蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 無題2-9

通学に使っている鞄に投げ入れ、制服を脱ぐ。

ポケットの中に手を突っ込めば、くしゃくしゃになった煙草の箱が出てきた。こんなものが見つかったら、兄達は何て言うだろう。いつの頃からか気休めに使い始めた。美味いとは思わない。むせたりしなくなったが、本数が増えることもなく家に帰る前に一本か二本。その程度。安定剤としては重宝している。

優等生で通る俺が、制服で吸う姿はまだ誰にも見つかってはいない。規律に喧しい高校だ。そうなれば、停学はおろか退学も有り得るだろう。そんなリスクを背負ってまでするのは、馬鹿さ加減で言えばトーヤと同等だとはわかっていた。

でも俺は≪優等生≫で≪信用されてる≫るから、誰だって馬鹿なことをする筈がないって思われいるわけで。ハル兄だってナツ兄だって、俺は手の掛からない良く出来た弟だと信じてるはずだ。

もし知ったら、どれだけガッカリするだろう、と時々考える。トーヤと変わらない、馬鹿だとわかったら。

トーヤなら≪仕方ない≫と苦笑される甘さは、俺には与えられないもので。
それはたぶん。

俺がこんな、狡い奴だから。さらけ出せる勇気もないからだ。
それでも、知ってほしいとも思う、物凄く恰好悪い俺がいる。

「ウゼ…」

火がついていない煙草をくわえ、カーテンをめくり窓を開けた。既に外は真っ暗で、しん、としている。

ここから見える隣の家の窓に明かりがついているのを見て、手を伸ばした。
マヒロの部屋だ。密集した住宅とは言え、部屋同士の窓に手が届くわけがない。それはわかっていたが、何となくそうした。昔は、よく窓越しにあいつが話しかけてきたりした。とっくになくなってしまった、習慣だ。

――何やってんだ。

苦笑して手を引っ込めた時、唐突に窓がからりと開いた。

2008年01月08日(火)
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