわめきが邪魔だ。
そよぐ自分の枝が煩い。
ムサシ、と手を伸ばしても
もう触れられる枝はどこにも無い。
それでも、手を伸ばす。
そうして。
何日経っても。
何ヶ月経っても。
返事をずっと待ち続ける。
そこから、目を逸らせない。
少しずつ乾いてゆく表皮。
はがれて、割れて、元に戻らない。元、巨木。
それでも、またなんだと寝ぼけた声を上げてくれるんじゃ無いかと。
ヒル魔はいつまでも立ち枯れた木に目を向けていた。
風にそよぐ時も。雨に濡れる時も。
その音のどこかにムサシがいないのかと。耳を、そばだてた。
-------
気がついた時に、ムサシはそこに立っていた。
生まれたときから、すぐ隣でばかでかい図体をさらして。
伸び盛りのヒル魔にとっては、邪魔なだけの巨体。
言っても仕方が無いとわかっていながら。
邪魔だどけろと何度も言った。
はじめはこっちに気がつかなくて。
何度も怒鳴ると、ようやく振り向いて。
おかしな事言うやつだなと呆れた口調で名前を呼んだ。
今はもうここにはいないムサシ。
空に向かって真直ぐに伸びたムサシは、綺麗だった。
何にも邪魔される事無く、天を指した枝。
堂々とした太い体躯。
先端ほど陽に透けそうな若葉。
幹に、地に、近い程葉は少ない。潔く、天だけを目指す葉。
ヒル魔の目線にはいつも力強い幹ばかり。
冬に、大風が吹くと枝はぎしぎしと音を立てて揺れた。
眠るように冬を過ごす木々の中で、ムサシの眠りはいつも深く。
そして、春になると一番最後にぽかりと目を覚まし、それからみるみるうちに葉を茂らせた。
冬からの目覚めはいつもヒル魔が早かった。この森の中で、一番早くに花を咲かせる。
見渡す限りの枯れ野の中で、開けた視界に飛び込むのはヒル魔が咲かせる白い花のみ。
枯れた枝枝の隙間に。
誰の目にも飛び込んで来る鮮やかで大降りの白い花。
肉厚の花びらは、綺麗だという賞賛の声を受けて誇らし気に咲き乱れる。
ヒル魔の白い、艶姿。
それを切っ掛けに、森は冬から目を覚ます。
追い駆けるように梅が、桜が花を咲かせる。
けれど。
いつも爺はこの時期を寝過ごす。
声がかれる程に罵倒しても。怒鳴っても。
散ってしまう事を覚悟で枝を揺すっても。
ムサシが起きるのはヒル魔の花が散った後。
咲いている時にはとてもきれいでも、花びらは散るまぎわに赤茶た変色をする。
肉圧な一枚一枚は、地に落ちてもなおその色を保ち。
とても、醜い姿を残す。
ムサシが知っているのは、いつもその姿ばかり。
だからヒル魔はいつもどこか負い目がある。
ムサシの春は、目まぐるしい。
あっというまに目に眩しい程の葉をしげらせ、ざわざわと天を目指す。薄い薄い黄緑。
日々色濃い夏。茂った葉の隅々までが陽を浴びて陽に喜ぶ。日々濃くなる緑。
そして、舞う綿毛。
夏の最中に、武蔵が降らせる雪。
地面が白く覆われて、風に舞って飛んで行くふわふわとした子供達。
あんまり綺麗だから、ひと掴みだけとっておきたいのに。
いつも指先から風に舞ってしまう柔らかな綿。
黄色を降らせる秋。ムサシが起きている最後の季節。葉に覆われた身体が姿をあらわして。
だんだんと会話が間延びして、声が聞こえないのかとそばだてると周りはしんとして。
気がつくと、雪が積もっている、冬。
いつも、待っていた。
ムサシがこっちを見るまで。声を枯らして呼んでいた。
もう。声は聞こえない。声をかける場所もない。
数年の間に、ゆっくりと昔ムサシだった物は少しずつ朽ちていった。
それでもヒル魔は目をそらせなかった。
耳をすませばそこから何かが聞こえて来るような気がした。
今までの多くもなかったいくつかの会話。耳に焼き付いたムサシの葉ずれの音。
気がついた時から、そこにいた。あまりに綺麗で、堂々と立っていて。
だから。目が離せなかった。
一番言いたかった事は全部言えなかった。
最後まで、ただ呼び続ける事しか出来なかった。
大好きだと。その言葉が、いつも喉まで出ていたのに。
空き地の、陽の光がまっすぐに降り注ぐようになってしまった明るい空き地。
中央に苔むした残骸。まだ返事を待たれているムサシ。その、身体から。
小さな芽生えが始まった。
新しい命。受け継がれる物。ムサシとは違う、ムサシのような物。
それを黙ってヒル魔はみつめていた。
すっかりねじれてしまった幹。
空き地にむけて全部の花が向いている奇妙なこぶしの木。
生まれて来る物に。きっとムサシと呼び掛けるだろう。
成長するその別物に、ヒル魔はムサシを重ねるだろう。
いつか、それがムサシになる日が来るまで。
それに、語り続けるだろう。どれほど、ムサシが素晴らしかったかを。
あの姿。目を閉じても浮かぶ姿。声。光。ざわめき。音。そして。その存在。
ヒル魔の目がうっとりと揺れた。最初にかける言葉はムサシ。
それから。
それから。
ああ、何を語ろう。
その時が来たら。
何から始めればいいだろう。
遠いけれど、近い未来を思って。ヒル魔は目を細めた。
そこに、ムサシがいる未来。
-------
そして、未来のお話。
森の中に雷が落ちた。
ひどい風と雨を巻き上げた悪天候の中で何度も光って轟音が響いた。
焦げ臭さをあたりにまき散らして、一本の木が夜明けを迎えた。
朝日の中で。悲鳴を上げたのは武蔵の方だった。
ごうごうと渦巻いた大風の中で。
悲鳴なんて何も聞こえなかった。
ヒル魔。
叫んでも声は届かない。
きれいな花を咲かせる枝の葉は焦げて落ち。
たくさんの実をつける枝の先は全部折れて。
ヒル魔。
声を限りに叫んでも返事は帰って来ない。
お前が。
お前が。
声にならない。
叫びたいのは驚愕か慟哭か。嘆きか悲哀か。
枝を伸ばしてもその距離は絶望的に遠い。
春の終わりの嵐。
いつもヒル魔はこちらを見ていた。
まだ若々しいだけの自分に最初に名前をつけてくれた。
いつも嬉しそうに武蔵武蔵と声をかけた。
綺麗な奴だった。細い枝の先まで、綺麗なもんだと思っていた。
まっ先に花を咲かせる春も。葉を茂らす夏も。紅葉の秋も。最後まで待つように立ち尽くす冬も。
長い事一人だった目をしていた。
いつも誰かを思い出すように、歌うように、懐かしむように、
まるでそいつが目の前にいるように話をするような卑怯なやつだった。
「あいつ」はとても綺麗だったと。
あんなに立派なやつは見た事が無いと。
それを繰り返すから腹がたった。
ようやく背丈はヒル魔を追いこした程度。
ヒル魔の目線はいつも上ばかりを見上げているからくやしくて仕方なかった。
早く。
早くその場所を埋めてやりたかった。
俺を見ろ
お前が見ている先には、俺がいるんだ。
俺しかいないんだ。
だから、見ろと。
そんな言葉も届けられない内に。
ヒル魔と何度も叫ぶ。
声は無い。
多分、これからも無い。
想像は出来た。
生きる事がどうでもいいような目。
執着する物なんて何も無いような態度。
人をその気にさせておいて。
散々な態度。
酷い奴。
ようやく楽になれたなと肩を竦めている仕種が目に浮かんだ。
それでも、名前を呼んだ。
生きている事は辛かったかも知れないが。
それでも俺はお前が好きだった。
長い長い季節の繰り返しを懐かしむように俺を見ているお前が。
お前が俺を見ているのが。
俺は、好きだった。
ヒル魔。
せめて、もう一度声を。言葉を。
何か。
何かを。
沈黙が辛くて、ただ何か叫びたくて。
武蔵は声を限りに名前を呼んだ。
------
静かな森は小さく肩をすくめて。
あの時と同じだなと呟いた。
時は流れる。若木は巨木を。
巨木は若木を見つめて過ごす。
何度も繰り返す。
寄せては返すように。
始まりはなんだったのか。
知る者はもう誰もいない。当人達でさえもしるよしはない。
ただ、繰り返される懐かしい思い。
深まる感情。そして上塗りされていく静かな時間。
終わりはいつも叫び。
沈黙の叫び。心を震わせる叫び。
一人にされる事への。
告げられなかった事への。
後悔と絶望の叫び。そればかり。
森はただあるがままにそれを飲み込む。
時は流れる。森も変わる。
けれど、どれほどの月日が流れても。
ポプラと木蓮の距離は変わる事が無く。
まるで執念のように立ち続ける。
枯れても。倒れても。折られても。
そして。
言葉が届かなくても。
必ずその場所に芽吹く、若葉。
時は流れる。森は変わる。
けれど。
変わる事なく続けられる、二本の木々の物語。
20050528
<倉庫にモドル>
5月13日の日記より。だいぶん手直ししました。
15の誕生日の朝。育ててくれた爺が死んだ。
別に、悲しいとは思わなかった。ただ、数日前から息が荒くて。
助けてくれとひゅうひゅう喉を鳴らす音が不快だった。
死ぬまで、俺の名前を呼んで。
死んでも、かっと開いた目で俺を見て。
助けを呼ぼうにも、歩けない俺は。慣れた空腹と寒さの中で、
あとどのくらいで楽になれるんだろうと思った。
ここは寒くて、暗い。
うとうとと眠気がやってきて、ああ、これで終わるんだとヒル魔は思った。
目を開けると、そこに真っ黒な固まりがあった。
よく見ればそれは髪の毛だった。
村の誰とも違う、ごわごわと天を向く髪。
頭から肩までかかるそれは、まるで獣の背中の様だ。
噂だけで聞いていた「山の主」。
何年かに一度、山津波を起こす恐ろしい奴。
その背中がこちらを向いた。
日に焼けた顔に、大きな口。その顎からのびた髭。
「おお、目が覚めたか」
嬉しそうに、笑う目。
「寒くないか」
伸びてくる手。頬を触れる指。
ぽかんと見上げると。
熊のような男は、良かった良かったと何度もうなずいた。
ぐしゃぐしゃと横たわった頭を何度も撫でる。
がさがさに荒れた指先。
村の者よりも粗末そうな服。
喉が乾いただろうと、差し出される湯飲み。
「湯だ。ゆっくり飲め」
横たわったままでうまく飲めない体を支えてくれる肩。
お湯をこぼしても変わらない口調。
初めて見る何もかもが柔らかくて。ヒル魔は泣いた。
爺が死んで、俺は天国に来た。
そう、思った。
-----
天国は、村の近くにあった。背負われて見下ろす村は小さく、
風にとばされそうなほど汚く映った。
帰りたいかと問われて、その背中にしがみつく。
それきり、男は二度とその問いを口にしなかった。
寝ている間に髪を梳いてやろうとした。
けれど、あまりに固くて櫛の歯がこぼれてしまった。
もごもごと、どうした、と聞くので何でもないと答える。
歯が欠けた櫛は、見たこともない親の形見だと聞いている。
男にそう告げると、形見って何だと聞かれた。
少し迷って、お守りだと教えてやった。
目が覚めると、男がいない。
日が暮れる頃に帰ってきた男の破れた着物を見て、ヒル魔は
彼が村に下りたのだと知った。
どうして、と問う。
お前のお守り、新しいのが良いだろうとの返事。
それだけのために。
背中にいくつもの傷を作って。
破れた毛皮は、丹念に縫い合わせても使い物にはならなかった。
けれど、男は嬉しそうにそれを着て。
これが、俺のお守りだと言った。
歩き方を教わった。
温泉という物を知った。
一つの布団で眠れば寒くない事。
どんな雷よりも大きないびきのそばで眠る技。
目が覚めても1人じゃない事。
自分の名前を優しく呼んでもらえること。
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全部を思い出して、ヒル魔は家を回る。
よろける体を支えるには、拾った板はあまりに用が足りなかった。
背中に当たる、石つぶて。
男が、撃たれた。
足りない食料を探して山を回っている最中に。
村の者は男を恐れていたから、きっと獣と間違えたのだろう。
けれど。
爺と同じ息が男の口からもれる。
あのときと同じ、土気色の肌。
冷たい体。
ヒル魔は戸を叩いた。生まれて初めて大声を出した。
-----
あれは山の主への生け贄だった。
生きているなんて、どういうことだ。
恐ろしい。山津波が来る。村びとは、おびえる。
おびえて、叩かれる戸の内側で息を殺していた。
頼む、武蔵が死んじまう、という声を。
その、頼みを村人全員が聞いたというのに。
死んでこそ、山の主に喜ばれる子供。
まだ。生きていたなんて。
全部が恐怖に染まった村。
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よろける体を、小さな板きれでなんとか支える。
青ごけを探そう。煎じて飲ませなきゃ。
今出来る事をしよう。
何度も倒れるうちに、すっかり小さくなってしまった支えの板。
よろよろと歩く道のりはとても遠く。ましてや上り坂だ。
絶望的なほどに、小屋への道のりは遠い。
それでも、歩く。地に爪を立てて。
名前を考えてやった。
自分が知っているあの薄汚れた村ではなく。
遠い遠いどこかの偉い人の名前。
いつか、自分をここから連れだしてくれるだろう人を、
ヒル魔は勝手にその名で呼んでいた。
その人の名前を、あいつにやろう。
村で、初めてその名を叫んだ。
もう一度、小さく武蔵、とつぶやく。
自分が聞いた中での、一番良い名前。
名前を呼べば。
きっとあいつも元気になる。
この忌々しい足さえも、あいつは、大切だと言ってくれた。
あいつは、欲しいものを全部くれた。
だから。自分の宝物をあげよう。
1人で寂しかったときにいつもつぶやいていた名前をあげよう。
前を見る事に必死で、ヒル魔は気が付かなかった。
後ろから、追いかけてきた村人達。
どん、と音がして。
後ろから突き倒される。
足がもつれて、泥の中に顔からつっこんだ。
どうしたんだろうと振り向きたくても、首が回らない。
動かない手。動かない体。
地面に縫いつけられてしまった視界。まだ、家までは大分ある。
戻らなけりゃ。
あいつが、怪我してる。俺がついてなけりゃ、死んでしまう。
こんなに遠くては。声を上げても届かない。
胸が熱い。息が弾む。急に、日が陰った。
おまえ。
せっかく名前をつけてやったのに。
おまえ。
声が出ない。ああ、まだ、名前を呼んでいない。
武蔵。
せめて、伝えたい。お前が、誰かに呼ばれる名前を。
お前は1人じゃないと、教えてくれたあいつに。
せめて。
---
「そんでー。そんで、ばあば。「山の主」はどうなった?」
「また、独りぼっちだ」
「元にもどったのかぁ?」
「いんや。もう、「山の主」はヒル魔を知っちまった。
寂しいって事を知っちまったからな。そりゃ、泣き叫んださ」
「………そんで、どうなったんだ」
「そんでな。「山の主」は泣いてな。泣いて泣いて、声が枯れるまで
泣いてな。その声が、山に届いて山が崩れた」
「村は」
「つぶれちまったぁ」
「そんで」
婆は、そこで言葉を切った。縁側から見える山を指差す。
崩れた山肌から、のぞいている奇妙な形の岩。
それは、まるで頭を抱えた巨人の様だ。
「そんで、「山の主」はどうなった?」
「泣いて泣いて、岩になった」
「………」
「あの岩がな、「武蔵岩」っつうんだ」
「可哀想だ」
「ああ、まだ泣いているんだ。「山の主」はな」
お話には、2つの結末。婆はもう一つを口にはしない。
あれから村ではちょくちょく娘の姿が消えた。
年の頃は、ちょうどあのヒル魔とおなじぐらいの、娘達。
皆は、「山の主」の仕業だと言った。
だから、村びと達は岩をまつった。
「山の主」の怒りが治まりますようにと。
祠を立てた。
婆は岩を見つめる。いなくなった娘のなかで、最初に村に生きて帰った娘。
今でも、あの目を忘れられない。
壊れた櫛を首にかけて。ぼうぼうの髪の間からぎらぎらと
光った目を覗かせる。
「ヒル魔、知らないか。あんたと同じぐらいの娘なんだ」
知らない、と答えた。
恐怖に足が竦んだ。
すぐ脇には崖。落ちればひとたまりもない。
「探してるのに、見つからないんだ」
なんでもいいから、知らないか。
だから、娘はデタラメをいった。
ああ、知っている。とても綺麗な娘だったと。
この世のものとは思えない程、美しかったと。
気立ての良い、優しい子だったと。
そうか、そうだよな。
主はそのでたらめにうなずいた。
「あいつが、どっかに行くはずねえ。探してんだ」
知らねえかと再度尋ねられて、やはり首を振る。
「だけど、あんたもヒル魔知ってんだな」
髭と髪に覆われた奥の目が、ぐにゃりと歪む。
主が、笑ったのがわかった。
「他の娘達は、知らなくてな。あの滝つぼにみんな飛び込んだ」
淡々と、そう話す主の目は常に周りを見回している。
「ヒル魔、どこ行ったんだろうな」
娘は走った。
後ろも見ずに、夢中で走った。
あれから、随分時間がたったようにも思える。
なのに、今でも頭に繰り返される声。
あの、探し続けているだろう目。
婆は子供の頭を優しく撫でた。
「だからなあ。「山の主」に会ったら言ってやれ」
以来、村に広まった言い伝え。魔よけの言葉。
『ヒル魔は、あそこにいるよ。あっちでお前を待ってるよ』
そして。何度目かにさらわれた娘が滝つぼを指差し。
以来、「山の主」の姿を見た者はいない。
村に残るのは、言葉ばかり。
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050513
朝起きて朝書いた。5月13日の日記より。
あたりさんのイラストより。
<倉庫にモドル>
小さな鞄に僕の全部が入っていた。
東京の街でやっていくには小さすぎて、それでもそれ以上の物を何も持っていない僕は。同居人によろしくと言うと無言で大きな手が差し出された。僕はそれをそっと握り返した。東京では五月はもう夏に近いんですねと言ったら、そうかと、笑ってくれた大きな彼。
がさがさの手のひら。
よく日に焼けた肌。
汚い家だけどと言った言葉通りの中身はそれでも、僕は嫌いでは無かった。
少し年上のルームメイト。僕と彼は静かに暮らした。
すぐにやってきた彼の友人が来るまで。
三人での生活にもすぐに慣れた。
今までの生活がそうであったように、僕は一日をたいてい無言で過ごす。
三人目の登場は乱入という言葉にも近くて、僕は彼に何度も驚かされ、そうしてよく笑う事を教えてもらった。
彼は噂に聞いていたより随分と優しい人で、新しい街に中々慣れない僕をからかいながらよく面倒を見てくれていたと思う。ほっそりとした身体は意外に力強くて、何度かその腕力に助けられた事もある。
同い年とは思えない程の手際の良さに垣間見えた「噂」の影はいつか気にならなくなった。夜遅い僕を心配する二人は、まるで両親のように思えたものだ。
彼と彼は二階の二部屋を使い、僕は階下の和室を使った。夏に熱く、冬に寒い。それでも、そんなことが気にならない程毎日は楽しかった。
窓から見渡せる小さな庭は、夏も冬も秋も春も、何かしらの事件を引き起こした。僕は、窓から出入りする方法を覚え、彼らもまた鍵がかかった窓を外からあける方法を見つけだした。
僕の部屋は、個室であり、三人で語り明かす談話室でもあり、玄関でもあり、息をひそめてやりすごす隠れ家にもなった。毎日が辛く無かったのかと考えれば嘘になる。家の外では相変わらずたくさんの不協和音に満ちていた。
けれど、そんな事を気にかける余裕がないほどその場所はあまりに心地よく、楽しく、だから、あの一番はじめの東京の日々を僕は幸せに過ごす事ができた。僕は彼らが大好きだった。
彼は建築を目指し、彼はエンジニアを目指した。僕は気が付けば教師の免許を取る事が出来、その頃には、卒業が目の前で。
そうして、三人のそれぞれの目処がたったころに生活は終わりを告げた。
あれから、何度目かの引っ越しをした。いろいろと辛い思いが増えて行ったけれど。そんな自分を一番助けてくれたのはきっとあの三人で過ごした毎日の思い出。お互いに秘密を持ち合った、綺麗なバランスの中での綺麗な自己満足の毎日。
誰かとあんなに近くで過ごした事も初めてだった。
誰かとあんなに話をしたのもはじめてだった。
家の中にいるのが一人だと言う事の寂しさを知らなかった。
誰かがまっている事の贅沢を知らなかった。
僕は、あの人が、好きだった。
------
僕の部屋は1階で、滅多に上にあがる事はなかった。そこは、僕が越してくる前から「2人」のための空気が満ちていたからだ。
理由を忘れたけれど、一度だけ、こっそりと2階にあがった事がある。それは夜中で、多分僕は彼らを驚かそうと子供じみた目的を持っていたんだろうと思う。
月が出ていて、雲がなかった。
笑いそうになる息を殺して、部屋を伺って、その光景に息を飲んだ。
静かに、からみ合う2人。
殺した声と息。漏れてくる衣擦れも身体を動かす音も、全部が湿めり気を帯びている。
綺麗に黒に染まった2人のシルエットは、何も見えなかった分を想像が補った。
上になった身体が、時折びく、と震えていた。小さく、笑いあう声がした。
声を漏らさないように口に当てられている手。
身体を支えるために床についた手のひらは握りしめる何かを探していた。
無骨な指が、あの人の肌をなぞる。
頭が何度か振られて、細くて色の薄い髪が合わせて動いた。
いつもきっちりと固められている彼の髪型が、それほど乱れたのを初めて見た。
そっと、階段を降りて部屋に戻ってもその光景は焼き付いたままで。
一瞬を覗き見ただけなのに、頭にはいくつもの彼らの姿が浮かんで消えた。
声を殺していた2人が、僕の留守の間にどんな音を立てているのかを想像した。
泣いて、鳴いて、啼いている2人が浮かんでは消える。あの人が彼にそうされているのだと思うとかっと、顔が熱かった。
いつも余裕を見せ、プライドの高そうなあの人が組み伏せられる。
僕に、ばれないようにわざわざ声を押し殺している。
そうして、身体を揺らされ、揺らしているのだろう。
今まで気にならなかったような小さな音が耳から離れない。
床がみしりと音をたてるリズムに、僕は頭から布団をかぶった。
熱くなった身体に、自然に指がのびていた。
目を前に、あの人がいた。
僕の下で目を閉じ、歯を食いしばり、そうして、赤く染まった頬を見せていた。
声が聞きたいですと言えばあの人は小さく舌打ちをして、横を向く。
だから、僕は丁寧に扱う。
聞こえてほしくないんでしょう?と問うと、枕を投げ付けられる。
僕は、ゆっくりとあの人を撫でた。その反応をじっくりと伺いながら。
僕の下で、小さく呻くとてもかわいらしい声がもれる。
それを聞きたくて耳を寄せると、姿勢が崩れて呻き声は大きくなった。
シーツをにぎりしめすぎて白くなった指を手にとって、一本一本に舌を這わした。
身体の動きを止めて、細い指をひたすらにしゃぶる。
揺すり上げていた動きが止まった事に不思議そうに薄目で見上げてくる視線。
それをしっかりと確認して、僕は大きく身体を揺すった。
殺しきれなかった声は思った通りに艶を含んでいて、僕は嬉しくなった。
口に当てようとする両手を、しっかりと掴んだまま動きを再開する。
ぎりぎりと歯をくいしばる口元が弛んで、小さな悪態が切れ切れの喘ぎにまじる。
肩でぶらぶらと揺れている足が、びくびくと跳ね上がった。
指の先が熱い、と思いながら。目の前のあの人は何度も身をよじり、僕の名前を何度も呼んだ。
実際には、あり得ない程の、甘い、優しい声で。
------
3年と少したったころに、建築の現場で活躍する彼と再会した。
懐かしいねと言い合いながら、新しい同居人の話を聞かされる。
あの家に一人は広すぎるからな、と差し出された写真は、大きな耳と目と長いひげかかわいいトラ猫の写真。ほっとした僕に彼は言った。
あの家、売りに出してるんだ。もうすぐ買い手が決まるから、近い内に遊びに来ないか
少し胸が、苦しい。
彼にとっては、思い出があり過ぎるのかも知れない。
僕にとっても、あの家はあまりに眩しすぎる。
彼は少しやつれた顔に笑顔を浮かべた。あいかわらず老けたその優しい表情を見ていると、何も変わっていないと思いたかった。あの家に一人で暮らす辛さは、その表情からは感じ取れない。彼と彼との間で何があったのか。風の噂では聞いていた。
僕は、彼には何も言えなかった。
僕は、何も出来なかったからだ。
ただ、寂しくなりますねと声に出すのが精一杯だった。
果たしていない約束はたくさんある。ビアガーデンにも行っていない。
旅行をしたいねと言った時のパンフレットはまだ僕が持っている。
借りたままのCD。貸しっぱなしだったTシャツの柄はもう思い出せない。
たまに引っ張り出す写真には、笑いすぎてぶれた物が多い。
僕の部屋で狭い、狭いとぼやきながら三人で過ごした時間。
また来いよと言ってくれたのが最後の言葉。
もう、果たすことは出来ない約束。
本当に、彼の事がすきだった。あの人の事が好きだった。
もしそう言ってしまっても。きっと「そうか」と流されて、何も変わらないだろうという関係だった。
甘えた片思いを続けていられた。
喉が、苦い。慣れないタバコにむせた時に似ている。今しゃべれば、声は掠れて震えるのだろうと思った。彼と彼が辛い時、僕は連絡が無い事を理由にただ逃げていただけだった。
だから。
それきり僕らの間に沈黙が流れた。
二人で過ごしたほんの短い、あのはじまりの時と同じ空気だった。
5月は、もう夏だな
彼が言うのを僕はうなずいて聞いていた。
日射しが夏みたいですね、と言えなくて、僕はバカみたいに俯いていた。
050503
<倉庫にモドル>
[夕陽]
教室に戻ると。
逆光を背に、奴はただ立っていた。のびをするように両腕を肩に持ち上げ,
物音にこちらを振り返り、それきり、動きが止まった。
今まで待っていたのだから、止める気はないのだろう。
黙っているのだから、かける声もないのだろう。
たくさんの時間を過ごしたつもりで、今思えばそれはほんの一瞬だった気もする。
それでも、なかったことにするには、濃い毎日だった。
ムサシは、机の中をもう一度確認すると、鞄を持った。
窓に眼を向ける。一段と濃くなった西日が、周囲を染めあげる。
白いシャツは赤ににじんで、輪郭が曖昧だ。表情が見えない。それが、良いと思う。
動きの止まったヒル魔は、何も言わずにこちらをただ見つめる。
最後に、なんと言うべきか。ずっと考えてきたのに喉を付く言葉は見つからない。
じゃあな、ともまたな、とも言えない。
言葉を受けるヒル魔と、明日につながるものの、何もかもが消えるからだ。
今日。俺はここを後にする。
どんな言葉もない。
きっと、栗田はすぐそばで泣いている。顔を見ないで行こう。
あいつの顔は、優しすぎてつらい。
ヒル魔の顔は。
目をこらしてもわからない。
自分が、どんな顔をしているのかも、分からない。
赤に溶け込むようになじんだその姿は、ぴくりとも動かない。
何も言わずに背を向けて、教室を出た。
その後ろで、あいつがどんな顔を浮かべているのか。
分かるようで、わからなくて、それでも。
泣いていないといいな、と思った。
あの日から。夕陽の赤が目にしみる。
20050410
<倉庫にモドル>
| 2000年03月04日(土) |
[物が言うことには] |
私の名はMー16。A社から発売されたポピュラーな形のマシンガンだ。
現主人と出会ってから、1年と少し。それなりに充実した日々を過ごしている。
主人の周りには仲間も多い。初めは少なかった同タイプの仲間もすぐに増え、饒舌に自分達の活躍を誇る彼らの話に耳を傾けるのが一日のはじまりで、終わりだった。
私の後に入った物たちは、誰もが型と口径が大きく、破壊力がある。以前から主人に仕えているのは、皆ハンドガンタイプばかりで、それを後から来た物達が笑った。ただ、私はそれが気になった。
それまでの品揃えを見れば、あまりに唐突すぎ、また、不自然な選択だ。
主人の元に長くいるだろう先人達が、話をすることはめったにない。
主人がどうして私を手にしたのか、その理由を彼らは私には話してくれない。
私を手にした時から、主人は明らかに「銃器」の揃え方が変わった。
何かを恐れているような。何かを守ろうとしているような。
主人が、我々を使ってまで、残したいもの、手に入れたいもの。沈黙して、語ろうとしない先人達が、主人に深い尊敬の念を抱いていることはよくわかる。それは私も同じだ。それと、同時に。彼らが私の知らない時代の主人を知り、語らない点がとても私を不愉快にさせる。
ガンタイプの我々の他に、この「部室」と呼ばれる場所ではたくさんの発言者達がひしめいている。「アメフト」なるスポーツで使われる道具だそうで、彼らは我々以上によくしゃべる。誰もが口が悪く、あまり賢そうには思えないが、謎のマスコット「デビルバット」が彼らを束ねているために、その結束は高い。
今、騒がしい程の言葉の中で、話題の中心はJ・ライス。今はいない、彼らの仲間の一人だった男だ。
「だいたいさあ、あのヒルマってのが横暴すぎねえ?いままで散々世話になった癖によぉ!」
「一人じゃパスも出来ない癖に、さぁ!」
「ライスの兄さんも、ひでえよ。おれたちに一言もなしでさ……」
「兄さん、ぼろぼろだったのよ。あちこち折れて、お腹なんて、何度やぶれたか分からないし」
「蹴飛ばされても、殴られても、文句一つ言わなかった。あれが男の鏡ってやつだ」
「吊られて、燃やされて、ひどい最後だよ」
「アレが真の男の花道!最後は俺も一花咲かせてみせるさ」
「兄さん達、ヒルマなんかぼこぼこにしてやりましょうぜ!」
「あいつら、俺らが言うこと聞かなくなったらどんな顔すると思う?」
「ひひ、それ、それ、いいなあ。」
「ぶっころしてやるぜ、ヒルマ!」
話が物騒な方向に走るのはいつものことで、私は彼らの怒声を聞きながら、最後にかわしたライスとの言葉を思い出していた。
「そろそろ、俺もお払い箱かな」
「突然、何を?」
彼とは付き合いも長く、主人に対しても敬意を払っている、いい話し相手だった。
「このところ、お呼びがかからねえ。良いことだ」
「……道具にとっては、いいことじゃないだろう」
「良いことだよ。本当は、俺なんかいないほうが、ずっと良かった」
どうして、と聞こうとして、私は聞けなかった。
彼もまた、私には伝えない何かを知っているのだ。
「私たちの主人は、きまぐれだから…しばらく倉庫で休めばまた出番も来るだろう」
「いいや」
練習中の、にぎやかな声が遠くに聞こえる。
彼は、私の主人と二人きりで過ごすことが多かったために、それだけに、私以上に主人のコトを知っている。
「俺は、いない方が良いんだよ」
その目の先には、懐かしさと何かをやりとげた満足げな色に満ちていて。
私は何も言えなかった。
「もうすぐ、あの人が帰ってくるからな」
あの人。知っている。1年と少し前にあった何か、に関わっている名前だ。
その名の前では、誰もが口を噤んで下を向く。おそらく、主人が私を手にした理由に大きく関わっている人物。
誰もが話をそらそうとする、その名前は。私の未知の世界の扉となった。
「ムサシ、さん、か……?」
「はは、この話題じゃお前はいつも不機嫌になるな。」
「……」
「そのうち、わかるさ。あの人は必ず、戻ってくるからな」
ライスは、本当に、主人をよく支えてきていた。雨の日も、どんなに天候が悪くても、彼は文句一つ言わずに主人の動きにつきあった。悪態もつかれていた。何度も蹴られ、投げ出され、それでもライスの口から主人を嫌う言葉は一度もでなかったのだ。
本当は、とてももろい主人の姿を知っている少ない仲間の一人だと思っている。
「帰ってくるから、お払い箱なのか?」
「………。いんや。」
外はそろそろ、日を落としかけていて、部室に残された道具達が長い影を床に落としはじめた。
「ヒル魔さんには、もう、仲間がいるからさ」
それでも、その仲間じゃあこなせない役割も、ライスはしてきたはずだ。ただ、肩を震わせていたあの時も、やみくもに雨の中の練習で泥にまみれていた時も。あの人は、あんたに顔を埋めていたじゃないか。誰にも言えない泣き言や、愚痴や、悔しさを、あんたは人一倍聞いていたはずなんだ。
「お前が何を言いたいのか、わかるけどよ。所詮代わりなんだ、おれたちは、みんな。」
そう言って、ライスは私に背を向けた。喋りすぎた、と言わんばかりに。
そうして、間もなく。彼は本当に私たちの前から姿を消した。きっと、最後の瞬間まで主人を恨むこともなく。
私は親しく話を交わす友人をなくし、それから流れた月日の間に、いろいろな経験をした。仲間が、増えた。大工に会った。試合が増えた。部室が広くなり、たくさんの情報を耳にした。主人の表情に、笑顔が増えた。
私が主人に出会って、1年と少し。もうすぐ、また、メンバーが増える。おそらく、これで最後のメンバーが。私が嫌っていた、あの男が。
主人を泣かせるのも、悲しませるのも、たいていの原因はあの男で、そうして、何よりその顔を喜ばせるのも、あの男の名だった。今なら、ライスの言葉が少し分かる。
きっと私が主人に選ばれたその日、あの男がこの場から立ち去った後で。
銃器が一気に増えたのも、足りない自分の手の長さを補うためで。
あの男が戻ってくるまでにたくさんの物を作り上げることに必死で。
でも、どれほど作り上げ、虚勢を張り、たくさんの武器をそろえても。
あの男がいないという現実をとても打ち消せずに。
どれほど強い武器がそろっても、主人を慰めることもできず。
それを、ライスは、知っていたのだ。
わたしたちは、あの男の代わりにさえなれないのだと。
主人が、私を呼ぶ。私は、それに応える活躍をする。
けれど、もしも。主人が私を呼ばなくなる日が来るとすれば。
それは、なんとすばらしき未来なのだろう。
私は、その日を思い、今日も主人とともに過ごす。
20050408
<倉庫にモドル>
「これって、冗談ですよねえ…」
細々とヒル魔に向けられるセナの言葉に力はない。
ハロウィンの仮装で、もっとも注目を集めたチームに賞金が出る。
そんな噂が渦巻く泥門高校のとある部室では、ため息と諦めの空気がただよっていた。
「本気なの、ヒル魔?」
尋ねる栗田の言葉も、どこか弱々しい。彼等の目の前にいるヒル魔と呼ばれているのは、一見しただけでは黒い尖った固まりにしか見えないだろう。
本人いわく「デビル」をイメージしたそうだが、御丁寧にわざわざ光を吸収するような素材で作られた衣装は、禍々しさを十分にまき散らしている。いびつな角や尖った爪などがランダムに縫い付けられ、おせじにも趣味が良いとは言いがたい。ただ、確実に注目を浴びることは間違いない、衣装。それが、部室の中央テーブルに山と積まれていた。
「人数分、サイズもあわせた」
派手好き、イベント好きなヒル魔らしい行動の早さと周到さに、周囲はいつも巻き込まれている。確かに、これならば優勝も夢ではない。しかし。
今後確実に、アメフト部に付きまとうのは「死の軍団」やら「悪魔の化身」だの、悪役のイメージ一直線である。ただでさえチームを率いる男のイメージが悪い。
不可能としりながら、部員の誰もが、おずおずとヒル魔に「やめないか」と提案し、そのすべてが簡単に否定される。弱々しい問答は、次第に静まり、後にはただ諦めだけが残った。
机の上に積まれた異様な物体の山に、誰もが本日何度目かのため息をついたころ。
「屋根の修理、終わったぞ」
「おう、ムサシ」
明らかに場の空気を読み取れずにいる男が、部室前に立っていた。
「何だ?その格好。」
「来週のハロウィン用ユニフォームだ」
どうだ?と上機嫌で見せるヒル魔。そう、彼は機嫌が良かった。思った以上の悪評が立った衣装のできばえに満足していた。だから、読みが浅かった。
部員達は、祈るような気持ちで武蔵の言葉を願った。できれば、似合っていないと。このヒル魔の計画が根本から覆るような発言を。
「ふうん」
ちらりちらりとムサシの視線が上下して。真顔のまま、口を開く。
「かわいいな」
とたんに、空気が固まった。
窓に向かって立つヒル魔の顔は、部員には分からない。しかし。
その背中から、明らかに、殺気を孕んだ怒気が満ちていく。
「こ、こっ…」
「お前、そういうの似合うよな。」
開いた窓の外でムサシが動いた様だが、それはヒル魔の影に隠れてしまう。
少しの間を置き。
「この糞じじいが!!」
ヒル魔の腕が、脚が、ムサシに向かってくり出された。
「なんだ、誉めてほしかったんだろ?」
「うるせえ!てめえは、どうしてそう…」
部員達は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら遠ざかる二人をただ、見守っていた。
いや、むしろ。想像を超えたムサシの発言に、感動さえ覚えていた。
彼等は、ヒル魔にさえも苦手な(というより御し得ない)相手がいることを知ったのだった。
話はこれだけに留まらない。
結局、ヒル魔はあの衣装を処分したようだった。部員達にも強制的な参加は求められず。ハロウィンは楽しいイベントのまま終了した。この後、ムサシのアメフト復帰を願う声が今まで以上に高まったのは言うまでもない。
彼等の脳裏に刻み込まれた図式。
一番恐いのは、ヒル魔さん。でも、一番強いのは、ムサシさん。
たとえ、試合には出られなくても。ちょくちょく部室に顔を出して、あの恐い人を押さえてくれないだろうか。誰もが自然にそういった意識を持ち、以来、ムサシは部室への出入りを非常に望まれる事になったのだった。
050411
取急ぎ、アップ。やばいなあ、更新が追い付かなくなってきている。
ハロウィンていつだっけ。秋?そんな遠くまでムサシいないの?とか。
そんな所に窓ないよとか、言われる前に言っちゃう。
<倉庫にモドル>
| 2000年03月02日(木) |
[たとえ色褪せても] |
ぼんやりと武蔵は校庭を見渡した。
広い校庭に風が吹き渡り、それは黄色く土ぼこりをあげた。
誰もいないがらんとした空間と、それを囲む大きな建物。学生であるうちは、この場所がいつもざわめきに満ちている時間しか知らない。それは、卒業してはじめてわかれば良い事なんだろう。
春の気配を感じられない熱い、一日。
地面から立ち上る湯気が景色を歪ませている。初めは、そう思った。
照らされた足下のコンクリは空と同じ白さを反射している。
どこもかしこも眩しくて、一人ムサシは目を細めた。
気温は、初夏。少しずつ動く季節。けれど、武蔵の目には。
あわい光が風景に滲んで溶ける。
空は白く、浮かんだ太陽さえもそこに白く滲んで雲に溶ける。
肌で感じるのは、夏の日射し。
目に受けとるのは柔らかな春の日射し。
暑いですねと話し掛けられ、軽くうなずく。
まだ五月なのに、こうも日射しが強くちゃね。やってられないですよ。
若い男はそう言うと、額の汗を拭った。ぎらぎらしてますよね、今日は。
そうだな、と武蔵は答えた。
肩や背中に落ちている日の光は確かに暑い。
見上げた空は、こんなにも淡い。
それは、武蔵だけの風景。
---
病院に見舞いに通う内に、何気なく医者と話をし、そうして通院をすすめられた。
家族には黙っていて下さいと頼んではいるが、ばれるのも時間の問題だろう。
建物から外に出ると、眩しくて目が開けられない。
建物の影にある物の影がぼんやりと定まらない事が多い。
明るい所では、物の形が滲み始めた。
「だんだんと、視野が狭くなりますよ」
その言葉に、武蔵は顔を上げた。こちらに目を向けようとしない医者の顔を見上げる。
「ここと、ここ。小さく影が出ているのがわかりますか」
はい、と武蔵は声を上げた。あげたつもりの声は、喉を小さく震わすに留まった。
やはりという気持ちが落胆を上回った。
業務的な説明は半分が耳に残らなかった。
目は---回復する事は稀だと聞いた---いつまで持ちますか、と問えば曖昧な返事しか返ってこない。
更に聞き返す気にもなれず武蔵は再び俯いた。
あと、どれだけの日々があるのか。
目の前に浮かぶ両親の顔、おどろくその顔、大した事はないと笑ってみせたところで解決はせず、せめて残された時間を有効に使いたくとも、ふとした衝撃でその日は明日にも来るかも知れない。
そのどうしようもない現実-----諦めでも落胆でも自嘲でもない、感情。
うなだれた武蔵に医者が言葉を切った。
「どうしますか。可能性の低い手術を無理にはすすめませんが」
ゆっくりと席を立ち頭を下げて部屋を出る。
ざわめきの満ちた待ち合い室を通る武蔵の耳に、すすり泣く母の声が聞こえた気がした。
武蔵が目を覚ますと、目の前に陽があった。
木陰にもたれ、誰もが午睡を味わっている時間。
武蔵は安堵の息を吐く。
「授業は」
「さぼった」
不思議そうに見下ろす顔は、随分と近い。他人に見られれば十分に誤解を生み出す程に。
「惚けたツラして、どうした」
金が離れて、こちらに背を向ける。
ついてこいという合図に、応じる気にはなれなかった。
「どうした……まだ寝たりねえか?」
閉じていた目蓋が開いても、視界はすぐには像を結ばない。金の揺れと声の大きさでかろうじて距離を掴む。声の主の表情が見えず、武蔵にはそれを喜ぶべきなのか悲しむべきなのか分からなかった。
微妙に歪んだ平行感覚が、幹についた手を離させない。不安が胸を侵食する。
目蓋を擦り、ふらつきながら木陰から出た。
白く褪せた光が差し込み、とっさに手をかかげる。
陽の元では、明るい色は全部が滲む。暗い中では、すべてが影に沈む。その繰り返し。
待っている彼はこちらを見ている。
言いたい事を全て飲み込んで。それより訴えたい事を、全て飲み込んで。
薄暗い室内に招かれて武蔵は少し安堵した。このぐらいが、今は一番視界が明るい。
閉め切っていた部室の隠った空気は不快だったが、入って来たドアはすぐに閉じられた。
するりと腕が伸び、武蔵に巻き付いてくる身体。
「なぁんか、やりたくなった」
伸び上がって耳もとでそう囁いた口が、ゆっくりと移動して顎に軽く歯をたてる。
その顔はすでにとろりと熱を帯び、慣れた仕種で口付けをねだる。顎に、口元に、頬に降ってくる柔らかなそれを追い掛けて角度がついたまま大きく口付けた。腕の中の重さが増す。甘えた、鼻息と押し付けられる腰の熱さ。
何も言葉を交わさず、ただ身体を重ねる関係。
こんな事が、あと何度続けられるだろう。
シャツの中に忍ばせた手のひらに伝わる汗ばんだ肌。
武蔵の頭の中にはそれだけがあった。
仰け反った身体が息を呑む。力なく足が床を滑り、反った背中が武蔵の膝にもたれ掛かった。
揺すり、揺すられ、声を殺す。
慣れた関係の慣れない快楽に、お互いが身体を震わせた。
武蔵の目の前で、白が揺れる。
血が身体を駆け回っているのがわかり、同時に、目が像を結べていない事を知らされる。
色素の薄いその身体は、全部が、白一色に染まり。全部がぼやけて形を濁す。
武蔵はそこに、脳裏で色をつけてやる。
やわらかくふわりとした白は、金。
その下に、2つの青。
蒸気して色付いているだろう、頬と目もとの、赤。
唇の紅。
淡い、薄紅の肌。
肩に残る沈んだ色は、緑。
はだけた肌にかかる細長い赤。
シャツは白。
陽に焼けない胸元に、色付いた2つの赤。
手のひらでそれを探り、指で刺激を与えてやると声の調子が変わる。
この声に色をつけるなら。それはどんな色が似合うだろうか。
声を詰まらせ、もう、出ると言う小さな呻き。
その終わりに合わせて、腰を揺らした。
ほとんど同時に精を吐き出し、脱力した身体が崩れる。
その、全部が濁って遠い。
あんなに何度も、近くで見たのに。
覚えていないもんなんだな。
指の先に、膝の上に、触れているあちこちに感じる熱。手を離しても、まだそこにのこる残熱。
けれど。濁った視界に、残滓は浮かばない。
こんなに、近いのに。
荒い息を耳もとに聞きながら、武蔵は目を瞑る。
全部が闇に溶けるまで、この視界はぼやけ続ける。
春の花霞みを思い起こさせるようなそれは、嫌でもあの春をちらつかせた。
腕の中の男は、何も言わない。
責める事も、突き放す事も。縋りもしない。
ただ、行為だけが繰り返された。
この男は怒るだろうか。この目の話をすれば。
泣くだろうか、それとも笑うだろうか。
そのどの表情も想像できない自分に自嘲する。
そばにいるのが当たり前だったのに。
思い出せるのは、その色。
陽に透けた金。
表情を豊かに見せた青。
よく動く紅。
そして。
色付いた肌。赤く、薄く、時に濃く。
頬を、耳を、目もとを、首筋までも、染めたあの色。
もしも世界から光が消えても。
この色を忘れる事は無いだろう。
薄い、赤。肌を滲ませる赤。
それが。
思い出せる蛭魔の全て。
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050510
<倉庫にモドル>
気持ちが悪い、と私は小さくつぶやいた。
気持ちが悪いわ。あなた達。
両手で持ったカップの中の、一色で塗りつぶされた液体。
それを、当たり前の様に飲み干す二人の男がいる。
誰もが苦いと感じるその味の中の旨味を味わっている、二人の男に。
聞こえないように、胸の中で唱えてみた。
あなた達は、本当に、気持ちが悪いほどの
馬鹿なんだわ。
本当は、旨味なんて分からないくせに。
苦みにごまかしてしまわないと、何も言えなくなっているくせに。
もう、何を隠したいのか、すら。わからなくなっているくせに。
-高校時代-
ひたすらに不規則な動きを見せるボールを抱え、動き続ける男達を私は、ぼんやりと眺めた。
雨上がりのぬかるみが、走り回る彼らの姿に「努力」や「根性」という勲章を磨き上げる。
生徒達が敬遠する泥にまみれた一帯は酷い有様で、その上に転がり、滑り込み、そして飛び込む彼らのユニホームの事を考えて時間をつぶした。
本当に、彼らはわかっているのかしら。
あの男が何を思って走っているのか、を。
本当に男が「彼」を待っていると思っているのか、を。
詳しい事情を知らなくても。彼らがどんな道をたどってきたのかを想像することは簡単だ。
あきれるほど単純なストーリーは想像通りに話が進みすぎ、いささか退屈にさえ思えるほどだ。
あの男は。策士だ。
誰にも気が付かれない内に、驚くほどの手際の良さで物事を片づける。
誰の力も借りず、誰に相談することもなく。
初めに男と歩いていたのは3人。そして、2人。
そして。
人が増える。顔ぶれが変わる。
男は満足げに、笑っている。
その、空々しいまでの表情。あれで誰かを騙せているつもりなのかしら?
男がみんなを引き連れて目指している物を。誰もが信じて疑わない気持ちの悪さ。
男がみんなと走っている理由を。誰も気が付こうとしない気持ちの悪さ。
この男の周りは、そんなもので満ちている。
たくさんの級友達が、男を恐れる本当の理由は。自然に男から発せられる、「空虚」が発する無臭の臭気。
男は、何も持っていない。夢も、希望も、目標さえも。
あれは、死臭だ。誰も彼もを巻き添えにして、逃げるように「どこか」を目指す者の臭い。
盲目なまま、「ここではない」場所へと走る愚かな行動にはふさわしい臭気。
どんな行動であれ、不純を取り除いたただ一つに突き動かされる行動は、美しい。
持てるだろう他を捨て、一点をめざす男は、尖った美しさを持っている。
私は、ただ、それを見ている。
彼らが共倒れようと。例え、彼の地にたどりつこうと。
男がそんなことをどうでも良いと思っているように。私にも、気になる事柄では無い。
男は、泥の中に突っ立ったまま指示を飛ばしている。
「彼と彼」のために。
一人は、泥にまみれて同じ土を踏んでいる。
一人は、どこか他の場所で、同じように泥を踏みつつ動いているのだろう。
男達は、3人だった。
一人が足を止め。二人が振り返り。
そうして、ただはらはらと泣くことしか出来ない「彼」をつかみ。
止めた足を動かせない「彼」から目をそらせずに。
男は走り出した。
走る。ただ、一つを胸に抱いて、走る。
何もかもを忘れて。逃げるように。叫ぶように。
走っている。止まらない。
喘ぎ、咽せ、それでもよどむ事無く、走り続ける。
立ち止まった「彼」が、悲しまないように。
泣き続ける「彼」が、顔を上げられるように。
そして。
そんなまやかしを盾に。
その先にある、浅ましい望みに向かって。
「彼と彼」と男が、3人でいた時間が。
無かったことに、ならないように。
その時間を、捨てることも忘れることも出来ない男。
壊れてしまった破片を、みっともなくかき集め続けて。
忘れてしまうには大切すぎて、そんなこともあったと突き放すには生々しすぎて。
「彼と彼」は、いずれ忘れただろう。
そうして、少し切ないセンチな気持ちに浸っただろう。男とは違って。
男は、走る。
「彼」がまた走り出せるように。その場所を用意するために。
戻ってきて、けして以前と同じ時間が流れなくとも、そばにいてくれる日を目指して。
男は、腕を引く。
「彼」を見失わないように。
そばにいれと、願うように。頼むから、忘れないでとすがるように。
そうして。
男は目指すのだ。壊れた物は元には戻らないとわかっていつつ。
「彼と彼」が、ただ、男を見つめる事を。選んだのだ。
男が、試合に何を思ってのぞんでいるのか。知れば皆は驚くだろうか。
とっくに気が付き、それでも男の茶番につきあっているとでもいうのだろうか。
すっかり日が落ちたグラウンドでは、ただ影だけが走っている。
「彼」はその中で楽しそうに動く。その無邪気さが男の不安だ。
どんなに辛い時にも、笑える強さは。いつでも振り払える強さだから。
今頃どこで何をしているのだろう。
今はここにいない、昔、ここにいた「彼」。
たくさんの物の中から、「間違わずに」道を選ぶことが出来た「彼」は。
選んだ道を歩く事が出来る「彼」。だから、その強さに男は恐れる。
恐怖し、立ちすくみ、目を離すことが、出来ない。
男は「彼」に不安を抱き、そして何よりその不安に。呑み込まれる。
そして、不安から、逃げる。
逃げるように、走る。男。
練習時間が終わった事を告げる笛に勢いが無いのは。
胸につかえた不愉快が混じっているからだ。
藍から濃紺へ色を移した空を見上げて、私はため息をつく。
「彼」が、いた。
仕事帰りのようで、いくつかの荷物を提げて。
私は、軽く会釈をした。そのまま立ち去れと願うのに、後ろから男が駆けてくる気配がする。
二人は部室に向かい。私は、またあの濁った液体を入れるはめになる。
男は「彼」にすがっている。けして言葉に出さず。ただ、走り続ける態度で、すがる。
それを、楽しむ「彼」の視線に私はいつも背中が泡立つ。
手放してなお、自分をすがるその男の姿に。
また3人で走りたいと餌をちらつかせ、けして自分から離れようとしない男を煽り。
「彼」は全部をわかっている。ただ、しっかりと見ようとはしないだけだ。
どろりとにごったあの目で、何かが見えているようにはとても思えない。
「彼」は、目を細める。
懐かしむように、愛しく思う様に。
自嘲するように、責めるように。
何を。誰を。どうして。今更。
そして、目をそらす。最後まで見続ける勇気を持たないために。
いっそ、うつろな程にからっぽな目で。
しっかりと見据えればいい。
事はすべて単純な話なのだ。
声に出せばいい。
不安も、恐れも、何もかもを、お互いに吐き出せばいい、のに。
「彼」と男は、何も語らない。
男は「彼」が過去の選択を後悔しないことを願う。
それでも、再び手をつなぎたいと、願う。
かなわないのならば、せめて、視線だけでも、と、願う。
願い、走る、強い男。
「彼」は選んだ道を歩き続ける。
後悔をうち消し、壊れてしまった物を懐かしみ、
もう一度手をつなぐ夢を見ながら。
時折、振り返る。
そこに、男がいることを確かめるように。
変わらず走る男を見て、「彼」は静かに嗤う。
今だけは、彼が自分を追いかけているのだと、嗤う。
この一瞬だけ、男が「彼」を見ていると思い。願い。
走る「彼」の苦痛を知り。
走る「彼」の願いを知り。
ただ、嗤う。
この一瞬が長引くようにと、無駄に餌をちらつかせ。
永遠のようなこの瞬間を、ただ、眺めて。
眺めるだけの、弱い「彼」。
糸が、張りつ続ける。その先は、もうすぐそこだ。
試合に負ける。「彼」は来ない。彼の地にはたどりつけない。
3人がそろうこともなく。
男が延ばした手は空を掴む。
「栗田」が目指した彼の地は遠く。
「彼」は手を差し出さなかった自分を見つめ。
そうして、全部、終わるのだ。
3人の誰一人の願いも叶わないままで。
そうして、最後に二人は嗤うだろう。
終わってしまった悲しみにではなく。
終わることの出来た安堵と。
臆病だった自分の当然の結末に。
私は、その時を見届けてやろうと思う。
コーヒーの苦みが良いと濁った液体を飲み干す二人。
濁らせた中に、何が入っているのか忘れたふりをする、二人。
始まりがなんだったのか。
どうやって終わらせたいのか。
欲しいものは何だったのか。
今、叫びたい事がなんなのか。
苦みは、全部をただ単一に消してしまう。
わざわざこんな味を望む二人は。本当に頭が悪いと思う。
私は、見届けてやろうと思った。どんな結末であろうと。
この愚かなレースがどこに向かうのか。それを最後まで。
気持ちが悪くてもいい。ただ、走り続けた男への哀れみでもいい。
研がれたようなただ一つの男の望みは、結局何も実らせることはない事をきっと私だけが知っている。
私は、本当は、信じたいのだ。男の様に。
頭の悪い彼らの結末が。
走れば、どこかにたどり着けるという、事に。
ほんの、わずかでもいい。
苦みに混じった、何かを知りたいために。
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こう見える気がするので原作は時々痛い。
やまだ