獅々丸の雑記帳
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2006年02月14日(火) ハッピー?

居酒屋の入り口に近いテーブルを囲んで3人の男が座っていた。

年の頃は皆30代前半といった当たりか、普通なら五月蝿いくらいの声で会社
の愚痴を肴に賑やかに酒を酌み交わす、そんな風景が似合いそうな面子であっ
た。
が、今日そこに座る3人ときたら料理はつまみ程度、酒もあまり進んでいない
ようで、終始声を潜めてヒソヒソと話し合いをしていた。


男は焼酎のお湯割りの入ったグラスに口をつけた後、そのまま静かに続けた。

『喧嘩なんて面倒な割りに背負うものが多いだけで無駄だぜ。
考えてもみろよ。今回のことで奴が制裁を受けたとしよう。その制裁が俺たち
が望むものより軽かったらどうするんだ?
社会的にはそれで片が付いてるのに、それを許せないと続けるのか?
その瞬間から俺が反社会になるんだぜ。
それによ、もし、もしだよ、奴が精神的に追い詰められて自殺でもしてみ?
それを関係ないって突っ張れるか?確かに法的にはクリアだよ。だからって自
分も平然としてられるほど強くはないだろ?
人を殺すかもしれないんだぜ。気持ちは分かるけどさ、やめときな。』

そこまで言って、さらにもうひと口グラスを近づけ唇を塗らした後、男はやっ
とテーブルにグラスを置いた。

『さて……と。駐車代が馬鹿んなんねーから、先にあがるよ。』

財布から札を1枚抜いてテーブルに置くと、男は椅子から立ち上がった。

『ちょっとでも呑んでるんすから、もうちょっと時間を空けてからの方がいい
ですよ。酒気帯びでも罰金高いですよぉ。』

残された男達の片割れが声をかけた。

コートを羽織ながら帰り支度を続ける男が答える。

『悪いことは言わないから、警察に捕まるのが怖いなら今回の話には加わるな
よ。飲酒どころか殺人をしてる真っ最中かもしれないんだぜ。』

『んじゃ、お疲れ。』

男は残る2人に笑いかけると、店の出口へと足を向けた。


途中、レジのところでバイト店員らしい女の子が『これ、どうぞ』と言って手
を差し出してきた。
指先にピンク色の小さなハート型のチョコが摘まれていた。

礼を言って受け取ると、その子は少しはにかんだように『ハッピーバレンタイ
ン。』と続けた。

『どうもね。』

もう一度礼を言うと、店を出る。


『おっ。』

春の訪れが近いことを感じさせるような思い掛けない外気の暖かさに少し驚く。

男は今貰ったばかりのピンクのハートの包みを開けると、それを口の中に放り
込んだ。

『ハッピーバレンタイン…か。』

小さく呟くと男は歩き出した。
その顔は心なしか微笑んでいるように見えた。


〜終わり〜

この作品はフィクションです。


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