蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 中学生編2(春の日)

東向きの窓からは、陽の光が差し込んできて眩しい。
それなのに少し前まで冷房でも付いていたかのように、部屋の中はひんやりとしていた。

「ほら、起きなって。早く」
「…さ、い」

ベットのほうから、小さく返事が聞こえて振り返る。
覗き込んだ横顔は少し眉を寄せているものの、確かに寝ていた。

「起きなってば」

もう一度、声をかける。

「……うるさい…」
「な、」

寝言だと、思うけれど。
体の向きを変えて、一直線にそちらへと歩み寄り。
そしてアイスをくわえたまま、薄い背中を思い切り蹴った。

「――でっ!」

叫び声を上げた部屋の主は、驚いたように起き上がった。

「うるさいな」
「な――…なに、すんの」
「むかつくこと言うからだろ」
「…は?」

むくりと起き上がり、寝癖の付いた髪をがしがしと掻いて、あたしを見る。
どうやら本当に、無意識で口にしたらしい。

「あ、」
「なに」
「それ、俺もほしい」

あたしの舐めるアイスに目を止め、指を差した。

「下行けば」
「泉のでいーよ」
「呼び捨てにすんな」

まだ眠いのか、ぼうっとした顔のまま座り込む相手の頭を、軽く叩く。ぱしん、と軽快な音がした。

「すぐに手出すのやめてくれる…なんか背中痛いんだけど」
「結構本気で蹴ったし」
「…何で、朝からそんなことするかな」
「そっちが悪いからじゃん」

べぇ、と舌を出せば相手はまだ眠そうな目を細めて、小さく笑った。
それから隣に座る。
正反対、とはいったけど外観を見るにあたし達はかなり似ているらしい。

髪の長さから顔に体つきまで似通うと鈴菜おばさんなんかは言うけど、それは多分に春日が、繊細な容姿をしているせいだと思う。

「泉ちゃん、エアコン付けくんない?」
「体温おかしいんじゃないの、涼しいじゃんこの部屋」
「湿気てる」

乾燥するより良いと思うけど、と独りごちながら立ち上がって、窓の脇の壁に付いたリモコンを取り、スイッチを押した。

2007年11月27日(火)
初日 最新 目次 MAIL HOME


My追加