2005年06月01日(水) |
メタトロン、第二の解放 |
ガッツの首筋に、レイピアの切っ先を突き立てた感触と、瓦礫とともにガッツの鉄の塊が自分をうち砕いた衝撃はほぼ同じと思えた。セルピコは頭の中に、鈍く重い衝撃が響くのを感じた。痛みは、まだ感じない。 薄れゆく意識の中、瓦礫の後から振る細かい漆喰の粉が、雪の様に見えた。 伏した石の床の冷たさは、あの幼い日を思い出させる。
もう、死んでもいいでしょう‥? いえ、ファルネーゼ様に拾われたあの日に、私は死んでいた。後は虚ろな心のままに、幽霊の様に生きてきただけ。決して溶けない雪の様な自分が、ガッツの業火にあてられた時、溶けた雪は水になるしかないのですから‥。 セルピコの意識は薄れ、暗い奈落へ引き込まれていった。
「おい」 「‥‥?」 頬に痛みを感じた。私は、生きている? ぐらぐらする頭の痛みを堪えて眼をあければ、ガッツと子供二人と烙印の娘、それに妖精二匹が自分を覗き込んでいた。 「勝手に死ぬな」 「‥‥貴方は、生きていたのですか?」 「おまえもな」 「ぐっ」 動こうとして、初めて身体に激痛が走った。 「セルピコさん、少しの間じっとしていてください。妖精の粉で応急処置は出来そうです」 小さな魔女の声だ 「はは‥」 「なにがおかしい?」 「‥‥しまらないな、生きてたなんて」 「世迷い言はそれくらいにしておけ。それより動けるか?クシャーンだ、上の連中がやばいぜ。ファルネーゼを守るのがお前の役目だろう?」 ガッツの言葉に、セルピコは自分のレイピアを見た。微かに血痕はあるものの、折れてはいなかった。 「まだ、私の役目はありそうですね」 無理をしては駄目。小さな魔女の制止を振りきって、セルピコはレイピアを頼りに立ち上がった。 「行きましょう、相手が貴方ではないのなら、私も戦えます」 白けた気分だった。狂戦士と相打ちになった後の事など、考えていなかったのだから‥・
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