歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年06月22日(木) 薄皮一枚の差

先週の日曜日のことでした。家で雑用をしていると突然家の電話が鳴りました。電話をかけてきたのは弟でした。

「歯が欠けたから診てほしい!」

弟は僕の近所の病院で働いている循環器内科医です。以前の日記にも書いたことですが、弟は循環器専門医として外来を担当したり、入院患者の面倒をみたり、手術を担当したり、救急患者の処置をするといった感じではまともな休みが取れないくらい働いています。現在、弟の勤務している病院の内科医が人員が足りないという事情と、循環器内科医として30歳代後半というまさに脂が乗り切ろうとしている年齢ということから多くの仕事をこなしている弟ですが、あまりにも忙しいと過労で倒れないかと心配しているくらいです。

と書きながらも、僕自身、体が不調の時には弟に面倒をみてもらっています。自宅から近くの病院に勤務しているという安心感もあり、何か体に問題があると思った時に真っ先に相談し、診てもらうのが弟なのです。そんな弟の歯が欠けたというのです。兄として直ちに診ない訳にはいけません。直ぐに来るように伝えると間も無くして弟はやってきました。早速、診療所の診療室へ入ってもらい欠けた歯を診てみました。問題の歯は右上奥歯で、歯と歯の境目である隣接面と呼ばれるところが欠けていました。レントゲン写真を撮影して詳しく調べてみると、原因はむし歯であることがわかりました。

弟に話を聞いてみると、普段の仕事はまともに昼休みを取ることができないため、患者さんが途切れるごくわずかの時間に甘い物を口の中に放り込んで空腹をしのいでいるとのこと。愚考するに、仕事中は唾液の分泌も少ないこと、仕事のため歯を磨けないことなども関係して、むし歯が出来た可能性が高いようです。

いずれにせよ、欠けた歯を直ぐに処置しようとしたのですが、問題がありました。それは欠けた部分のむし歯を取り除く神経(専門的には歯髄といいますが)が近いことでした。弟は痛みや違和感などの症状はありませんでしたが、むし歯を全て取り除くことになると神経に非常に近いところまで歯を削ることになります。場合によっては神経が露出してしまうこともあります。そうなると、神経の処置まで行わないといけません。神経の処置になると数回程度の通院が必要となりますが、普段なかなか休みが取れない弟ですので、なるべくそのようなことがないようにしたいと思うのは兄としても同感でした。

僕は弟の問題の歯の周囲に麻酔を注射し、麻酔が効いたのを確かめてから慎重にむし歯を取り除いていきました。レントゲン写真を見ながら注意深く取り除き、何とか全てのむし歯を取り除いた時には神経は露出していませんでした。僕は神経を保護する薬を入れながら欠けた部分をレジンと呼ばれる詰め物で修復したのです。治療終了後、レントゲン写真で確認すると、まさに神経とは薄皮一枚程度の差しかないことがわかりました。治療した僕としては冷や冷やものでした。

その後、弟に確認を取ったところ、麻酔が効き終わってから多少違和感があったが症状はそれだけで今では問題ないとのこと。何はともわれ治療した兄としても一安心でした。

それにしても、仕方が無いこととはいえ仕事中に甘い物を口の中に入れておかなければならないという習慣は問題があるように思えます。かといって仕事を中断する暇も無いという事情も理解できます。僕は、甘い物を食べる際にキシリトールの入ったタブレットやガムなどを咬むように伝えました。砂糖の入った食事の後にキシリトール入りの菓子を食べるとむし歯の発生率が下がるというデータがあるからです。本来あまり勧められるむし歯予防予防ではないのですが、時間のある時にはきちんと食事をし、歯を磨くということを前提に、今のような食事を取る暇も無い時に窮余の策として弟に提案しました。


 < 前日  表紙  翌日 >







そうさん メールはこちらから 掲示板

My追加