Promised Land...遙

 

 

墜落天使 1−3 - 2005年03月31日(木)


…とりあえず願い事を言えばいいのか?
「家から出て行ってくれ、以上」
「ええー!?そんなの願い事じゃないじゃないですかぁ!貴方、まだ僕のこと信じてないでしょ!?天使なんですってば!!」
「俺はお前が天使でも、ただの馬鹿でも、興味もないしどうでもいい。ただ面倒なことには巻き込まれたくない。だから、出て行ってくれ」
「面倒なんて起こしませんよぅ。貴方は僕を使って、幸せになってくれれば良いんです。それが僕の仕事なんですよぅ」
こんな奴に出会っただけで、俺は面倒に巻き込まれていると思う。非平凡だ。だから、出てけと言っているのに…。


「お願いです。貴方を幸せに出来ないと僕、天界に帰れないんです。他の天使達にも馬鹿にされちゃいます。だから…」
男は涙目になりながら、縋りつくように俺のシャツを掴んだ。
よくよく見ると、綺麗な顔をしてるな…。日本人離れしているというか…、ハーフってこんな感じかもしれない。本当に天使だと言うなら、日本人じゃないのか。
茶髪なんて今は珍しくないから気にも留めなかったけれど。
「……………」
「何でも良いんです。貴方にとって大きな幸せでも、小さな幸せでも選ぶのは貴方です」
縋りつかれても、何て言っていいのか分からない。


「…ないんだ」
「え?」
「願いなんてない。平凡に生きていければそれで良い。面倒なことに巻き込まれずに、大きな怪我や病気にならなければそれでいい。特別欲しい物もないし」
「で、でも、何かあるでしょう?お金が欲しいとかっ」
「別に…。家は割と裕福だから、金には困っていない」
「叶えたい夢があるとかっ」
「人並みの生活が送れればそれでいい。その内、どこかの中流企業に就職するさ」
「叶えたい恋があるとかっ」
「恋愛なんてしたことないし、したいとも思わないな」
自分で言っておきながら、なんてつまらない人間なんだと思った。
だけど、それで良いんだ。それが“俺”なんだから。
何か“特別”を手に入れて、苦労するのは嫌いなんだ。


「そんな…、じゃあ僕は何の為に存在するんだ…。人間を幸せに出来なきゃ、僕の価値なんてないのに…っ」
天使はぽろぽろと涙を流したかと思うと、床に突っ伏して泣き始めた。
可愛そうだとは思うが…、俺のような人間に出会ったのが運の尽きだな。
「悪いが、俺には願い事なんてない。だから、帰れ。他の奴らには特異なケースだったとでも言えばいいだろ?」
「…帰れないんです」
天使は涙でぐちゃぐちゃになった顔で、俺を見上げた。
「は?」
「貴方を幸せにしないと、帰れないんです。貴方の願い事を叶えないと僕、翼が出せないんです」
「だったら、別の奴を探せば…」
「駄目なんです!最初に出会った貴方じゃないと、願い事叶えてあげられないんです。そういう風になってるんですぅ」
そう言って、天使はまた声を上げて泣き出した。
俺にどうしろと…?





*****


一応お題7番の“翼”です。
何だか一話で終わりそうにないので、別タイトルをつけました。
今の所、この二人に名前はありません。モデルもいないので、性格がコロコロ変わっている気がします…;
天使が願い事〜というのは、遙の創作です。
聖書等に出てくる天使については、よく分からないです;
とにかく天使君はこの無気力な男の願いを叶えて、無事に天界に帰れるのか?って感じのお話。
長くなったので、昨日と今日に分けました。少しは読みやすいかなーと思いまして。




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墜落天使 1−2 - 2005年03月30日(水)


だが、よくよく考えてみれば、屋根の上を散歩するなんて人間の出来ることじゃない。
どんなに密集した住宅街でも、屋根と屋根の間は数十メートルは離れている。
その間を飛び移ることが出来る人間なんて、走り幅跳びのの世界選手ぐらいだ。
走り幅跳びの世界選手だって、散歩するのに屋根の上を選んだりしないだろう。一歩間違えれば、死ぬかもしれない。そんな散歩など存在しない。
…おかしい。まさかこの男、本当に…。


「貴方は優しい人ですね。木に落ちただけでも迷惑をかけている筈なのに、僕の身体の心配までしてくれるなんて。貴方のみたいな人の願いを叶えてあげられるなんて、ああ!僕はなんて幸せなんだ!」
「…何を言ってるんだ?」
「神よ、この方に出会わせて頂けたことに感謝致します」
「人の話を聞いてるか?」
男はベランダに膝をつき、両手を絡ませている。“神”とやらに祈りを捧げているらしい。
やっぱりただの変人なんだろうか?それともどこかの新興宗教の信者だろうか…。
とにかくこんなおかしな男を、近所の人達に見られたくはない。どこの住宅街にも噂好きのオバちゃんはいるものだ。
そのオバちゃんらに目撃されれば、明日には俺が変な新興宗教に入ったと噂されているだろう。冗談じゃないって感じだ。


俺はとりあえず男を腕を掴み、部屋の中まで引っ張っていった。
ベランダの窓を閉めた後、男の手をぱっと離すと床に腰を打ったようだ。
「痛いです〜っ」
「自業自得だ」
殺しても死なない男なのに、痛覚はあるのか?不思議だ…。


「もういいだろ?出て行ってくれ」
「何を言ってるんですか、これからが本番ですよ!さあ、願い事をどうぞ」
どうぞと言われても…、どうしろというんだ?
「…話が見えないんだが?」
「あれ?分からない?鈍い人間さんですねぇ」
男は飽きれたというように、首を横に振る。
…俺が悪いのか?


自称天使が言うにはこうだ。
自分は天界からやってきた天使で、人間を幸せにするのが仕事。
人間の世界に降りたら、最初に出会った人間の願いを一つだけ叶える。
願いが叶った時点で天使の仕事は終わりで、一度天使に出会った人間はもう二度と会うことはない。
「…分かりましたか?さあ、願い事をどうぞ」
分かったというか…、話は理解出来たんだが、もしこの男がただの馬鹿だったら話を聞いている俺も馬鹿だよな…。関わりたくない…。






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墜落天使 1−1 - 2005年03月29日(火)


幽霊だというなら、少しは信憑性があると思う。
俺はそんなものに会ったことはないし、会っても困るだけだと思うが、それでも何となく現実的にいそうな気がする。
だけど、目の前にいるこの男は何だ?頭がおかしいとしか思えない。じゃなきゃ、新手の宗教の勧誘だ。
「信じられないかもしれないけれど、僕天使なんです」
空から落ちてきた男は、天使と名乗った。




俺の家の庭には大きな木がある。
俺が生まれる前―――というか、両親がこの家を買った時には既にあったらしいから、結構古い木だ。
植物に興味がない俺には、それが何の木なのか分からないんだが。


自室で本を読んでいた俺は、外で大きな音がするのを聞いた。バキバキっとか、ガサガサっとか、そういう音だ。
何事かと思い、俺は窓を開けてベランダへ出た。
そこには一人の男がいた。生い茂る木の歯に埋もれるように、男は引っかかっていた。
男は俺を見るなり、苦笑いを浮かべ、
「こんにちは、どうもすみません。屋根の上を散歩していたら、バランスを崩しちゃって…」
と、言った。


この時点で、俺は男を変人だと判断した。
どこの世界に屋根の上を散歩する人間がいるんだ。
散歩は道でするもんだ。馬鹿じゃないのか、コイツ…。
それでも、俺はまだ男を人間だと思っていた―――色々とおかしな点があるのに、全く気がついていなかった。


「馬鹿か、お前…」
「あはは、すみません。手を貸してくれませんか?身動きが取れなくって」
俺はこれみよがしに大きな溜息を吐いて、男の腕を掴んで強く引いた。
このまま木から下りることは出来ないだろう。落ちて怪我でもされたら困るし…。
仕方なくベランダに下りさせることにする。ベランダと一番近い枝は、数十センチほどしか距離がない。
手を貸してやると、男は思っていたよりもすんなりとベランダに着地した。
「有り難うございます、人間さん」
…?“人間さん”って、変な呼び方だな。
普通なら“お兄さん”とか…、“おじさん”という歳ではないから、やっぱり“お兄さん”じゃないか?
まるで自分が人間ではないみたいな…。
まあ、いいか。相手は変人だ。常識が通用しないのかもしれない。


「手当てぐらいしてやるから…、終わったら出てけよ」
「手当て?」
「怪我しただろ?凄い音したぞ?」
悪ければ骨の一つは二つ、折れていても不思議じゃない。
だが、男は俺の言葉にけらけらと笑った。
「怪我なんてしませんよー、これぐらいで。だって、僕天使ですよ?殺したってそう簡単には死にませんよぅ」
「は?」
「信じられないかもしれないけれど、僕天使なんです」
…男は頭がおかしいらしい。変人どころのレベルではなかった。






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17.桜 (3) - 2005年03月19日(土)


「待て」
神条に腕を掴み取られて、上村は立ち止まった。振り向くことは出来ない。
「離してよ」
「嫌だ」
「何で…」
「どうしても。嘘を吐くな。泣いた理由が俺にあるなら…、尚更だ」
「…泣いてないもん」
「だったら、こっち向いて俺の話を聞け」
「やだ…っ」
別れ話なんて聞きたくない。どうせいなくなってしまうんなら優しくされたくない。
どうせ離れ離れになるのなら、綺麗な思い出として心に残しておきたい―――それが上村の本音だ。


「我侭ばかり言うなよ」
神条が溜息を吐いたのが分かる。
神条は何も分かっていない。上村が何も聞かない理由も、振り向かない理由も。
ぽろりと頬に涙が伝う。それは悲しみなのか、怒りなのか―――もしかしたら悔し涙なのかもしれない。
「………っ」
「上村?」
上村は捕まれた腕を思いきり振り払った。
「触んないで!!」
振り返ると涙でぼんやりとした視界に、目を見開いた神条の顔が映る。
「優しくしないでっ!!俺のこと置いて行っちゃうくせに!どうせ捨てるんなら、優しくされたくないよ!何でそんなことも分かんないんだよ!!」
抑えていた激情が零れ始める。涙はもう止めることが出来なかった。
「神条のバカ!何で東京なんて行っちゃうの!何で傍にいてくんないの!俺のこと嫌いなったの?東京でカワイイ彼女作んの?いーよ、俺だって神条以上にカッコイイ人見つけて、神条のことなんて直ぐ忘れ―――」


心にも思っていない言葉は、神条の胸にかき消された。
強く抱き締められて、息も出来ないくらいに。
「嫌だ、お前に忘れられるのは嫌だ。俺以外の人間を見るな」
「…神条、ずるい。俺を置いてくのは神条じゃんか…」
「すまない…。だが、俺には耐えられそうにない、お前が他の人間と付き合うことなど」
「ウソだよ、ウソに決まってるじゃん。お願い…、捨てないでよ。寂しいの我慢するから。我侭言わないから。ずっと待ってるから…っ、捨てないで…っ」
神条じゃないと駄目なのだ。初めて愛を教えてくれたこの人じゃないと…。
他の人間なんて目に映らない。神条以外の人間なんて、誰もいらない。
「…捨てたりしない。上村じゃないと駄目なんだ、俺は…」
神条は上村が思ったことと同じことを口にした。


「ホント?待っててもいいの?」
「待っていて貰わないと困る」
「毎日、メール送ってもいい?」
「ああ」
「絶世の美女に誘惑されても、ついてっちゃダメだよ」
「何だ、絶世の美女って…」
「ナンパしちゃダメだよ」
「俺はそんなに信用がないのか?」
「風俗もダメだよ」
「行くか、馬鹿者!」
「えっちしたくなったら言ってね?飛んで行くから」
「少し恥というものを知ってくれ、上村…」
いつも通りの神条だ。上村は涙の滲んだ瞳で微笑んだ。


「ねえ、神条。ずっと変わらないことってあると思う?」
「ある。少なくとも俺達はずっと変わらない」
神条はそう強く断言して、上村の唇に口付ける。
上村は目を閉じる瞬間、満開に咲き乱れた薄紅色の花を見つめていた。


ずっと心に刻んでおこう。
美しいその花びらも。
ずっと変わらないと言った神条の言葉も。
暖かな温もりも。
誓いの口付けも。





*****


こないだの続きです。お別れ編?
なんか上村、どんどん乙女になってちゃってますね。
なんか喋り方がカワイイだけに、カワイイ感じの男の子を想像しそうですが、上村は喋らなきゃカッコイイのにという部類の男だったりします。
上村のモデルの人も、私の中ではそんな人です。


神条と上村のモデルの人達が出てるゲームをやり始めました。
むちゃくちゃムズイです。今日、全滅しちゃいました。
神条のモデルの人が使えない…、好きなのに!!
ちなみに上村のモデルの人は全然使えますよ。ギャグは面白くないけど。



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17.桜 (2) - 2005年03月15日(火)


「上村…、お前どこまで馬鹿なんだ…」
呆れ果てたというように、神条は額を手で押さえ再び溜息を吐く。
「えー?酷いっスよ〜!俺が止めなきゃ神条、あの子に第二ボタンあげちゃってたくせに〜っ」
どうせ告白されて、“付き合ってなんて言わないけれど、記念に第二ボタンを下さい”などと言われていたに決まっている。
「その通りだがな…。このボタンに何の意味があるんだ?」
神条は制服の第二ボタンを引っ張り、眉を潜めた。
「一番心臓に近い所にあるでしょ?だから、第二ボタンはその人の“心”なの」
「…これが?」


神条はこの手の常識に酷く疎い。上村が来なければきっと意味も分からずに、あの少女に第二ボタンを渡していたに違いない。
「そうっスよ。有名な話だよ?卒業式のメインイベントだもん。神条の第二ボタンなんて、引っ張りだこなんだから」
神条には分からないだろう、第二ボタンを欲しがる少女の気持ちなんて。だが、それでいいと思う、神条なのだから。
そんな風習、馬鹿らしいと言っている方が神条らしい。
他の人間が何を言おうと、神条は自分が守る。誰にも渡さない自信が上村にはある。
だが、それは近くにいればの話で。
遠く離れてしまえば、神条を守ることは出来ない
絶世の美女に誘惑されたとしても、上村にはどうすることも出来ないのだ。近くにいないのだから、気がつきもしないかもしれない。
どうすれば…いいのだろう…。


「ほら」
暫く意識を飛ばしていた上村は、神条が差し出した右手を見つめ、ただ首を傾げた。
「何だ、欲しかったんじゃないのか?だったら、むやみやたらと叫ぶな、馬鹿者」
それが神条の第二ボタンだと分かるまで、しばらく時間がかかり神条は手を下ろす。
「わーっ、待って待って!貰う、ちょうだい!いや、下さい!」
慌てて神条の手を掴み指を開かせると、上村は奪い取るようにボタンを掴んだ。
「…変なことには使うなよ」
「もう貰ったんだから、俺のもんだもーん。何に使おうと俺の勝手だよーん」
「…って、お前!本当に何に使うつもりだ!返せ!」
「…冗談だってばさ」
いくらなんでもボタンを…、何にどう使えというのだ…。
乾いた笑みを浮かべながら、上村はボタンを両手で握り締めた。


「上村」
神条の指が頬に触れ、上村は神条を見上げる。
直ぐに近くに真剣な顔をした神条の顔があった。
「…目が赤いぞ、泣いたのか?」
上村ははっと我に返り、神条の指から逃れるように後ずさる。
「や、やだな〜。俺が泣くはずないじゃん、卒業式ぐらいでさ」
「そうか?いつも下らないことで泣いているだろう」
「な、泣いてないっスよ!神条のバカ!…帰る」
今、この状況で神条に優しくされたくない。ぬくもりも感じたくない。もっと泣けてしまう。
“行かないで”と、縋りついてしまう。そんなこと言って良い筈がない。
神条の夢を自分が叶わないものにして良い筈がない。分かっている。だから、このまま去るのが一番なのだ。
泣くことは、一人でだって出来る。立ち上がることが出来るかは分からないけれど…。






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17.桜 (1) - 2005年03月14日(月)


時が止まってしまえばいいのに―――何度、そう願ったか分からない。
しかし、どんな願っても時は規則正し過ぎていき、やがて雪は溶けて春が来る。
あんなに好きだった薄紅色の花が、今は見るのが嫌で仕方がない。
その綺麗な花びらが大好きなあの人を連れて行ってしまうのだと思うと、憎まずにいられなかった。


上村は友人らが驚愕するほど暗い面持ちで、卒業式を迎えていた。
昨日まで卒業するという実感が湧かなかったが、当日ともなればそうはいかない。
大好きな人にいつでも会うことが出来たこの場所は、もう自分達の物ではなくなってしまうのである。
神条に会えなくなる。地元に住んでいるならまだしも、神条は東京に行ってしまうのだ。
そのことについて、神条からは何も聞いていない。何も言われていないのだ、“待っていろ”とも、“ついて来い”とも。
それは永遠の別れを意味しているのだろうか?そう思うと、上村は泣きたくなった。
卒業なんて関係ない、ずっと変わらないと思っていた、のに。
神条はそうは思っていなかったのだろうか。だから、離れていくのだろうか。だから、何も話してくれないのだろうか。
悪い方へばかり考えてしまい、神条を信じていいのか分からなくなる。
上村は小さく俯いて、涙を流した。


「ねえ、神条知らない?」
式を終えた後、上村は姿の見えない神条を探していた。
「さっき隣のクラスの子に呼ばれて、どっか行ったよ」
そう答えたのは、上村の女友達の七瀬である。
美人と言える顔立ちだが、行動的でどちらかと言うと男らしい性格の女だ。
上村の良き相談相手でもある。
「ええ!?女の子!?」
「そー、カワイイ感じの子。上村、やばいんじゃないのー?」
七瀬は上村をからかうように、けらけらと笑う。
「やばいよ、やばすぎるっスよ!どこ行ったか、知らない!?」
「知らないけど、二人っきりになれるとこなんじゃないの。体育館裏とかさ。つか上村、マジで神条取られると思ってんの?」
「それはないかもしんないけど、ないって信じてるけど!ボタン!!」
「はぁ?」
「神条の第二ボタンを貰うのは俺なの!誰にも渡さないのーっ!」
そう叫んで、上村は教室を飛び出した。
七瀬の笑い声はそんな上村の耳には届いていない。


上村は二人きりになれる場所―――体育館裏へと急いだ。
七瀬の予想通り、そこには神条と見知らぬ女が立っていた。何かを話しているようだが、声が小さくて内容は分からない。
「だめーっ!」
上村は神条と少女の間に割って入る。
神条は唖然としていたが、今はそれ所ではない。
「神条の第二ボタンは俺が貰うの!絶っっっ対渡さないんだから!」
「お前、何言って…」
「うっさいっ、神条は黙ってて」
上村は神条を庇うように大きく手を広げ、少女を睨みつけた。
睨まれた少女は困ったように俯いて、上村を見ようとしない。
「ご、ごめんなさい…っ。お、お幸せに!」
結局少女は上村の気迫に負け、逃げるように走り去って行った。
上村はほっと息を吐いて、神条に向き直る。
「お幸せにだってさv」
上村の無邪気な微笑みに、神条は深く大きな溜息を吐いた。






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6.雪 (3) - 2005年03月13日(日)


神条はブルーの包装紙を綺麗に剥がし始める。
一番だからとか、中身がどうとか、そんなことは問題ではない。誰から貰ったかが問題なのに。
上村から貰った物を、神条が捨てる筈がない。


箱の中には小さなチョコレートが四粒だけ入っていた。甘い物が苦手な神条を考慮してのことだろう。
一粒、口に含んでみると、独特の甘味が口の中に広がっていった。
「どうどう?おいしい?」
「……………甘い」
この手の甘味に慣れていない神条は、たったの一粒食べただけで吐き気を感じ、口元を抑えてしまう。
「ええ!?甘さ控えめって書いてあったのに!?神条、吐いて!」
「…平気だ」
本当はかなり平気ではないのだが、それでも吐き出したくはない。
他でもない上村がくれた物なのだから。


「やっぱチョコじゃなくって、何か残る物にすれば良かったー。来年は…」
上村はその先を続けることなく、俯いて黙り込んだ。
何を言いたかったのか、何故言わなかったのか、神条には分かっていた。
だが、神条もその先を促すことはない。上村と同じように俯いた。


「よく降るっスね。最後の雪かなぁ〜?」
暫くして口を開いた上村は、しんしんと降り積もる雪を見つめながら両手を暖めるように擦り合わせた。
「そうだな」
神条はその片方の手を取って、強く握り締める。冷たくなった指先を暖めるように、自分のコートのポケットに潜り込ませた。
冷たくなっているし、寒いだろうし、風邪を引いたら困る。もう帰った方がいいのだろう。
だけど、離したくなかった。離れがたかった。


「寂しいね、もっと降ればいいのに。…春なんて来なけりゃいいのに」
上村の言葉の裏に隠されている真意を、神条は知っている。
上村は春が好きな筈だ。去年の春、桜を見つめては嬉しそうにはしゃいでいたから。
そんな上村にこんなことを言わせているのは、他でもない自分であることも神条は知っていた。
春になれば―――卒業すれば、神条は東京の大学に行く。
上村は地元の専門学校に通うらしいと、友人を通じて知った。
今まで進路のことが話題になったことはない。高校三年のこの時期になっても。
だが、上村は知ってるのだと思う。神条だって、上村の進路を人から聞いて知ったのだ。上村もきっと同じだろう。
だからといって、言わなくていいことにはならない。大切なことなのだから、言わなければと思う。だが、どうしても言えなかった。
言ってしまったら、上村は自分から離れていってしまうかもしれない。
寂しがりやの上村に、遠距離恋愛が耐えられるとは思えない。“待っていろ”なんて、言える筈がない。
離れたら心も離れてしまう、きっと。


「このまま…二人で…」
「ん?何?」
「いや、いい。何でもない」
何を言おうというのだろう。現実から逃れることなんて出来ないのに。
出来たとしても、上村の一生を棒に振ってしまうことになるかもしれない。
それだけは嫌だ。上村には、誰よりも幸せになって欲しいから。
誰よりも愛しい人だから。


「…春なんて来なけりゃいいのにね」
上村はもう一度そう呟いて、神条にしがみつくようにコートを握り締める。
そんな上村を、神条はただ強く抱き締めることしか出来なかった。





*****


ラブラブなんだけど、暗いお話ですね。
でも、この二人はハッピーエンドですよ。
この人達、モデルがいたりします。もし分かったら、遙までご一報を。
当てても何もありませんが、遙は喜びます。




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6.雪 (2) - 2005年03月12日(土)


“いつもの公園”とは、神条と上村がよく待ち合わせに使う場所である。
二人の通う学校からは遠く離れていて、学校の友人らに目撃されることはない。おまけに神条と上村の家からは、そう遠くはないので待ち合わせに最適な場所だ。


神条が公園に辿り着いた時、雪は本格的に振り始めていて辺りを白く染め始めていた。
上村は雪を避けるように、東屋のベンチに腰掛けて寒そうに身体を丸めている。
「あ、神条〜!」
神条の姿を見つけると、満面の笑顔で大きく手を振る。
神条は大きく溜息を吐いた。


「どうした、こんな時間に。何かあったのか?」
「ううん、何にもないっスよ」
何もないのなら、こんな時間に呼び出したりはしないだろう。
舌足らずで、理解不能の思考の持ち主である上村のことだ。その真意を読み取るには、時間がかかることを神条は重々承知の上である。
「薄着はするなと言っただろう。…冷たくなっている」
神条は赤くなった上村の頬を、両手で包み込んだ。
「神条がいれば、寒くないもん」
上村は照れくさそうにはにかむ。神条はその姿を見て、自分のしたことが急に恥ずかしくなった。
そんなことに愛しい恋人は気がつかないんだろうけれど。


「あのね。これ、渡そうと思って」
はい、と両手で差し出され物は掌サイズの箱だった。
ブルーの包装紙に、同色のリボンがついている。
「何だ、これは?」
「やだな〜、バレンタインのチョコっスよんv」
「チョコ…?」
神条はその箱と上村の顔を交互に見つめ、首を傾げずにはいられなかった。
確かバレンタインディーとは、明日の筈である。
だったら、明日学校で渡せば良いのではないだろうか?
前日に渡すと、何か良いことでも起きるのだろうか?
「今日は2月13日ではないのか?」
「も〜っ、神条分かってないな〜。もう12時過ぎたから14日なんスよ〜」
「…だから、何だ?」
「だから、俺が一番に渡そうと思って。どう?一番のり?」
ころころと笑ながら顔を覗き込んでくる上村に、神条は再び溜息を吐かずにはいられなかった。


「この大馬鹿者がっ!!こんな物の為に寒い中、待っていたというのか!?風邪を引くと言っただろうが!大体お前は男だろう、男が男にこんな物あげてどうする!」
「…俺の愛、受け取ってくんないの?酷いっスよ〜。うわ〜んっ、神条のバカぁ!冷血漢ーっ!!」
神条の言葉に、上村はまるで子供のように泣き出した。
上村は伊達や酔狂ではなく、本当に小さなことでよく泣く男である。そして、神条はその涙に酷く弱い。
泣き出してしまった上村にどうしたら良いもののかと悩み、ただ頭を撫でてやるだけなのだが。


「受け取らないとは言っていないだろう。ただ渡すだけなら、学校内でも構わないだろうが」
二人きりになれる機会が少ない場所ではあるが、この小さな箱ならばこっそり受け取ることなど容易いだろう。
「だから、一番に渡そうと思ったのーっ!神条、モテるからぁ!」
「はぁ?俺が?」
「知ってんだよ、俺。神条、去年のバレンタインの時、山ほどチョコ貰ってたでしょ。直接渡しても受け取ってくんないって、クラスの女の子が噂してたのも知ってんだから。靴箱と机に入り切らないほどチョコ貰ってたでしょ。知ってんだよ、全部!」
「…そうだったか?」


神条は去年の今頃の記憶を思い起こす。
確かに靴箱と机には、入り切らないほどの箱だの手紙だのが入っていた気がする。
甘い物が苦手な神条にとって、それらの匂いだけでも地獄であり、全て中身も見ずに捨ててしまったのだ。だから、記憶の片隅にしかない。
それよりも、その頃の上村が酷く不機嫌そうだったことの方がよく覚えていた。数日ほどでいつも上村に戻ったのだが。
「仕方がないだろう、勝手に入っていたんだから。あれは一つも手をつけずに捨てたぞ?それに、お前も貰っていただろうが」
クラスの女の子に手渡されて、ヘラヘラと笑いながら受け取っていた姿もよく覚えている。
「俺のは全部義理チョコだからいーのっ!…俺のも捨てるつもり?」
先程の涙はどこへやら…、上村は不機嫌そうに頬を膨らませ、神条を睨みつけた。
「…捨てない。上村のだからな」







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6.雪 (1) - 2005年03月11日(金)


『会いたい』―――たった一言のメールが恋人から届いたのは、深夜11時50分のことだった。


何だろう、こんな時間に。神条はそう思いながら、直ぐに上村の携帯に電話する。
上村は一回のコールで直ぐに電話に出た。おそらく携帯電話を手に、神条からの着信を待っていたのだろう。
『もしもし〜、神条?』
「上村、どうしたんだ?こんな時間に」
『んー…、あのね、会いたいんだけど』
「今か?」
『うん、今』
時計を見れば、もう12時になろうとしていた。神条にとってはもう寝る時間である。
『ちょこっとだけでいいから会えない?』
「…明日、学校で会えるだろう」
『明日じゃ駄目なの。今がいい。お願い、10分ぐらいでいいから』
神条が無言で溜息を吐くと、上村はもう一度“お願い”と言った。
いつもヘラヘラと笑っていて、口を開けば止まらないこの男にしては珍しく真剣でどこか縋るような口調だった。


「…分かった、今そっちに行くから…」
『うん、俺ね、今いつもの公園にいるの』
「何!?馬鹿か、お前。風邪を引くだろう!」
一年の中で一番寒いこの時期に。それも真夜中だ。
窓の外に視線を移すと、いつのまにか雪が降り出していた。
寒くない筈はない。外にいれば、10分も経たない内に凍えてしまうだろう。
『平気。バカは風邪引かないって言うし』
「自分で言うな、馬鹿者!とにかく直ぐに行く」
『うん、待ってるからね〜』
上村は嬉しそうにそう答え、電話を切った。


結局神条は、寂しがりやの恋人の願いを無視することは出来なかった。
だが、それはいつものことだ。上村の我侭を無視出来たことなど一度もない。
それは上村の可愛い笑顔が見たいから。
何だかんだ言いつつ、神条は上村にベタ惚れなのだ。
神条は厚手のコートを羽織り、愛しい恋人の元へと急いだ。








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5.月 (2) - 2005年03月10日(木)


「いいよ、殺しても」
タカシはにっこりと微笑んで、そう告げた。
「何で…、ホントに死んじゃうんだぞ」
「いいよ」
「死んだら、生きられないんだぞ。美味しい物、食べられないんだぞ」
何言ってんだ…、俺。自分で殺そうとしていて、支離滅裂だ。
「いいよ、カズヤに殺されるんなら。そしたらカズヤ、俺のこと一生忘れないでしょ」
タカシはやっぱり笑っている。
月の毒気に当てられたのは俺だけじゃなく、タカシもだった。
タカシも狂っている。これも月のせいなんだろうか?


タカシは死を待つかのように、ゆっくりと目を閉じる。
俺は少しずつ指に力を込めていった。


タカシが苦しそうに顔を歪める。
抵抗すればいいのに、俺の腕を引っ掻いてやればいいのに。
タカシは両手を下ろしたまま、固く握り締めていた。
俺がタカシを殺したら、タカシは冷たくなって、動かなくなって、笑うこともなくて。
ただの肉の塊になってしまう。そんなのタカシじゃない。
…怖い。駄目だ、俺にはタカシを殺せない。
そう思って直ぐに手を離した。タカシが激しく咳き込んで、倒れそうになるのを俺は腕で支えた。


「…殺さないの?」
暫くして落ち着いたタカシは、顔を上げそう尋ねる。
その細い首には痛々しく、俺の指の痕が残っていた。
「…ごめん、ごめんなさい。許して、俺と生きて」
タカシを強く抱き締めて、その肩に顔を埋める。
「うん、そっちの方がきっと楽しいよね。そうしよっか」
タカシに頭を撫でられて、俺は少しだけ涙を流した。


タカシは最初から分かっていたんだろうか、俺がタカシを殺せないことを。
優しくて綺麗なタカシ。俺だけのものにしたいのはホントだけど意味ないんだ、死んだタカシが手に入れたって。
生きて、動いて、笑っているタカシが好きだから。
生きているタカシにしか、俺の狂気は癒せない。





*****


うわー…、暗い小説ばっかりー…。いつもはそんなこともないのに。
ていうか、“祈”の後でこの小説はマズイかもしれない。
不快に思った方、いらっしゃったらお詫び致します。
…詫びてばっかりですねぇ。




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5.月 (1) - 2005年03月09日(水)


満月は人の心を狂わせる―――という仮説がある。
ホントなのかウソなのか、俺にはよく分からない。
ただはっきりと分かっているのは、今恋人を殺そうとしている俺は正気じゃないということだ。


俺は気がつけば、タカシの細い首に両手をかけていた。
タカシは何も言わずに、俺を見つめている。怒ることも戸惑うこともなかった。
「…止めないの」
それは何故?という問いかけでもあり、止めて欲しいという願いでもあった。
早く止めて…、お願いだ。じゃないと、俺は…。
「カズヤ、俺を殺したいの?」
逆に問いかけられる。そう思うなら、どうしてそんなに平然としてるんだ。
逃げてくれよ。逃げてくれなきゃ、本当に殺してしまうかもしれない。
「…殺したい」
俺が正直にそう答えても、タカシは逃げることも表情を変えることもなかった。
首にかけた指先が微かに震えている。


タカシを殺したい。俺だけのものにしたい。
俺以外のヤツを見ないで、誰にも触らないで、俺の傍を離れないで。
そんな願いが100%叶う訳がないから、俺は激情を抑えきれなくなる。
それでも、いつもならタカシを殺したいなんて思わないのに。
我慢出来ない。俺は気が狂っている。
不気味なほど、大きな満月が俺たちを見ていた。






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9.祈 (3) - 2005年03月08日(火)


少年の問いかけに、俺は答えることが出来なかった。
“自分の力だけではどうすることも出来ない願い”というものが、俺の頭の中になかったからだ。
願いは叶ったり叶わなかったりするが、それは全て自分の力によるものだと思っていた。


「…僕、もうすぐ死んじゃうかもしれないんです。お医者さんの話によると、長く見積もって一年…。絶対安静で薬を飲み続けて、あと一年で死んじゃうんです」
少年は儚げな笑顔を浮かべていた。


「母さんは最近泣いてばかりいて、父さんとケンカばかりしています。絶対安静を条件に病院を一時退院したので、外に出ることは許されません。今日はこっそり抜け出してきたんですけどね」
「小さい頃からの病気なので、僕は学校に通ったことが殆どないんです。友達もいません。知っている人は、父さんと母さんと家庭教師の先生とお医者さんだけです」
「僕はこれでも16歳なんですよ。背が小さくて、腕も胸もお腹もガリガリでしょう?薬の副作用なんです。薬を飲んだって治らないんです。ただ病気の進行を遅らせるだけなんです」
「僕は元気になって、学校に行きたいだけなんです。健康な身体で、友達と走り回ってみたいんです。恋をして、大好きな人とデートしてみたいんです」
少年の言葉に、俺は相槌を打つことさえ出来ずにいた。だから、少年は一気に喋った。
少年はきっと同情されたい訳ではないんだと思う。だから、笑っているんだ。
何も言うことが出来ない。言ってやれることがない。
それは俺が体験したことがない世界だからだろう。
期限付きの寿命も、入院生活も、薬の副作用も、俺にとっては無縁のものだ。
何も知らない人間が、“大丈夫”なんて言った所で説得力がない。何が“大丈夫”なんだ?


俺にとって当たり前の日常を、少年は“叶うことがない願い”として神に祈っている。
ささやかで平凡な願いなのに、叶うことがない願いを。
「ねえ、お兄さん。僕の願いはやっぱり無駄ですか?自分の身体が悪いんだと、諦めるべきですか?ねえ…っ」
少年の笑顔は崩れ、ぽろぽろと大粒の涙を流して俺に縋りつくようにシャツを強く掴んだ。
俺はやっぱり何も言うことが出来なくて、ただ少年の身体を抱き締める。筋肉のついていない細い身体を。
「死にたくない…っ、死にたくないよぅ…!どうして僕ばっかり…っ」
泣きじゃくる少年の頭をよしよしと撫でてやる。
それだけで慰めになるとは思えないけれど。


俺はその時、初めて神に祈った。
この少年のささやかな願いを、どうか叶えてください―――と。
慈愛の表情を浮かべるマリア像を見つめ、祈るように静かに目を閉じた。





*****


非常に悲しくなってきたので、少し不完全燃焼です。
健康な身体に生まれて、本当に良かったと思いました。
途中、キリスト教を批判するような表現があったことをお詫び致します。


…ところで、これBL…?



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9.祈 (2) - 2005年03月07日(月)


いつからそこにいたのだろう。気配が感じられなかった。
とても綺麗な少年だ。私服を着ているので歳は分からないが、おそらくは高校生か、もしかしたら中学生かもしれない。
少年は熱心に祈りを捧げているらしく、俺に気がつく様子はない。
だからといって、どうということはない。その少年は知り合いな訳ではないし、ここにいたって暇つぶしにはならないんだから、さっさと立ち去ってしまえばいい。
そう思うのに…、身体は動かなかった。俺は何故なのか、その少年から目が離せなかった。
遠目から見ても、明らかに男だと分かる少年に何故か鼓動が早くなり、身体が熱くなる。
何だっていうんだ…、男相手に。これじゃあ、女学生が電車で出会った見知らぬ男に一目惚れするのと変わらないじゃないか。
一目惚れ…?有り得ない、何で俺が…。


その時、少年が俺の存在に気がついたのか、目を開いて顔を上げた。
真っ直ぐな無邪気な瞳を向けられて、俺はいたたまれなくなり目を逸らす。
ただ見ていただけなのに、罪悪感のような感情が生まれた。
「こんにちは」
少年の唇から、澄んだ声が零れる。
「あ…、ああ」
何が“ああ”なのか、自分でもよく分からない。だが、少年の顔が見れないまま、そんな言葉しか出てこなかった。


「お兄さんは、この近所に住んでいる人ですか?」
声、口調、どちらを取っても、やはりこの少年は未成年であることが伺える。
「…まあな」
「そうですか。良いですね、こいうい場所が近くにあって」
…良いのか?俺は初めて訪れたし、キリスト教に興味もないのでよく分からない。


「お前…、キリスト教徒なのか?」
「いえ、そんなんじゃないです。ここに来たのも初めてです。ただ…、神様にお願いしたいことがあって」
「神様…に?」
「はい。お兄さんにもあるでしょう?どうしても叶えたい願い事が」
あるだろうか…。少なくとも、神頼みなんてしたことがない。
神の存在すら信じたことがなかった。


「俺は…、神なんて信じていない。だから、神頼みはしないな」
そう言うと、少年は驚いたような表情をした。
そんなに俺のような人間は珍しいのか?
「願いを叶えるのは自分だ。叶わなかったら、自分の力が足りなかったと諦めるだけだ。祈った所で願いが叶う訳じゃないし、叶ったとしても偶然だろ。神のおかげって訳じゃない」
熱心に祈っていた少年に、随分と酷いことを言っている自覚はある。
説教しているつもりはない。ただ自分の意見を述べただけなのだけれど…。
「自分の力だけではどうすることも出来ない願いは…?」
少年は悲しげな表情で、俺を見つめる。


「叶うことがない願いを神様に祈ることは、無駄なことなんですか?」







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9.祈 (1) - 2005年03月06日(日)


叶うことがない願いを神様に祈ることは、無駄なことなんですか?―――神聖なるマリア像に祈りを捧げていた少年は、儚げにそう呟いた。


その日、俺がその教会を訪れたのはほんの気まぐれだった。
家の近くにあるその教会は建ってから数十年経過しており、外装も内装も手の施し様のないほど汚れている―――そう話で聞いた。
訪れる人も滅多にいないようだった。
神父だか牧師だかはいるらしいが、俺はその姿を見た事がない。
俺はキリスト教徒ではないし、神の存在すら信じたことがなかったから教会なんて訪れる機会はなかった。
それなのに、あの日は何故教会に行こうと思ったのだろう。それは今でも分からない。


ギィィィと不快な音を立てて、扉は開く。
噂に聞いたとおり、汚い教会だ―――そう思った。
壁や天井は黄ばんでいて、掃除をしても取れそうにない汚れがついている。
木製のベンチのような椅子は座れば、ガタガタと傾きそうだ。
これでは訪れる人が少ないのも無理はない。改装でもすれば良いだろうが、そんな金もないのだろう。
その中でマリア像だけが、この場所に似つかわしくないほど綺麗だった。
純白で慈愛の表情を浮かべるその像は、まさしく“処女のまま懐妊した女だな”と、そう思った。そんな御伽噺を信じている訳ではないけれど。
綺麗だとは思う。だが、それだけだ。


大した暇つぶしにもならず無駄な時間を過ごしたと思いながら、俺はマリア像に背を向ける。
その時、木製の椅子一番の後ろに人がいたに気がついた。
両手の指を絡ませ、瞳を閉じてマリア像に祈りを捧げる姿はとても神聖なものにと思えた。
純白のマリア像よりも、ずっと。







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お題にそって。 - 2005年03月05日(土)

お題を借りてきました。
頑張って完成させようと思います。
おそらくオリジナル中心。BL注意。


漢字一字で20のお題

1.幻 カメラマン×高校生 オリジナル
2.恋 後輩×先輩 オリジナル
3.絆 南ブ 女神異聞禄ペルソナの二次創作
4.鏡
5.月 カズヤ×タカシ オリジナル
6.雪 神条×上村 オリジナル
7.翼 青年×天使 オリジナル ※長編です。
8.蒼 カイン&レスト DQ2の二次創作
9.祈 青年×少年? オリジナル
10.薬 一成×明人 オリジナル
11.蛍
12.鍵 大和×律 オリジナル ※20の続き
13.雨 カズヤ×タカシ オリジナル
14.蝶 不破シゲ ホイッスル!二次創作
15.庭
16.力 ムスタディオ×アグリアス FFT二次創作
17.桜 神条×上村 ※5の続き
18.空 カメラマン×高校生 ※1の続き
19.形 神条×上村 ※17の続き
20.扉 少年×少年? オリジナル


お題配布サイト様はこちら→お題配布処 凍蝶



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