蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 お出かけしましょう4

「ねえ、誰と行ったの?」

あたし達を乗せた箱が、一階に着いた。どっと吐き出される人に混ざって、降りる。
やけにはしゃいでいた親子連れの姿は、あっという間に人込みに紛れて見えなくなった。

「この間が何て?」

微笑みながら、春日の手を握ってみる。
でも握り返して来ないところをみると、それなりに困っているようだった。
普段の彼なら、そうするはずだからだ。

しばらくそうしていた後、いらない起爆剤を落とした相手は、軽く頭を振った。

「何でもない」
「なんでもない?」

往生際が悪い。

「うん、何でもない。…ほら、あっち、行かない?」

どうせ相手は女だろうとは、予測がついている。
元々、深く聞くつもりはなかった。聞いても腹が立つのは、いつもあたしだけで利益がない。
だけど、“好きじゃない”プラネタリウムに付き合ったのがあたしじゃない、ということが気に入らなかった。

「言わないんだ」
「だから――」

大人の女が不機嫌に立つ姿なんて、様になるものじゃないのはわかってる。
わかってるけどうやむやに出来るくらい、懐は深くない。

「行って欲しかったら言えば」

随分偉そうな台詞。
でもそれを春日は気にした風もなくて、「えー…」とか言いながら、煙草に火を付ける。
自然と喫煙コーナーと書かれた、プレート付近に移動した。

「――何でもないんだって、本当に。それよりこんな所で時間潰して勿体なくない?」
「何でもないなら答えれば?気になる態度取るあんたが悪い」
「何でもないって言ってんのに。俺、本当に信用ないよね」
「あると思ってたことが、驚きなんだけど」
「さりげなく酷くない?」

煙に目を細め、それは少し笑っているようにも見えた。

自分がこんな気持ちなるなんて、少し前まで思ってもいなかった。
春日との付き合いは、生きてきた人生のほとんどになるって言うのに。

学生の頃は何をしていようが、ちっとも気にならなかったし、二十代なんて店が忙しくてそればかりに気を取られていたし。

少し時間に余裕を感じ出した最近になって、こういう感情を持つ事が多くなった。
どこで何をしているのか、あたしのいないところでどんな顔をしているのか、昔なら下らないと済ませられた小さな事が気になり出した。
そんな事、格好悪くて口に出したり出来ないけれど、結局こうやって態度に出してしまうのだから、同じことなんだろう。

2007年11月23日(金)
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