One And Only
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2007年07月16日(月) 「試してる?」


「じゃぁ。
 
 今、ここで、私の目の前で、携帯の私のメモリーを消してくれる?」


横目でちらりと私を見る由さんに、
できるだけ、清清しさを感じさせるような態度で詰め寄る。


何でこんなことになったんだろう。


ひと月ぶりに逢えたのに。

手を繋いで歩いて、美味しいお酒を飲んで。

抑えきれない気持ちを全開にして求め愛し合えたのに。


 もうこういうの、止めようと思うんだ。
 メールや電話をしていると逢いたくなるから。
 逢いたいのに逢えないのが辛いんだ。


ベッドでまどろんでいる時に、話を切り出すから。


もう終わりにしてもいいのかもしれない。

今は、身近に自分を好いてくれている人がいる。

身体の相性も良い人たちだし。

逢いに行くことも許さず、
仕事以外に東京へ来る時間を作ることをしない男なんて、
もうさっさと切ったほうが良いのかもしれない。



何も言わず、ただ、天井と私の顔を交互に見るだけの彼にもう一度言う。

 「ねぇ。もう終わりにしたいなら、早く消して。
  今ここで。私の目の前で。
  そうしたら、私も消すわ。
  貴方のことも追わないし、違う男性と幸せになれるから。」

 『携帯にのぞみのデータは無いよ。SDカードの中にある。
  カードは大阪に置いてきてる』

 「じゃぁ、私が携帯解約すればいいのね」

 『俺が携帯のアドレスを変えれば良いだろう?』

 「変えられるの? 私が変えるわ」


淡々と繰り広げられる別れの会話。

本当に終わりにしようとしているのだろうか。

私も彼も。


 『 …試してるのか?
  のぞみはいつも俺を試している気がする』

 「何を言うの?私はいつも気持ちを正直に話してるだけよ。
  誰かみたく、隠したり意地を張ったりしてないわ。

  私は連絡取れなくなっても愛し続ける自信があるわ。
  だから、本当に私から離れたいなら、今すぐ携帯のデータを消して。」


彼の手が私の腕を掴み、引き寄せる。
瞬く間に私は彼の胸の中に収まる。

 『できないよ。愛しているんだ。忘れられないよ。』

 「好きなら傍にいてよ。例え距離が離れていても。
  私は今スゴク幸せなのよ。不満なんて無いんだから」


手離したくない温もりを抱きしめながら。

距離に負けそうになる脆い部分を持つ彼が、とても、愛おしく思えた。


 


のぞみ

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