プラチナブルー ///目次前話続話

才能の雫
April,8 2045

14:00 ファンデンブルグ研究室

ブラッドとアンジェラが午後の講義の為、研究室に戻ると、PCの前に座っているヴァレンの背があった。
調べ物をしているのか、時々髪をかきあげては画面を食い入るように見つめている。

「ヴァレンティーネ様、戻りました」

ヴァレンはブラッドに声を掛けられるまで気がつかないほど、何かに没頭していたようだ。

「ああ、それじゃあ、2人とも席について頂戴。アンジェラ。コーヒーを入れてくれる?」
「は、はい」

食堂で紅潮していた顔が元に戻っていたアンジェラは、再び顔を紅くした。

(変なやつだな、耳まで真っ赤だぞ。)

ブラッドはアンジェラの後姿をいぶかしそうに見つめている。

「時間が少ないから、取り急ぎで、説明するわね」

コーヒーを3つテーブルに並べたアンジェラが席に着くと、ヴァレンが分厚い本を2冊用意して話し始めた。


「ジパング行きの件だけど、24日の月曜日に予選が行われることになったの」
「予選?・・・選考みたいなもんですか」
「まあ、そんなところね。他にも希望者が出てきたの」

きょとんとしているブラッドにヴァレンは視線を移すこともなく話し続けた。

「貴方たちには、必ず勝ってほしいの」

ヴァレンは強い意志を声に込めて、2人に本を手渡した。

「それは、麻雀というゲームのルールブック。今回はそのゲームで勝敗を決めるの」
「へ〜麻雀か。」

茶色のカバーを開き、パラパラと捲りながら、ブラッドはアンジェラに声を掛けた。

「アンジェラは麻雀っていうゲームを知っているのか?」
「う〜ん。名前くらいは知っているけど、プレイしたことはないわ」
「イメージ的には、セブンブリッジのようなものよ」

カードゲームで例え話をしたヴァレンにアンジェラは頷きながら、本を開いた。

「アンジェラはハイスクール時代にカードゲームで優勝してるわね」
「あ、はい・・・たまたまついてただけなんですけど」
「ううん、そういうツキも大切よ。心強いわ」

アンジェラは表情から緊張感を解放させて微笑んだ。

「ブラッド・・・貴方の経歴は・・・スポーツのことばかりね」

ブラッドの経歴をまとめたレポートを片手にヴァレンは苦笑いした。

「あ、でもヴァレン・・・」
「ん? アンジェラ、どうしたの?」

「ブラッドはこう見えても、記憶力が物凄いの、たぶんこの本なら3時間もあれば・・・」
「本当?」

「アンジェラ、こう見えてもは失礼だろ。それに・・・」
「それに?」

ヴァレンが、本を相変わらずパラパラと捲っているブラッドにようやく視線を移した。

「ヴァレンティーネ様。僕なら、この本程度なら1時間で丸暗記できますよ」
「わお、本当?ブラッド」

ブラッドは捲っていた本を一度閉じると、覚えたばかりの最初の5ページ分を一気に読み上げた。
ヴァレンは目を丸くして驚き、自分の両耳の上あたりに手をあて信じられないという顔をしている。

「どうです?ヴァレンティーネ様。こう見えても僕は記憶力には自信があります」

ブラッドは立ち上がり、騎士のポーズをとり誇らしげに頭を下げた。

「こう見えても・・・ って自分でいってるし」

呆れた表情のアンジェラ。

「エクサレント! 素晴らしいわ、ブラッド。人は見かけによらないわね」

それまでの固い雰囲気が一変したヴァレンはブラッドの両首にぶら下がるように抱きついた。

「ヴァ・・・ヴァレンティーネ様・・・」

ブラッドはヴァレンの言葉と行動のどちらにも虚を衝かれ、しばし立ちすくんだ後、
ヴァレンの細い体に恐る恐る腕をまわした。

「あん、もっと強く抱きしめて頂戴」

その様子を微笑ましく見つめているアンジェラの顔色は、元の透き通るような白に戻っている。
瞳を閉じて悦に浸っているブラッドの耳が、炎のように真っ赤になっていた。

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