胡桃の感想記
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2004年12月12日(日) 「パサジェルカ 〜女船客 秘した過去が手招く旅路〜 Cliff」THEATRE1010

☆劇団Studio Life☆

【Cliff Cast】林勇輔 及川健 山本芳樹 笠原浩夫 牧島進一 船戸慎二 佐野孝治 前田倫良 
青木隆敏 寺岡哲 奥田努 篠田仁志 下井顕太郎 萬代慶太 大沼亮吉 関戸博一 松本慎也 三上俊 
荒木健太郎 吉田隆太 舟見和利 岩崎大 石飛幸治 内山翔人(客演) 藤原啓児 河内喜一朗

一幕は及川マルタ、二幕は及川マルタと選別のシーンあたりからは林リーザにも感情移入してしまい(節操ないなぁ)、ありとあらゆるシーンで涙が溢れてしまった。どちらにも過酷な時代だったのだ。

男囚とこっそり会っていて怪我をした女囚に対し、青木ハウゼは「男とイチャイチャしているからよ」と言うし、タデウシュからバラを貰ったマルタをみて、リーザは「夢見る事すら出来ない」と呟いていた。前田シュルツ(親衛隊員)もリーザに向かって「ここを出たらお付き合いしたいなぁ(嫌らしい感じで/笑)」と言っていたので、彼らは囚人を看視しているのだけど、心は自由じゃないのだなぁと思った。

心を支配されている看守たちと、体を支配されている囚人たち・・・。

今回の舞台は物事をあらゆる方向から見ると如何に違ってくるかという多面性を強く感じた。回数を重ねるごとにセリフ一つ一つに重みが増し、涙が自然と溢れてくるのだ。こんなに目に涙を溜めて観た舞台は初めてだった。

一回目の観劇でストーリーを把握し、二回目で下船時のマルタの微笑みに気づいた。(ただこの時、私は上手側で曽世リーザに被って舟見マルタが見えにくくてもしかしたら・・・というくらいだった。)
そして今日の千秋楽、しっかりチェックすると・・・ちゃんと及川マルタは笑っていた。しかも照明もしっかり当たっていたのに、何故一回目で気が付かなかったのかしら・・・(まぁ後ろだったしね)。

このマルタの微笑みとラストの和解したリーザとワルターの船上のシーンで、救われる。
Lifeって本当にラストシーンが素敵。

林リーザは笠原ワルターに過去を告白した後で「罰を下さい。でも私を見捨てないで。」と言うものの、ワルターには受け入れてもらえない。その後、すべてを断ち切る為に、ワルターを振り切って一人マルタに会いに行くリーザには、悟った女の強さが現れていて格好良かった。これは女性の演出家さんだからかなと思う。パンフレットに“女”という事でいろいろと苦労されたという話が載っていたが、Lifeの“女性”は男性が演じることで虚構性がベールとなっているものの、言動が自然で共感することが結構あるのだ。

笠原ワルターを振り切る林リーザには「見捨てないで。」と言った時の頼りない弱さはない。笠原ワルターも立身出世の野心を剥き出しにし、林リーザもマルタとの再会で自我に目覚め、二人はこれから対等で、本当の夫婦になるのかもしれないと思えた。

深読みしすぎかもしれないが、マルタ一行が途中下船したのはリーザへの配慮かもしれない。マルタは船上でリーザと再会してから、何かとリーザを追いかけたり見つめていたりしていた。及川マルタの目には憎しみではなく、懐かしさのようなものがあったし、何か話したかったのかもしれない。でもあまりにもリーザの態度がおかしくなり、自分から逃げていたので、賢いマルタは何も言わずに去ろうとしたのではないだろうか。あの下船時のマルタの微笑みをみるとそう思えてしまう。

そんな風に後々、いろいろ考えさせてくれる本当に良い作品だった。

今回、Cliffの千秋楽。カーテンコールを5〜6回した後、恒例のお花投げ。山本タデウシュは、お花を客席に変な風に投げてしまった後の両手で口を覆うしぐさが妙に可愛らしかった・・・さっきまであんなにクールで格好良かったのにねぇ(笑)。そして及川マルタの「ありがとうございました!」はやっぱり男前。男前過ぎて少し笑いが起きていたみたい。白いドレス着た、カワイイ姿とのあまりのギャップにね・・・。

「ドラキュラ」「ドリアン・グレイの肖像」と続いてきているためか、山本さんと及川さんのラブラブ度(?・・・なんかちょっと違う気もするけど)が少〜しずつUP。前回は及川さんが待っている感じだったけど、今回はちゃんと山本さんがエスコートしていた。笠原さんと林さんが淡白だったから余計目立ったのかも。

そしてラストのカーテンコールは林さんお一人。最後まで“女優”でした(感動)。


2004年12月11日(土) 「パサジェルカ 〜女船客 秘した過去が手招く旅路〜 Cliff/ Abyss」THEATRE1010

04年最後の舞台は劇団Studio Life。今回もマチネ・ソワレ連続観劇です(もう日常)。
私と同じでこの「パサジェルカ」も明日で大千秋楽〜。
そして劇場は北千住に新しくオープンしたTHEATRE1010(シアターセンジュ)。
何だか新しい劇場っていいですねぇ。

【Cliff Cast】林勇輔 及川健 山本芳樹 笠原浩夫 牧島進一 船戸慎二 佐野孝治 前田倫良 青木隆敏 寺岡哲 奥田努 篠田仁志 下井顕太郎 萬代慶太 大沼亮吉 関戸博一 松本慎也 三上俊 荒木健太郎 吉田隆太 
舟見和利 岩崎大 石飛幸治 内山翔人(客演) 藤原啓児 河内喜一朗

「生きることに執着すると、人は奴隷になります」

アウシュビッツ収容所が題材だったので、暗く辛い話だろうと覚悟して観劇した。でもラストは救いがあり、光が見えたので考えさせられる事は多いもののスッキリだった。

物語は、豪華客船の華やかなダンスシーンから始まる。林リーザは真っ赤なドレスで優雅に船戸船長とダンスを踊っている。

林リーザの世間知らずとも思える行動や親切さは、彼女の若さや育ちの良さからくるものかもしれないが、辛い状況下で賢さと強さを備え持った及川マルタや山本ダデウシュには鬱陶しいものだったのかもしれない。

及川マルタは「ハイ、看守殿」と機械的な反応で、人間らしさが全く失われてしまった収容所という場所を表現していた。誕生日に人づてに山本タデウシュからバラの花束を貰い、幸せそうに報告するシーンは、林リーザの前でみせる数少ない感情が表れていた。結局、林リーザに花束は取り上げられ、その中から一本のバラを「これは私からよ」ともらうのだけど、その一本だけを大切そうに眺めながら去っていく及川マルタ。この時の及川マルタは、林リーザに心を許し始めていたのか、それとも喜びのあまり自分の立場を忘れてしまっていたのか・・・。ただ取り上げられた時の落胆は、山本ダデウシュのバラが無くなってしまったことと、林リーザへの落胆の両方かな。

山本ダデウシュは髭があっても格好良かった。短髪でいつもの柔らかいイメージではなく、無口だけど意志の強さと賢明さに溢れる男らしいダデウシュだった。

林リーザは収容所に半年しかいなかったから、あのままだったのかもしれない。看守長の佐野マリエや同僚で先輩看守の青木ハウゼは、囚人たちに対して嫌な感じはするものの憎めない。処刑される佐野マリエが力強く「生まれ変わっても同じ事をする」と言いきっているように、それがあの時代、あの場所での真実で正義だったのだから。戦後、戦犯として罰せられた人たちが多くいるだろうけど、戦争って個人を罰して済むものではない。

国の思想や集団心理がマイナスに動き団結すると如何に恐ろしいか・・・イラク情勢悪化のこの時期に「パサジェルカ」はとても考えさせられるものだった。

愛する山本タデウシュを失い病に倒れた及川マルタが、手を差し伸べる林リーザに言った「生きることに執着すると、人は奴隷になります」と、笠原ワルターが友人のアメリカ人ジャーナリストの牧島ブラッドレイに言った「時代にヒロイズムはいらない」というセリフがとても印象的だった。


【Abyss Cast】曽世海児 船見和利 岩崎大 石飛幸治 内山翔人(客演) 船戸慎二 佐野孝治 前田倫良 
青木隆敏 寺岡哲 奥田努 篠田仁志 下井顕太郎 萬代慶太 大沼亮吉 関戸博一 松本慎也 三上俊 
荒木健太郎 吉田隆太  藤原啓児 河内喜一朗 及川健 山本芳樹 笠原浩夫 牧島進一

マチネ続く観劇でストーリーがしっかり頭に入っているのと、席が前のほうで表情がしっかり分かるためか、曽世リーザに感情移入して、ラスト近くのメダル(タデウシュが作ったものでマルタが大切に持っていたもの。しかしタデウシュが処刑され、すべてを断ち切ったマルタには必要なくなってしまった)を投げるシーンでも涙が出そうになった。

リーザはマルタを助けることで、無意識に自己救済していたのかも。でも見返りを求めない聖人君主なんていないから、とても人間らしい。マルタはそんなリーザを知り、利用し、でも最後には(リーザに対する)裏切りに対して自ら罰するという、こちらも人間らしいと思う(ただ強くないと出来ないけど)。

ラスト近く、曽世リーザが下船途中の舟見マルタに「マルタ!」と呼び、二人が16年ぶりに向き合うシーン。舟見マルタが少し微笑んだ時、その目は自分と再会したリーザの苦しみと恐怖を知った上で“もう未来に歩いていっていいのよ”と言っているようだった。
リーザは姉のおかげで戦後、罪を咎められなかったけど、ずっと罪の意識に苛まれ自由のない奴隷のような心で暮らしてきたのかもしれない。リーザは夫ワルターにすべて打ち明け「私を罰して」と言ったけど、マルタに罰ではなく“許し”を貰ったように思えた。
リーザは船を降りて、やっと本当に自由な心で歩き出せるのだろう。

テーマがテーマなだけに重くシリアスな場面が多いので、豪華客船のお客さんたちのプチエピソードでは笑いを誘い、心地よい清涼感と息抜きになっていた。オープニングでは、前田さんと可愛くて若い恋人・吉田くん、下井さんと篠田さん夫婦とその子どもに萬代くんと松本くん、さらにその子守りをしているメイド姿の三上くん、牧島さんと及川さんのカップル。その人たちが二幕オープニングでは、下井さんと吉田くんがイチャイチャしていて、それを怪しく追う前田さん、そして思いっきり及川さんに叩かれていた如何にも尻にひかれています状態の牧島さん・・・と、こちらの想像を掻き立ててくれる楽しいシチュエーション。

ラストシーンでは、前田さんと吉田くんは元に戻っていて下井さんは彼らとすれ違うときに激しく動揺してタバコを持つ手が震え、隣の篠田さん(妻)に“何してんのよ?”みたいに見られていた。振り返る吉田くんは余裕の微笑み・・・一時のアバンチュールを楽しんだ小悪魔ちゃん(笑)。前田さんはきっとお金貯めて、高根の花だった吉田くんを誘ったのだなぁと想像。それか前田さんはお金持ち!とかね。

関戸くんは、声がよく通って滑舌良くてセリフが聞き取りやすくて老若男女できる期待の新人さん!関戸セべりア(女囚)の時はスカートの裾をきゅっと持って、恐怖心をよく表していた。

Cliffではタデウシュだった山本さん、Abyssでは警務課長グラブナーで登場。マルタを独房かどっかに連れて行くのだけど・・・口調が怖い〜っ。しかも舟見マルタに後ろから蹴り入れて退場していった。岩崎さんは普通に及川マルタと並んで退場していったのにな・・・山本さん怖い〜、でも素敵(笑)。脇で出ているときの山本さんってホント目が離せないんだよねぇ。少ない時間だからか、こう演技が凝縮されていると言うか・・・もう嬉々として輝いていると言うか(もちろんメインも素敵ですよ!そりゃ当然!)。

千秋楽恒例のお花投げ。藤原さんが投げたお花をGETしましたっ。貰ったのではなくて飛んできたのを自ら取ったって感じですが・・・嬉しかったです。ありがとう、ありがとう〜!!


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