日常の私

2013年04月01日(月) ウソ誕話、とりあえず日記にUPさせてください(後に移動します;)

「混同夢」



昔から、よく寝る奴だと言われまくりながら育ってきた。
三年寝太郎というあだ名を付けられたこともある。
そんな寝てばかり居る俺だったが、そういえば夢というものは見た覚えがない。
いや「今までは見た覚えが無かった」と言いかえるべきかもしれない。

このところ俺は毎晩、睡眠に陥るたびに夢を見ている。
夢の中で、毎回同じ人物と出会っている。

突飛な話だ、話し下手の俺が語っても信じるものなど居るわけがないだろう。
そう理解しているから、幼馴染みのくいなにも夢のことは口にしていない。
もちろん誰かに話すことがあるとすればくいなかも知れないが、今のところ必要は感じない。
俺は夢に困っているわけでも悩んでいるわけでもないのだ。
むしろ満足している。
なんというか逆なのだ、どう説明していいかわからないが、要するに夢が素晴らしすぎるのだ。

もう少し順を追って説明しようと思う。

俺はロロノア・ゾロ、剣道に全てを掛けている、都内の大学生だ。
上記の一行を語った時点で自己紹介の大半は終了していると常々思っているのだが、先輩であり剣道部部長でもある幼馴染みのくいなに言わせれば、もう少々付け足すべき条項があるらしい。
曰く、緑色の短髪、三白眼、三年寝太郎、無口、ぶっきらぼうで強面、一見すると見栄えはいいが中身は最悪の女性の敵。
かなりおまけして甘い点数を付けてなお、俺の評価はこの程度ということだ。
とんだ言われようで面白くはないが、仕方あるまいとも思う。
俺は女性に、いわゆる「興味」というものを持ったことがない。
というか、自分以外の人間そのものに、ろくな興味を持ったことすらない。
正直、親と師匠と師匠の娘であるくいな、それ以外の人間は、識別すらしていないかも知れない。

そんな俺が、毎晩夢を見る。
繰り返しになるが、夢の中で毎回同じ人物と出会う。
この先が不思議なのだが、俺は夢で出会うこの人物が、好ましくて仕方がない。

夢に出てくるのは女性ではない。
俺より少しばかり年下の、癖の強い髪をもてあましている、とんでもなく長い鼻をした、痩せた男。
おしゃべりで人懐っこく、くりっとした大きな目と笑顔が可愛い。
名前はウソップというのだと、最近になってようやく知れた。
人とは殆ど会話せずに過ごしてきた筈のこの俺が、必死に会話を繋いで聞き出したのだ。
とはいえ、ウソップはとても喋くりで、俺が合いの手を入れずとも次々と話を続けていく。
どう話が転んでも、俺は楽しいし心地よい。
ずっと夢が終わらなければよいと、願っている間に目が覚める。
俺は恋というものをしたことがないのだが、目覚めた時の胸の中の喪失感は、恋をしている男のそれではないのかと疑っている。
少なくとも、一人でいることを好ましいと思って育ってきたこの俺が、ウソップに対して、ずっと側にいて欲しいと切望していることは事実であり、だからこそウソップの住む世界が夢の中だという現実が受け入れられない。
俺が夢の中にとどまるかウソップを引きずり出すか、どちらかの方法を取れないものかと、文字通り寝ても覚めても思う日々が続いているのだ。

心密かに悩むうちにも、夢の中で俺は、どんどんウソップと親しくなっていった。
なにしろ三年寝太郎だ、睡眠時間なら誰にも負けはしない。
最近では、話をするウソップの肩に手を掛けるという高等技術も習得したし、一度だけだがついには膝の上に乗せて話を聞くというミラクルまで達成した。
……残念ながら一瞬だ。
敗因はあまりに喜び、心踊りすぎたせいか、さすがに睡眠が過多過ぎて眠りが浅くなっていたせいか、どちらにしても目覚めたことには違いない。
悔やまれる失敗だ。
一生の不覚とは、このことだ。

ところで、夢の中のことと言ってしまえばそれまでだが、ウソップについて不思議なことがあった。
触れた際、まるで本物の人間のように感触が伝わることもあれば、ふわふわと実態が伴わない手触りのこともある。
俺の睡眠の質によるものかと思っていたのだが、ある日、遠征先の隣町で居眠りをした時出会ったウソップは、体温や息遣いまで人間そのものだった。
こうなると、今まで攻めようもないと半ば諦めていた事態に光が射したようでテンションが上がる。

「……世界が違うのは厳しい、お前を現実に連れ帰りたい。何とかなんねえもんだろうか」
切り口が見えれば畳み掛けるのが定石だと、生の感情をそのままぶつけて抱きしめた。
結果から言えば、それが次の一歩に繋がった。
「連れ帰りたいって?」
腕の中で、ウソップが震えた。
吐息のように吐き出した声が、震えている。
「夢の中でいつでも会える。ゾロが望むまで、いつまでも。……それだけじゃダメかな?」
「ダメだ、そりゃ足りな過ぎる」
「でもさ、現実世界で一緒にいても、夢では会えないんだぜ?ゾロは寝る時間の方が長いじゃんか、だったらいいだろ、夢はいつも楽しいぜ?」
「良くねえ!夢は夢だ、現実には敵わねえ!」
即答だった。
俺はウソップを抱く手に力を込めて、口下手なりに必死で訴えた。
……そりゃあ夢の中ならば確かに長い時間共に居られるし、性別の壁に傷つくこともなく、楽しさだけを享受して過ごしていける。
けれど。
「なあゾロ、楽しいならそれが一番だと思わねえ?俺はもう傷つくとか裏切られるとか、そういうのは真っ平御免だ」
……それでも。
俺はウソップと分け合うのが楽しさだけなのはつまらないと思う。苦しい、悲しい、ネガティブな感情すべてを共に経験したいと思う。
「というか、有り体に云えば俺はウソップが好きだ。現実に俺のものにしてぇってことかな」
「え、ちょ、それって」
「現実のウソップを、現実に抱きてぇ」
見下ろしたウソップの顔が、見る間に真っ赤になって、そこでプツンと夢は終わった。

目覚めた俺は、いつものように夢の続きを貪ろうとはしなかった。
傷つくのは真っ平御免というウソップの台詞がどうにもリアルで気になって、調べてみたくなったのだ。
楽しい以外の感情も分かち合いたいと言った、己の舌の根も乾かぬうちに快楽を享受するのは違うだろうと思ったことも大きい。

「ウソップという名に心当たりはねえか?」
俺はくいなを伴い、遠征先の監督や関係者たちに、次々と尋ねてみた。
夢がはっきりしていたのなら、この土地には何かがあるのかもしれないという、くいなの推理だ。正直俺では思いつけなかったと思う。
そう、俺は物心ついて初めて他人を頼ることにしたのだ。
まずは聞いて欲しいと、くいなに全てを打ち明けた。
「ゾロが誰かを愛するなんてね」
何度も同じ台詞を繰り返した彼女は、突拍子もない話を丸ごと信じてくれた。
その後は簡単だ、姉弟のように育った俺たちは行動も似ている。
手掛かりを求め、聞いて聞いて聞きまくるのだ。

その日のうちに、色々なことがわかってきた。

遠征先である大学はミッション系で、敷地内には教会を併設した病院がある。
結論から言えば、ウソップは二年前から寝たきりの、そこの患者だ。
理事長が亡くなり、一人娘であるカヤ嬢が後を継ぐ事になった時に財産狙いのトラブルがあり、カヤ嬢の幼馴染の少年が事件の巻き添えを喰ってしまったらしい。
彼がウソップという名である事、カヤ嬢を裏切り殺そうとした秘書に立ち向かい、代わりに陵辱され、そのショックから目覚めぬ眠りについている事。
「クロ……秘書は逮捕されました。ウソップさんの身体の傷も治っています、けれど彼は目覚めない」
胡散臭い来訪者に全てを教えてくれたカヤ嬢は育ちの良さが所作からも滲み出る清楚な女性で、彼女の口から語られる事件の生々しさはどこか現実感を欠き、夢の話でも聞かされているかのようだ。
それでも陵辱というふた文字が、飲み込み損ねた飴玉のように、俺の胸の上あたりに引っかかって焼き付いた。
熱くて痛い。
目覚めないウソップは、きっともっと酷い痛みを胸の中に抱えている。

「そのクロって秘書と、ウソップの間には、もともと何か?」
「わかりません。でも……クロはいいひとでした、私たちの誰に対しても」
「会えねえだろうか」
「ウソップさんに?あの、誰に対してもお断りしてきているんです。でも……そうですね、ゾロさん、貴方になら」
「良いのか?自分で言うのもなんだが、胡散臭い野郎だろう」
「けれど、貴方のお話が……私には……」

何か一つでも伝われと、ウソップの語るホラ話までも含めて訴えたのが功を奏したらしい、カヤ嬢は俺を「ウソップを目覚めさせる可能性」として、丸ごと信頼してくれたようだった。
清楚という褒め言葉に、聡明で気前がいいを付け足したいと強く思う。
もちろん警戒されない容貌のくいなが付いてきてくれたのも大きかったのだろうが、こちらはあまり強く褒めると力関係が洒落にならないことになるので、あえて知らないふりをする。

病室で眠るウソップは、夢のウソップより痩せて窶れ、二年分大人びた風貌だった。
俺は堪らずウソップの額にかかる髪を払って、そのまま髪を撫で、頬に手を添える。
「来たぜ、ウソップ。俺はここまで来た。お前はどうしたい?」
耳にそっと囁き掛けた。
鼻が触れる距離に更に辛抱堪らなくなり、そのまま頬ずりをし、目尻に溜まった涙を舐めてやる。
「え、あ、今、ちょっと」
「あ、悪い」
「違うんです、今確かに涙が。こんなの二年間で初めて」
てっきり暴走を咎められたと思ったが、違っていた。
そして俺は、晴れてウソップと病室で二人きりになる時間を手にいれた。

二人きりになったからといって、俺の行動は何ら変わることはない。
カヤ嬢がいて止められたとしても、きっとしていたように、ウソップの背に手を回し、そっと身体を起こしてやる。
ぎゅっと抱きしめ、もう一度頬ずりをしてから耳元でまた囁いた。
「どちらで生きる?俺は悪いが、そっちの世界に行きっぱなしは無理だ。ウソップに戻ってきて欲しい、頼む」
……ウソップの目尻にまた涙が溜まり、伝って落ちる。
声は届いているのだ、若干の焦りと共に俺は続ける。
「つぅかな、来い。お前が必要だ、来てくれ……来い!」

祈るように抱きしめたまま背を撫でて、これだけは了承を得るまで自粛しようと思っていた、無防備な唇に口付けたその時に気がついた。
「お前……実は目覚めてんだろ」
ぴくぴくと動く瞼の下で、ウソップの奴め、こっそりと薄目を開けて様子を伺っている。
こら、と言いかけて開いた俺の口の中にウソップの舌がするりと滑り込んで来て、あとは全部有耶無耶になった。
いつの間にか、カヤ嬢やくいなまで部屋になだれ込んで来て、絵に描いたような大団円だ。

そして俺は、その日からウソップのリハビリと称したデートをしたり、もちろん自分の剣道にも邁進したり、毎日を堪能している。
口下手ながらも会話するようになったので、明るくなったと他人からよく褒められるようにもなってきた。

ただ、三年寝太郎とまではいかないが、相変わらずよく昼寝はしている。
リハビリに疲れたウソップが、昼寝をするのが大きな理由だ。
どういうカラクリかわからないが、ウソップが現実に戻った後も夢の中で逢えるのだ。
尾籠な話を言わせてもらおう。
負担が掛かりすぎるから、ウソップと身体を繋ぐのはまだ先の事だと、俺は医者に言い渡されている。
ただ。

「夢の中でなら、負担なんてものはねえからな」
「……バッ……い、言うなよはっきり、そんなこと!」

夢の中の出来事までダメだと規制する医者など、この世にはいない。

そんなわけで。
夢と現実を奇妙に混同しながらも、俺は今日も楽しく「惰眠を貪っている」
……ウソップのいる現実に感謝しながら、夢と現実を生きている。









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