つきよにわらふ

2008年08月10日(日) two-five-one(太陽の塔)

一本弦が切れたら泣き喚くところだった
ステージ上のサカナのデジャヴ
思えば20歳のあの頃から私のどこかにサカナはずっと引っかかっていた
残酷なまでに膨大な時間が流れている
お前は別の男のものだからと言われたとき私の中に湧き上がった欲望
山中湖での神懸りプレイ
偉大なる円形についての会話
丸の内での再会
品川ガーベラ
横浜の赤い風船とまるいねこ
丸く切り取られていた埠頭の空
海。何も求めない海。始まると同時に終わりへと急いでいたふたり。
啓示的な鳥の死骸
11月の死
のた打ち回って苦しんだ 苦しかった 本当に苦しかった
サカナとのどんなに小さな出来事も覚えている
きわきわの輪郭と 色や 匂いや 触感や この上ない鮮やかさを持って
京都での再再会
自分の中に巻き起こった予期せぬ混乱
不思議と セックスだけは靄がかかったように思い出せぬまま
感じればいいじゃん、とサカナはなつかしい低い声でつぶやき
それでも思い出せなくて泣き出す私
覚えていたのは、背中だけ。痩せてしまったな、と思いながら。
なんともいえず悲しかった
ああ、聖母マリア。あなたが処女なら私も処女だ。


そして、太陽の塔
栄光と退廃の完全なバランスで屹立しており
特別な感情は湧き上がらなかった
サカナはとてもやさしかった
わたしもとてもおだやかだった
私のくるまのなかでサカナは猫をいじってたくさん水を飲んでそして去っていった
慣れぬ街の肩肘張ったジャズバーへ
田舎染みたワンピースで出かけたのだ、ハイヒールは足に合わず靴擦れが痛かった
アンプの上には小さな太陽の塔が、しかしやはり栄光と退廃の完全なバランスでもって屹立していた

逡巡の後に漫画喫茶で少しの時間を過ごし体が冷え切っていることまた疲れ果てていることに気づきタクシーに乗り込んだ
家に帰ろう。
いったい私は何を期待しているのだ。
何も産まれ来ない梅田の闇
ちょうど新御堂に乗り込んだところでサカナから着信
ありがとうとだけ告げてそれ以上の言葉は互いから発生しなかった
切った後2、3滴が零れ。それきりだった。

認めたくない事実だけれどサカナとの逢瀬はいつも後から効いてくる
向こうもそうであってほしい、でなきゃ報われない
自分で決めたことだから
解決に随分と長い時間を要したこの恋を終了とする(2-5-1)
本当は言葉にする必要もないのだ。伝えることに意味はないし。何も求めてもいない。
ただ重要なのは
サカナはやはり栄光やら退廃やら正気やら狂気やらの合間にたゆたうなかでも飽くまでやさしいひとであったということ、それ故傷つくことも続くであろう、彼の命が磨り減ってゆくのが怖い、しかしどんなにその不安定さを私が愛しているからといって私は聖母ではないから。救うことは出来ないしサカナはそれを求めていない。それこそがサカナの存在意義なのだろう。

本当はたくさんたくさんたくさん伝えたいことがある
しかしそれは無意味だからやめる
重要なのは日光が熱かったこと。たくさん汗をかいたこと。太陽の塔は完璧だったこと。MIDSUMMERはポジティブなちからで満ちていたこと。

逆光の中撮った太陽の塔の写真にサカナの後姿が映り込んでいる
悲しいかな、これだけは消せない。多分ずっと。


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