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うたかた
sakurako

2011年05月02日(月)
きらぼし

広々とした板張りの道場に清冽な朝の光が満ちている。
その中央で、ふたりの青年がもう長いこと静かに対峙し続けていた。
ひとりは藍色の胴着を身につけて竹刀を構えたまま身じろぎもしない。
もうひとりは長身にさらりとスーツを纏っており、ほとんど金に近い飴色の頭髪といい、白い肌といい、先の青年とは何から何まで対照的な様は、さながらオセロの白と黒のようでもあった。
手練れの者同士の立会いにはありがちなことだが、全くと言って良いほど殺気は感じられず、ただ一瞬、胴着姿の青年が、片足を半歩、いざるように後ろに引いた。否、引いたのではない。それは前に進むための推進力となる半歩だ。閃いた竹刀を、とても避け切れるものではないと、その場で見学でもしている者があれば必ずそう思ったことだろう。しかし舞うように軽やかに、長身の青年はそれを避けて薄く笑んだ。ほう。竹刀を持った青年の口から自ずと感嘆の声が漏れる。避けた奴見たんはジブンが二人目や。
ほな本番行こか。拾い上げた二本目の竹刀に目を遣って、長身の青年――白馬探は、もういちどうっとりとしたような笑みを唇に浮かべた。ああなるほど、二刀流でしたか。どうりで太刀筋がぎこちないと思っていました。
そんな減らず口、すぐにきけんようにしたるからな。
閃光の如き太刀が二倍の攻撃力を伴って白馬に襲いかかり、けれど次の瞬間、目に見えぬ素早さで白馬の長身は太刀筋を外れていた。信じられないものを見たとでも言いたげに、二刀流の青年の瞳に驚愕の色が僅か浮かび、消える。
紳士のたしなみですからね。
おっとりとした口調で、攻撃を回避できた理由が告げられる。尤も僕のはフェンシングですけれど、ルールの違いなど、この場合問題ではないでしょう? それに。
たっぷりと間をおいて、白馬は言った。
それに僕だってまだ、本気を出してはいないんですよ。

※差し上げモノ再掲