蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 無題2-5



変に優しくしないで欲しい。泣いてしまうのは、悲しいからで。でも優しくして欲しいと願う、あたしもいて。矛盾してるかもしれないけど、離れたいけど離れたくない。それはどちらも切実で偽りない、気持ちだった。

「マヒロ」

何度目かの呼び声。昨日に引き続いて泣き止まない、あたし。重いと思うし、ぐだぐだしていて鬱陶しいと思う。こんなふうになりたくないのに、シュウスケの前ではいつだって、強がれない。

それは昔から知られているということもあるだろうけど、やっぱり心の中ではずっと頼り切っているせいだって、本当はちゃんとわかってる。一番甘えてるからだって、ちゃんと知ってる。

「顔、上げろ」
「…無理」
「いーから」
「よく、ない」

ただでさえ寝起きの状態を見られて落ち込んでたって言うのに、さらに泣き腫らせば見せれるような顔になっていないことぐらい、鏡を見なくてもわかる。

「いいから」
「…や、」

両の掌であたしの頬を押さえ、ぐい、と上げさせられる。「…っ」すぐ間近に、覗き込むシュウスケの顔があった。

「酷い顔してんな、お前」
「誰のせ…、」

口元を緩めて、シュウスケが笑う。

「俺だよな、ごめん、わかってる。泣かせたくて来たんじゃないから。だから泣くなって。お前、明日も顔戻らなくなるぞ」
「シュウ、スケが…、泣かせてんじゃん…っ」

こんなんじゃ明日だって、学校に行けない。諦めきれない想いは、ぐるぐるとずっと駆け巡るままだ。見ていられなくて、目を伏せた。小さく、溜息が聞こえる。困らせてる。わかってる。想ったからと言って、叶うものじゃないことくらい。

好きだから、相手にも好きになって欲しいっていうのは、傲慢だけど本音だ。

好きな人の気持ちを尊重できないのは、本当に好きじゃないからだって何かの本で読んだ。それはとても正しいかもしれないけど、それは綺麗事だと思う。

自分が好きなら、相手にも好きになって欲しい。少なくとも、あたしは。

何を言いたいのか、考える前に、視線を上げた。「シュウ…、」でも、言葉は続かなかった。

「明日は」
「明日は、ちゃんと…行く。だい、じょうぶ」

シュウスケの言葉を遮って伝え、涙を拭う。

わかってる。困らせることは、引き止めることと違う。想いを伝えることとは違う。
それくらい、わかってる。

あたしは自分にそう言い聞かせた。


2007年12月26日(水)
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