陶 房 日 報  とうぼうにっぽう 
陶房かまなりや

2006年09月22日(金)      乾いた心に・・・

朝日新聞社より、週刊『藤沢周平の世界』なる冊子が刊行されます。
朝日ビジュアルシリーズの全30冊は、藤沢ファンには垂涎の読み物
となることでしょう。勿論、ずぶずぶの藤沢ホリックの私は予約を
して一括で申し込むつもりです。

 しかしこの刊行案内のチラシのキャッチコピー
 「乾いた心に、藤沢周平」は、いかがなもので
 ありましょう?藤沢文学は、どちらかと言えば
 暗い影を纏った主人公がきびしい暮らしの中で
 懸命に生きる姿を描いたり、微禄の下級武士が
 剣術に拠ってひとすじの光明を見出したりする
 小説が多いです。長編などは、おおよそ物語の
 中盤まではがまんの読書です。後半から終盤に
なると光が見え、最後の一行を読むと心が浄化されるという効果は
ありますが、乾いた心の人はこの序盤の辛抱ができないのではと、
少々心配になります。まあ、売る側の気持ちを忖度すれば、こんな
コピーもあっていいのかなとも思いますが・・・

私などは、じめじめと湿った心の持ち主なので、藤沢文学のこの
暗〜い生活観に同調しているのです。だからこそのめりこんで読
めるのだと解釈しています。人が生きる上で『いかんともしがたい
もの』 『動かしようの無いもの』 といった 『不条理』 が、人を不幸
にも幸福にもします。運命に甘んじたり、抗ったりしながらも、
小さな幸せを大事にする生き方を描く藤沢さんは、ご本人も常々
『普通が一番』と仰っていたと聞きます。まさしく、然り!

普通に生きることができれば、人は幸福に他なりません。
ほどほどで、ほどほどで、良いのだと思います。

朝日OPENDOORS http://opendoors.asahi.com/data/detail/7577.shtml




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