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こぞのさくら - 2006年03月24日(金) 毎朝、高架を走る通勤電車の車窓から、小さな川沿いに延々と続く桜並木が垂直にのびているのが見える。 ちょうど去年の今頃、私と彼は出会った。 2度目のデートを約束するのに、お花見というのはとっても都合のいい大義名分だ。 デートをするのに理由なんてなくてもいいけれど「会いたいから」という理由だけで会うほどまだ親しくはなかったから。 今と同じように細く頼りなかった枝の先が日ごとに太くなって、並木全体が茶色から濃い紅色に変わってきて、開花宣言のあとは、何日かに一度「今はこんな感じだよ」と電車の中から携帯で写真を撮っては彼に送った。 「もうすぐだね」という返信が桜と逢瀬と両方にかかっていることが嬉しかった。 ふたりの仕事の都合と桜並木の都合から設定したその日は、満開から2日くらいあと、花びらが風に舞う最高の状態で、その朝電車の中から見た薄ピンクの道は眩しいくらいで、永遠の彼方まで続いているように見えて、一日浮かれた気持ちで過ごした。 すっかり日も暮れた夜7時、改札口で先に待っていてくれた彼と合流して、肩を並べて歩くのもまだなんとなく照れくさく、けれど、川にかかる小橋をふたつ過ぎるころには、手にした紙コップ入りの生ビールも半分くらいに減って、口も滑らかになってきていた。 ふたりで橋の欄干に腰かけて、水面の上方にうっとおしいくらいにかかる桜のアーチを眺めながら屋台で買った肉まんを半分こして、残りのビールを飲み干す。 どこかお店でゆっくり話そうかと探したけれど、お花見シーズンどこも満席で、それでもふたりでこうしていることが楽しくて、彼が2杯目の生ビールを露店に買いに走っている間に、今度は川の沿道の縁石に特等席を見つけてそこで待つ。 私を見つけて笑顔ですとんと横に腰をおろす彼の横顔と、その後ろに狂い咲く桜を盗み見しながら、それでも黙っていられなくて、「日本一花を背負う(しょう)のが似合う男だよね」と言うと、「なぁに言ってんだよ」と頭をコツンと私の頭にぶつけて、腰をぐっと引き寄せる。 私は頬にくちづけしたくなる衝動を我慢して、ビールの泡でひげを作った。
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