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私は岡本太郎の『青春ピカソ』を興味深く読んでいるところだった。そこへこちらに近づいてくる気配を感じる。もちろん顔をあげたりなんかしない。なのにその声は容赦なく降ってくる。「ご一緒してもいいかな」。 いいわけがない。私は本を読みたいのだ。お昼休みくらい、好きなようにさせてくれ。 「本を読んでいる人間には話しかけない」というのは不文律だと思っていた。けれどそうではないらしい。私は迷った。「ごめん、本を読みたいから」と言っていいものなのかどうか。それは社会的に許されるのかどうか。私の常識では本を読んでいる人の邪魔をするなんて許されないことだ。読書を中断してまでしなければならないような話なんかない。けれども今日の彼だけじゃない、毎朝地下鉄で会う彼女もそう、休憩室で声をかけてくる上の階の彼もそう。 迷ったあげくどうぞ、と言って本を閉じたことを夜になっても後悔している。 |