プラチナブルー ///目次前話続話

交錯の行方
May,4 2045

5月4日 21:25 Bar雀

「リカちゃんが好きな席を選んで」
「じゃあ、アタシ、ここにする」

初めて触れる麻雀牌、私が想像していたよりも大きく重かった。
卓上に伏せられた4枚の牌をそれぞれが選び、東を引いた私は入り口を背にする手前の席を選んだ。
対面に部長の田頭雄吾、左側に河合晃一、右側に光宗陽介が座った。

4人が、簡単な挨拶を交わした後、卓上右側に裏返しで8行に並べられた牌を、晃一が中央に押し出すと、
私以外の3人がそれを混ぜるように両手を伸ばした。

「ほら、リカちゃんも混ぜて」
「え? アタシも?」

雄吾に声をかけられ、慌てて両手を前に出したものの、何をしていいか分からない私。

「これはね、洗牌(シーパイ)といって、トランプでいうところのシャッフルみたいなものだよ」
「へ〜そうなんだ」

右側に座っている陽介が、私のほうに顔を向け柔らかい声で教えてくれた。

「何回、かき混ぜるの?」
「ん〜、適当に混ぜて、後は自分のところに裏返して積んでいくんだよ」

今度は、晃一と名乗った左側の男が手本をみせるかのように、自分の手前へ、
裏返しにした牌を4枚6枚12枚と、あっという間に18枚程を2行作った。
それらを両手で少し前に出すと、手前側の18枚を両手小指で挟んだ後、手前に引くと、
全ての指で持ち上げ前の山に積み上げた。

私も見よう見まねで手前に牌を並べるものの、裏返すのがどうも面倒だ。
3人が積み終わった頃に、ようやく18枚の2行を自分の前に並べることができた。

それを少し前に出し、手前に引き、小指で両側を挟んで持ち上げようとした瞬間、
牌が4方に飛び散った。

「あはは、最初はそれをやっちゃうんだよ」

雄吾が卓上に散乱した牌を裏返して、私のほうへ滑らせながら言った。

「ご、ごめんなさい・・・」
「いいよ、初めてなんですか?」
「・・・は、はい」

私は声をかけてくれた陽介に謝りつつも、両手だけは慌しく動かした。
元の18枚ずつを目の前に並べ、再び挑もうとすると、

「慣れるまでは、半分ずつ山に積むといい」
「・・・は、はい」

晃一に言われるまま、9枚程度なら、なるほど、簡単に山に積むことができた。

「じゃあ、東を引いたリカちゃんがサイコロを振って・・・」

雄吾が卓上中央に置いたサイコロを、私は右手で振った。

「え〜と、9だから自分のところからね」
「サイコロは右回りに数えるんだよ」
「2だと右、3だと対面、4だと左、5だと自分、6だと・・・」
「9の時は自分の山の左側から9枚目を2トン(4枚)ずつね」

右も左もわからず、おろおろとしていると、私の前の山の左側から9番目と10番目の場所にスペースをとり、
10番目牌と11番目の牌を取り出すように雄吾が教えてくれた。

4枚ずつ右回りに3回取ったところで、

「親はちょんちょんね」

と、晃一が言った。

「ちょんちょん?」

と、きょとんとしている私に、

「親の13枚目と14枚目はひとつ飛ばしで一枚ずつ取るんだ。」

と、晃一は取るべき場所を指差し教えてくれた。
続いて、陽介が下山から1枚、雄吾が上山から1枚、晃一がその下の牌を取り出した。
自分の目の前の牌を起こして見やすいように並べ替えた。

「並べ替えるのを理牌(リーパイ)っていうのは知ってる?」
「ううん、初めて聞いた」

なんだか、ウェブの麻雀で一人前に打てるようになったつもりでいた私だけど、
実際の牌に触ると素人丸出しに映るのだろう。
なんだか、急に可笑しくなって私は笑ってしまった。

「どした・・・急に」
「ううん、なんだか初心って、こういうことをいうんだろうなって」

私は素朴に思ったことを口にした。

「みんな初めはそうだよ、なあ、晃一」
「ああ、俺も何度も山をぐちゃぐちゃにしたよ」
「・・・だってさ、先輩方だって、そうらしい、よかったなリカちゃん」
「うん」

「ドラは、手前に残った左側から3枚目を開いて」

雄吾に言われるがまま、開いた牌は北。ドラは東だ。これは私にも分かった。

そして、理牌(リーパイ)した配牌を見て、私は小さく笑った。





(やった、ドラが2枚ある)

アタシが最初に切った牌は、南だ

(アタシの伝説の始まりよ)

私は心の中で意気揚々と呟くと、牌を目の前に置いた。
パチーンという心地よい音が部屋中に響き渡った。

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