獅々丸の雑記帳
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俺の棲家はマッドシティの外れ。 住宅街と自然界の境にある。 東や北には広く自然が拡がり、西や南には軒が連なる。
そんな場所だからして、夏の大共演セミ達の大合唱は夏の風物詩だ。 アブラゼミやミンミンゼミはもちろん、ツクツクボウシの鳴き声も聞ける。 ヒグラシも遠くに聞こえるな。 ニイニイゼミだって聞きに行けば聞ける森はある。
そして、今年一番の夏の思い出がこのセミだ。
そのセミは、我が家の庭土から這い出てきて、今年作ったばかりのブロックの 柵に掴まったまま羽化の途中で息絶えていた。
背中を割り上体を引き起こし頭を出して、これから足を抜くところだったのだ ろう。 その姿で動かなくなっていた。
何年も何年も地中で過ごしたのに、大空を飛翔することも、鳴き声をあげるこ とも、パートナーを見つけるほんの限られた時間での自由も与えられなかった 亡骸。
珍しいことだったからね、写真に収めようとカメラを構えたんだけど、ファイ ンダーを覗いてるうちに撮る気がなくなった。
表情のないはずの昆虫なんだけどね、酷く恨めしい形相をしていたよ。
俺が見つけた時はもう死んでしまっていたんだが、そのセミのもがきようは想 像に難くない。
脱皮不全に苦しんだザリガニの左手を毟り取った、あの感触が蘇った。 あの時のザリのもがきようは見るに耐え難い姿だ。
目の前で静かに固まったそのセミもどんなにかもがいたことだろう。
『今を生きている』ということがどんな奇蹟の積み重ねで成っているのか。
そんなことを想わずにはいられない夏のセミ。
願。 生滅流転、無常なり。
合掌。
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