もっと見せろ→Pulp essay INDEX
AIRに一言→新・云い逃げボード
わんこに一言→わんこ・びーびーえす

Swatch e-store(PC)

MoMAオンラインストアジャパン


絵だけ見せろ↓(AIR掲載イラスト集)

犬だけ見せろ↓(AIR掲載の犬系日記集)
- 2006年02月25日(土) ∨前の日記--∧次の日記
- 荒川、獲るべくして獲った金メダル!(イラスト付)




昨日は溜まりに溜まった我慢が一気に放出して、日本中が恍惚状態!!
トリノ五輪・フィギュア女子シングルの荒川静香の金メダルは、これ以上ない感動を与えてくれた。



しかし、一人のアスリートにこれほど驚かされたのは久々であった。

何が驚いたかというと、



1.メダルゼロという流れの中で勝ち取ったメダル。
2.しかもそれが金メダル。
3.日本フィギュアスケート初の金メダル。
4.アジア人初のフィギュアスケート金メダル。
5.冬季五輪で世界中から最も注目を集める種目での金メダル。



…と、ここまでは日本中の誰もが驚いたことであり、
改めて言及する程のことでもない。個人的にはここからである。


6.ハラは荒川静香を少々みくびっていた。

7.本当の意味で評価される金メダルであること。

8.運命的選曲「トゥーランドット」。







この3つには本当に参りました。








*****************************************






6.私は、荒川静香をみくびっていた。








実は、今回のフィギュア三人娘にはほとんど注目していなかったのだ。
特に、荒川静香に限って云えばほとんど知らなかったのである。いや正確に云えば、
私の地元で行われた長野五輪の時の印象しかない。当時16歳の荒川静香は、
線が細くあか抜けない感じの少女で、どこか頼りなく大丈夫か?という感じ。
そして、それ以降8年間の荒川の動向は殆ど知らなかったに等しい。

ハラは今回のトリノ五輪、真面目に観戦したのは、上村愛子のモーグルともう一つ、
後日記事をアップ予定だが、初戦からずっと見てしまったカーリングだけである。

しかし先日、たまたまテレビをつけたら女子フィギュアSPの中継が映った。
画面に現れたリンクに立つ荒川静香の姿を見て、まず第一の驚きを喰らった。


「きれーじゃねーかよ!!しかもこのスキのない感じは何だ?!」



リンクの一点を見つめる彼女の顔は凛とした存在感を放っていた。
まるで、この選手を知らなかったことがとても恥ずかしい事のような感覚を感じた。

さらに、落ち着き払ったスケーティングを目の当たりにして2回目の驚きを感じつつ、
SP後の荒川のインタビューを聞いた後に、私は彼女に完璧たたきのめされた笑。


「最初のジャンプをしている時、
 空中で3回転を2回転に変えようと思いました。」




この声を聞いて一瞬で感じた。日本人アスリートの誰かに似ている?!
そうだ、イチローに似ている。清水宏保にも似ているかもしれない。
何を感じたかというと「芯の強さ」である。何かを達観している。
さらには、その時初めて「クール・ビューティー」と評される彼女の笑顔と性格を知った。
彼女を完全にみくびっていた自分を嗤わざるを得なかった。

「彼女は銅なら普通に獲れる。メダルを期待された今回の他の日本選手とはレベルが違う…」

正直そう思った。
結果が出た今となっては、このような話は幾らでも云えるのだが、
実際にその時そう予感した。






「レベルが違う」とは、彼女の場合は何が違ったのか?

技術だけなら世界レベルの選手は日本人でも沢山いる。彼女の技術も世界レベルだが、
それ以上に荒川はメンタル面が世界レベルだったのだ。メダルを獲る人に共通の資質である。

事後に色々な話を聞いたが、彼女は人と競う事が嫌いだったそうだ。
そのため、幼い頃から「天才」と呼ばれていたものの、ヤル気になった時しか結果を出せない。
彼女をコーチする人間にとって一番の課題は「やる気にさせること」だった。

04年の世界選手権で優勝後、周囲に無理に現役続行させられた結果、
05年の世界選手権は8位に惨敗。しかしここで再び彼女のやる気に火がつく。
新たな目標は「新採点基準で勝つ事」だった。04年の優勝は「旧採点基準」のもの。
05年以降採用された基準では、自分の技を評価してもらえなくなったのだ。

「このまま終われない。イチからやり直して、認めてもらわねば…」

彼女はハナから他のライバルと競い合うことが目的ではなく、
自分がやりたい演技をした上で、それを認めさせることが重要だった。

ショートプログラムが終わって、1位はコーエン、2位はスルツカヤ。
3位の荒川も十分に金メダル圏内。この時、荒川は自分に言い聞かせた。

「メダルは別にどうでもいい」


この時点ですでに荒川は、精神面でライバル二人に勝っていたのだろう。







世界選手権など、金メダルを獲得してきたスルツカヤが、
唯一手にしていないのが五輪の金メダル。喉から手が出るほど欲しくて仕方がない。

一方のコーエンはどうか。
ある特番で解説をやっていた元世界女王の佐藤有香氏が、
「コーエンの弱点はメンタル面。試合では必ずポカをやっている」と指摘していた。
事実コーエンは、SP1位が決まった夜は興奮して眠れず、翌日の練習を休んだとのこと。

2人とも、SPで僅差の1位2位となって、強烈に金メダルを意識していた。
その中で、僅差の3位で金メダルが見えていたはずの荒川静香は、前述したように
自分自身をコントロールしていた。



「SP終わって一瞬『メダルが欲しい』と思いそうになりました。でも、すぐに止めました。
 人間、何かを欲しがった時って、自分らしさを見失うもの。私は自分らしい演技を
 することが大事なので、メダルは欲しくないって思ってました。」



なんだろうかこの達観ぶりは。
五輪に来て「メダル欲しくない」って云い聞かせるメダル候補が他にいただろうか?
SPが終わった次の日でも、荒川は練習でもリラックスしていて、
練習以外の時間でも普通にショッピングなどをして楽しんでいたという。






実際のフリーの演技は、結果を知った後に昨夜じっくりと録画で見た。
結果を知った後なので、主観が混じりながらの観戦記となるものの、
素人目にこれほど明らかに、3人の違いが出ていたとは思わなかった。

まずはサーシャ・コーエン。
リンクに出て来て後、アップにされたその表情を見てびっくりした。
獲物を狙うコアクマな顔つきをしていたSPとは全然違う表情。
微妙に目が泳ぎ口元が固い。滑り出してみてもSPで見た弾けるような動きではない。
そして転倒…。

この次の演者は荒川。
しかし荒川はコーエンの演技も転倒シーンも見ていなかったという。
それどころかヘッドホンをして、他者の演奏音楽も歓声も聞いていなかった
まさに彼女は、他者とメダルを「競い合うこと」には興味がないというわけだ。。
この後の荒川の演技はご存知の通り。

SP/66.02点、そしてフリー/125.32点、いずれも荒川のパーソナルベスト
合計点/191.34点という得点は、最終演者のスルツカヤに相当な重圧を与えた。

そして最後にリンクに登場したスルツカヤだったが、何故か中々演技の準備に入らない。
たとえナマで観ていたとしても通常の精神状態でないことが分かっただろう。
そして、彼女もまさかの転倒。この時点で荒川の金メダルはほぼ決まった。

金メダルが決定した後、荒川静香はずっと笑顔だった。
メダルを獲ろうものならばお涙頂戴の日本人選手が多い中、彼女は最高の笑顔で祝福に応えていた。
彼女はメダルを獲ったこと以上に、納得のいく滑りが出来たことが嬉しくて、
それを世界中に認められ、その滑りに皆が喜んでくれたことが何よりも満足だったのだろう。





「メダル!メダル!」と騒ぎ続けてきた我々日本人。
競い合うことが嫌いな彼女が勝ち取った金メダル。そのメダルが大事なことを教えてくれた。
それが何なのか?マスコミをはじめ皆分かっているのだろうか。


いやー久々に一人のアスリートに魅せられた。降参しました。







*****************************************






7.本当の意味で評価される金メダルであること。






05年から新しく採用された採点システムは、ジャンプやスパイラルやスピンなど、
スケーティングのあらゆる技術を点数化して、加点方式で採点される。
そのため、一部選手や関係者からこんな意見がある。


「アレをやったら何点ゲット、コレをやったら何点追加…みたいな、
 フィギュア演技が点数を獲るためのパズルゲームに陥ってしまう」



メダルを獲るためには、点数の出る技ばかりを集めてそれをクリアすればいいのだ。しかし、
荒川静香の金メダルは、そういう小手先のテクニックで獲ったメダルではない。
荒川は新採点システムに対して、上記のような疑問を持っていたのだ。
彼女は「自分が美しいと思うものを演技したい」と主張した結果、
採点対象ではない…つまりメダルのためにはやっても無意味な技をフリー演技に加えた。



それが、今や彼女の代名詞となった、
イナ・バウアーという冒頭のイラストの技である。





荒川のイナ・バウアーは「世界一美しい」といわれる優雅なもの。
これをやらずにメダルをもらっても彼女には意味が無いのだ。
機械的でシステマチックになった採点システムを嗤うが如く、
荒川静香は笑みを湛えながらイナ・バウアーを演じた。(もう2〜3秒やってほしかったが…)


そして、審判は観念したかのように、
誰よりも高い技術点と演技点を荒川に与えたのだった。

荒川静香の金メダルと、オペラのような荘厳な演技が、
フィギュアの本質とは何かと改めて問い直した。








******************************************





8.運命的選曲「トゥーランドット」。








というわけで、荒川静香には完璧に打ちのめされたわけですが、
それに加えて、あまりにも出来すぎなこんな話もあります。

しかしながら何故か金メダリストには、いつでもドラマがあるものだ。






1ヶ月前に急遽変更した演技曲は、プッチーニ作曲の『トゥーランドット』。
これは04年の世界選手権で優勝した時の演技曲だったらしいが、
なんと偶然にもその曲を、あのハヴァロッティがトリノ五輪の開会式で歌ったのだ。
しかも、その曲の歌詞の内容を聞くともっとビックリする。



================================
氷のような冷たい心をもった姫が、王子によって心を開いていく物語。
最終幕では、姫が「今夜は寝てはならぬ!」と住民に告げ、
王子が「夜明けに私は勝つのだ」と宣言するシーンがある。
最後に王子は姫にキスをして、姫の冷たい心が解けていくストーリー。
================================




云わなくても分かりますよね?
「氷の微笑」「クール・ビューティー」といわれる荒川が
金メダルをとるためのストーリーそのままではないか。
これには荒川も「運命を感じます」とコメント。

ちなみに、今回のフィギュアの実況を担当したのはNHKの刈屋アナウンサー。
この人、実は2年前のアテネ五輪で体操団体の金メダルの瞬間に
「月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」と名実況した人。
荒川の金メダル決定の瞬間に、「トリノの女神は荒川静香にキスをしました」とこれまた名実況。



しかし、「トゥーランドット」の歌詞を読むにつけ、
「トリノの女神」というのなら、「トリノの王子」にすべきであった笑。





*******************************************





もう本当にハッピーな金メダルであった。
荒川選手、本当におめでとうございます。
あと日本の皆さん、本当によかったね。(→って俺はどこの人よ笑)


さ、あとはアルペンの佐々木明だけか!
最後につづけよー!!



060225
taichi
...
- 2006年02月12日(日) ∨前の日記--∧次の日記
- アイコ、世界No.1のエアに乾杯!

アイコ、メダルには届かなかったけれど、
世界女子No.1のエアに鳥肌が立ったぜ!!






アイコのMAXパフォーマンス!
トリノ五輪決勝の
コークスクリュー720
もう一度動画で堪能してみましょう。

※右の画像をクリックすると
別画面で映像が流れます。


(NTV中継映像より)


トリノ五輪・女子モーグル決勝で、
上村愛子が第2エアで見せたコーク・セブンツーは、
アイコ史上最高の高さとキレ味であった。

今後もどんどんモーグルのエアは進化していくだろうが、
間違いなく今回の五輪で誰よりも魅せたエアであり、現在の世界女子史上最高のエアだ。




******************************************






2月12日(日)日本時間午前4時。
トリノオリンピック・女子モーグル決勝。
メダルが期待された
上村愛子
惜しくも
5位となった。





【決勝の公式リザルト(FISホームページのファイルを加工)】



大技・コークスクリュー720を持つ上村愛子であったが、
ソルトレーク五輪の6位より1つ順位をあげたものの、またしてもメダルは遠かった。


云わずもがな、モーグルはエアだけで戦うわけではない。
ターン50%、タイム25%、そしてエアは全体の25%でしかないのだ。


今回のオリンピックの女子モーグルを観戦して、
採点傾向で一番感じたのは、モーグルの原点回帰だ。
それは、コブ斜面を攻撃的に早く滑ること。

つまり早いタイム(25%)とコントロールされたターン(50%)の関係性が問われる。
モーグルは、高速ターン技術の高さで75%が決まってしまう競技なのだ。




*********************************************




【アイコのカテゴリ別得点と順位】

■ターン/12.5点・・・・8位(トップと1.3点差)
■タイム/5.76点・・・・15位(トップと0.49点差)
■エア /5.75点・・・・3位(トップと0.5点差)

※決勝は20人。
※各カテゴリのトップはいずれも金メダルのジェニファー・ハイル。




【主な減点ポイント】

1.第1エアの360°が斜めになった
 ⇒着地が左にずれてスムーズにラインに入れず。・・・・・エア点もタイム点もロス。
2.最終セクションの1〜2ターンがノーコントロール
 ⇒各審判が約0.1〜0.2減点したはず(計0.6減点)
3.タイムが遅くて攻撃性が評価されずターン点も伸びず
 ⇒各審判が約0.1〜0.2減点?(計0.6減点)





*******************************************



【アイコに足らなかったもの】



アイコは、事後のインタビューにて、

「3Dが思った以上に決まったので満足かな〜」
「五輪でのメダルがどうやったら獲れるのか、またしても謎です…」
「次回のオリンピックも出たい」

と云ってました。



アイコはどうすれば勝てるのか?


注目すべきは、アイコより上位4人は皆、
ターン点とタイム点で稼いでいるのだ。
銀のトロー以外は3Dエアを使っていない。




女王ジェニファー・ハイルは上村愛子と殆ど体格が同じだ。
ハラはこの2人をよく比較して見ている。

ハイルは3Dエアを使わない。身体能力があり、
高速ターンだけで高得点をもぎ取れる自信があるからだ。
それに彼女のエア(360°とバックフリップ)だって抜群のキレ味を誇る完成度である。

アイコが彼女に勝つには、モーグルの原点に立ち返らないといけない。
足腰のバネや反応速度に関しては、正直云ってハイルにはかなわないが、
もっとスピードを磨いて、少なくともターンとタイム点で彼女を射程圏内に入れること。
その上でエアで勝つのだ。

エアは2本の合計点。問題は第1エアの360°
予選・決勝とも軸が斜めになっている。まだ昨年の方がよかったと思う。
個人的な感想だが、軸ずれ系のコーク7の感覚が固まってくるにつれて、
軸FIXの360°のフィーリングに影響を与えているのではないか?
思いきって第1エアはバックフリップに変更した方がバランスがよいのでは?



《参考・・・昨年の日記より》
2005年02月28日『大技コーク7炸裂!愛子W杯モーグル優勝!』





とにかく、他の課題はあるにしても、
アイコのコークスクリューは完成の域に来ている。
現時点で世界一のエアであることは間違いない。




【単体のエア別の得点】



1.アイコ・第2エア
コークスクリュー720°・・3.46点
(評価2.1点×難易度1.65点)

2.ハイル・第1エア
360°・・・・・・・・3.33点
(評価2.4点×難易度1.39点)

3.トロー・第1エア
Dスピン720°・・・・・3.13点
(評価1.9点×難易度1.65点)




アイコスマイルは
また4年後にお預けだけど、
観衆を魅了したエアは
金メダルだ!
胸を張れ、アイコ!!

↑昨年描いたイラスト








060212
taichi



...
- 2006年02月10日(金) ∨前の日記--∧次の日記
- 『人生初のバレンタインデー』

(創作エッセイです)






― 1 ―




「あの…、これ…」



ちょうど席でひとりになった時、後から声がした。
ジュンが肩越しに振り返ると、ナオコが立っていた。

隣のクラスにいるとても活発な性格の女のコだ。
ナオコは休み時間になると色んな教室に現れる。
男子女子問わず、学年で人気があるコなのだ。
奔放な彼女に比べるとジュンは寡黙なタイプである。

どうして彼女が僕に声をかけてきたのか?
年齢の割に大人びた性格のジュンは考え込んでいた。
確かにジュンは、放課後のクラブでナオコと一緒なのだが、
これまでは時々会話を交わす程度しかなかったのだ。

急いできたからか、顔が微かに気色ばんでいるナオコ。
ジュンに向かって遠慮がちに差し出された彼女の手には、
光沢を帯びた小さな青の包みがあった。




「……」




ナオコは不安げな顔をしていた。彼女の目の前で、
彼は目を見開いたまま、言葉を失っていたのだ。




「……チョコだよ」




ふと我に返ったジュンは、唐突に聞き返した。




「…え?ぼくに?…なんで?」




ジュンはようやく立ち上がった。
やっと何かに気づいたのか、ナオコの顔をまっすぐ見据えた。





「バレンタインデーだから。あげる。」


「あ、ああ、うん、ありがと…」


「みんなが来ないうち、早くしまって、早く!」


「う、うん…」







雪が降り続く2月半ばの火曜日であった。
ジュンはその日、その後の授業の内容も、
家にどうやって帰ったかも覚えていないという。

過ごした人生もまだ短く、何も知らず自由に生きてきた彼。
寡黙だが優しい性格がゆえ、それなりに友達も多かった。

しかしこの日ジュンは初めて、友達の中に「異性」を意識した。
バレンタインデーがどういうものか、母親から聞いて知っている。
「自分は相手にどう見られているのか?」という疑問に出会った。





彼の「自我」が芽生えた瞬間、


その日は、小学4年生で経験した
初めてのバレンタインデーであった。







************************************





― 2 ―





その日以来ジュンは、妙に自分自身が気になり始めた。
翌朝、歯を磨いた後に鏡に映る自分の顔をじっと見ていた。

学校では、隣のクラスが気になって仕方がなかった。
廊下を歩いていると、つい隣の教室の方を見てしまう。





放課後のクラブ活動は週に2回。
ジュンとナオコが入っているクラブは絵画であった。
彼女はとても活発な性格なのに絵が好きなのだ。

ジュンは思い出した。一番最初のクラブの時、
隣に座っていたナオコに画材の使い方を教えたことがある。




ジュンは教室の廊下側の席に座り、机の上に画材を準備していた。
彼は絵が好きで絵画のクラブを選んだのだが、
今は絵のことよりもナオコのことが気になってしまう。

先生が大きな色紙を掲げながら、色の混ぜ方の説明をしている時も
机の一点を見ながらジュンはずっと考えていた。

『なぜ…?、ナオちゃんが…?、僕にチョコを…?』

あの日の出来事が頭から離れない。
考えれば考えるほど分からなくなった。

そうこうするうちに…





「おいジュン!、聞いてるのか?!」





先生に怒られた。



みんなが廊下側の席に座っているジュンを見る。
隣と後席の友達からからかわれる彼。

ふとジュンは窓際に座っているナオコを見た。
彼女もジュンを見ていた・・・目が合った。


ナオコはにっこりと笑みを浮かべる…、

そして、ゆっくりと窓の方を向いた。




窓の方を向く瞬間、

一瞬だけ見えたナオコの表情が、

なぜかジュンの目に張り付いて離れなかった。









***********************************






― 3 ―







一週間後の放課後、
クラブの時にジュンは決心した。


ナオコが座る席まで歩いていくと、
彼女の名を呼んで云った。



「ナオちゃん、おいしかったよ」



顔をあげたナオコは、一瞬無表情で彼を見つめた。
ジュンはあわてて付け加えるように云った。



「あのチョコレートだよ。」



ふと思い出したかのように、ナオコは笑顔になって云った。




「……ホントに?!よかったー!」




少し周りを気にしながら、満面の笑みで小声で答えた。


彼女の笑顔を見るだけで、
何でこんなに体が熱くなるのか、
ジュンにはまだ分からなかった。








***********************************





― 4 ―






校内でナオコを見かけなくなったのは、
その次の日からであった。


クラブにも来なくなった。
放課後の活動は自由参加なので、来なくても不自然ではないのだが、
さすがにジュンは気になった。
誰かに住所を教えてもらって、彼女の家まで行ってみようかと何度か考えた。








3月の初週にも彼女は現れない。校内でも全く見掛けないままだった。



そこで彼は思い立った。

これまではあまり話した事はなかったが、
同じクラブの隣の組のコに、ナオコのことを聞いてみることにした。



「あの…、ナオちゃんずっと休んでるけど、何かあったのかな?」


「ああ、あのねーナオちゃん転校するみたい。
 4月からお父さんのお仕事が遠くになるんだって。
 昨日先生と教室に来て、あいさつしたら帰っちゃったんだ。
 昨日でおわりみたいなの。なんだか急だし、さびしいよね。」




ジュンは目を見開いた。




今聞いたことをうまく考えられない。頭が動かなかった。
でも心臓はバクバクと動いていた。また、体が熱くなった。

この1ヶ月のことが、ジュンの頭の中を通り過ぎた。
それを「走馬灯」と呼ぶ事なんて彼はまだ知らない。







その日のジュンは、
窓際のポツンと空いた椅子を見ながら

一心不乱に絵筆を画用紙に走らせていた。







*********************************







― 5 ―






3月半ばの月曜日、
彼は学校から帰ると母親に呼ばれた。
母親から出た言葉にジュンは驚いた。




「アンタ、隣の組のナオちゃんからチョコもらったんだって?!」




まさか、母親から
彼女の名前が出てくるとは思っていなかった。




「な、なんでお母さん、ナオちゃんを知ってるの?
 なんで、チョコもらったこと知ってるの?話してないのに?」


「なんでアンタ話してくれないのよ〜!クラスは違うけど、
 ナオちゃんのお母さんとは、PTAの会でよく会ってたわよ!」





ジュンが学校に行ってる間、
ナオコの母親がジュンの母親に電話をしてきたのだ。
その話を母親はジュンに聞かせた。

ナオコの家は今日引越しだったのだ。
荷造りをしてトラックへの積荷が終わった時、
空っぽになった自室で、ナオコが急に泣き出したというのだ。

母親が理由を聞くと、どうやら、
隣のクラスのジュンと離れるのが嫌で泣き出したらしいとのこと。
居たたまれなくなったナオコの母は、とにかくジュンの母に電話をしてきたのだ。




実はナオコは、
絵画のクラブでジュンと初めて話した時から、
ジュンのことが好きだったのだ。

ナオコはジュンに度々優しくしてもらっていたという。
ジュンの恋愛観が未成熟だったために気づかなかったのだと、
母親はつくづく感じた。

話を聞き終えたジュンは、どうしていいか分からない
っという顔で、母親を見つめていた。




「それでアンタ、チョコのお礼はしたの?」


「お礼?、おいしかったよ、ありがとう、って云った」


「何か渡してないの?」


「う、うん…」


「もう〜アンタの今後の恋愛が思いやられるわ〜。
 とにかく、新しい住所を聞いてきたから、
 手紙の一つでも書いて送りなさいよ」




その夜、ジュンは寝付けなかった。
生まれて初めて12時すぎまで起きていた。

どうすればいいのか、彼なりに考えているのだがカタチにならない。
いずれにしても、彼女はもう遠い街へ行ってしまった。

ジュンは今、確かな感情を自分で感じている。
なんでもっと早く気がつかなかったのだろう…
彼はこの時、「後悔」という感情もはじめて知った。









*********************************






― 6 ―






次の日、ジュンは重い足取りで登校した。
算数も理科も国語も、授業は全く頭に入らなかった。

その日の放課後はクラブがあった。
ジュンは教室へ入ると、先日描いていた絵を棚から取り出した。
少し広げてしばらく眺めていると、ふいに誰かに声をかけられた。
ジュンはあわてて絵をしまう。

ジュンに声をかけたのは、
先日ナオコのことを訊ねた隣のクラスのコだった。



「ねえ訊いたー?」

「何を?」

「ナオちゃんがね、今校門のところにいるんだって」

「え?」


「5時間目が終わるぐらいから立ってるんだって。
 クラブに入ってないコが帰る時、校門出ようとしたら、
 ナオちゃんがいるから、『どうしたのー?』って訊いたらね、
 『ちょっと忘れ物とりに来ててさー』って云ってたって。
 4年生の他のクラスのコがさっき廊下で話してたよ。
 もう帰っちゃうのかな〜?あたしも逢いたいなー」




「ちょっとごめん!、あ、ありがと!!」



「え?あ、うん?、ど、どこいくの?」





ジュンは立ち上がって教室を出ようとした。
出る前に何か思い出したのか、戻ってきて机から何かを取り出すと、
再び走って出て行った。

廊下を駆けて階段を下り1階へと出る。
土足をつっかけながら校舎のエントランスを飛び出した。

校門へ走りながら、つま先を叩いて土足を履く。
人影が立っているのが見えた。間違いなく彼女だ。
見ると数人の人だかりが出来ている。
友達が多いから当然だ。



一瞬ためらったが、
ジュンは人だかりの中へ歩いていった。




「ナオちゃん!」




ジュンが声をかけると、ナオコが振り向いた。




「みんな、またねー!手紙かくから!元気でね!!
 ジュン君!行こ!」


「え?!」



ナオコはジュンの手をとると、校門の外へ走り出した。
走りながら後ろを振り向き、友達に手を振った。







*********************************






― 7 ―






手をつなぎながら二人は走った。
学校の傍にある公園まで走った。

走りつかれて息が上がっていたが、
ナオコが口を開いた。





「あ、あのね、家に忘れ物があってね、それを取りに来て、
 帰りに寄ってみたんだ。」

「そうなんだ」

「ごめんね、急で。本当はチョコ渡した時に、転校のことも
 云おうと思ったんだけど、なんか云えなくて…、ごめんね」




二人の間にひゅぅぅと風が流れ込んだ。




「え、えっと…、…、また逢えるかな?」




ジュンは訊くのが怖かった。
でも思い切って云ってみた。

ナオコは黙ったまま、
ジュンの顔を見ているだけだった。


彼女がうつむいて視線をすっと落とした時、
ジュンは手に持っていた画用紙を、ナオコに差し出しながら云った。






「これ、描いたんだ。あげるよ。」


「え?」






ナオコは渡されたものを見ると、目から涙が溢れてきた。






「こ、これ私?、描いてくれたの?」


「ずっと、とっといて。」






ナオコは、何度も何度も大きくうなずいた。


ジュンも泣いた。




おばあちゃんが死んだ時、
飼っていた犬が死んだ時、
父親に怒られて悔しかった時、
幼稚園の友達と別れる時、




そのどれとも違う涙であった。






その日が、ジュンにとって、

初めてのホワイトデーとなった。



































060210
taichi



...
- 2006年02月02日(木) ∨前の日記--∧次の日記
- 電話が苦手。




誰かとコミュニケーションをとる場合、


1.電話
2.メール
3.直接逢う


といった方法がありますね。
ハラは順番をつけるとしたら、


1番・・・・直接逢う
2番・・・・メール
3番・・・・電話


となります。


とにかく、電話が一番ダメですね。
これはメールが普及する前から
とっても苦手でした。
仕事は営業なのに大丈夫か?!
って感じですが・・・笑。


電話の場合、確かに相手の肉声を
介して、言葉面の他に声のトーンで
ニュアンスを判断できる利点が
あると思います。


話す内容はどうでもよくて、
ただ単に声が聞きたい・・・という時は
いいのかもしれません。



しかし、とっても複雑で大事な話をしたり、意見を交換し合いたい時などは、
電話は本当にダメですね。何かを伝えたい!!って思うときは電話は避けます。

それは、相手に伝える時、そして相手の話にリアクションをする時、
整理しきれない言葉を、ぶっつけ本番で相手に伝えなきゃいけないからです。
瞬時に自分の頭に浮かんだ言葉は、相手にとって同じ意味だとは限らないのです。

それを吟味して、選んで、順番も入れ替えて伝えてこそ、
自分が伝えたいことと同じ内容のことが、相手にも伝えられるのだと思うわけです。
それが電話だとできない。

電話は「音」しか伝達手段がない以上、
無言になれば不必要に不安になるし、何か適当に言葉を発しても、
その言葉が本当のリアクションなのか、適当なのか、
何とも判断出来ない疑心暗鬼な雰囲気が、互いの受話器越しに漂い始める。

頭の回転が速い人は、適切な言葉の整理を瞬時に行って、
相手に伝えられるのだと思いますが、私は悲しいかな出来ない人です。

だから、電話はちょっと苦手。









その点、メールは良い。
本当に伝えたい内容を、最も相手に伝わるような言葉を選択して、
理解しやすい文章の流れに直してから、相手に伝達できる。
一発勝負、ぶっつけ本番でないのがいいですね。




でも、会話的なリズムのやりとりを、メールでするのは苦手です。
たとえば、気さくな人でも言葉づかいが端的な人がいる。
「いまどこにいるの?」とメールして、「新宿」としか返してこない人。

業務的なやりとりだったり、緊急の時なら別に気にもしないが、
何気ないやりとりで、単語だけで返ってくると、一瞬迷います。
気分が悪いのか?何か困ったことがあるのか?色々考えます。




これって、実際にあってこの人に云われたとしたら、全く問題ないはず。
言葉づかいだけが雑なだけで、表情も仕草も問題ないからニュアンスが分かる。
でも、画面の文字面だけで、単語だけで返ってくると判断がつかない。

ちなみに私の場合、急を要してない場合は
なるべく何か言葉をつけるようにしている。

「渋谷にいる」ではなく、「渋谷にいるよ」にしたり、
「10時に着く」ではなく、「10時に着きまっせー」にしたり、
「じゃ〜やめる」ではなく、「ちょっと遠慮しとこかな」にしたりなど。






しかし不思議だ。
1文字入るだけで、全然受け取る側に与える感覚的なものが違う。
言葉って不思議である。

あと、「じゃ〜やめる」とか「ならやめる」も、文字だけだと、
相手を責めるような印象がぬぐえない。これも実際に逢って聞けば、
なんて事のない台詞なのだが、言葉になると受け取った側はなんとも複雑だ。
私は「じゃー」とか「なら」は、本当に相手を責める気がないなら、
絶対に使わないようにしている。

このように、会話トークをそのままの言葉で、
そのままのリズムでメールするのは苦手、というか、
結局、即座に返さず、一定の時間を置いて返信することとなるのだ。

メールで会話的な即レスポンスを求める相手には不評である。









これって、「役者」と「芸人」の差と一緒ですね。
役者の人って、TV画面や銀幕ではものすごい名演技を見せてても、
いざ、インタビューなどしてみると、めっちゃ恥ずかしがりやだったり、
以外と口下手だったりして、びっくりしたりするものです。
それに対して、芸人は即興のアクション&リアクションこそ命。
さぞプライベートでもその芸は発揮されてるんだろうな〜と思います。















さて、メールは確かに
伝達力があるわけですが、一方で、
人肌的なコミュニケーションに欠けます。

絵文字や顔文字などで
感情の伝達の工夫をしていますが、
電話の肉声に比べたら、
やはりリアリティに欠ける。

そういうものが欲しい時は、
電話をするぐらいなら、
私は直接逢いに行きます。

直接逢った場合、前述したように
コミュニケーションとしては
「ぶっつけ本番」となるわけですが、
電話と違って、相手の云いたいことや
反応を知る方法は色々あるわけです。

声、仕草、表情などなど。



私が云いたいことを考えて黙っていても、
相手は私が「考えている」と理解して、
落ち着いて待つことも出来ます。

それに、云いたいことを一々すべて
言葉で表現しなくても、安定した
コミュニケーションが成り立ちます。


だから、伝えたい事があって、
なおかつ人肌的なものも求める時は、
電話はせずに、逢いに行きます。








こう考えると、ワタシという人間は、
伝えることはよーく考えているつもりだし、
どう伝えれば効果的かも知っているのだが、
「しゃべる」という表現手段が苦手なだけですかね。

文字で示すか、仕草と表情か、もしくは絵で描くか、
それしかないんだよねー。



伝えるって難しい・・・



060202
taichi


...
    

∨前の日記--∧次の日記----Pulp essay INDEX(更新履歴一覧)



日記リンクサイト「日記才人」にも参加しています。投票には初回だけ登録が必要です(→登録
日記才人」の「マイ日記才人」に登録すれば、更新が一目で分かります

エンピツ投票ボタン(登録不要)

My追加
ご感想をどうぞ。



Copyright(C) 2006 HARATAICHI All rights reserved.

からしれんこんランキングに参加してね



AIR〜the pulp essay〜_ハラタイチ
count since 041217
Mail   

ごひいき犬ブログ

ZOZOTOWN(ゾゾタウン)

Apple Store(Japan)

 iTunes Music Store(Japan)  iTunes Music Store(Japan)
 iTunes Music Store(Japan) Sony Music Shop

ランキングサイトへ一票!
(クリックでAIRの投票になります)

芸術系RANKING文学/日記

PLATINUM ENGINE

ホームページランキングネット

ページビューランキング!!


バナー 10000004

ipodnano_600-120.jpg Swatch e-store(PC)

Apple Store(Japan)