美しくも、禍々しい。 無作法にも我が家に不時着した招かれざる訪問者はその夜、どちらかと言えば濡れて飛べなくなった白いちょうちょみたいに見えた。 できるだけ不愉快な表情をつくって侵入を咎めてみたものの、そもそもが大人しく従ってくれる相手であるはずがなく、見れば早速ぱさぱさと翼を畳みはじめている。 「ひでえなあ、命からがらパーティーを抜け出してきたってのに」 深夜の往来にそぐわぬ大量の赤色灯がパーティーだと言うのなら確かに違いない。しんいちのために、とご丁寧に戯言を付け加える頬のあたりが不自然に白いような気がした。 「……疲れてるのか?」 「なにソレ、精神分析?」 「まさか。ついでに言うとご休憩所でもねえぞ」 警告した先から上着まで脱ぎ捨てて、あらわれた鮮やかなキャンディーブルー。 誰もが触れたいと請い願うのだろう砂糖菓子みたいな唇は、押し付けられてみれば驚いたことにひどく苦かった。 「……毒薬、」 艷やかな笑みにつられてなぞった指先に乾きかけの血液。 毒薬の正体。 媚薬、だったのかもしれない。 悪夢の登場人物になった気分で倒れ込んだベッドがふたり分の体重に悲鳴をあげる。 「モノクルも外せ、馬鹿みてえ」 「これはダメ」 「なんで」 「バレちゃうじゃん」 「……マジ、馬鹿みてえ」 吐き掛けた唾を飲み下し、飲み下した体液をまた吐き出して、それからずっと裸で抱き合ってばかりいるオレたちは、そのうちカミサマみたいな何者かに頭から喰われちまうに違いない。
*SPANK HAPPY/「SWEETS」
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