もぐみりん
もぐ



 いつもふたりで

いつもふたりで座っていた
同じベンチに肩寄せ合って
くだらないことを言い合って
そしてすぐに ケンカした

明日すぐに会えるから 明日も絶対会うのだから
絶対言わない ゴメンね と。
明日になれば忘れているし
ケンカしたこと自体、覚えちゃいない

同じ日がずっと続くと思っていた
おんなじ日がずーっとずっと変わらずに繰り返されると
繰り返し 繰り返しくしかえしずっとずっと
続くと思っていたから
だからごめんねとは言わない


いつもふたりで座っておしゃべりしていた
ここはバス停 同じバスが毎日まいにち通る道
私たちは 同じバスを毎日見つめて
だけど、何十年もたてば実は色々変化しているのに
毎日まいにちここにいたから
変化はあまりに自然に過ぎて
やっぱり 毎日は同じことの繰り返しだった



そして私がいまここにいて
肩寄せ合ってケンカして毎日一緒の彼女がいない
毎日は同じ繰り返しだったはずなのに
なぜかもう3ヶ月も彼女はいない
いつもあるはずだった毎日がこなくなった日

おうちで倒れていたんだって
大好きな鯵の開きを焼いていたんだって
お湯もわかしていたんだって
新茶の封も切られていて
なぜかおしんこおせんべえ いろんな「特別」がお盆の上にあったって
その横の冷たい床に横たわり、静かな顔で寝ているように
彼女はあちらに行ってしまったって
その日は私の誕生日
私を呼んでくれる気だったのかしら?


いつも一緒に肩よせあって
雨の日だって雨合羽で
過ぎ去るバスを横目にしてただただひたすら同じ話を
一緒に繰り返していた貴方
私の誕生日に行ってしまった彼女


今日もバスは目の前を走る
私の横には小さな花とちょっと大きなお座布団
彼女がいつも使っていたから お家の人から形見わけ
なによ 桃色のかわいいクマが刺繍してあってさ
だけど横にあるお花は菊みたいじゃない!
センスないわよ、と毒づきながら
今日も私はベンチに座る
だけど寄せ合う肩はなく
ただお座布団の上で なんとなくゆれる季節のお花
思い出すのはあの毎日

2007年08月06日(月)
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