歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2009年06月16日(火) 血まみれお母さん

昨日、うちの歯科医院に予約が無いまま突然来院された女性患者さんがいました。後でこの時のことを受付に尋ねると、

「『見ただけで、先生に何とかしてあげて欲しい』と思いましたよ。」

予約患者さんの合間に急患として治療をしたのですが、診療室に入室するや否や僕も思わず尋ねました。

「大丈夫ですか?」

上唇が脹れ、上の前歯の1本が折れていました。下顎の皮膚も擦り傷があり、まともに顔面を強打したのは明らかでした。口の中は前歯からの出血で血まみれ。出血は止まっていたようですが、出血した血が歯肉を被う様な状態でした。
手短に問診したところ、どうも後から走ってきた子供の自転車に突然ぶつけられたとのこと。自転車の前輪に突然足がはさまり、前方の路上へ転倒してしまった。手に荷物を持っていたため手が間に合わず、顔面を強打したというのです。
しかも、加害者は自分の子供とのこと。加害者に責任はあると言っても強いことが言えるわけでもなく、子供を放置するわけにもいかず、うちの歯科医院に一緒に連れてきたとのこと。加害者の子供は待合室で大人しそうにゲームをしながら待っていたようです。

全く不運としかいいようが無いアクシデントでしょう。僕は直ぐに口の中と顔面の骨の状態を調べました。顔面に関しては、幸いなことに骨折は認めず、傷口も裂けていませんでした。内出血により唇は脹れていたものの、出血は既に止まっており、これは傷口を消毒し、抗生物質や痛み止めを飲んでもらうことで対処。
問題は口の中でした。口の中の血を清潔ガーゼで拭い取ると、粘膜の一部が裂けている部分がありました。この部分は麻酔をしながら縫合糸で縫合しているうちに止血を確認。歯に関しては、2本の上の前歯が欠けていましたが、そのうちの一本は先端の一部が欠けていただけだったため、欠けていた部分を充填するだけで済みました。さあ、残りの一本ですが、これが歯の半分以上が割れており、しかも、割れ目からは歯の中の神経が見えておりました。このような場合、神経を取らないと痛みが治まりません。患者さんには事情を説明し、麻酔を効かせた後、神経の処置を行いました。

治療終了後、血まみれだった口の中からはほとんど血の姿が消えていました。顔面の擦り傷や唇の脹れは治まっていませんでしたが、これは時間の経過とともに落ち着いてくることを患者さんには説明し、処方した薬を飲みながら、歯の治療には当分通ってもらうことをお願いしました。

お母さん、ただただ頭を下げておられましたが、それにしても女性にとって顔は非常に大切なものの一つ。いくら子供の自転車が原因だったとはいえ、思わぬアクシデントにはさぞかしショックだったことでしょう。顔面の脹れや傷は時間が経つとともに自然に治ってくることでしょう。歯に関しては、神経を処置した歯は被せ歯にする必要があるかもしれません。全てが元通りというわけにはいかないでしょうが、一日も早く怪我から回復されることを祈りつつ、歯の治療をしていきたいと思った、歯医者そうさんでした。


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