プラチナブルー ///目次前話続話

西の行方
April,9 2045

16:45 ファンデンブルグ研究室

『ロン』

「痛って〜九萬、当たりかよ、アンコの八萬の壁で打ったのに…てか、シャボかよ…」

ブラッドは自分の頭を2度デスクにぶつけてから、白い壁にかかるレトロな時計へ振り向いた。

「げっ、もうこんな時間だ」
「アンジェラ〜、準備は出来ているのか〜?」

『ううん、まだ〜、今9戦目の南3局〜』

ブラッドが大きな声で左側の壁に向かって叫ぶと、アンジェラの返事が壁越しに聴こえてきた。
10戦は消化したものの、課題はクリアできておらず、ブラッドは大きなため息をついた。

「ま、ついていない時もあるか・・・」

ブラッドは自分に言い聞かせるように席を立つと、クローゼットを空け、着替えに取り掛かった。
着替えと云っても、Tシャツを脱いで、似たようなシャツをまた着る。
きっと誰も気づかないだろう。

「ヴァレン様は、もう店についてるかな〜」

ブラッドは胸に掛けていたコインを開き、ヴァレンの位置を示す青い光を目で追った。

「あ、三番街にまだいるんだ。会議かな? それとも、美容室とか…」

開いたコインの上蓋に付いてある小さなボタンを押しながら、地図の縮尺を拡大しようとした。

すると、5階建てのビルのどこかに居るはずのヴァレンの位置を示す青い光を取り囲むように、
赤い光が3つ、ビルの南北と西側の3方向で点滅しながら、ビルの中に入っていった。
さらに、その赤い光を追うように、緑色の光が3つが追尾した。

その様子を見ていると、ビルの東側…つまり、道路側から緑色の光が2つ、また現れた。

(…車から降りてきたのだろうか…)

「赤だの緑だの、俺はヴァレン様の居場所さえわかればいいのに、あとでトッティにそれを伝えよう」

ブラッドは、歩きながらコインの蓋を閉じると、アンジェラの部屋の扉をノックした。

「どうぞ」

アンジェラの声を聞いた後、ブラッドが扉を開けて部屋の中に入る。


「どうだい?」
「うん、今、点棒の少ない親から仕掛けが入っているところ…」

第19戦 南3局 南家 持点 51,900点 14順目(トップ目)

「あ、ほんとだ、親は3,800点しかないや、東と南をポンしてるんだな」
「うん」

「あ、カンチャンの7ピンが来た」
「うん」





「あれ? アンジェラ、リーチしないのか?」
「うん、ドラ無しの1,000点の平和の手だし・・・闇で上がれるからね」



16順目に西を引いたアンジェラは、河をちらっと見渡すと、3ピンを捨てた。

「あれ? 聴牌崩して、3ピン落とし?」
「う〜ん、西も北も見えて無いでしょ」

『チー』

西家がアンジェラの捨てた3ピンを鳴いた。
そして、捨てた牌は西。


『ロン』


上家の親の手牌を倒れ、あがり形が出現した。




『48,000点・・・小四喜(ショウスーシー)』

画面がスクロールし、ゲーム終了を告げる。

WINNER Angela 51,900・・・2位 ・・・51,800・・・ 

「げげ、危ないな〜、西が当りだったのか・・・」
「あはは、でも100点差で私の勝ちね」

「俺なら、リーチかけて西で振り込んでた・・・」
「うふふ、わからないわよ、一発で6ソウをツモって裏ドラを乗せて、親を飛ばしてたかもしれないし・・・」

「うん・・・わかんないもんだね〜麻雀って、一寸先が」
「だよね、・・・じゃ、トッティのお店に行きましょう。遅くなっちゃったわ」

アンジェラは席に座ったまま、デスクの左側に置いてあったポーチを手に取った。
パソコンの画面を鏡モードに切替えると、右に左に一度ずつ顔の角度を変えてから、リップを唇に走らせた。

「ばっちりだ。可愛くなった」

入り口の壁にもたれ掛かかり、腕組みをしているブラッドが右手の親指を立てている。
アンジェラはにっこりと微笑むと、小走りで駆け寄った。

ブラッドがドアを押し開いて廊下に出ると、西側の窓からオレンジ色の光が差し込んでいる。
エレベーターまでの通路で左腕に何度か、アンジェラの素肌の右腕が触れた。

「サッカーをしてた時に、男同士の肩や背中がぶつかると、ガツンって、ただ痛いだけなんだけど・・・」
「うん?」

「いや、アンジェラの腕ってサラサラなんだな・・・と思ってさ」

アンジェラは首をかしげながら、Tシャツから出ている自分の二の腕を体の前に伸ばし見つめた。

「髪がサラサラ・・・ってのは聴くけど、腕がサラサラ?」
「あはは、腕が・・・というより、素肌が・・・だね」
「ふ〜ん、ブラッドはサラサラな素肌がスキなのね・・・」

アンジェラは返答の言葉を選んでいるブラッドの左腕に、自分の腕を巻きつけた。
そして、肌をすり合わせるように動かし、ブラッドの顔を見上げた。

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